2日制の開幕戦イタリア大会の後、第2戦はフランスGP。今回は日曜日1日だけの大会として開催された。
会場はシャレードサーキット。1970年代にはF1レースも開催されていたクレルモンフェランが、近代的に改装されて(距離も短くなった)この名前になった。実はこの会場、2002年に世界選手権が開催されたことがある。そしてそのときの優勝者は、誰あろう藤波貴久だった。当時のリザルトを見ると、今世界選手権で現役を続けているのは藤波とアダム・ラガ、ジェロニ・ファハルドの3人しかいない。
サーキットをパドックとする、いわばツインリンクもてぎでの世界選手権のパターンで、斜面に人工的に岩を配置してセクションを構成する。この会場での大会、もともとは2日間制だったのだが、フランス大会のスポンサーの関係で1日制になったということだった。それでも2週間前の時点では、もしかすると中止になる、なんて話も流れていたから、開催されただけでもよしとしなければいけない。このご時世、世界選手権も、それをサポートする側も、いろいろとたいへんだ。
この関係なのか、もともとそういう予定なのか、セクションはもてぎほどきっちりと構成されていないので、設定自体はそんなにむずかしいものではなかったが、雨が降ったおかげでなかなかの難易度となった。乾いていればふつうの岩が、濡れるとものすごく滑る。濡れた土が乗った岩がとことん滑るのは、これももてぎによく似ている。
前の日から降っていた雨は、藤波らがスタートする頃に止んだ。コンディション的には、一番始末に負えない。案の定、1ラップ目はたいへんにスリッピーでむずかしいトライアルになった。
フランス大会は、だいたい伝統的に自国ライダーに甘い採点をする。ライダーの間ではそんな評価が定まっているのだが、しかし今回は、オブザーバーが誰に対しても甘い。甘いというか、ストップをぜんぜんとらない。それがかえって、藤波らを戸惑わせた。
今回はフランス人ライダーがいない。いや、テオ・コライロというフランス人がいるが、このライダーはT2でもそこそこの成績しか出せない力量で、甘く採点をするとかという問題ではない。だからというかなんというか、誰に対してもストップをとらないのだが、どうしてもそんなはずはあるまいと思ってしまうし、前のライダーが止まっていても、自分の時にはちがう判定をするのではないかという疑心暗鬼にもなる。いずれにしても、心情的に迷いが生じてしまう。
前回イタリアの優勝で、藤波はランキング3位となっている。なので今回のスタートはそれに準じて最後から3番目。あとから来るのはラガとトニー・ボウの二人だけだから、藤波はいろんなライダーのトライを参考にして試合を進めることができた。こういう試合をしたのは、考えてみると久しぶりのことだ。
1ラップ目、しかし藤波は、いくつもの失敗をしてしまった。第1セクションを2点で通過すると、第2から第4まで連続5点、1ラップ目は、クリーンがたったのふたつしかなかった。まず第2セクションで大失敗。第3はちょっとした飛ぶポイントで岩がステップに当たって5点となった。第4では前転。他にも、テープを切ったり、第9でまたまた前転したりと、まるでいいところがない。1ラップ目のスコアは39点、トップのボウからは20点差、3位のミケル・ジェラベルトと11点差の7位だった。イタリアGPの土曜日の成績と、おんなじだ。
しかし藤波には、明るい感触があった。成績はともかくとして、マシンにしっかり乗っている感触があった。なにがどうなっているのかわからない状態で5点になったり失敗したり、そういう状況とは明らかにちがう。イタリアの1日目も、こんな感じだった。うまく走れている実感はある。しかし失敗してしまう。くやしいが、そんな感じだ。
とはいえ、ミスはミス、7位に甘んじているわけにはいかない。2ラップ目が挽回の舞台だ。
2ラップ目、路面はだいぶ乾いてきた。グリップもよくなっている。この大会、勝負どころは第4セクションだった。そこまでの3セクション、第1、第2、第3はクリーンならず、しかしいずれも1点で通過した。
藤波が第4に到着すると、ハイメ・ブストが1点、ミケル・ジェラベルトがクリーンで抜けているという情報を得た。しかしもう彼らはいない。時間はそれなりにあったので、藤波は少しじっくり下見をすることにした。
このセクションは、ひとつ岩を越えてさらにもうひとつ越える設定。1ラップ目は2個目でみんな5点になっていたので、ラップ間の休憩時間に少しやさしくなおされていた。ぱっと見、ふたつの岩を直登でぽんぽんと越えていくラインが見えるのだが、これはクリーンがとれるかもしれないが、5点になるリスクもある。
しかしよく見ると、じぐざぐに登っていくラインがあった。これなら1点か2点、悪くても3点なら抜けられそうだ。少なくとも、5点にはならないですみそうだ。そしてトライ。そしたらうまくはまって、クリーンが出た。
