2019年は、結局6戦での戦いとなったXトライアルシリーズ。藤波は開幕戦ブダペスト、第2戦バルセロナのあとは出場せずが続いていた。そこへ、アンドラ大会から出場のオファーがあった。悩んだ末に出場、そしてシーズン初めて予選を通過して5位のリザルトを得た。
藤波が出場するやいなかを悩んだのは、ケガの心配が大きい。昨年もこの時期、仕上がり順調でアウトドア大会の開幕を楽しみにしていたのだが、スペイン選手権に出場して負傷、苦しいシーズンを送ることになってしまった。Xトライアルへの出場は、さらにリスキーだ。ライダーとして、望まれる大会に出ないのも悔しいが、それでシーズンを棒にふるのはもっと悔しい。
そんな中、アンドラの会場は構造上の問題で、いつものセクション要素が持ち込めないとの情報があり、いつもより多少はリスクが少ないと判断して、アンドラへの出場を決めた藤波だった。出るからには納得のいく走りをしたいとは思うものの、6戦中3戦にしか出ないでは、ランキング争いも多くは望めない。まずケガをしないで試合を終えることと、できれば今度こそ予選を通過したいという、その2点が藤波の大きな目標になった。
ちなみにランキングは、ここまでの藤波のポイントが5点。同じく2戦に出場したホルヘ・カサレスとガブリエル・マルセリが6点、3戦に出場したルカ・ペトレーラが5点。この4人がランキング7位争いの主役たちということになる。マルセリは今回は出ていなくて、カサレスとペトレーラは出場する。事実上、藤波とカサレス、どちらか上位に入ったほうがランキング7位を得ることになる。
予選、ラウンド1は、3人ずつが5セクションを一気に走る。3人ずつ3組に分かれるも、3人ずつの勝敗は関係なく、あくまで点数がよい順に6名が次のラウンド2に進出する。予選の順位によってラウンド2の組み分けが異なるのだが、まずは6位にまでに入ってラウンド2に進むのが最初のミッションになる。
ペトレーラ、カサレス、藤波の順にトライした予選、ラウンド1。第3セクションの難度が高く、ここを抜けられれば上位にいけそう、ここを失敗しても、ほかをしっかり走れば、予選通過の可能性はある、というのが下見をしての感触だった。ペトレーラは第3の他、第2も5点で総減点は15点。次に走ったカサレスは第1で5点になって総減点10点。
藤波は第1をクリーン、第2は着地でフロントタイヤが滑ってしまって1点を失った。第3は残念ながら5点だった。この第3は、トップ3が抜けただけで、6人が5点となっている。第4はクリーンして、最終の第5は、フロントを吊っていくかアンダーガードを乗せていくかの二択だったが、藤波は1点を覚悟でアンダーガードを乗せていく方を選んだ。これでトータル7点。想定では6点の予定だったから、1点多く減点してしまったが、ペトレーラとカサレスには勝っているから、あと一人、誰かが藤波より多く減点すれば、予選通過はかなう。
次の組は、ジェロニ・ファハルド、ミケール・ジェラベルト、ハイメ・ブストの3人。ファハルドは第1で1点、第3で5点、藤波より1点少ない6点で、予選通過が決まった。次のジェラベルトは第1で2点を失ったかと思えば、第2から第5まで4連続5点というとんでもない乱調。これで藤波の予選通過も決まった。さらにブストがまたたいへんだった。途中、マシントラブルでマシンを交換したものの、スペアマシンの調子が万全ではなく、これで3連続5点をとって万事休した。ジェラベルトとブスト、二人のノミネートライダーがラウンド1で姿を消すという波乱の幕開けの最終戦となった。藤波としては、ランキング争いのライバルのカサレスがラウンド2に進出したのがちょっと誤算だった。予選敗退なら藤波のランキング7位が確定的となったのだが、勝負はラウンド2で、ということになった。ただラウンド1を見る限り、カサレスの調子はよろしくないので、ランキング7位は半分もらったつもりになっていた。
ラウンド2は、ラウンド1の順によって組み分けが決まる。ラウンド2の1組目は、ラウンド1の6位、3位、2位。カサレス、ブノア・ビンカス、アダム・ラガの3人。2組目は藤波(5位)、ファハルド(4位)、トニー・ボウ(1位)の3人。ここでの戦いは、トップになった者が優勝決定戦に、2位になった者が3位決定戦に進む。3位だと、その減点数(同点の場合はタイム差で)によって5位、6位が決まる。
1組目は、ラガが4点でトップ、そしてなんと、ラウンド1で不調だったカサレスが突然絶好調となって6点で2位、ビンカスが7点で3位となった。これでカサレスの4位以上が決まった。藤波がランキング争いでカサレスに勝利するには、ラウンド2で2位以上にならなければいけない。
とはいえ、ボウに勝つのはまず不可能に近い。チャンスがあるのは、ファハルドだ。実はファハルドとブストは、ランキング3位争いをしている。ブストが49点に対して、ファハルドが46点。3点差で迎えた最終戦だったが、ブストは8位に沈んでランキングポイントは51点で決定している。今回ファハルドが5位以上ならランキング3位はファハルドのもの、6位ならランキング3位はブストになる。
ラウンド2を前に、藤波のところにはブストとファハルドがやってきた。ブストは藤波にファハルドを破ってほしいとお願いしに来た。ファハルドは、負けてくれとは言わないまでも、ここで4位以上にならないとたいへんなのだと藤波に泣きついてくる(本当は5位以上になればいいので、ラウンド2で藤波に負けても欄ング3位の目はあったのだが、それはご愛嬌だ)。しかし藤波にとって、ブストとファハルドがランキング3位になろうが4位になろうが、なんの関係もない。ふむふむと聞き流して、自分の走りをするべく、準備をする。なんとかしてファハルドに勝ちたい。ブストのお願いを聞くわけではなく、それが当然の藤波の望みだ。
