ベルギー、イギリス、そして今回のフランス。毎週続く連戦の世界選手権。なかなかハードな7月の3大会連続の4連戦だった。連戦の最後はフランスGP。ラ・モンジというスキーリゾート地。パドックが標高1800メートルで、第1セクションは2200メートルほど。ほとんどすべてのセクションが標高2000メートル以上にあるという厳しい条件の会場だ。
ちなみにここは、ちょうど同時期に開催されていたツール・ド・フランスの名コースでもある。ピレネー山脈を舞台とする峠越えが、やはり難コースとして世界のサイクリストにも名だたるところ。金曜日に現地に入った藤波は見ていないが、木曜日に現地へ入ったメカニックたちは、大会の準備のかたわら、ツール・ド・フランスの熱戦を眺めることができたという。
今回のセクションは、乾いた岩がメインとなる設定だったが、もしもこれをストップルールで走れるならば、減点はきわめて少なくなるだろうというのが、下見で全セクションを見たライダーの共通見解だった。
ただし藤波には懸念があった。イギリスの土曜日に痛めた足は、ずいぶんよくはなっているが、まだ完全(一度負傷したものは療養しても手術しても完全には治らないが、現状ではその時点の状態を完全と思うしかない)ではない。そんな状態では、たぶん無理だろうと思われたのが、第6セクションだった。踏ん張って岩に飛びつき、さらに押さえつけていかなければいけない。膝への負担は極限だ。
なんとか別のラインを見つけてここを攻略できないか頭をひねってみたが、だめだった。真っ正面から岩にぶちあたっていくしか、方法がない。もしかしたら、ここは3回とも5点になってしまうかもしれないと、藤波は覚悟を決めた。
しかしそれ以外は、高低差はあるものの乾いた岩は意外にグリップがよく、あんがいいけそうな印象だ。止まっていいなら、すべてのセクションをクリーンするのもむずかしくない。実際にはルールゆえの減点を受けることになるだろうから、減点はそこそこになるなるだろう。それもおおむね共通した見解だった。
しかしよもや、藤波はトップの二人が3ラップをたった2点でまとめてくるとは思わなかった。いまのトップふたりは、たいしたものだ。このふたりについては、今は称賛しかない。
採点は、甘めだった。マシンを一瞬止めて、しっかりためをつくって発進するアクションには減点不問だった。トップになればなるほど甘い採点もあったようだが、トライアルではままあることだ。ただノンストップルールになって、その傾向は顕著になっている。
さて試合が始まって、序盤はクリーンが続いた。このところ、試合序盤に調子があがらないのが課題となっていたから、これは収穫だった。第6セクションは、下見の時点での想像通り5点。これは想定内だ。しかしその後、第7、第8と1点が続き、やってきたのは第9セクションだった。
ここは、まず簡単なところだった。この頃から、時間がむずかしくなってきていた。持ち時間が少なくなっているうえに、125やワールドカップのライダーの2ラップ目3ラップ目が入ってきて、時間が読めない。それで下見はそこそこにトライに入り、セクション内ではマインダーに細かい指示を送ってもらうという作戦に出た。この第9セクションも、そのつもりでトライに入った。
最後に4段の岩がある。このセクションでは、これがむずかしい。その手前は芝生のような草が生えている斜面でここから加速して岩に向かう。ただし世界のトップライダーには、ここはクリーンして当然のポイントでもあった。
しかし藤波が、岩に向かってアクセルを開けた瞬間、リヤタイヤがつるっと滑って、マシンが動きを止めてしまった。そこからでは、もうどうしようもなかった。5点だ。
これはやってしまった、と藤波は思った。点数を数えている者なら、誰でもそう思っただろう。トライ中、藤波はマインダーから届けられるセクションの状況を分析しながら走っていた。マインダーの声をしっかり聞くために、藤波はゆっくりゆっくり走ることになった。おそらくはそれが失敗につながった。もう少し速いスピードで走り抜けてしまえば、そんなことにはならなかったろう。それもまた、トライアルのむずかしさだ。
今日の表彰台争いは、1ラップ10点以下になるだろうと予想されていて、藤波のすぐ前を走るカベスタニーを見ていても、それはおおむね正しいように思えた。藤波の場合、第6で5点となるのはなかば既定路線なので、このほかに数点でおさえなければいけない。ほかをすべてクリーンすればかなりいい結果になるはずだが、それはなかなかむずかしい。少なくとも、第6以外の5点はあってはならない。
2ラップ目。追い上げが必須の状況で、今度は第1セクションからぽんぽんと足をついてしまった。第6ではふたたび5点となったのだが、そこまでに3点を失っている。5点は第6一つだけだったが、2ラップ目の小計は11点。追い上げというには、少し勢いが足りない。
