バルセロナ大会の後、Xトライアルは本来なら3月8日にセビリア大会が組まれていた。しかしこの大会がキャンセルとなり、第6戦として開催されたのがこのパリ大会だった。
バルセロナからパリまで、いろいろなことがあった。アダム・ラガがひじの腱の手術をしてしばらくの戦線離脱がささやかれていた一方、2月18日のノンタイトルのインドア大会でトニー・ボウが負傷、こちらもしばらく安静となった。
Xトライアルのタイトル争いはこの両者に絞られていたから、二人の負傷の具合と大会シリーズの最終スケジュールは、タイトル争いにも影響を与える一大事となった。
パリ大会の後は、予定では最終戦ブタペスト大会(ハンガリー)が組まれている。しかしキャンセルになったセビリア大会の代替大会が開催されるのかどうかが、なかなか発表されない。もし開催されるなら、タイトル争いはもう少しもつれそうだが、もしキャンセルとなったままなら、パリ大会には出場しなくても、ボウは12回目の世界タイトルを決めることになる。
一方藤波は、いたって平穏にXトライアルシーズンを過ごしている。ワイルドカード扱いのため2戦を欠場しているが、バルセロナでの成績でパリ大会への出場は決まっている。手負いのボウが出場するかどうかを悩んでいるのを見守りながら、藤波は大会直前に、アウトドアの練習仕様からインドア向けにマシンのセッティングを変更して、そのままパリへ向かった。Xトライアルでは、もちろん最善を尽くすが、インドア向けの練習などはせず、照準はあくまでアウトドアシーズンに合わせている。
クォリファイの6セクション、今回の一番スタートはワイルドカードのアレックス・フェレール、次がなぜかミケール・ジェラベルト、藤波、そしてジェロニ・ファハルドの順だった。ランキング順という規則なのにファハルドが一番スタートだったり、不思議。公のルールではないようだ。
藤波の予定としては、第1から第3は絶対にクリーンしようと思っていた。第4はクリーンか5点、ここをクリーンできれば、その後の可能性はうんと広がる。問題は、下りで止まりきれるかどうか、というところだ。第5は無難にガードをかけて1点で抜ける予定。第6はちょっとむずかしそうだし、時間も厳しいという段取りだ。
予定通り、第1から第3はクリーン。しかし第4は5点だった。残念だが、次の第5を確実に1点で抜けた。確実に、慎重に抜けたため、時間がかかった。6分の制限時間は迫っている。ちょっと焦ってトライした最終第6は、インで5点となった。
ここまで、フェレール15点、ジェラベルト6点、藤波は11点だった。第4がクリーンなら、ジェラベルトと同点だった。11点だと、クォリファイ通過はぎりぎりか、あるいは予選落ちか。そう思いながら後続を見守っていると、ファハルドが12点、ジェイムス・ダビルが13点、ブノア・ビンカスも12点。あれよあれよとみんなが減点していって、藤波はクォリファイ5位ということになった。ちょっとラッキーと安堵して、セミファイナルへの休息に入る。
それにしても、出る出ないを悩んでいたボウが、このクォリファイで3点をたたき出したのは、チームの面々もびっくりだった。最終第6セクションを1点で抜けたのはボウだけ。前日までまったくといっていいほどオートバイでのトレーニングは断っていたのに、さすがというしかない。
さて、5位となった藤波は、クォリファイ1位、4位といっしょにセミファイナル・ヒート2に出走する。ヒート2の一番先頭だが、ヒート1の3人の走りは見ることができる。これはおおいに有利だ。
作戦はクォリファイ同様、第1、第2は絶対クリーンしよう、第3はインが上がれれば問題ないはずだ。第4はおそらく無理。第5、第6は確実に抜けるというあんばいだ。第1、第2はクリーンをしたが、第3で5点となった。パターンはクォリファイ同様だ。
ヒート1を走った3人の減点はすでに出ているが、ファイナルを走るには、減点数は関係なく、このヒートで勝利しなければいけない。3位以降になった場合は減点数が効いてくるのだが、藤波はヒート1の各ライダーの減点については気にしていなかった。あわよくば、優勝を狙ってやろうと思っていたのだ。
ちなみにこの時点でヒート1の3人のトップは(つまりファイナル進出を決めたのは)ラガで11点、2位がビンカスで14点、ジェラベルトが17点となっていた。
第3が5点で第4も5点。これで藤波は10点。このまま最後まで走ればラガの減点を上回るが、残念、最終セクションで2点を取ってしまった。連続して6セクションを走るので、最後はちょっと腕も上がってしまった。それでアンダーガードをかけてしまい、その際に2点を失ってしまった。藤波のトータルは12点だ。
次を走ったハイメ・ブストは、第1で1点をとったものの、第3は2点で抜けた。セミファイナルの第3を抜けた初めてのライダーとなった。第4は5点で、ブストの減点は8点となった。これで藤波のファイナル進出はなくなり、4位以上も確定した。