第1セクションはクリーン。ファハルドはこの第1で1点を失っているから、ちょっと戦況があやしくなっている。ファハルドのこの動揺に、さらにプレッシャーをかけていけば、ファハルドを破ることは可能だ。
ところが第2セクション、木で滑って5点になってしまった。これで藤波の戦いは事実上終了した。ファハルドはここを1点。トータルでは、藤波7点、ファハルド5点で、ファハルドが3位決定戦に進むことになった。トップはもちろんボウで、たったの1点だった。
藤波の7点は、ビンカスと同点。藤波のタイムが4分15秒7で、ビンカスは4分24秒6。この9秒差で藤波の5位、ビンカスの6位が決まった。
3位決定戦に進んだカサレスはファハルドに1点差で敗れたが、藤波とのランキング争いは3位決定戦に進んだ時点で決着していて、カサレスがランキング7位、藤波がランキング8位。ファハルドは3位となって、ブストとは7点差でランキング3位を獲得したのだった。
8位、7位、5位と、尻上がりに調子を上げてきた藤波。順位も悪くはないが、それ以上に走り的に悪くなかったのが、今回の大きな収穫だった。ダイエットをして体も絞った。2年前からマシンの仕様をボウ仕様に振って、その結果がようやく現れてきたというのもある。マシンの仕様変更は、もうちょっと早く結果を出したかったところだが、去年はフィジカルの問題をかかえて、いろいろ遠回りをしてしまった。
今シーズン、24年目のアウトドア世界選手権の開幕を目前に、藤波はシーズンが始まるのを楽しみにしている。
「今年3戦目の参戦で、ランキング争いにもあまりかかわっている状態ではなかったので、欲はなく、とにもかくにもケガをしないを目標に走ったのですが、結果も点数も、なにより自分の走りが満足いくもので、達成感が得られるよい戦いとなりました。ラウンド2では第2セクションの失敗で5位を決めてしまいましたが、それ以外はほぼ自分の思った通りの走りができました。いま、体調はとてもいいし、マシンとのコンビネーションもよくなっている。アウトドアの開幕が楽しみですが、それに先がけて、よいXトライアル最終戦となりました」
Final(決勝) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 1 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 1 |
RUNNERS-UP FINAL(3位決定戦) | |||
3位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 11 |
4位 | ホルヘ・カサレス | ヴェルティゴ | 12 |
Round2(セミ・ファイナル) | |||
2-1位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 1 |
1-1位 | アダム・ラガ | TRRS | 4 |
2-2位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 5 |
1-2位 | ホルヘ・カサレス | ヴェルティゴ | 6 |
2-3位 | 藤波貴久 | モンテッサ | 7 |
1-3位 | ブノア・ビンカス | ベータ | 7 |
Round1(クォリファイ) | |||
1位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 0 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 5 |
3位 | ブノア・ビンカス | ベータ | 6 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 6 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 7 |
6位 | ホルヘ・カサレス | ヴェルティゴ | 10 |
7位 | ルカ・ペトレーラ | ベ ータ | 15 |
8位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 17 |
9位 | ミケル・ジェラベルト | シェルコ | 22 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 115 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 89 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 58 |
4位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 51 |
5位 | ブノア・ビンカス | ベータ | 43 |
6位 | ミケル・ジェラベルト | シェルコ | 24 |
7位 | ホルヘ・カサレス | ヴェルティゴ | 15 |
8位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 11 |
9位 | ルカ・ペトレーラ | TRRS | 8 |
10位 | ガブリエル・マルセリ | モンテッサ | 6 |