アンドラは、藤波の住むスペインのカタロニア地方からも近く、僚友のトニー・ボウが住んでいる地でもある。いわば、地元大会のようなものでもあるのだが、ただ藤波は、アンドラではまだ未勝利だ。
今回のセクションは、アンドラには珍しく、川が多かった。川といっても泥の浮くようなマッドな感じではなく、つるつるの岩がびっしり並んでいる。どうも、藤波の好きなパターンではないし、得意なパターンでもなさそうだ。この会場を走った覚えはあるにはあるが、黒山健一らが世界選手権を走っていた頃だから、そうそう昔であるのはまちがいない。
大会まで、藤波はチームのテストでもアンドラを訪れているし、そのあとも居残ってトニーと練習もした。高地ではエンジンパワーがめっきり発揮されないものだが、藤波の乗るニューエンジンは、そのパワーにも余裕がある。かつては高地対策は悩みの種だったが、今では平地のセッティングのまま乗り込むことができる。マシンにはアドバンテージがある。今シーズンは完全に調子を取り戻しているし、気持ちよくアンドラに乗り込んだ藤波だった。
アンドラは高地のトライアルという印象があるが、今回はアンドラの会場の中でも、比較的標高が低いエリアでのトライアルとなった。一番高いところは標高が2000m以上にもなるのだが、今回の会場は、高いところでも1200mほどで、アンドラとしてはそれほどではない。今回は高地対策については、あまり考える必要がなさそうだった。
1日目の土曜日、しかし藤波にはミスが多かった。今年の藤波は、1ラップ目や1日目に今一つのことが多く、反面、2ラップ目や2日目にそれを取り戻して成績をアップさせることが多い。だから、というわけではないが、1ラップ目の不調は2ラップ目に取り戻せるのではと、今回も思っていた。
2ラップ目、藤波は1ラップ目より少し減点が少ないペースだが、ほかのみんなはもっと減点を減らしてきた。このペースならちょっと挽回できるかなと思ってスコアをチェックすると、順位は上がっていない。藤波の思っているより、みんながうまい、ということだ。
結果、藤波の順位は上がらず。最後はジェロニ・ファハルドとの順位争いになったのだが、藤波とファハルドが8位争いをするとはちょっとびっくりだ。最終セクション、藤波は失敗したら9位になってしまうところだったが、それはしっかり把握していて、1点で抜けて8位を得た。しかしこんなところを争っている場合ではない。
実はアンドラでは、マシンにちょっとした不具合もあった。パーツの全とっかえをすれば解決するトラブルだったかもしれないが、ここが悩むところ。パーツを全交換して調子が変わってしまうのはよろしくない。ちょっとした不具合ならば、からだに馴染んだ状態で試合に臨みたいという思いがある。同じように組んだ同じマシンでも、別のものなら別ものになってしまうところが、トップレベルのトライアルのマシンセッティングのむずかしいところだ。
2日目、これまでの何戦かと同じく、2日目に減点をまとめて、という思惑は、見事に裏切られた。実際のところ、試合中の藤波は、なんとかうまくやっていると思っていた。藤波自身のスコアは1日目よりいいし、これなら、優勝争いとはいかなくても、表彰台近く、まぁ悪くても6位以内にはいけるんじゃないかと思っていた。これまでの感覚だと、実際にそんな感じだったのだ。この走りで、よくて4位、悪くて6位くらいなら、いつもの想定内だった。
ところが1ラップ目が終わってみると、トップはハイメはたったの6点だという。それ以外にも、みんな前日より格段にスコアがいい。これはいかん。といっても藤波がこれ以上のスコアをマークするのはなかなかむずかしかった。ハイメの6点も驚き、ありえないスコアだが、ばかみたいに調子がいいライダー、調子がいいタイミングはある。しかしこの日は、藤波以外はみんなが調子がいいように感じられる。
この日もファハルドは調子が悪かったが、そのファハルドと藤波が同じくらい。今シーズン不調のホルヘ・カサレス、負傷から復帰したばかりのブノア・ビンカスがやっぱり藤波らとどっこいで、他の選手はみんな藤波からするとすごくうまい。藤波自身としては土曜日の失敗を改善してきたつもりだったが、みんなの改善は想定外だった。
マシンのちょっとした不具合はこの日も解決には至っていなかったが、しかしだからといってこの成績の言い訳にはできない。あまりにも悪すぎる。好きなセクション設定でもなかったし、得意パターンでもなかったが、それもまた、やはり言い訳にはならない。
