予選システムが始まってから、藤波はなかなかいいポジションを得たことがない。スピードには自信があり、スピードレースが組まれていた頃のインドアトライアルではかなりの勝率でライバルを下してきた経験があるのだが、予選システムに組み込まれてから、どうにも不運が続いている。
しかし今回、予選で初めて3番手を獲得することができた。トップはトニー・ボウ、2位にハイメ・ブスト。去年ならワンツースリーとなったところだが、今年のハイメはライバルだ。
とはいえ、今回の予選は、会心の走りをして獲得したという印象でもなかった。足をついたり失敗して、一気に順位を落としてしまうより、確実に走ろうと努めた結果、ついてきた順位だった。
予選セクションには、砂ぼこりがかぶっていて、滑りやすい設定だった。この罠にひっかかって失点するライダーは少なくなかった。事実、藤波も予選1回目には5点となっている。予選1回目には、藤波を含めて4人が5点になっている。
今回の藤波がラッキーだったのは、Q1を走る順番のくじ引きで、藤波は一番を引いたことだった。5点になると、タイム差がつけられないので、その場合はスタート順が早い者が上位となる規則だ。なので藤波は、Q2では5番手で走ることになった。
やはり5点となって真っ先に走ったブストは41秒10。これはなかなか出せない一発タイムだ。藤波は、ベストは42秒あたりで、確実にクリーンをしようと思えば、45秒くらいなら確実と思われた。それで藤波は、あまり欲を出さず、Q1のようなミスをしないよう、45秒でクリーンをした。
おそらく、その後多くのライダーがタイムを更新してくるだろうが、しかたない。しかしQ2では、Q1以上にミスをするライダーが多かった。ジェロニ・ファハルド、アダム・ラガ、ジェイムス・ダビル、ミケール・ジェラベルト、ブノア・ビンカス、5人ものライダーが5点になった。ビンカスは、かなりよいペースで走っていたのだが、最後の最後、砂の浮いたターンで滑って転んで5点になった。転ばないまでも、アルベルト・カベスタニー、フランツ・カドレックも1点。クリーンをしたのは、わずか6人。そして藤波はボウ、ブストに次いで3番手を確保した。
今回のセクション設定は、走るほどにラインができて有利になるというものではなかったが、やはり後方のスタートで走るのに不利な材料はない。ライバルのラインどりも観察できるし、オブザーバーのくせも見切ることができる。久々に、トップライダーらしいスタート順を得て、ポルトガルGPは期待ができる大会となった。
しかし試合が始まると、思ったよりもからだが動かない。シーズン前に負った負傷によって、右腕が動かない、力が入らないという症状は、ずいぶん回復してきていた。動く範囲はほとんど元通りになっているのだが、しかし力は元通りにはなっていない。よくなっていると思ってはいたが、実はまだまだ回復途上だった。
ハンドルを引いてポイントを越えていくようなときに、引ききれていない。右側の筋力が、まだまだ本来にはほど遠いのだ。開幕戦の頃、藤波の上腕二頭筋の筋力は5kgに届くかどうかだった。本来なら15kg以上、20kgくらいに届くはずで、これに加えて腕が動かなくて稼働範囲がごく狭かった。いま、稼働範囲はおおむね元通りになってきた。それで回復したつもりになっていた。そしてほとんどの場合、問題なく走れているのだが、とある瞬間に、力が足りていない。
藤波を最も近くで見ているマインダーのカルレスには、へんな姿勢で乗っていると指摘を受けるのだが、それは足りない力を補うために、本能的に特殊な姿勢を取っているということで、指摘を受けてもそれでなおせるならば楽なのだが、そう簡単な話ではない。
今回、下見のあとでセクション設定がいくらか変更されている。簡単すぎるという主にトニーの主張が通って、より高くなったり、きっかけがどかされていたりした。藤波には、下見の時点でどうにも攻略できない高さのものもあった。こういった高いステップはあきらめざるをえない。そこをあきらめて、それ以外のポイントをきっちり走ることで、勝利は望めないとして、4位や5位の可能性はあると、藤波は考えていた。
事実、1ラップ目に藤波と1点差だったラガは、2ラップ目にきっちり抜けるところをある程度きっちり抜けて5位まで浮上している。しかし藤波は、高いステップ以外での取りこぼしもあり、2ラップ目のスコアはラガより10点ほど減点が多かった。
最後の難関、第14セクションはむずかしかった。スタートが遅かった藤波には、ライバルの減点は把握できていたから、ここを3点以内で抜ければ10位から8位に浮上できるのはわかっていた。そのとおり、藤波はこのセクションを2点で抜けて、きっちり8位を確保するにいたったのだが、しかし8位まで浮上するのが精いっぱいだった。
なお今回、トニー・ボウが世界選手権100勝を達成。ドギー・ランプキンの99勝を抜いて、新記録となった。そして同時に、ボウは今回が世界選手権200試合目。つまりボウの勝率は、きっちり5割ということになる。
ちなみに藤波は世界選手権23年目を迎えて33勝。勝率は10%だが、その総獲得ポイントは、以前トップを更新中である。獲得ポイント2位につけるのはランプキンで、3位がラガになっている。
「予選の結果はよかったですが、ライバルのミスが続いてあれよあれよと3位になった感じでした。敗因は、からだの不調と、マシンとの一体感です。うまい仕様が見つけられなくて、自分自身とのマッチングに悩んでいると、セクション設定に合わなくなってしまったり、うまくいきません。同じ状況でトニーは勝っているので、自分の実力と認識していますが、一体感が出せれば日本GPのような走りができる自信はあるので、くやしいところです。なんとか、状況を取り戻していかなければいけません。今回は、トニーが世界選手権100勝を達成。自分の成績は残念でしたが、チームメイトとして、これは素直にうれしいし、誇らしい気分です。それにしても2回に1回勝っているというのはすごいです」
日曜日 | ||||
---|---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 9 | 25 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 21 | 22 |
3位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ガスガス | 31 | 21 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・ベータ | 39 | 14 |
5位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 62 | 14 |
6位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 65 | 11 |
7位 | オリオル・ノグエラ | スペイン・ホタガス | 67 | 8 |
8位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 74 | 8 |
9位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 77 | 9 |
10位 | ミケル・ジェラベルト | スペイン・シェルコ | 79 | 8 |
11位 | ブノア・ビンカス | フランス・スコルパ | 86 | 8 |
12位 | フランツ・カドレック | ドイツ・ガスガス | 86 | 6 |
13位 | ジャック・プライス | イギリス・ガスガス | 94 | 2 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 90 | |
2位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 80 | |
3位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ガスガス | 76 | |
4位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 65 | |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・ベータ | 59 | |
6位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 49 | |
7位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 47 | |
8位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 42 |