2016年開幕戦はスペイン、バルセロナ。いまや藤波の地元といってもいいロケーションでの大会で、レプソルHondaチームを始め、多くのトライアルチームの本拠地のある、いわばトライアルのホーム大会。
藤波は、今年は久しぶりに晴れ晴れとした気分で開幕戦を迎えることができた。おととし2014年はひざの負傷を負った直後で、どれだけ走れるものか、はたして出場しても大丈夫なものか、不安が大きかった。昨年2015年は、手術をしての回復途中。通常からは考えられない短期での復帰で、やはり不安の大きい開幕戦を迎えていた。
2016年の今年は、ひざの調子が完璧に近く回復して(完璧な回復は望めない負傷だ)このシーズンはなにより藤波自身が楽しみにしている。
その開幕戦、藤波のリザルトは、7位だった。昨年、ひざの痛みをかかえながらも表彰台に乗り、悪くても6位、7位を得ていたことを考えると、今回の結果は喜べるものではない。勝利からは17点差、表彰台県内には14点差、そして6位には7点差という結果だった。
藤波のスコアを見ると、2ラップ目は5点と、上位陣と比べてもそれほど劣るものではない(トニー・ボウとハイメ・ブストのベストスコアは2点、優勝したカベスタニー述べてとスコアは4点だった)。しかし1ラップ目の17点、3ラップ目の15点が、藤波を上位から遠ざけてしまった。
1ラップ目。藤波には3つの5点があった。第9セクション、第10セクション、そして最終12セクションだ。セクションはつい足が出てしまう設定だった。結果を見ると、オールクリーンも夢ではないくらいの設定に見えるが、下見をした時点では、なかなか手ごわい設定だと思ったものだった。
しかしそれ以上に厳しかったのが、オブザーバーだった。10セクションで、藤波はオブザーバーの採点に泣いた。止まっていないのに、止まったという判定だ。それでもこのオブザーバーは、藤波だけに意地悪をしたわけではなく、みんなに厳しかったのでいたしかたない。
第9の5点に第10でも5点。よけいな減点を10点とってしまい、そして迎えたのが最終セクションだった。1ラップ目には、持ち時間の設定がある。藤波は最終セクションに、残り3分くらいで到着した。ここは簡単なセクションだったので、もちろんクリーンする気でいた。
ところが藤波の前にトライをするカベスタニーが、なかなかセクションに入らない。オブザーバーが手を上げているのに、水を飲んだりキルスイッチのストラップを確認したり、慎重に準備をしている。おかげで藤波がセクションに入るときには、藤波の持ち時間は残り1分となっていた。1分半の持ち時間を使い切ったら、それだけでタイムオーバーになってしまう。
タイムオーバーをしてしまうかもしれない焦りは、藤波から集中力を奪っていった。インから10メートルほど走ったところで、藤波はセクションから落ちてしまった。5点だ。1ラップ目の順位は7位。トップ5人が一桁減点だから、藤波の17点はそうとうに悪い。
2ラップ目。藤波は第3セクションで5点となるも、今度はそれ以外のすべてをクリーンした。1ラップ目には第3セクションはクリーンしているから、つまり計算上はオールクリーンが可能だったということだ。2ラップ目までの藤波のスコアはトータルで22点。トップはなんとブストの10点で、以下、カベスタニー14点、ラガ18点、ボウとカサレスが19点、2ラップ目に失敗が多かったファハルドが26点となったので、藤波は6位に浮上した。表彰台圏内まで5点以内、ということだ。
3ラップ目。ところが藤波は追い上げがきかない。いわば、1ラップ目とまったく同じことが、3ラップ目に起こってしまった。今度は第8セクション。ここはクリーンセクションだから、藤波もだんこクリーンするつもりでいた。しかしバランスを崩してしまった。その時点で、すぐに足を出せば、失うものはもっと少なかったかもしれない。しかしクリーンをねらってがまんをした結果、足を出したときには遅かった。後輪が引っかかってしまい、停止の5点を取られた。
その後、10セクションでも5点となって、ホルヘ・カサレスに7点差、藤波は7位となった。ふつうに走れば上位争い、せめて表彰台争いはできていたと思われるだけに、くやしい開幕戦となった。
2日目、セクションは3つほど、むずかしく設定が変えられた。3セクション、4セクション、6セクションだ。迂回できたようなラインがつぶされて、まっすぐに上らなければいけない設定になっている。
この日は、結果的には藤波は5位で、前日よりもふたつポジションをアップを果たした。しかし内容的には、土曜日とまったく同じようなものだった。変更されたセクションで、その罠にことごとくはまってしまった。土曜日は2ラップ目に上位陣と変わらぬスコアをマークしたが、日曜日は3ラップともに、平均して減点を重ねてしまっている。
この日、何セクションは第4、第6、第8だった。1ラップ目、藤波は第4こそ3点で抜けたものの、第6と第8は5点。2ラップ目は、3つとも5点になった。結果を見る限り、これらのセクションをいくつ走破できるかが、この日の成績に直結している。優勝したボウには5点がなかった。表彰台を獲得したラガとジェイムス・ダビルは、3ラップを通じてこの3セクションでの減点5は3つ。藤波は、2ラップを終えた時点で4つの減点5を喫してしまった。
