2019年 世界選手権第1戦イタリア

2019年5月26日/ピエトラムタ(イタリア)

惜しくも4位を逃して6位となる

photo2019年のアウトドアシリーズが始まった。藤波にとって、24年目の世界選手権シーズンとなる。

2013年のシーズンオフにヒザを負傷してから、万全の体調で開幕戦を迎えられることがなかった藤波。去年は開幕直前にスペイン選手権に出場してクラッシュ、肩に力が入らない症状に悩まされたまま、シーズンの大半を送ることになってしまっていた。

しかし今年はちがう。もちろんすべての負傷が完全なる完治をしているわけではないが、負傷部分を補うようなトレーニングもおこない、からだも絞った。久しぶりに、フィジカルの心配がない状態でのシーズン開幕となった藤波だった。

さてしかし、まず土曜日の予選が波乱だった。この会場は2017年から3年連続で世界選手権が開催されているのだが、2018年から、予選がナイトセッションになった。イタリアの主催者のたっての希望ということだった。しかし今回、シーズン開幕を迎えた緒戦であるうえ、これまで大会を仕切っていたプロモーターがいなくなって、運営がスムーズでない面があった。そこにナイトセッションの予選という、もともとちょっと無理のあるスケジュールが組み合わさり、さらに雨が降ってたいへんなことになってしまった。

くじ引きで決めたQ1のスタート順は、藤波はラストから4番目という、悪くない位置。しかしおりからの雨で、GPクラスのQ1は出場したライダー全員が5点となってしまってノータイム。この場合(5点が多数いた場合の順位決定の規則)、Q2のスタートはQ1とは反対となるので、藤波は4番手スタートでQ2を走ることになった。しかし時間も押してきていて、翌日の決勝を控え、マシンのメンテナンスを行う時間や食事の時間、さらに睡眠時間と、大事な時間がどんどん削られていく。そしてQ2の結果は、設定を若干やさしくしたにもかかわらず、これまたなんと全員5点になった。かくして前代未聞、Q1もQ2も全員5点で、Q2で順位決定がされない事態の場合はQ1の順位(Q2のスタート順)で決勝のスタート順とする規則で、ファハルドがトップ、ラガが2番手、藤波が4番手でのスタートが決まった。開幕戦でもあり、こんなドタバタになってしまったのだから、今回は去年のランキング順をスタート順としてもいいのではないかという提案がライダーから出たのだが、規則は規則で聞き入れられることはなかった。

ファハルド、ラガ、カサレス、藤波、ボウの順でスタート。スタートの頃雨はようやく止んだが、この会場は晴れていればグリップが抜群にいい岩々がそこここにあるのだが、ちょっと濡れるととんでもなく滑る。

第1セクションで藤波は3点、その後第2、第3はクリーンして、まずまずの立ち上がりを見せた。前を走るファハルドが3、5、0。ラガが2、5、0だから、彼らに対してのアドバンテージも作った。

しかしその後、第6から第9まで4連続5点となってしまった。この時点では、ラガやファハルドとはほぼ同じくらいの点数だったが、ペースが乱れたのはまちがいなかった。

photoさらにその頃から、時間が厳しくなってきた。前を走るファハルドやラガは、微妙にトライを遅らせて、後続のペースをおさえているかのペースをとる。以前にはなかった、トップライダーが先頭でトライしていかなければいけない状況が最近の世界選手権には多いから、そんな状況下でも自分を優位に立たせるための策をいろいろあみだしているということなのかもしれないが、その後ろで待たされているほうとしては、楽しいことなどなにもない。

第13、第14と、朝下見をしたっきり、いきなりセクションインをすることになって、5点となってしまったりもした。1ラップ目、藤波の減点は52点。トップのボウの25点はともかく、途中まで競り合いをしていた多くに先行されて、1ラップ目の順位は7位だった。さらにタイムオーバー減点も2点あった。

2ラップ目。乾き始めたところもあって、ほんの一部だが、グリップは回復してきた。2ラップ目、絶好調のボウと同じようなペースで回った藤波は、ボウほどではないものの、いい調子で減点を減らしてきた。

