第2戦から約1ヶ月のインターバルを置いて、Xトライアルはオーストリアのウイナー・ノイシュタットへやってきた。オーストリアでのXトライアルは、藤波は初めて走る。素材は木や岩。Xトライアルでよく見るのは、フランスとスペインのオーガナイザーが持っているセクション素材だが、今回はそれとは異なり、新鮮な印象だ。スペインのセクション素材はスペイン人ライダーには走り慣れたものなので、オーストリアのこのセクションなら、ハンディはいつもよりは少ないのではないかと、藤波はセクションに期待を持った。会場も気合いの入りようが伝わってきて、この地のオーガナイザーはよくやっているな、という印象だった。
藤波は、全開のバルセロナ大会の後、インドアトライアルの練習はやめて、すでにアウトドアの練習をメインに行なっている。Xトライアルで好結果を出すのはもちろん大事なことではあるが、藤波にとっての本分はアウトドアの世界選手権だ。開幕まで1ヶ月少々となって、日常のトレーニングも次の段階に入っている。それでもみんながぶっつけ本番に近いこのセクションなら、チャンスもあると藤波は考えた。
いつものようにフェレールとトライ順を決めるスピード競走をし、フェレールに勝って後攻の権利を得て、6セクションでのクォリファイに挑んだ。
第1セクションは、先に走ったカールソンとカドレック、フェレールがともに1点。藤波は、バランスを崩して1回足をつき、さらに当たったか当たらないか、本当に美妙なアンダーガードの接地をとられて合計2点の減点となった。今年、タイヤ以外の設置に対する減点はほんとうにシビアだ。オブザーバーはフランス人が担当していて、今年は全戦このひとがやっている。なので大会によって採点基準がちがったり、ライダーによって甘かったり辛かったりはほぼないのだが、しかし厳しい。トライ中は、アンダーガードしか見てないんじゃないかと思えるほどの感じなのだ。
ということで、不本意ながら追い上げを余儀なくされた藤波だが、第2セクションを2点で抜け、ここで5点となった前走者3人に2点差をつけた。この3人の点数を気にしていてもしかたがないので、彼らのことは頭から消して、自分の走りに集中することで、気分も乗ってきた。
第3セクションは3人が5点となったのに対し、藤波はクリーン+タイムオーバー2点。しかしタイムオーバー2点はもったいなかった。ここでのタイムオーバーは31秒ほどで、あと1秒ちょっと早く走れば減点を1点減らせたところだった。実はお客さんの歓声がすごくて、マインダーがタイムを伝えてくれているのが、さっぱり聞こえなかったのだ。
最終第6セクションでも減点1点、タイムオーバー1点の計2点で抜けた。ここはまっすぐ入るか、刻んでウーポンの状態にして1点を覚悟するか、どちらかの選択があった。藤波は確実に刻んで、1点をもらって、6セクションのクォリファイを終了したのだった。クォリファイの合計は8点だった。
フェレールには15点、カールソンには9点差をつけた藤波だが、問題は彼らとの点差ではなく、上位4名に入れるかどうかだ。6セクション走って8点は、可能性がありそうなスコアだが、結果は残る4人が走ってみないとわからない。それでも、今回の藤波は自己採点として悪くない走りができたので、これでファイナルに進出できればうれしいし、もしだめでも、やるだけのことはやったという満足感を残せると思っていた。
さて藤波がファイナルに進出できるかどうかは、現状ではファハルドの結果いかんにかかっている。今年のXトライアルは、ボウ、ラガ、カベスタニーとファハルドの4人以外にファイナルを走っていないのだが、ファハルドは他の3人に少し離されがちだ。そして前回、藤波が1点差まで迫ったのもファハルドだった。
そのファハルドは、第5セクションまでは5点と、藤波と僅差でファイナル進出争いをしそうなスコアになっていた。そして最終第6セクション。1点減点をしたファハルドは、勝負に出たようだ。ファハルドが狙ったラインにはカードがあって、本来なら狙えないはず。しかしすでに藤波は走り終えているので、僅差で競っているのをファハルドは計算できる。ラインを外して5点を取られるのも、細かい減点を重ねて5点となってしまうのも結果は同じと考えたのではないだろうか。カードぎりぎり、あるいはカードの外側のラインを走って、ファハルドは最低限の減点で最終セクションを走り終えた。
藤波としては、ファイナル進出についてはやるべきことをやったと思っているので、ファハルドとの1点差は悔しいながらも納得のいくものだったはずだが、このファハルドの勝負を見てしまったので、心中、少し複雑なクォリファイ敗退となった。
ファイナル進出が当面の目標だったXトライアルのシーズンも、次はいよいよ最終戦だ。
「あと1点か2点減点を減らすのはそんなにたいへんではなかったと思うので、1点差でファイナルに進出できなかったのは悔しいですが、クォリファイを8点でまとめられたというのは収穫でした。これで落ちたら、それはそれでしかたがないです。でもファハルドの最終セクションのトライを、オブザーバーが見てなかったようだったのはちょっと複雑です。あれを見てなければ、今日は納得の5位だったのですが。実力的には、ファイナル進出は可能だと信じているので、あとひとつ、最終戦がんばります」
Final(2ラップ目) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 10 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 17 |
3位 | アダム・ラガ | TRS | 17 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 23 |
Qualification(1ラップ目) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 2 |
2位 | アダム・ラガ | TRS | 2 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 3 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 7 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 8 |
6位 | エディ・カールソン | モンテッサ | 17 |
7位 | フランツ・カドレック | ガスガス | 21 |
8位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 22 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 55 |
2位 | アダム・ラガ | TRS | 47 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 39 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 27 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 18 |
6位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 9 |
7位 | エディ・カールソン | モンテッサ | 7 |
8位 | ジェイムス・ダビル | ヴェルティゴ | 2 |
8位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 1 |