最終戦、フランス大会の会場は、有名なスキーリゾート地であるイゾラ2000。水のある川のセクションは4つほどで、あとはゴロゴロ岩の点在する乾いた設定のセクションだった。
前回2位の藤波は、今回はトニー・ボウ(レプソル・モンテッサ・ホンダ)の2分前、最後から2番目のスタート順を得た。藤波の2分前にはジェロニ・ファハルド(ベータ)、さらに2分前にはアダム・ラガ(ガスガス)がいる。
標高は2000メートルほど。最も高いところでは2300メートルほどにまで登っていく。高地対策は、すでにアンドラ大会などで実績をつんでいて、マシンには問題がない。チームのスポンサーはレプソル。届けられるガソリンも、マシンを力強く走らせる。
険しいセクションぞろいだが、トップライダーにとってはクリーンが前提。そのとおり、トップライダーはクリーンを重ねていく。第5セクションまでで、藤波の減点は3点。この時点では、トップは手首の骨折が癒えていないドギー・ランプキン(ベータ)だった。ランプキンの減点はたったの1点。これに続いてアダム・ラが2点、藤波、トニー・ボウ、マルク・フレイシャ(ガスガス)、ロリス・グビアン(ガスガス)が3点で並んで戦いを続けていた。
藤波はこのあと、非常によい走りが続いて、減点は14セクションで1点を加えたのみ。ラガは1点と2点を加えて減点5点で1ラップを終えていた。藤波が、減点数では1ラップ目トップとなった。
しかし落とし穴はあった。1ラップ後半、2ラップ目のユースのライダーに囲まれてしまったのだ。セクション待ちをしているライダーに時間の余裕があるなら、申し訳ないけど先に行かせてもらえるかな、というやりとりで、順番を譲ってもらえる可能性はある。でも今日は、彼らにも彼らの事情があった。朝は晴れていた空が、突然雨を降らせたりするようになった。降ったり止んだり、山の天気だから、このままなんとかもってくれる希望的観測もなくはないのだが、しかしできれば岩が乾いているうちに走ってしまいたいという思いは、ユースの若者も同じだった。
結局、藤波には3分のタイムオーバーが課せられた。藤波と相前後してトライしていたファハルドとボウは、ともに2分のタイムオーバー。藤波は足つき減点を4点でまとめながら、タイムオーバーの3点を加えて、ラガを2点差で追う展開となってしまった。
この頃、藤波らの視界から、ラガの姿が消えた。ラガは、ちょっと強引なほどに先を急いで、ユースの2ラップ目のライダー群をかき分け、さらにジュニアのライダーまで追い越して先を急いだ。2ラップ目に入ったときには、その姿はまったく確認することができなくなってしまった。それが吉と出るか凶と出るか、この時点ではまだ結果はわからない。
何度か降ったりやんだりした雨が、決定的に降り出したのは、藤波が第9セクションに到着したときだった。第8、第9と、雨は岩を濡らし始めてはいたが、まだ乾いた部分も残っていた。少し滑りながらも、個々をクリーンして10セクションにやってきたとき、雨はもうがまんができないという感じで岩を濡らし、ちょうど表面に膜を作るように雨が覆ってしまっていた。
まるで氷じゃないかというくらいによく滑る。歯が立たずに、藤波は5点となった。このとき、ラガはすでに14セクションに到着していたとのことだった。結果的には、ラガの作戦は吉と出たようだ。藤波のトライを見ていたボウはこの10セクションをクリーン。この時点で、藤波は2位の座をボウに奪われる覚悟をしていた。実際、この時点で藤波の減点は12点、対してボウは10点ちょうどだった。
11セクションに入って、雨が岩を完全に濡らすのを待って、20分ほどトライをストップした。濡れるなら、たっぷり濡れてしまって、泥や砂をきれいに洗い流してくれた方が、走りやすい。そして11はクリーン、しかし12から14と、5点にはならないまでも減点が続いて、その分だけ、ラガの逃げ切りを許すことになった。ボウは、10セクションまでをすべてクリーンしていながら、11セクション以降の4つのセクションだけで14点を失って、藤波を逆転するどころか、表彰台をも逃したのだった。
優勝のラガは2ラップ目をわずか2点でまとめてトータル7点。結果的には、1ラップ目に7点を失っていた藤波は、2ラップ目はオールクリーンをしなければ勝てなかったわけだ(それでも同点で、クリーン数ひとつの差で勝てる計算となる)。
勝てなかったくやしさ。しかし同時に、絶不調だった前半戦からイギリスで大クラッシュしてリタイヤするなど、トライアル人生最大の試練のあった2009年シーズン。しかし後半は、マシントラブルのあったアンドラ大会以外は、すべての大会で2位表彰台を得るという実績も残した。ここをベースとして、勝利に向けて、そして世界チャンピオン奪還に向けて、藤波貴久の2010年は、すでに動き始めた。今年の試練は、きっとフジガスをより大きくしてくれたはずだ。
「最終戦だから、ぜひ勝ちたかった。今年は一度も勝ちがなかったシーズンになりました。何度もあと一歩で勝てるところまでいってたのに勝てないということは、自分に勝てないなにかがあるんだろうと思います。とはいえ、今年はマシンとの相性に悩み、トライアル人生はじめてのリタイヤがあって、そんな中でランキング3位を獲得できました。後半は、マシントラブルのあった1戦をのぞいて、すべて表彰台に乗ったし、そのすべてが2位でした。その点は評価して、来年の戦いにつなげたいと思っています」
日曜日 | |||
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1位 | アダム・ラガ | ガスガス | 7 |
2位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・Honda | 18 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 22 |
4位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・Honda | 24 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 24 |
6位 | マルク・フレイシャ | ガスガス | 31 |
7位 | ドギー・ランプキン | ベータ | 34 |
8位 | ロリス・グビアン | ガスガス | 45 |
世界選手権ランキング | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 200 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 188 |
3位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 147 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 136 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 128 |
6位 | ドギー・ランプキン | ベータ | 118 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 101 |
8位 | マルク・フレイシャ | ガスガス | 96 |