地中海に浮かぶ、スペインの観光島、マヨルカ島。Xトライアルでは恒例のロケーションでもある。スペイン領だが、今回のセクションはフランス人によって作られたもので、構成されている資材もスペインのインドア選手権で使われているものではなかった。スペインのセクションは当然ながらスペイン人選手が走り慣れているから、藤波にすれば、これはちょっと朗報だった。
用意されたセクションは、いつもとちがって少しやさしめだった。いつものXトライアルでは、セクションは過激化の一途をたどっていて、トニー・ボウしか抜けられない、というようなものも少なくない。ボウしかいけないポイントがあるというのは事実だからしかたないにしろ、試合のおもしろさという点では、それでいいのかという思いもある。今回は、ボウにとっては楽ではなかったかもしれないが、トライアル大会としては悪くなかったのではないか。
ただ、ちょっと簡単すぎたのかもしれないという面もある。クォリファイで、トップ6が全員オーククリーンというのが、その証になった。全員がオールクリーンでは順位のつけようがないが、そういうときのために、Xトライアルでは順位をつける手だてを用意している。木でできた第1セクションを全員が走って、同点決勝をやるのだ。それでも全員が同じスコアだったら、そのときはタイムが速い方が上位となる。すでにこのセクションは全員がクリーンしているわけなので、クリーンはできる。なのでタイム競争になるのは目に見えていた。
しかし、速く走ろうと思うと、クリーンできるものもできない。まずグビアンが転んだ。藤波はそれを確認しながら、攻めて走った。そしたら、落ちてしまった。グビアンと同じく、5点。他の4人はみなクリーンして、タイムによる順位がついた。ボウが10秒2、ラガが15秒、カベスタニーが20秒、ファハルドが22秒だった。もし、藤波が落ちずに走りきっていれば、さすがにボウのスピードにはかなわなかったが、2位にはなれたのではないかという勢いだったが、しかたない。
5点になった藤波とグビアンは、二人で同点決勝を行い、今度は二人ともクリーン。藤波が20秒3、グビアンが22秒2で決着した。どのみち、セミファイナルに進出する6人は決定しているので、そういう意味では気は楽だし、しかしセミファイナルを走る順番に影響するので好順位の方がいい。さらに最後に同点の場合は、この成績で順位が決まるので、やはり上位につけられるものなら、上位につけておくに越したことはない。
さてセミファイナル。ダブルレーンはグビアンとの勝負。これに勝利して、4つあるオブザーブドセクションは、グビアンに続いてトライをした。第1セクションは2段のステアがあった。直接いくとクリーンの可能性もあり、5点となる恐れもある。刻んでいくと、1点や2点はつく心配があったが、5点にはならなそうだ。しかし2段目が、藤波が思ったより手ごわく、高かった。それで3点となってしまった。グビアンはここですでに5点になっている。その後、ファハルドとラガも5点。カベスタニーが1点で通過し、ボウがクリーンした。
今回の藤波は、調子がいい。セミファイナルでの減点は、結局この第1セクションだけだった。ボウとカベスタニーの2点に続く3点。ラガやファハルドとは、第1セクションの時点で勝負はついていたということだ。ラガは6点、グビアンがふたつの5点で12点、ファハルドが3つの5点で16点となり、藤波は今シーズン、ここまでの5戦のすべてでファイナルに進出することになった。しかし今回の藤波は、ファイナル進出だけでは終われないと考えていた。
セクションがやさしめ。ということは、ダブルレーンの勝負は勝敗に大きな影響が出てくる。総当たり戦のダブルレーンでは、ラガにこそ勝ったが、カベスタニーとボウに負けてしまった。これで2点。ボウは全勝、カベスタニーが1勝、ラガは全敗して3点減点となっている。
ファイナルの二つ目、第6セクションにはインに大きなステップがあった。2段になっているが、刻んでいこうにも、2段目が近すぎて刻めない。つまりまっすぐ攻めないと攻略法がない。ここで、藤波は5点となった。ラガは第5で1点をとるも、ここはクリーン。トップ争いの二人は3つのオブザーブドセクションをオールクリーンの勢いだから、藤波の手が届くところではない。藤波の勝負は、ラガとの3位争い、ということになる。第6セクションが終わって、藤波とラガは同点。同点の場合はクォリファイの成績で順位が決まるので、同点なら、藤波は4位となる。
最後の第7セクション。4位でセミファイナルを終えたラガがトライ。ラガは1点をついた。これで、藤波に表彰台の目が出てきた。しかしそのためには、なんとしてもクリーンしなければいけない。緊張もプレッシャーもあったが、藤波は見事ここをクリーンした。これでトータルは藤波の10点に対し、ラガは11点。優勝のボウは2点、カベスタニーは4点だから、ちょっと差がついてしまったが、堂々と今シーズン2度目の表彰台獲得だ。
マヨルカ島3月11日。遠い母国の日本で大震災があった日に勝ち取った、表彰台だった。
「うまいことはまったという感じで表彰台がとれました。でも大震災から1年ということで、思うところはありました。最後のセクション、プレッシャーあったろうとあとでみんなに言われたのですが、そんなにプレッシャーという感じはなくて、緊張感もあって、でもレースは楽しめていたし、いい感じで走っていたと思います。勝ち取った感じがありますね。狙っていたし、それが結果に出たいい試合でした。みんなには日本のことを忘れてほしくなかった。それを表彰台から言いたかったから、今回の表彰台は、特別なものとなりました。ふつうの3位より、うれしいです」
Final Lap(決勝) | |||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 2 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 4 |
3位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 10 |
4位 | アダム・ラガ | ガスガス | 11 |
5位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 12 |
6位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 16 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 0 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 0 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 0 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 0 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・ホンダ | 0 |
6位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 0 |
7位 | マイケル・ブラウン | ガスガス | 11 |
8位 | アルフレッド・ゴメス | モンテッサ | 15 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 100 | |
2位 | アダム・ラガ | 66 | |
3位 | アルベルト・カベスタニー | 63 | |
4位 | 藤波貴久 | 51 | |
5位 | ジェロニ・ファハルド | 27 | |
6位 | ロリス・グビアン | 25 |