2年前、シェフィールドに出場した藤波貴久は、崖っぷちに立たされたかの状態だった。靭帯断裂を手術しないまま乗り切る覚悟をし、そして迎えた緒戦がシェフィールドだった。
そして1年前。シェフィールドに藤波の姿はなかった。1年を靭帯が切れたまま戦った藤波は、そのシーズンオフに手術をして、回復のためにXトライアルは欠場せざるをえなかった。
そして今年。藤波は2年ぶりにXトライアルの現場に帰ってきた。手術から約10ヶ月、手術直後はさすがに苦しい戦いをすることが多かった藤波だが、昨年夏ごろからはコンディションはずいぶんよくなった。負傷前と同じとは言えないまでも、苦しんだ昨シーズンとは比較にならない。Xトライアルへの参戦は、来るアウトドアシーズンに向けて、自身のコンディションの確認という意味合いもある。もちろん、勝負を争うことそのものも重要だし、また楽しみなところでもある。
シェフィールドはイギリスの伝統的インドアトライアル。今回のセクションは地元のドギー・ランプキンが担当したが、最終的な調整はフランス人のベルナール・エストリポさんがおこなっている。長くフランスのインドアトライアルをしきっている人なのだが、今年はこの人がXトライアル全戦のセクションを担当するという。特にスペインでの大会など、これまでとはちがうセクション設定となることだろう。
もうひとつ、今年から変わったことがある。タイヤ以外の接地は厳格に1点減点となったことだ。エストリポ主催のインドアトライアルではずいぶん前からこういうルールだったのが、2014年からXトライアルにも採用されていた。ただしこれまでは流れている中でアンダーガードが接地するなどは減点をとられていなかった。これからは、動いていても接地すれば1点減点となるわけだ。アンダーガードだけでなく、ともかくタイヤ以外の部分が接地すればその瞬間に1点減点する、というルールだ。その代わりというか、セクションの設定はいくぶんやさしめとなった。インドアでは、もともと足つき4回で5点というルールがある。なので、アンダーガードを引っかけなければいけないステアケースばかりだと、ちゃんと走りきっても5点!
ばかりになってしまう恐れが出てくるわけだ。
さて、そんな新時代のXトライアル。藤波には期するものがあった。11月以降、インドアには精力的に出場してきた。TRSで調子を上げているアダム・ラガに勝ったこともある。今年はXトライアルでも、さらに上を狙っていきたいと意欲満々だった。
今回の出場ライダーは8名。7名が全戦に参加するノミネートライダーで、イギリス人のジェームス・ダビルが主催者推薦のワイルドカードライダーだ。ノミネートライダーの7名は、トニー・ボウ、ラガ、アルベルト・カベスタニー、ジェロニ・ファハルドの4名のスペイン人、日本人の藤波、フランス人のアレックス・フェレール、スウェーデン人のエディ・カールソン。これでもFIMは、国籍とメーカーが偏らないように苦労していて、その結果がこうなっている。
クォリファイは6セクションで競われる。8名が2名ずつ4組に分けられ、1組ずつ6つのセクションを順番にトライしていく。最初のペアはダビルとカールソン。このふたりのどちらが先にトライをするのかは、スピードレースの勝負で決まっている。スピードレースではダビルが勝ち、カールソンからトライをする。カールソンは6セクションをオール5点で30点、ダビルは21点でクォリファイを走りきった。
藤波はフェレールと対戦する。スピードレースでは藤波が勝ち、フェレールがの後にトライする。ファイナルに進出するには上位4名に残らなければいけないから、ダビルとカールソンの減点を上回るのはもちろん、フェレールにも勝ち、さらにその後に走る4名のスペイン人の誰かよりもいいスコアをマークする必要がある。
第1セクションはふたりともクリーン。ここで減点したのはカールソンだけだった。第2セクション、藤波はここを走破できた初めてのライダーとなった。2点とタイムオーバーの1点(持ち時間の1分半を過ぎると、30秒ごとに1点のペナルティがつく)。次の第3セクションも、藤波が初めて走破。した。今度は1点。第4セクションは2点。ここはダビルがクリーン+タイム減点1点で抜けているので、藤波もクリーンをしたかったところだが、タイヤ以外の接地が減点になるルールは、なかなかむずかしいものがあった。
第5セクションは2点とタイムオーバー1点で、ここも藤波が初めての走破者となった。ここまでは5点もなく、順調にセクションを走ってきた藤波だが、しかし第6セクションで5点となってしまった。ここでは時間に焦ってしまって5点となってしまった。木の切り株から飛び降りる際、あとちょっと時間をかけて位置をなおしたかったところだが、持ち時間少々ゆえに見切って飛び降りたところが、はまってしまって身動きが取れなくなった。もがいて足をついた上にタイムオーバーやアンダーガードを接地させることなどを考えると、5点にならずに抜ける道はなかった。残念。
結果、5点ひとつの藤波は6セクションを走って14点。フェレールの18点に対して4点リードで、この時点では暫定トップ。とはいえこのあと強豪が出てくるわけで、暫定トップに意味はない。藤波とすれば、5点なしで6つのセクションを走りきって、トータルの減点を10点以下に抑えられれば、ファイナル進出の目もあると考えていた。結果を見ると、トップ4はそろって5点以下で6セクションを走りきっているから、10点以下ではファイナル進出は無理だったということになるのだが、藤波が9点とか10点でクォリファイを終えていれば、それでトップ4にプレッシャーを与えられる可能性はあったと、藤波は思う。しかしそれも、第6セクションでの5点で帳消しになってしまった。
高さが全体に抑えられていたこともあって、ボウがわずかなミスで5点となってラガの優勝となったこの大会、藤波はスペイン勢の4人に続く5位という結果を得た。2年ぶりのXトライアルで、最低限のポジションを取り戻したとポジティブに考えることもできるし、ファイナルに進めなかったとネガティブに考えることもできる。しかし今はまず、この場に戻ってこれたこと満足感を味わっている藤波だった。
「最終セクションの5点がなければ、という思いはありますが、まずはここに戻ってこれたことがうれしいです。でもやっぱりファイナルを走って、さらに表彰台に乗りたいという思いがありますから、まだもう少し上に行きたい。次はバルセロナですが、バルセロナはスペイン勢の彼らにとって特別の思いがあります。だから緊張もするし、気合いが入りすぎて空回りをすることもあるわけで、その点ぼくは気が楽ですから、チャンスもあるかなと思っています」
Final(2ラップ目) | |||
---|---|---|---|
1位 | アダム・ラガ | TRS | 3 |
2位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 7 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 13 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 16 |
Qualification(1ラップ目) | |||
1位 | アダム・ラガ | TRS | 1 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 5 |
3位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 5 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 5 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 14 |
6位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 18 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ヴェルティゴ | 21 |
8位 | エディ・カールソン | モンテッサ | 30 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | アダム・ラガ | TRS | 20 |
2位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 15 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 12 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 9 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 6 |
6位 | アレックス・フェレール | シェルコ | 4 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ヴェルティゴ | 2 |
8位 | エディ・カールソン | モンテッサ | 1 |