4位となって、少し上向き調子となったベルギー大会の1週間後、世界選手権はイギリスに渡った。ここは昨年と同じ会場で、4回目の世界選手権開催となる。この会場ではないが、イギリス大会では優勝したこともあり、藤波にとっては比較的相性がいい。
土曜日のイギリスは、降ったり止んだり、1日中イギリスらしい雨模様だった。かといって、カッパを着ると暑い。気温はそんなでもないものの、蒸し暑い。カッパを着ても着なくても、どっちにしろびしゃびしゃになってしまう、そんなコンディションだった。藤波も、1ラップ目だけカッパを着て、2ラップ目以降は脱いでしまった。
セクションは、だいたい例年通りの、採石場の岩をテーマとした斜面に設営されていた。どちらかというとインドアっぽいセクションで、そういう設定は藤波の得意とするところではないのだが、藤波はイギリスに悪い印象がないので、苦手意識も持たずに試合に臨むことができている。
ベルギーで4位となり、膝の調子も悪くない。ここらでさらに上り調子としておきたいところだ。
しかし1ラップ目、あまりいい走りができない。持ち時間が少なめで、それで少し急いで走ったということもある。1ラップ目の最終セクションは、ざっと見ると3点で抜けるのがやっとという感じで、タイムオーバー覚悟で走っても結果が変わらないような感じだったので、エスケープして5点となっている。
だいたい、藤波の1ラップ目はからだがかたい。なんとかしたいところだが、ここまで世界選手権を19年間走ってきて、克服することも変わることもできなかったところだ。それを含めて、藤波貴久のライディング、というところかもしれない。成績がいいときには、からだがかたいなりに、点数をまとめることができるものだ。今回は、そこのところがいまひとつだった。
1ラップ目は5位。ただし4位のファハルドとは5点差、3位のラガとは6点差だから、まだ充分に挽回のチャンスはあった。1位のボウは、1ラップ目をたったの1点で帰ってきたということで、これは勝負にならない。チームメイトとしてもライバルとしても、この1点には脱帽するしかない。
2ラップ目、1ラップ目に5点だった第5セクションをクリーン。でも他のところで減点が多かった。結果、2ラップ目の減点は1ラップ目より2点多い30点。なかなか追い上げができないでいる。それでも4位ファハルドとは3点差になっている。
3ラップ目、ようやく藤波らしいライディングができた。2ラップ目から比べると、減点数を半分近くとした16点。走り終えた藤波には、まずまずの満足感があった。しかし結果は結果。ファハルドに1点差まで詰め寄ったものの5位となった結果には、悔しさが残ることになった。
しかし悔しさ以上の問題は、最終ラップ最終セクションでのクラッシュだ。最終セクションでは、藤波はファハルドとの点差を聞いていた。ファハルドが最終セクションを5点となり、藤波が最終セクションを抜けられれば、逆転4位のチャンスがあった。だからとにかく抜けろ、というのが最終セクションでの藤波への指示だった。
なんとか3点で抜けようとした藤波は、途中、つるつるの切り株からなだれこむように降りていった。そのとき、真横に飛ぶような体勢となって、なんと痛めている右足から着地してしまった。右足に、全体重と、おまけにマシンの重さもそのままのしかかった。そして、このセクションでの減点も5点となった。
逆転4位の座と、このところ具合がよかった膝の調子が、いっしょに消えていった瞬間だった。
膝の痛みは、ゴールしてもなお痛い。そのうち、だんだん血がたまってきた感じになってきた。このまま腫れが引かずに日曜日を迎えるとしたら、日曜日の戦いはかなり厳しいことになるにちがいない。土曜日の夜は、とにかく冷やして、膝の回復を祈るしかなかった。
明けて日曜日、幸いにも、膝の腫れはそこまでひどくはなっていなかった。ただしお世辞にもいい状態とは言いがたい。これが練習の日だったら、膝を温存して静養するくらいの状態だ。レースだから、藤波は走る。膝は、90度ちょっとしか曲がらない。本当に具合が悪いときには、90度も曲がらないときがある。
案の定、ウォームアップを走っていても感触はかんばしくない。セクションは第4と第8が変更を受けている。難度を高められたというより、土曜日に見つけた抜け道ラインをふさがれたという感じだ。それ以外は変わらずだから、雨も上がりそうだし、土曜日より点数は少なくなることが予想された。藤波は、痛み止めを飲んでスタートをする。
1ラップ目、第4セクション。最後に大きなジャンプをしてすぐ登るという設定だった。着地と同時に登りにかかるので、空中で登りの姿勢となっている必要がある。つまり膝を曲げて着地する。実はこういう姿勢が、今の藤波には一番苦しい。着地すると同時に、体勢が大きく崩れてしまった。そのまま登りにかかり、失敗。5点だ。難度的には問題がないポイントだったから、この5点は手痛いところだ。
その次の第5セクションは、藤波がちょっと苦手なパターンだった。3つ4つの岩を次々に越える設定で、全部の岩に合わせていかなければいけない。ここはクリーン。ここをいけたのは、藤波には大きな収穫だった。
