バルセロナは、トライアルの本拠地、カタロニアの州都。カタロニアをホームとするメーカー、ライダーは数多い。モンテッサ、TRS、シェルコ、ヴェルティゴ、ガスガス。トニー・ボウ、アダム・ラガ、アルベルト・カベスタニー、ジェロニ・ファハルドら、スペイン勢のほとんどはカタロニアの出身となる。それだけに、ここでのインドア大会は、彼らにとって特別な1戦となっている。
その一方でバルセロナは、世界最大のインドアトライアルスタジアムだ。あまりに大きく、トライアルのセクションを設営すると、ちょっと迫力に欠けてしまうきらいもある。それでここ数年は、Xトライアルとスーパーエンデューロが併催で開催されていた。ひとつのイベントでトライアルとエンデューロの両方が楽しめるというお得なイベントになっていたが、反面、入場料はちょっと高くなって、どちらかひとつだけのファンにとっては痛しかゆしの面もある。出場ライダーからすると、タイムスケジュールの中に双方の競技が合体するのだから、待ち時間が多くなる。そしてエンデューロで巻き上げた土ぼこりがセクションの表面にのって、たいへんに滑る。今回、原点に戻ってトライアルだけの大会となったのは、歓迎すべ?!
??ことだった。お客さんによってもよい選択なのか、お客さんの数も例年より多かった。
クォリファイは6セクション、ファイナルはこの6セクションの逆コースと、加えてもう1セクションが用意されていた。クォリファイ最後のセクションは巨大な造作の遺跡を模したもので、そのスケールの大きさは格別。そのセクションの後ろにはお客さんが入れないので、会場スペースはいつもより1/4ほど狭くなっていた。それがまた、会場を濃縮して、観客の声援を反響させる。藤波の若きチームメイト、ハイメ・ブストなどは、この声援に飲まれてしまったと、本領発揮をするに至らなかった。藤波も、数セクションを走るまでは、緊張で走りが少しかたかったのを覚えている。なにせ、アクセルを開けてもどれだけ開いているのかがわからないくらいの大歓声だったのだ。
バルセロナのセクションは、いつもひたすら高いという印象がある。会場があまりにも広いために、中途半端な高さでは観客席からの迫力が足りないという意味もあるのかもしれない。しかし今回は、前回同様、フランス人のエストリポ氏がセクションを設営。テクニカルで、さまざまな失敗をしてしまうリスクのある、変化に富んだものとなっていた。全体の印象も、これまでのバルセロナ大会とはずいぶんちがった。
クォリファイの前におこなわれるスピードレースは、今回は一対一の競走ではなく、ひとりずつタイムアタックをすることで競われた。ただしレースの第一義はトライ順を決めるためのものだから、藤波がたとえ一番時計を出しても、トライ順が最後になるということではなく、アレックス・フェレールとの間でのトライ順を決めるにとどまる。しかしこのレースの結果にはもう一つ意味がある。クォリファイで同点となった場合、順位はレースの結果で決められることになっている。なので、フェレールよりもいいタイムで走ればいいということ以上に、できる限り好タイムをマークする必要があるのだった。
藤波がトライする前には、すでにブストとエディ・カールソンがトライを終えている。彼らはそれぞれ22点と20点。まずはこのふたりとフェレールに勝って、5位以上のポジションを確保するのが最低限の仕事になる。もちろんそれだけでは目標として低い。上位4位に残ってファイナルを走ること、そして表彰台を獲得することこそ、藤波の目標だ。
第1セクションは岩をポンポンと越えていく設定。藤波は飛び降りで足をついてしまい、1点を失った。フェレールはクリーンだった。続く第2セクションは丸い鉄板のセクション。インに2メートルほどのスチーム製の筒があった。藤波より前を走った3人は、いずれも5点。しかし藤波には自信があった。絶対に行けるとトライしたのたが、スピードがのりすぎて真上に上がってしまって失敗した。5点。この失敗は大きかった。この時点では、藤波はフェレールにもブストにもおくれをとっている。
第3セクションはモンテッサのロゴが入ったセクション。ここは制しておきたいところだったが、残念な結果に終わった。インのポイントでちょっとてこずった。足つきを2点、さらにアンダーガードかがかかって1点。入口で3点を失った。インドアのルールでは、減点が4点となったときに失敗とされる。つまりあとは1点の減点も許されない。その減点には、タイムオーバーの減点も含まれる。ところが藤波は、インでてこずっている間に、ざっと40秒ほどを費やしてしまっていた。残りはわずか20秒ほど。減点をしないよう、時間に遅れないよう、必死で走った藤波だったが、時計は無情だった。ゴールした藤波に占められた時計は、1分1秒となっていた。あと1秒早く走り抜けていれば3点だったのだが、これで5点。
第4セクションは木と石のセクションだった。ここでは、アンダーガードが引っかかってしまった1点。いま、インドアトライアルではアンダーガードをかけてカメにして走破するというテクニックは、その時点で1点の減点となる。これで、フェレールには2点差でおくれをとっていることになってしまった。フェレールに勝てなければ、ファイナル進出はおろか、前回の5位というポジションもあやうい。