このクリーンは大きかった。7位から4位までジャンプアップできたのはここをクリーンしたゆえだと思う。しかし反面、藤波は自分のラインをあとから来たラガに見られてしまった。ラガは藤波と同じラインを選び、同じようにうまく走ってクリーンをした。藤波の第4でのクリーンは大きなクリーンだったが、ラガにラインを見られたことで、表彰台をラガに奪われてしまったともいえる。
もうひとつ、2ラップ目に悔いが残ったのは、第6セクションでの5点だった。結局、これが2ラップ目の唯一の5点となり、その点差でラガが3位、藤波が4位ということになっている。これをクリーンしていれば、今回の藤波はラガに1点差で表彰台獲得だった。
その第6だが、1ラップ目も2ラップ目も5点だった。1ラップ目は、最後の最後まで走って5点になった。このセクションは、インの登り斜面が関門だった。ここで5点になるライダーが多かった。登って降りて登って降りて、もうひとつ登って降りる設定だ。1ラップ目は、難関の最初の登り降りをうまく抜けて、最後の登りをいきすぎてまくれてしまったのだった。
そして2ラップ目、ひとつめの斜面はクリーンした。これはクリーンが出るだろうと、誰もが思ったにちがいない。ところが、2個目の斜面で、岩に乗ってちょろっと滑って5点になってしまった。これはもったいない5点だった。
2ラップ目の藤波は、この5点以外は、まずまず納得のトライができた。細かい減点はあるものの、これは5点にならないように走っての減点で、減点はしてはいるものの、後悔はない。ライディングの感触もいい。なにより、今このポジションにいられるというのが、とてもうれしい。
とはいうものの、リザルトを見ると、2位までたったの4点。優勝はともかく、2位になるのは夢物語などではなく、あとほんのちょっとだった。2ラップ目途中までは3位に位置しているのがわかっていたから、上位にいるグラタローラかラガか、どちらかが崩れて落ちてこないかなぁとこっそり願ったりもしたものだけど、それはかなわなかった。
それでも藤波の思いは、残念というよりは前向きの気持ちの方が強い。2020年はずっと迷路に入っていた気もするが、もうすっかり抜け出せている。成績が出るかどうかはさておき(イタリアGPのように、同じような感触で走れていても、優勝したり7位になったりするものだ)走っている実感はきっちりある。迷路に入る理由の一つが、パワーのあるニューマシンだったのだが、それもテストを重ねて、藤波の希望に添った仕様ができてきている。これならもう大丈夫だ。
藤波は今、次のアンドラ大会への準備を終えて、つかの間の夏休みに入っている。しっかり休み、次なる戦いも楽しく走って見せるつもりでいる。
「1ラップ目はイタリアの土曜日と同じ感じでした。2ラップ目がイタリアの日曜日と同じ感じなら表彰台だったんですけど、そこまではうまくいかなかった。でも今回は4位でよかったです。これで表彰台に乗ったり2位になったりすると、調子に乗っちゃいますから。ここで調子に乗るより、4位で悔しいとハングリーになれていたほうがちょうどいい気がするんでね。いい感じで、アンドラに向かえます」
日曜日 | ||||
---|---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | (スペイン・モンテッサ) | 24 | 16 |
2位 | マテオ・グラタローラ | (イタリア・ベータ) | 46 | 11 |
3位 | アダム・ラガ | (スペイン・TRRS) | 45 | 11 |
4位 | 藤波貴久 | (日本・モンテッサ) | 50 | 8 |
5位 | ミケル・ジェラベルト | (スペイン・ガスガス) | 52 | 8 |
6位 | ホルヘ・カサレス | (スペイン・ガスガス) | 54 | 9 |
7位 | ジェロニ・ファハルド | (スペイン・シェルコ) | 57 | 10 |
8位 | ハイメ・ブスト | (スペイン・ヴェルティゴ) | 58 | 8 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | (スペイン・モンテッサ) | 57 | |
2位 | アダム・ラガ | (スペイン・TRRS) | 47 | |
3位 | マテオ・グラタローラ | (イタリア・ベータ) | 43 | |
4位 | 藤波貴久 | (日本・モンテッサ) | 42 | |
5位 | ジェロニ・ファハルド | (スペイン・シェルコ) | 33 | |
6位 | ハイメ・ブスト | (スペイン・ヴェルティゴ) | 30 | |
7位 | ミケル・ジェラベルト | (スペイン・ガスガス) | 29 | |
8位 | ガブリエル・マルセリ | (スペイン・モンテッサ) | 25 |