2ラップ目になれば、という希望も、今回は空振りに終わった。調子がいいライダーがいても、2ラップを通じて好調を維持するのはむずかしいところだが、今回はみんながみんな、2ラップともにスコアを押し上げてきている。
今回は完敗だったと認めるしかない。いつもなら、たらればと言い訳してもしかたないと思いつつ、いくつもの反省点が並ぶものだが、今回は反省しようもなく、完敗だったという実感だ。いつもなら、悪い中でも、ここはうまくいった、というトライがいくつかある。今回でいえば、第6セクションなどはがんばったという自覚はある。2日間の4回のトライを5点、2点、1点、3点とまとめている。しかし他のライダーのスコアを見ると、クリーンがけっこうある。がんばったけれど、結果にはつながらなかった。後半にあった川のセクションは、本来ならばもっともっと点数を抑えられていたとは思う。だから本調子ではなかったのだろうが、もちろん後の祭りだ。
ワークショップに帰ってすぐ、マシンのわずかな不具合を解消してマシンチェック。これが敗因だったのか、いやそんなことはない、でもそうであってほしい、などと思いつつ、チームも藤波の気持ちも、すでに週末のフランス大会に飛んでいる。
トライアルGPはフランスのあと、2日制のスペインGPがあって、トライアル・デ・ナシオンをはさんで最終戦がイギリスとなるはずだった。ところがコロナ禍で海を越えての移動は障害が大きいということでイギリスGPがキャンセルになり、その代わり、ポルトガルでのトライアル・デ・ナシオンの前日の土曜日に、1日だけの最終戦が開催されることになった。もともとポルトガルでは、土曜日に女子クラスの最終戦が組まれていたのだが、これに男子トライアルGPも乗っかるかたちになったわけだ。
2021年の戦いも、だんだんと残り少なくなってきた。
「今回は、技術的にというか、届きませんでした。負けを認めます。土曜日は失敗も多くかったのですが、2日目にそれを取り戻すという戦いぶりが多かったのですが、ぜんぜん追いつきませんでした。ハイメの1ラップ目の6点とか、ありえないと。ハイメとかトップだけじゃなく、けっこうみんな2日目には減点を減らしてきて、みんなすごいなぁと思いました。今回は、ほんとうに完敗です」
土曜日 | ||||
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1位 | トニー・ボウ | (スペイン・モンテッサ) | 46 | 10 |
2位 | アダム・ラガ | (スペイン・TRRS) | 46 | 10 |
3位 | マテオ・グラタローラ | (イタリア・ベータ) | 65 | 7 |
4位 | ハイメ・ブスト | (スペイン・ヴェルティゴ) | 71 | 8 |
5位 | ミケル・ジェラベルト | (スペイン・ガスガス) | 72 | 6 |
6位 | ガブリエル・マルセリ | (スペイン・モンテッサ) | 76 | 5 |
7位 | ホルヘ・カサレス | (スペイン・ガスガス) | 82 | 4 |
8位 | 藤波貴久 | (日本・モンテッサ) | 85 | 2 |
日曜日 | ||||
1位 | アダム・ラガ | (スペイン・TRRS) | 18 | 14 |
2位 | ハイメ・ブスト | (スペイン・ヴェルティゴ) | 19 | 13 |
3位 | トニー・ボウ | (スペイン・モンテッサ) | 23 | 12 |
4位 | ミケル・ジェラベルト | (スペイン・ガスガス) | 32 | 10 |
5位 | マテオ・グラタローラ | (イタリア・ベータ) | 41 | 12 |
6位 | ガブリエル・マルセリ | (スペイン・モンテッサ) | 43 | 6 |
7位 | ジェロニ・ファハルド | (スペイン・シェルコ) | 54 | 7 |
8位 | 藤波貴久 | (日本・モンテッサ) | 55 | 7 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | (スペイン・モンテッサ) | 92 | |
2位 | アダム・ラガ | (スペイン・TRRS) | 84 | |
3位 | マテオ・グラタローラ | (イタリア・ベータ) | 69 | |
4位 | ハイメ・ブスト | (スペイン・ヴェルティゴ) | 60 | |
5位 | 藤波貴久 | (日本・モンテッサ) | 58 | |
6位 | ミケル・ジェラベルト | (スペイン・ガスガス) | 53 | |
7位 | ジェロニ・ファハルド | (スペイン・シェルコ) | 49 | |
8位 | ガブリエル・マルセリ | (スペイン・モンテッサ) | 45 |