今回の藤波の真骨頂は第7。2ラップ目に藤波はここをクリーンしたのだが、これが、2ラップを通じてただ1回のクリーンだった。ボウ、ファハルド、ラガはみな1点だった。

この好調で、藤波は順位を上げてくる。終盤に向かう頃には、表彰台も夢ではない4位争いにまで順位を上げてきた。終盤の追い上げに期待が持てる。

ところが再び、時間との戦いが勃発した。第9セクションでは、残り時間が17分ということだった。ここはセクションがほとんどすべて隣接していて、セクション移動時間がないに等しい。だから残り17分なら、ふつうに走ればオンタイムでゴールができると考えていた。

しかし1ラップ目同様、ファハルドとラガが前をおさえていて、後ろからは難セクションをパスして先へ進んできた連中が追い上げてくる。それでも、まだ時間は大丈夫だと思っていた藤波は、下見をしながらトライをしていた。

すると、後ろを走っていたボウが、前を走るライダーにトライ順を譲ってもらって先を急いでいる。その時点で、残り時間は6分ということだった。これはたいへん。藤波も、あわててボウの後を追ってゴールへ急ぐが、行く先々でセクションをエスケープしてきた後続が先行していて、なかなか先へ進めない。結局、2ランプ目のタイムオーバーは3分。合わせて5点のタイムオーバー減点をとってしまっていた。

タイムオーバーも痛かったが、それ以上に、後半のセクション群での減点が痛かった。第11から最終第15までの5セクションのうち、第13はクリーンしたものの、残る4つはいずれも5点。なんとここだけで20点を失ってしまった。

もっとも、最終第15は難度が高く、加えて第14セクションでパンクをしたこともあって、最終セクションは2ラップともエスケープした。ここはボウとファハルドが1回ずつ抜けただけの難セクションだった。しかしそれ以外の3セクションは、クリーンできるはずのもので、くやしい終盤戦となってしまった。

結果、藤波の総減点は96点。4位争いのライバルだったビンカスとブストには、およそ10点差だった。終盤の不本意な連続5点によって15点を失っているから、藤波のつくべきポジションは、4位のはずだったのだ。

開幕戦は、ゼッケンと同じ6番。しかし今回は、体調もよく、マシンコントロールも思ったようにできている実感があっての戦いだった。去年のように、動かないからだに鞭を打ってトライしたりということは、今はまったくといっていいほどない。開幕戦の戦いっぷりは、今年の藤波がきちんと戦える証を見せることができたが、それだけに6位という結果は残念なものだった。

2019年、トップコンテンダーとしての藤波の戦いが始まっている。

○藤波貴久のコメント

「6位という結果は満足できるものではありませんが、まだまだ上を目指せる感触を確かめられたのは収穫でした。体調に不安がなく、トレーニングや調整など、シーズンオフにいい時間を過ごせた成果が出ていると思います。それだけに、今回の結果は残念というか、情けないものでした。せっかく追い上げてきたのに、最後の数セクションでそこまでやってきたことを台なしにしてしまいました。クリーンセクションのようなところで5点をとってしまったりしていては、さらに上位に食い込むなど不可能だと思います。と同時に、どのライバルもレベルアップをしているので、6位の座も安泰ではありません。厳しい戦いは続くと思いますが、今回はぼくしかクリーンできなかったセクションもありましたから、今後も自信を持って戦っていきたいと思います」

World Championship 2018
日曜日
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 33 19
2位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ガスガス 61   13
3位 アダム・ラガ スペイン・TRRS 66   8
4位 ブノア・ビンカス フランス・ベータ 86   6
5位 ハイメ・ブスト スペイン・ヴェルティゴ 86   8
6位 藤波貴久 日本・モンテッサ 96   6
7位 ミケル・ジェラベルト スペイン・シェルコ 105   6
8位 フランツ・カドレック ドイツ・TRRS 111   5
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 20
2位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ガスガス 17
3位 アダム・ラガ スペイン・TRRS 15
4位 ブノア・ビンカス フランス・ベータ 13
5位 ハイメ・ブスト スペイン・ヴェルティゴ 11
6位 藤波貴久 日本・モンテッサ 10
7位 ミケル・ジェラベルト スペイン・シェルコ 9
8位 フランツ・カドレック ドイツ・TRRS 8