新しい年がはじまった。シーズンの始まりは、イギリスのシェフィールドで開催されるインドアトライアル世界選手権開幕戦だ。シェフィールドは伝統的なインドア大会だが、FIMの当初のスケジュールでは、今年は世界選手権には組まれていなかった。しかしインドアのスケジュールが変更につぐ変更を受けるのはいつものこと。というわけで、2010年のトライアルシーズンは1月9日が開幕となった。
今年のインドア世界選手権は、大きな動きがあった。試合の流れが、全面的に変更になったのだ。
まず、シーズンを通じて試合に参加するライダーは8名。トニー・ボウ、アルベルト・カベスタニー、アダム・ラガ、藤波貴久、ジェロニ・ファハルド、マイケル・ブラウン、ジェイムス・ダビル、ロリス・グビアン。スペイン人4人、イギリス人2人、日本人とフランス人がひとりずつという構成だ。これに、各主催者の推薦で2名までのワイルドカードの参戦が許されている。今回はイギリスということで、ドギー・ランプキンとアレックス・ウイグの2名がワイルドカードとして参加。総勢では10名が出場した。
最初に、QXと名のつけられたクォリファイがおこなわれる。これはユーロスポーツのテレビ中継のはいる前で、見ているのは会場に集まったお客さんだけ。ここでは5セクションが行われる。各セクションへのトライはランダムで、それぞれのセクションにそれぞれのライダーがトライ。アウトドアのトライアルではふつうのことだが、インドアでのこういう形式は、去年のシェフィールドで採用された以来。しかし今年は、この形式でずっと運営されることになる。
このクォリファイで、次のステージに進む8人のサイダーが選ばれる。ふたりはテレビにも出てこず、ここで敗退だ。今回クォリファイ敗退の憂き目にあったのは、ウイグとグビアンだった。グビアンは25点(オール5点だ)、ウイグは19点。8位のブラウンが17点だったからウイグはもうちょっとだったが、トップ通過のボウはオールクリーンだから、その差は大きい。
藤波は、クォリファイは好調だった。ボウのオールクリーンはまぁしかたないとして、これに続いたのがファハルドの2点。藤波はファハルドに1点置かれての3点でクォリファイを通過した。ラガが6点、マシンを2ストロークにしたカベスタニーは、なぜかあちこちで失敗して13点もの減点を重ねて7位でクォリファイを通過していた。
去年も、シェフィールドでは藤波は2位となって幸先のいいスタートを切った。今年もクォリファイの走りっぷりを見ると、状態はよさそうだ。そして、去年ならクォリファイの3位はそのままファイナルのステージのスタート順に反映されるなどして、クォリファイでのがんばりは結果に反映されていたのだったが……。
テレビ中継が始まって、最初のステージはダブルレーンTX1だった。8名のライダーが1対1で4組のレースをやる。勝ったほうの4人はそのまま次のステージTX2に進む。負けた4人は、敗者復活セクションにトライして、上位2名がTX2に進める。レースの組み分けは、クォリファイトップ通過のライダーが5位通過のライダーと、以下、2位と6位、3位と7位、4位と8位の組み合わせだ。3位の藤波は、7位のカベスタニーと対決することになった。
藤波はダブルレーンが得意だが、しかしカベスタニーも速い。本来、カベスタニーがクォリファイ7位というのがおかしいのだが、それは勝負の運だ。用意されたレースレーンは、トライアル的にはあまり難度は高くなく、ヒューム管で作られた、どちらかというとモトクロスのウォッシュボードのようなところをどんどんと越えていき端まで行ってUターン、同じところを戻ってきて、最後にジャンプしてゴールという設定だった。レースだから早い者勝ちだが、トライアルだから勝敗は減点で決する。勝つと減点ゼロ。負けると減点2。この他に通常の足つき減点もある。レースに勝っても、3回足をついてしまうと、相手がクリーンしていたら勝負に負けということになる。逆に言えば、1回までなら足をついても勝ちは勝ちということだ。
そしてカベスタニーは、奥のターンで1回足をついた。どうもこれは作戦だったようで、1回足をついてもその方が速いという判断だったようだ。わずかに遅れた藤波は、その後のヒューム管とジャンプで追い上げ、最後はほとんど同時のゴールで、ふたりとも勝利のガッツボーズをしたほどだったが、センサーによる勝負の判定はカベスタニーだった。減点は藤波が2、カベスタニーが1。たったの1点差だが、これでカベスタニーはTX2に進出決定、藤波は敗者復活戦に回ることになった。
このダブルレーンでは、ボウがランプキンに負けるという番狂わせがあった。ボウもダブルレーンではめちゃくちゃに速いライダーだ。しかしランプキンは、シェフィールドは地元中の地元だ。このセクションも、すでに何回となく走っていて、慣れている。こういう背景が勝負に影響を与えた可能性は否定できない。もっともインドアでは、同じ部材が使い回しをされるから、アウトドア以上に走り慣れたライダーが有利という前提はあるのだが。
番狂わせは、藤波とボウだけではなかった。クォリファイ3位のファハルドも、ダブルレーンでダビルに負けてしまった。クォリファイの1位から3位までが、すべてダブルレーンで負けてしまったということになる。結局ダブルレーンで負けて敗者復活戦に回ったのは、藤波、ボウ、ファハルド、そしてブラウンの4名となった。
敗者復活戦は熾烈だった。この中から2名が敗退する。申し訳ないが、ブラウンにはまず勝ち目はない。あとの3名は、決勝ラウンドで戦ってもおかしくない3人だ。この勝負は、ひとつのセクションを4人で走って、減点数を競う。同点の場合はセクション走破タイムで勝負を決める。セクションは簡単めで、4人ともクリーンだった。最初に走ったブラウンは36秒かかっていた。藤波は24秒。藤波の走りを見ていたファハルドが21秒。最後に走ったボウが20秒。藤波とファハルドのタイム差は3秒。この3秒で、藤波のインドア開幕戦は終わった。テレビに映らないクォリファイはともかく、中継が始まってからはダブルレーンひとつと敗者復活戦のセクションをひとつ走っただけだ。
納得のいかないまま、試合を眺める藤波の前では、6人から4人にふるい落としをするところで、今度はファハルドが納得のいかない敗退を喫した。6人の中で、ただひとり5点を取ってしまったのはランプキンだった。ほかの5人は、TX2の3セクションをすべてクリーンした。こうなると、勝負はまたタイムで決まる。参考にしたタイムは、最後にトライしたセクションでのものとなっている。ここでファハルドは、たった2秒ほどの遅れで敗退を決められてしまったのだった。