第7セクションはクリーンセクションだった。しかしここで、藤波は痛恨の5点となる。オーバーハングの岩に対して、マシンがほんの少し立ちすぎた。それでフロントタイヤがあたるべきところにあたらず、アンダーガードがぶつかっての5点だった。完全なライディングミス。しかも初歩的ミスだったと、藤波は言う。
第4と第7、このふたつはクリーンセクションだったから、ここで5点となったのは痛かった。第4は膝の痛みをかかえている中、避けられない5点だったかもしれないが、第7は残念というしかない。こちらは、膝の痛みとは関係がない5点だった。
2ラップ目、3ラップ目は、12点ずつでまずまずのスコアを残すことができた。これならファハルドに対して遜色ないスコアだ。1ラップに倍の24点とってしまったのが決定的だった。
終わってみれば、この日も5位。しかも4位のダビルとは、たったの1点差だった。土曜日も日曜日も、表彰台に食い込むのはむずかしかったかもしれないが、4位は可能性のあるところだった。
イギリスから帰って、まずは膝の治療。根本的になおるものではないものの、オートバイでのトレーニングはあきらめて、翌週のフランス大会までに、少しでも症状が改善するよう、加療中だ。
ベルギー大会では、この調子だったらシーズン後に手術をしないでも、と考えてもいたのだが、手術をしなければ不意に衝撃を受けたときにこうなりかねない。手術を受けた方が、安心にはちがいないが、最終的な判断は、もう少し先になりそうだ。
「このところ、膝の調子がよかったので、土曜日の最終セクションで膝を痛めてしまったのは残念でした。大会を終えた月曜日には、ふつうにしてても痛い状態なので、オートバイでのトレーニングはあきらめて、ジムに通います。筋肉で膝を守っているので、ジム通いはやめられません。ジム通いを少しさぼると、いきなり痛くなってしまいます。でも膝の状態よりも、日本GP以降、表彰台にまったく乗れていないので、それがなんともくやしいです。ランキング3位争いの上でも表彰台に乗っていないといけないのですが、ランキング争いよりまず、表彰台に乗りたいという思いでいっぱいです。次のフランスで、ぜひ表彰台に乗りたいと思います。」
土曜日 | |||
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1位 | トニー・ボウ | (スペイン・Montesa) | 18 |
2位 | アダム・ラガ | (スペイン・ガスガス) | 49 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | (スペイン・シェルコ) | 57 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | (スペイン・ベータ) | 73 |
5位 | 藤波貴久 | (日本・Montesa) | 74 |
6位 | ジェイムス・ダビル | (イギリス・ベータ) | 80 |
7位 | アレキサンドレ・フェレール | シェルコ | 94 |
8位 | マイケル・ブラウン | (イギリス・ガスガス) | 101 |
日曜日 | |||
1位 | トニー・ボウ | (スペイン・Montesa) | 20 |
2位 | アダム・ラガ | (スペイン・ガスガス) | 35 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | (スペイン・ベータ) | 36 |
4位 | ジェイムス・ダビル | (イギリス・ベータ) | 45 |
5位 | 藤波貴久 | (日本・Montesa) | 48 |
6位 | ホルヘ・カサレス | (スペイン・ガスガス) | 52 |
7位 | アルベルト・カベスタニー | (スペイン・シェルコ) | 53 |
8位 | マテオ・グラタローラ | (イタリア・ガスガス) | 64 |
世界選手権ランキング(世界選手権第10戦終了現在) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・Honda | 168 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 158 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 120 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・Honda | 113 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 111 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 91 |
7位 | ホルヘ・カサレス | ガスガス | 78 |
8位 | アレッシャンドレ・フェレール | シェルコ | 67 |