しばらくぶりのベルギー大会。ここは2年前に走っている。そのときは大雨で、たいそう厳しい戦いとなっていた。今回は、雨は降らなかった。しかし第2〜第5は、雨が降らずとも湿ったところに設営されていて、むずかしいことには変わりがない。
1ラップ目、第8セクションの岩が動いて、セクションがキャンセルになるという事態が発生した。この日の大会はこんなセクションがいくつか出てしまうという、なんだかバタバタしたものになっていた。
セクションがキャンセルになったのは1ラップ目に続いて3ラップ目。第4も同じようなことでキャンセルになった。第4のキャンセルはあらかじめわかっていたので、ライダー側としては受け入れようがあったのだが、第8セクションでは、藤波とラガのトライを残して、ボウのトライ中に岩ががらがらと崩れるという事態が発生した。それでいったいどうしようと、競技責任者もまじえて善後策を考えなければいけなくなった。
結局、崩れそうな岩をそのままに試合を進めるのはなんとしてもあぶないので、セクションはキャンセルとなったのだが、その結論が出るまでに藤波とラガはずいぶん時間を費やしてしまった。すると、現場にいたこの大会の責任者であるダニエル・コセー氏(ベルギーの元世界選手権ランカーで、ご存知、ライディングテクニックのダニエルの名称はこの人からついたものだ)が、藤波とラガの持ち時間を5分延長してくれると約束。これで藤波とラガは残るセクションに復帰することになった。
実は藤波は、3ラップ目の第3セクションで大クラッシュをしている。ライダーは岩の上に飛び残ったのでなんともなかったのだが、岩から真っ逆さまに落ちていったマシンは、レバーは曲がりハンドルは曲がり、エキゾーストパイプもぐっちゃりという惨憺たる状態だった。幸い、メカニックがパーツを持っていたので、すぐに現場で修復作業を開始した。
今回からFIMは、競技中にマシンにさわれるのはメインのマインダー一人のみと規則運用を徹底してきた。これまで、トップライダーはマシンにそれぞれメカニックがついていて、タイヤのエアチェックなどはメカニックがやっていたのだが、それは禁止。マインダーがはるかセクションの上の方で待機しているときなどは、ライダー自らがエアチェックをする光景も見られるようになった。
この大クラッシュからの修復作業も、作業ができるのは藤波本人とメインマインダーのカルロスのみだ。一見、大人数の大チームと小さなチームの不公平を解消するための施策のようだが、お客さんにマシンを支えてもらうこともできず、ライダーとメカニックひとりずつの小さなチームは、とてもたいへんな戦いを強いられることになりそうだ。公平性を保つというのも、なかなかむずかしい。
そのクラッシュから復帰して、藤波が追いついてしばし、というタイミングの第8セクションでのハプニングだった。タイムロスは10分くらいあったはずだが、次の第4セクションはキャンセルとなっていたし、追いつくのはむずかしくなかった。残り時間はごくわずかになっていたが、5分の延長をもらったので、最後まで走りきって、余裕のゴール、のはずだった。
1ラップ目は3位、2ラップ目が終わったところで集計すると4位となっていたが、トップとの差は7点、3位までの差は2点という接戦だったから、勝負の行方は最後の最後までわからなかった。
ところがゴールした藤波を待っていたのは、5分のタイムオーバー延長など認めた覚えはないという主催者側の冷たい宣告だった。5分の延長をもらったはずのライダーは藤波とラガの二人だけ。このどんでん返しに藤波もラガも憤慨することになったが、5分の時間延長は大会役員が個人的に言ったことで、審査委員会などの決定を受けていないので向こうということだった。しかし藤波らとすれば、大会の総監督の立場にいる大物にもらった約束だったから、疑ってかかれというほうがむずかしい。
しかし結局、FIM本部の見解は大会責任者といえど個人の勝手な発言で規則を変えることはできない、というもので、藤波とラガの訴えはあえなく却下されることになってしまった。ふたりとも、2分のタイムオーバーを喫していた。
もしも5分の延長をしてくれるなどといわれなかったら、ふたりとも必至で追い上げてオンタイムでゴールしていたにちがいない。もちろん、それは簡単ではなく、もうちょっと落ち着いてトライをしたいゆえに、持ち時間が足りなくなったのをなんとかしてほしいと訴えたわけなのだが、こうなっては、それが裏目となってしまった。
ラガは2位。優勝のボウには10点差があったから、2点のタイムオーバー減点は切実なものではなかったかもしれないが、藤波の場合、あと2点少なければファハルドを抜いて4位に入れる。とても大きなタイムオーバー減点となった。
今回の戦いで、カベスタニーにはランキングポイントで4点つめられることになったが、しかしまだカベスタニーに20点差、ランキング4位のブストには18点差と、点差を1点広げることができた。
残りはイギリスとイタリアの4戦。戦況は藤波に有利だが、しかしカベスタニーも開幕戦の勝利者。勝つこともあれば6位や7位になることは、藤波にもカベスタニーにも、あるいはブストにもファハルドにもある理得ること。まだまだこれっぽっちも油断ができない終盤戦である。
「セクションが閉鎖になったり、大会自体もバタバタしていて、ぼくの走りも一時バタバタしてしまい、加えて持ち時間の問題もあって、なんだかずっとバタバタしていた大会になりました。持ち時間があと5分もらえていたら4位だったし、最終セクションでもちょっと納得のいかないストップの5点をとられたりして、上位にいけるチャンスはあったと思います。走り自体は悪いものではありませんでしたが、結果だけが出ていない、という状況です。調子を崩すことなく、もう少し結果を出せるよう、残る4戦、しっかり戦います」
日曜日 | ||||
---|---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 45 | 21 |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・TRS | 55 | 18 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 55 | 18 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ヴェルティゴ | 60 | 14 |
5位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 61 | 15 |
6位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 68 | 12 |
7位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ヴェルティゴ | 77 | 11 |
8位 | エディ・カールソン | スウェーデン・モンテッサ | 89 | 10 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 209 | |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・TRS | 186 | |
3位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 147 | |
4位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 129 | |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 127 | |
6位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ヴェルティゴ | 120 |