藤波にしてもファハルドにしても、セクション走破タイムが遅いのだからしかたがないという見方もあると思う。しかしトライアルは、みんなが一度に走るものではない。走る順は、そこまでの結果によって強制的に決められている。敗者復活戦での藤波は、クォリファイの順によって、ボウやファハルドの前を走らなければいけなかった。彼らは、藤波の走りを見て、藤波よりほんの少し速く(もちろんクリーンはしなければいけないが)走破すればいい。この場合、藤波が勝ち残るためには、後から走る2名のライダーには不可能なほどに速いタイムで走り抜けなければいけないわけだ。当然、リスクも大きい。
ファハルドは、クォリファイ2位にも関わらず、TX1で敗退しているので、TX2でのトライ順は一番最初だった。ちなみにTX2を走る順は、敗者復活戦からきたファハルド、ボウ、そしてTX1で勝ち進んだ4名のクォリファイ順で、カベスタニー、ランプキン、ダビル、そしてラガだった。ダビルはクォリファイは6位で通過していたのに、ここでは最後から2番目を走る権利を得ていたことになる。
ランプキンとファハルドがいなくなって、最後は4人によるTX3。まずボウとダビル、カベスタニーとラガによるスピードレースが行われたあと、4セクションを走って勝負が決まった。ここでまた、ダビルとラガが同点ということになった。この場合も、最後のセクションのタイムによって勝敗が決まることになっていたのだが、最後のセクションはラガもダビルも5点だった。なのでそのひとつ前のセクションの走破タイムによって、勝敗が決まった。そのセクションでは、ラガよりもダビルの方が、少しだけ速く走っていた。それでダビルの3位が決まったのだった。
どうにも規則がむずかしく、なんでダビルが3位なのか、なんでクォリファイで華麗に走っていたトップの3人が敗者復活戦にまわり、しかも姿を消してしまったりするのか、お客さんには理解しがたい。もちろんお客さん以上に納得がいかないのが、ライダーだった。
この案は去年のシーズン中、アンドラの会場で発表されて説明を受けていたのだが、その時点でライダーからは不満が表明されていた。しかしFIM側が強い意志でこの案を進めていて(強い意志というより頑固で意固地)変更のないままシーズンが始まった。事前に説明を受けていたといっても、ライダーも条文を詳細に読みくだいたりはしていないから、当日になってあらためてレギュレーションの全貌を知り、こんなレギュレーションではこの先走っていられないぞという意見が噴出した。
FIMとしては、いつも同じ顔ぶれが上位に並んでいる試合展開をなんとかしたかった模様で、そういう点では、ほぼ初参加のダビルが表彰台に上ったという実績は、大いに満足だったにちがいない。若手にチャンスが回ってくるという点ではそうかもしれないが、ギャンブルなら、何度かやっているうちに若手にも素人にもチャンスは回ってくる。技術のある者が強いのは、スポーツとして当然のことのはずなのに!
2010年、藤波貴久は悪くないスタートを切った。クォリファイでの走りがそれを証明している。マシンは昨年同様だが、もうすっかり自分のものにしきっている。
今回は非常に納得がいかないレースとなった。スピードレースで、それもトライアルというよりスタジアムエンデューロのようなコースで有力選手を落としてしまう試合のシステムが、はたしてトライアルの選手権といえるのか。ライダーの間では、今後について相談が始まっている。
「とにかく納得のいかない試合でした。試合のシステムそのものもなんだかわかりにくいし、スピードレースで次のステージに進出するかどうかが決まっていくという、トライアルらしくない流れも理解できません。なにより、たったふたつ走っただけで、自分にもなんだかわかんないうちにおしまいになってしまったということに納得がいかない。マルセイユまでに、なにかが変わればいいのですが」
Final Lap(決勝) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 5 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 11 |
3位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 15 |
4位 | アダム・ラガ | ガスガス | 15 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 0 |
6位 | ドギー・ランプキン | ベータ | 5 |
7位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 2 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 0 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 2 |
3位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 3 |
4位 | アダム・ラガ | ガスガス | 6 |
5位 | ドギー・ランプキン | ベータ | 6 |
6位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 9 |
7位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 13 |
8位 | マイケル・ブラウン | シェルコ | 17 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 20 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 15 | |
3位 | ジェイムス・ダビル | 12 | |
4位 | アダム・ラガ | 10 | |
5位 | ドギー・ランプキン | 8 | |
6位 | ジェロニ・ファハルド | 6 | |
7位 | 藤波貴久 | 4 |