最悪の戦いを送った2連戦の後、約1ヶ月のインターバルを置いて、世界選手権がベルギーにやってきた。前回イタリア大会でランキング3位の座はカベスタニーに奪われている。藤波とすれば、まずトップライダーと対等に闘えるコンディションまで戻すことが、ベルギーでの第一の課題だった。
ベルギーは湿ったコンディションが特徴の会場が多く、藤波にすれば初めてのこの会場も、まったくそのとおり。下見や練習を通じても泥々でまったくマシンが前に進まない。その上セクションを見れば、これがまた天下一品にむずかしいときている。試合までに修正が加えられるとしても、今回の大会はとても厳しいものとなることが容易に想像できた。
なお今回から、前日の下見の際にセクション内への立ち入りが許されることになった。1時間半の間に下見を終わらせることという時間制限は変わらないから、セクション内に入って考えこむことはできないが、それでも安全面や時間的制約を考えると、ライダーにはだいぶ楽になった。このところライダーの意見が通ることはあまりないから、これは朗報だった。
ただしせっかくセクション内に入ってよいと言われても、今回は中に入るまでもなく無理というセクションがいくつもあった。こんなコンディションで、しかもノンストップルールである。セクションの難易度を統一するのは、むずかしい課題がいっぱいある。
それでも、今回の戦いが滑る戦いになるのは、充分想定内のことだった。だから藤波は、この1ヶ月というもの、滑る練習ばかりこなしてきた。前回、前々回とマシンとのマッチングがどうしても合わなかった点については、思い切って仕様を変えてベルギーにやってきた。
とはいえ、新しい仕様での実戦は今回がはじめて。川や沢など、水が流れている条件下での滑る練習場と、今回のように水が流れているわけでもないのにものすごく滑るというのは条件もちがって、一抹の不安はぬぐいきれない。
セクションは、結局当日になって、3ヶ所ほど簡単に設定し直された。夜中に雨が降ったものの、朝には雨が上がっていて、条件はあまり変わらない。こんなコンディションでは、かえってざぁざぁ雨が降ってくれたほうが、岩の上の泥が洗い流されてグリップがよくなるものなのだが、その雨も降っていない。
前回イタリア大会が6位だった藤波は、スタートも後から6番目。前にはフェレールやタレスといったライダーがトライしていて、トップライダーはみな藤波のうしろにいる。
今回も持ち時間はちょっと変則的で、10セクションでのタイムコントロールとなっていた。ここから11セクションまでは距離が長い。10セクションでタイムチェックをして、残る2セクションは30分で走りきりなさい、というお約束だ。つまり全部で5時間50分ほどの戦いになるのだが、あくまでもタイムチェックは10セクションで行うから、5時間50分を想定してはいけない。
1ラップ目、藤波は自分でもはっきり認識するほど乗れていなかった。5点も多い。結果も、かなり悪いという実感はあった。いつものように、試合経過を教えてくれるチーム員は誰もいない。藤波も望んでいないし、チーム員のほとんどは藤波の後にいるボウについて回っているから、藤波のところに情報が届くことはほとんどなかった。
1ラップ目の藤波は、実はセッティングに悩んでいた。ベルギーの土質は、スペインでの練習場よりはるかに滑りそうだ。それでマッピングも、練習時に使っていたものより、マッドコンディションでマシンを進められる用のものを用意して、それを使ってトライしていた。
しかしどうも、それが裏目だったのか、どうにもうまく走れない。そうこうしているうちに、雨が降りはじめた。雨が降って岩の泥が洗い流されたこともあったが、藤波は2ラップ目以降、セッティングをスペインでの練習で使っていたものに戻している。結果的には、それが正解だった。
1ラップ目とはちがい、乗っていて楽しいフィーリングがよみがえった。成績がどこまで挽回できているのかはわからないが、前を走るフェレールやタレスがそれほどクリーンを連発している感じではない。藤波がトライをすると、初めてのクリーンにみんなが拍手喝采してくれる。雰囲気は悪くなかった。戦況はまったく知らなかったが、トップ争いはともかく、ダンゴ状態の接近戦ではないかというのが、走りながらの藤波の感触だった。
結果、1ラップ目の8位から、4位までポジションを戻してゴール。1ラップ目の8位は驚くべき低迷だったが、しかし挽回のチャンスはあると信じていたし、挽回できる自信もあった。そのとおり、後半できっちり追い上げて試合をまとめられたのは、藤波の大きな自信になった。
まだまだ、フジガスの本領発揮とは言えないものの、シーズン後半に向けて、これからが楽しみになってきた。
「ようやく、マシンを操縦しているという実感のある走りができるようになりました。前回までの結果を考えると、4位はまずまずの結果です。もちろん目標はランキング3位ですから、カベスタニーにこれ以上離されないようにしなければいけません。今回の結果で満足しているわけにはいきませんから、次もがんばります。足の具合は、これまでで一番いい感じで、こんな調子ならシーズンが終わっても手術をしないでもいいんじゃないかとさえ思ったりしています。でも手術の予定は入れてはあります。予約を入れるより、キャンセルするほうが簡単ですから。では、週末のイギリスで、またがんばってきます。」
日曜日 | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソル・Honda | 59 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 65 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 66 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・Honda | 84 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 87 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 88 |
7位 | アレッシャンドレ・フェレール | シェルコ | 91 |
8位 | マテオ・グラタローラ | ガスガス | 99 |
世界選手権ランキング | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・Honda | 128 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 124 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 96 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・Honda | 91 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 83 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 68 |
7位 | ホルヘ・カサレス | ガスガス | 61 |
8位 | アレッシャンドレ・フェレール | シェルコ | 51 |