2ラップを終えたところで、藤波の減点は32点。4位のブストは30点で、3位のダビルは29点だったから、まだ表彰台のチャンスはあったといえる。勝負は3ラップ目にかかっていた。
3ラップ目、1ラップ目と同様に、再び第4セクションを3点で抜けられた。ところがその直後、第4セクションで5点。ここは上位陣ではひとりも減点していないセクションだった。
それでも藤波は、第6をクリーン、さらに第8もクリーン。追い上げの兆しを見せたのだが、次の第9セクションでまた5点になった。ここも上位陣ではほとんど減点していないセクションだった。
これで藤波の試合はほぼ終わった。4位のブストには2点差だったから、あるいは4位にはなれた戦いぶりではあったが、あと少し失敗が少なければ、表彰台は充分可能だったから、土曜日同様にくやしい1日となってしまった。
7位と5位で、ランキングは7位。開幕戦の出だしとしてはこれ以上ないくらいによくないが、しかし藤波はこの結果ほどには深刻ではない。ひざの具合は去年一昨年とは比べ物にならないくらいにいいし、テクニック的にも負けている意識はない。メンタルのコントロールに大問題あり、というところだが、フィジカルの故障やテクニックよりも、メンタルの方が解決しやすいと思うからだ。
今回、藤波は途中経過を逐一報告してもらいながら走った。これまでにはない戦い方だ。しかしそれが結果につながらなかった。次回からは、また途中経過を知らないままに、試合を戦っていく作戦に切り替えるつもりの藤波だった。
「結果はひどいものですが、簡単なところでの5点が多く、解決は可能だと思っています。体調もいいし、ひざの具合もいいです。これなら今年はがんばれると思って、むしろモチベーションが高すぎたのもいけなかったかもしれません。点数を聞きながら走ったのも、いける自信があったからですが、どうもだめのようです。練習では負けていないのを確認しているので、自分の走りに集中して、戦っていきたいと思います」
土曜日 | ||||
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1位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 20 | 29 |
2位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 21 | 29 |
3位 | アダム・ラガ | スペイン・TRS | 23 | 30 |
4位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 26 | 29 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ヴェルティゴ | 29 | 28 |
6位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ベータ | 30 | 27 |
7位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 37 | 27 |
日曜日 | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 10 | 30 |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 24 | 28 |
3位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ヴェルティゴ | 39 | 21 |
4位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 45 | 23 |
5位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 47 | 22 |
6位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ヴェルティゴ | 49 | 22 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 37 | |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・TRS | 32 | |
3位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 29 | |
4位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 26 | |
5位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ヴェルティゴ | 22 | |
6位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ヴェルティゴ | 21 | |
7位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 20 |