ベルギー大会は、昨年と同じ会場。昨年よりちょっとコンパクトになっていて、近所に新たなセクションが開拓されていた。藤波の昨年の成績は3位。インドア風セクションばかりのオランダとちがい、自然セクションのベルギーは、藤波にとっては気分のいい大会になる、はずだった。
最初は金曜日の朝、プラクティスで事件が起こった。クラッチ調整に時間を費やしたあと、さていよいよ乗るかと走り出していきなり、足首をひねってしまった。ケガそのものは重篤ではないと思われるも、横方向にひねるととにかく痛い。それからはずっと、足を冷やして過ごすことになった。ずっとバケツに足を突っ込み、ホテルにもバケツを持って移動していたから、チームのみんなに「魚釣れたか?」と冗談を言われたりもしたのだが、なんとか走れるようにと必死だった。
そして予選。なんと、最後の出口でテープから飛び出して、5点になった。特にタイムアタックをしたわけではない。ふつうに走っての結果だった。最後のポイントは、岩から飛び降りてテープの外に着地してしまったのだが、飛ぶ予定ではなかったのだが、岩を登っていくときに体勢をちょっと崩していたこともあって飛んでしまうことにした。ところが踏み切りの瞬間に、足下の岩がぐらっと動いた。これで方向が定まらなくなってしまったのだ。30秒を切って走るくらいのペースだったから、クリーンしていれば3位くらいだった。特に急いでいたわけでもないので、Q1で5点となったので、Q2も同じくらいのペースで確実に走ろうと思っていた。
ところがQ2では、エンジンが止まった。奥まで行って、折り返しのポイント。これから岩に登るという瞬間にエンジンが止まったので、そこで停止5点を取られた。これで一番スタートが決定だ。
エンストは、電気系のトラブルだと考えられたが、原因はわからない。結局、電気系の部品を全部交換して翌日の大会に臨むことになった。結果論として、大会では問題がなくマシンは調子よく動いた。
というわけで、足の負傷と予選の失敗とで、どうにも出ばなをくじかれたベルギー大会となった。
一番スタートということは、前を走るライダーは誰もいない。トライアル2が走ったあと、GP用にラインを見つけ、わだちをつけるのは藤波の役目となった。藤波同様に予選があまりよくなかったのはイギリス人のジャック・プライスやダン・ピースだが、彼らは藤波の造作を見ているだけで、オブザーバーにお許しをもらって地面をならしたりする作業をするのは、藤波一人がやった。これがたいへんな重労働だった。勾配のきつい15のセクション、すべてでラインを新規開拓していかなければいけないのだから。
誰か一人でも前を走れば、地面のコンディションを確認することができる。誰も走っていないから、藤波がその実験台にならなければいけない。
オブザーバーのスタンスを確認するのも必要だ。ここのオブザーバーはこんな採点をする、というのはトライアル2のそれを見ていてもある程度わかるけれど、場合によっては、セクションの簡単なトライアル2は厳しく採点するけど、誰もいけないようなGPクラスではストップのさじ加減が甘くなったりする。そんなこともあるから、とにかく前を走るのは厳しい。前の方ではない、今回は一番前なのだ。
クリーン、1点、5点、2点、クリーンと、クリーンしたり減点したりで始まったベルギー大会だったが、第6セクションから5連続5点となった。あとからトライするライダーの減点は、この時点ではまったくわからないから、先に5点になるのは精神的にも厳しい。藤波自身、このあたりのセクションでは5点になるのを覚悟して走っているわけではない。いけると思っていて5点になっている。だからよけいに状況は厳しい。
今回の15セクションで、藤波が不可能と思ったセクションはなかった。結果的に第3、第8と2ラップを通じて5点になっているセクションはあるが、少なくとも藤波自身は攻略できると思っていた。
1ラップ目、藤波の減点は44点。途中は6位や7位の可能性もありそうな展開だったが、最後にライバルのタイムオーバーや最終セクションでの減点が加算されて、藤波の順位が上がった。4位。3位のアダム・ラガとは1点差だった。
優勝争いはトニー・ボウとジェロニ・ファハルドで、1ラップ目はファハルドが18点でトップ、トニーが21点で追っている。トップ争いと3位争いには、ざっと20点くらいの差がある。
スタートの遅いラガが40点を失っているから、そうそう簡単なものでもないのだろうが、しかし藤波は、スタートが遅ければ、20点台で回れるチャンスはあったと考えている。周囲のみんなが抜けている、あるいは抜けられそう、という空気があればライダーの気持ちへの影響も大きい。今回の藤波には、そういうプラス要素がまったくない。ひたすら、自らのポテンシャルを信じて進んでいくしかなく、そして藤波の実績は、あとから来るライダーのよき指標となり、彼らのトライを助けることになる。
厳しい戦いだったが、1ラップ目はラガと同点の4位だった。悪くはないポジションにいるのは確認できた。3位はホルヘ・カサレスで、8点差をつけられている。