最後を走るのはボウ。しかしボウは、クォリファイとは様子がちがった。まず第1セクションで5点になった。クォリファイからセミファイナルまで30分近く時間が空くが、この日のパリは雪模様で、外でウォームアップをするには寒すぎた。それならと場内でスタート順を待っていたのだが、その間にからだがどんどん冷えてきて、痛みも出てきてしまったようだ。
それでもボウは、途中でやめることなく、6セクションすべてを走りきった。しかも第3セクションではただ一人クリーンもマークした。
セビリア大会の代替大会は、もともと開催されない方向が濃厚で、今回の大会でブタペストが最終戦である旨発表になった。ボウは乗れなくてもチャンピオン決定セレモニーのためパリへやって来る予定でいたが、現場にいるからには走ろうというチャンピオンの意地が炸裂した。
しかし第5で5点、第6でも1点をつき、ボウの減点は16点。からだの具合を考えればこれでふつうなのかもしれないが、1ラップ目とはうってかわって、今回のボウは5位ということになった。そしてこのボウの5位によって、藤波は3位表彰台を獲得した。
ファイナルは、ブストがラガに3点差で勝利した。ブストは初優勝だが、藤波の3位表彰台も、2013年バルセロナ大会以来、5年ぶりになる。
2戦を欠場している藤波は、それでも全戦出場しているダビルに4点差、有効得点を計算に入れると2点差ということになる。最終戦次第では、藤波がランキング7位に浮上するかもしれない。
「セミファイナルに残って、優勝も狙えると思って走ったのですが、ファイナル進出はなりませんでした。でも3位表彰台に上れて、とてもうれしい。ランキングのことはまったく考えていなくて、7位でも8位でもいいという感じなのですが、残り1戦、けがをしないよう、しっかり走ってXトライアルのシーズンを終えられればと思います」
Final(ファイナル) | |||
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1位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 3 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 6 |
Round2(セミ・ファイナル) | |||
2-1位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 8 |
1-1位 | アダム・ラガ | TRRS | 11 |
2-2位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 12 |
1-2位 | ブノア・ビンカス | スコルパ | 14 |
2-3位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 16 |
1-3位 | ミケール・ジェラベルト | シェルコ | 17 |
Qualification(1ラップ目) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 3 |
2位 | ミケール・ジェラベルト | シェルコ | 6 |
3位 | アダム・ラガ | TRRS | 8 |
4位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 10 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 11 |
6位 | ブノア・ビンカス | スコルパ | 12 |
7位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 12 |
8位 | ジェイムス・ダビル | ベ ータ | 13 |
9位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 15 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 106 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 84 |
3位 | ブノア・ビンカス | スコルパ | 52 |
4位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 50 |
5位 | ミケール・ジェラベルト | シェルコ | 37 |
6位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 36 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 28 |
8位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 24 |
9位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 4 |
10位 | ホルヘ・カサレス | ヴェルティゴ | 3 |