2004年7月25日 |
世界選手権第9戦
スペイン(プエルト・パハレス) |
イタリア大会が終わって3週間。最終戦を前にして、藤波はこのスペイン大会を勝ち抜いて、ランキング争いを、もっと優位に持っていきたいと考えた。この大会を前に、藤波のランプキンに対するリードは19点。かなり大きなリードだが、優勝すれば20点を獲得できる。リードは多ければ多いほどいい。
もちろん、リードを広げようという焦りはなかった。19点のリードは充分余裕を持って試合を運んでいくことができた。その余裕の上で、藤波はポイントリードをもっと広げようと、欲を出した。最終戦に向けて、もっと楽になりたいという意識も、少しあったのかもしれない。
ただ、後にして思えば、気になる点はいくつかあった。マシンについては、前日の最終チェックで、完全に自分好みに仕上がっていないのではないかという不安があった。朝起きたときに、ちょっといつものちがうなという気がしたのも事実だ。気分的に、今一歩のっていなかった。
1ラップめ、2ラップめ前半の藤波は、自分でもどうしちゃったのというほどに、からだが動いていなかった。フィジカル的な問題を抱えているわけではない。頭がすっきり動いていないので、からだもそれに準じて完璧な動きをしてくれない。クリーンをしても「うまくいった」というクリーンではなく、本人評価ではあぶなっかしいクリーンだった。「これはやばいなぁ」と、本人も少し焦りを感じ始めた。
2ラップめ、第1で2点、第2で1点、第5、6と1点ずつとったあたりで、藤波は自分の走りがようやく切り替わってきたのを感じていた。そしてこの頃、監督に試合の状況を聞いてみた。すると、1ラップを終わって、藤波が3位であることを知らされた。このとき、その減点差は聞かされていなかったのだが、ここで藤波は「この走りで3位だったら、いけるかもしれない」と考えた。よし、おいあげてやろう。少なくともラガには負けても、ドギーには勝ちたい。
今回の大会は、第1から第4までは濡れた滑りやすいものが用意されていた。第5から最終セクションまではいわゆるスペインセクションで、乾いた岩盤。ラガの得意とするコンディションだ。今回は、最終セクションも自然の岩盤で、人工セクションは用意されていなかった。
7、8セクションをクリーンしての第9セクション、藤波は2ラップめ唯一の5点を喫した。標高1600メートルあまりの8セクションから、一気に300メートルほど下ってのこのセクション、ここで藤波は、1ラップめと同じく、標高に合わせて電気系の変更を行っている。ところが、1ラップめと同じような結果にはならなかった。なにかが1ラップめとちがったのだろうが、それは定かではない。はっきりしているのは、そこでエンジンが思ったよりに動いてくれずに、岩の飛びつきに失敗したということだ。
このセクション、藤波の直前にドギーがトライをし、5点になった。それを見てのトライ。ドギーを抜き去る絶好のチャンスだったから、これは再び藤波の気持ちに暗雲が垂れこませることになった。しかしここで藤波は、マシンの電気系に思い切った手を入れた。ふだんなら、からだがついていかないので使わない、レスポンスのいいセッティングを施したのだ。前半の不調はどこへやら、この日の藤波は、実はからだの動きはよかったから、こんなセッティングが可能だった。
このセッティングがあたったのか、その後の藤波は13セクションで1点を取った以外は、クリーンを連発して14セクションにやってきた。1ラップめに5点。藤波の中では、今日の最難関セクションだった。ここをクリーンしたところで、監督から戦況が伝えられた。「これでラガと同点のトップ争いだ」と。
迎えた最終15セクション。多くのライダーが選択するのが、3点で確実に走破するラインだった。藤波の直前、ラガもこの確実なラインで3点で抜けていった。ここで藤波は、直登ラインを選んだ。1ラップめに5点になったときから、気にかけていたラインだった。そしてこれが、うまくいった。クリーンも不可能ではなかったが、安全を見越して1回足付きをした。これで、ラガに2点差で優勝だ。
しかしゴール後、ラガが抗議を提出した。抗議の対象は2点。第7セクションでの時間制限に対する疑問と、第12セクションで石を動かしたということで5点になっていたことだった。スペイン大会でのラガの抗議だから、藤波にすれば落ち着かない。監督も「抗議は8割方通ってしまうのではないか」と言う。表彰式が終わっても、まだ結果がひっくり返るということはあるから、安心できない。あまり後味のよくない表彰式となった。
しかし結果、ラガの抗議は通らなかった。藤波は、ランプキンに対して24点のリードを築いた。ラガに対しては28点だ。残り2戦を戦うには、充分以上のリードといっていい。監督からも「ここまできたら、確実に3位をキープしていればチャンピオンになれる」とアドバイスされる。もちろん、その通りだ。しかし藤波は、この日の朝は、3連勝したいと思っていた。そして今は、最終戦のスイス大会を、2連勝したいと思っている。勝負するからには勝ちたい。チャンピオンを目前にしても、それはまったく変わらない。
○藤波貴久のコメント
1ラップめの走りは、とても優勝できる走りではなかったですから、今日の優勝はよくやったと思います。今日も意識していたのは、ドギーです。でもドギーは、こうなってくると、ランキング2位争いが気になっているかもしれませんね。4ポイント差は微妙ですから。ぼくのほうは、次はとにかく、土曜日にチャンピオンを決めたいとは思います。とはいえ、スイス大会までの1ヶ月間、別に今までと変わることなく、過ごしていきたいと思っています。ここんところ試合が立て続けで忙しかったので、今思うのは、これで練習ができるなぁということです。スイス大会のことより、早く、練習したい、オートバイに乗りたいんです。
World
Championship 2004 |
日曜日/Sunday |
1位 |
藤波貴久 |
47(34…1…12) 13 |
2位 |
アダム・ラガ |
49(27…22) 12 |
3位 |
ドギー・ランプキン |
52(27…2…23) 11 |
4位 |
黒山健一 |
71(40…31) 8 |
5位 |
アルベルト・カベスタニー |
73(42…3…28) 5 |
6位 |
マルク・フイシャ |
75(35…4…36) 9 |
Ranking(残り2戦) |
1位 |
藤波貴久 |
250 |
2位 |
ドギー・ランプキン |
226 |
3位 |
アダム・ラガ |
222 |
4位 |
アルベルト・カベスタニー |
173 |
5位 |
マルク・フレイシャ |
158 |
6位 |
ジェロニ・ファハルド |
137 |
Pix:Mario Candellone |
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