2ラップ目、ラインを開拓しながら真っ先にトライしなければいけなかった1ラップ目より条件はよくなったが、かといって、ライバルに比して好条件になったということはまったくない。1ラップ目にいけなかったところがいけたとしても、2ラップ目はみんながスコアをあげてくるのではないかと思うと喜んでいられないし、精神的に厳しい戦いが続くことには変わりがない。
それでも2ラップ目の藤波は、第9セクションをやはり攻略できず5点となってから第13までは連続クリーン。第14で1点を失い、そして1ラップ目に5点となった最終セクションだ。ここを藤波は3点で抜けた。1ラップ目に比べると16点も減点を減らしトータルは72点。タイムオーバー減点1点を加えて73点が藤波の総減点だ。
試合中、藤波より見かけ上上位につけていたのが、ブストやカサレス、ラガ。ボウとファハルドのトップ争いは、1ラップ目から差が開きすぎている。
前回同様、ゴールしてスコアを見守ると、後続のライダーがぽつぽつ減点している情報が入ってくる。カサレスは、2ラップ目に調子を崩し、さらに後半のセクションで5点を連発している。カサレスに比べるとブストはずいぶん好調だが、第14、第15と連続5点となった。さらにラガも、第14、第15と5点になっている。
そして終わってみると、藤波はカサレスには9点差をつけ、ブストには5点差で勝ちきった。結果が出てみると、3位のラガとはわずか1点差。表彰台に手が届こうという、惜しい結果だった。
しかし藤波は、この結果を残念とは思っていない。厳しい状況の中、4位となれたのは望外の好結果、といえる。もしも、土曜日に予選が終わった時点で「あした4位でいいなら4位にしておいてやる」と悪魔が交渉を持ちかけてきたら、そんなら4位でお願いしますと受け入れていたにちがいない。表彰台にのれるかもしれないなんて、土曜日の時点では想像するのさえむずかしかったのだ。
2戦連続4位。ランキングも3位から4位に落ちている。しかしこの2連戦のこの結果は、これ以上ない、最善の結果だった。
「ほんとうに苦しい戦いで、とにかく疲れました。まず下見で歩き回ってラインを作りまくったのが本当に疲れた。終わってみれば3位と1点差。表彰台に上がれる可能性はあったと思います。いろんなところで惜しいのやアンラッキーがあって、10点くらいは減点を減らせた可能性はありますから。でもそれはみんなもおんなじだろうし、そういうことがあっての結果です。だから今回の4位は合格点だし、あわや3位になれたなんて状況は、不思議でしょうがないです。こういうときに4位で踏みとどまれるというのは、いい状況ですから、次は表彰台を狙っていきます」
日曜日 | ||||
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1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 33 | 19 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 36 | 17 |
3位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 72 | 11 |
4位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 73 | 11 |
5位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ヴェルティゴ | 78 | 11 |
6位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 82 | 8 |
7位 | ブノア・ビンカス | フランス・ベータ | 95 | 7 |
8位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 98 | 7 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 100 | |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 81 | |
3位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 67 | |
4位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 66 | |
5位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ヴェルティゴ | 51 | |
6位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 50 | |
7位 | フランツ・カドレック | ドイツ・TRRS | 43 | |
8位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 42 |