ファイナルへの進出が何点ほどになるのか、それは最終ライダーが走り終えなければわからないのだが、藤波は5点ひとつ、あと数点で、10点未満と読んでいた。第4セクションまでを走り終えて、藤波の減点は12点。藤波の読みが正しければ、この時点でファイナル進出の望みはほぼないのではと考えていた。あとは、フェレールにしっかり勝って、前回同様の5位を確保するしかない。
第5セクションは木でできた真四角の箱。クリーンは狙えたが、失敗すると取り返しがつかないので、ガードをかけにいって1点。ここでフェレールが5点となって、5位争いは少し楽になった。そして最終セクション。最終は、1.6トンのパイプで組まれた城壁セクションだ。高さがあって、リスクも大きい。ただしその分、難易度は低くなっていた。ただし、長い。テクニック的には問題ないが、1分以内に走りきれるかどうか、そこが問題だった。事実、藤波の前を走った3人は、いずれも1分では走りきれず、1点のタイムオーバー減点を喫している。
最後は階段のようなステップを降りてくる設定だったが、一気に降りられず、一段一段、体制を整えて降りるような設定になっている。マシンを正確に運びながら、マインダーには残り時間を叫んでもらい、とにかく最速を維持して走りきった。タイムは59秒。ぎりぎりで、クリーンができた。これで藤波の減点は13点。前半4人の中では最上位となり、残る4人のスペイン勢のトライ結果を待つことになった。
とはいえ、百戦錬磨のスペイン勢のこと、藤波が5点となった第2も第3も走破はするはず。誰かが13点以上の失点をするかもしれないというのは、ありえなくはないものの、いたって非現実的な予測だった。
ところがこれが、終わってみるとファハルドが12点と、藤波にわずか1点差で4位となっていた。あと1点で同点。同点の場合は、最初にやったタイムアタックの速いほうが上位につける決まりで、藤波はファハルドよりも速いタイムをマークしていた。つまりあと1点で、藤波はファイナルに進出できたということになる。
非常に残念だが、これも結果。残る2戦、クォリファイを通過して、ファイナルを走るべく、藤波は燃えている。
「5点から10点くらいでないと、ファイナルへの進出は無理だなと思っていたので、クォリファイを走り終えたところで、今回も5位という結果には甘んじていました。第3のモンテッサセクションで、1秒足らずに5点となったのはとてもくやしかった。第2のインで失敗したのも悔しかった。もし行けていれば、あそこは1点でなら抜けられていたと思うので、そのどちらかで失敗をしていなければ、ファイナル進出は可能だったということになります。これまで、インドアの練習を集中的にやってきましたが、バルセロナが終わったので、これからはアウトドアの練習に切り替えます。ただ、インドアの練習をひとつもやらずに走ってきたシーズンもあるので、あとの2戦、少しでもよい結果を出すべく、がんばります」
Final(2ラップ目) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 10 |
2位 | アダム・ラガ | TRS | 14 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 19 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 27 |
Qualification(1ラップ目) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 0 |
2位 | アダム・ラガ | TRS | 7 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 8 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 12 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 13 |
6位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 16 |
7位 | エディ・カールソン | モンテッサ | 20 |
8位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 22 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 35 |
2位 | アダム・ラガ | TRS | 35 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 24 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 18 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 12 |
6位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 8 |
7位 | エディ・カールソン | モンテッサ | 3 |
8位 | ジェイムス・ダビル | ヴェルティゴ | 2 |
8位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 1 |