そして3ラップ目。雲行きが怪しくなってきた。この状況で藤波ができるのは、思い切った作戦だ。それで雨が降るのを前提に、猛ダッシュをすることにした。雨が降って、ライバルが苦戦をすることになったら、早回りの意味が出る。雨が降らなかったら早回りの意味はないし、もしかすると急いでミスが出てしまうかもしれないが、その場合はそれでしかたない。順位が上がるとしたら、それしかないという選択だった。
第4で3点、第6は三度5点。さらに第7で1点。しかしここまで9点と、一桁に押さえている。そして1ラップ目に5点となった第9セクションにやってきた。今度は問題の草地は簡単にクリアし、4段の岩も走破した。最後はフロントをつりながら岩から降りるだけだった。
ところが、ここにわながあった。フロントをつるポイントで、またもリヤタイヤが滑った。これではフロントが上がらない。そのまま前転して再び第9セクションで5点となってしまった。5点となったうえに、リヤフェンダーも割れ、レバーは折れ、指も少し痛めた。修復に、少し時間が必要だ。
残すところはあと3セクション。この様子だと、幸か不幸か雨は降りそうにない。ダッシュでセクションを回る作戦は先行して、ここからはしっかりマシンを修復してゴールすることにした。藤波の競技時間は5時間3分3秒。それでも、上位陣の中では早くゴールしたほうに入る。
第6セクションでの3回の5点は、現状ではあきらめたほうがいいのかもしれない。しかし第9セクションでの2回の5点はいただけない。もしも、3ラップ目の第9セクションでの5点がクリーンなら、藤波の成績は6位でなく5位だった。しかしさらに1ラップ目の5点が一つ減っても、結果はやはり5位。
ランキング争いでは、カベスタニーに点差を離され、さらに今回表彰台に上がったファハルドにも逆転を許して5位に位置することになった。しかし藤波はあきらめてはいない。去年は、最終戦を前に10点差をつけていながら、ランキング3位を逃すことになった。今年、逆の立場で同じことが起きる可能性は残されている。最後まで、藤波貴久は全力だ。
「毎回、成績が悪い報告ばかりで、ほんとうに情けないです。今回は標高が高くて、なかなかいいセッティングが出ず、それも悩みだったのですが、それが言い訳にできる結果ではありません。立ち上がりのからだの固さは今回はなかったと思うのですが、イージーなところでのミスが最近目立ってきていますから、これはなんとかしないといけないです。これから1ヶ月、みんなはバカンスに出かけるようですが、ぼくはもともとリゾート地のようなところに住んでいるし、今は毎日の筋力トレーニングが欠かせません。しっかりトレーニングして筋力をつけて、膝の状態を少しでもよくして、気持ちよく最終戦に臨んで、できたらランキングもひっくり返して、気持ちよくひざの治療に入りたいと思っています」
日曜日 | |||
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1位 | アダム・ラガ | (スペイン・ガスガス) | 2 |
2位 | トニー・ボウ | (スペイン・Montesa) | 2 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | (スペイン・ベータ) | 13 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | (スペイン・シェルコ) | 22 |
5位 | ホルヘ・カサレス | (スペイン・ガスガス) | 34 |
6位 | 藤波貴久 | (日本・Montesa) | 39 |
7位 | アレキサンドレ・フェレール | シェルコ | 42 |
8位 | ポル・タレス | シェルコ | 63 |
世界選手権ランキング(世界選手権第11戦終了現在) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・Honda | 185 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 178 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 133 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 126 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・Honda | 123 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 97 |
7位 | ホルヘ・カサレス | ガスガス | 89 |
8位 | アレッシャンドレ・フェレール | シェルコ | 76 |