2009年 SPEA FIM 世界選手権第3戦 ポルトガルGP

2009年4月26日/シャベス(Chaves Portgul)

いまだ春訪れず

photo苦戦の開幕戦となったアイルランドから2週間。問題の原因は、ポテンシャルアップした2009年型の新しいワークスマシンの特性と藤波のライディングが、いまいちマッチングしていないことだった。それでこの2週間、藤波はトレーニングに全力を投球した。幸い、この2週間はイベリア半島でも雨つづきで、滑るところでの練習不足という、アイルランドでの当面の課題はばっちり克服してのポルトガル入り、のはずだった。

しかし、スコア上でもなんとかトップ3を守れたのは第5セクションまで。第6セクションで5点になると、以後、点数を増やしていって、優勝争いはおろか、トップ3に入ることもままならない状況となった。藤波本人の実感によれば、クリーンセクションの第1、第2でも、体はガチガチ。いつなにが起こってもおかしくないクリーンということで、クリーンが並んでいても、この時点で苦しい戦いになるのは、本人にはある程度予測がついていたことだった。

結局、この日はまともな勝負にはほど遠い結果に終わった。試合が終わってから、復習にでかけた藤波は、鬼門となった第6セクションでも5回やって4回クリーン、1回足つきで走ってしまっている。練習で走れるということは、本番でもその走りができればいいということになるが、それがむずかしいから、ライダーはみな苦労する。

スタッフも、この日の藤波にチャンスがないのは早々に見て取れた。いつもは「まだチャンスがあるからがまんだ」「今日の調子は悪くないぞ」と励ましながら試合を進めるチームスタッフだが、この日はちがうアドバイスが飛んだ。「試合のことは考えなくていい。今日は練習しよう」。練習のつもりで走れば結果も上向くかもしれないし、それ以上に、今の藤波(と新しいマシンの組み合わせ)は、いまだ訓練が必要なのかもしれない。

ただしライディングそのものに関しては、試合後の復習などから考えて、トップの走りもそんなに非現実的なものとも思えない藤波。もちろん、結果が出ていないのだから、負け惜しみととられてもしかたがない感想でもあるが、この日のボウの5点はさすがにできすぎとして、10点なら充分可能性のあるスコアだと、藤波は考えている。

ただし、もともと藤波は、じっくり考えながらマシンを走らせるスタイルではない。充分に乗り込んでマシンを自分のものとした上で、セクションでは本能のままに自分の手足を動かすようにマシンを走らせていく。今までの栄光はそういったスタイルが結集したものだ。今、藤波の悩みは、本能でマシンを走らせられていないこと。だから練習などで、頭を使いながらマシンを走らせるときにはまだうまく走れるが、試合になってテンションが上がり、メンタルがめいっぱいになってしまうと、ライディングに配慮する余裕がなくなってくる。そんなとき、藤波が本来持つ本能的なライディングが、マシンの行く手を阻んでしまうのが、今の苦しい状況だ。

「14年間世界選手権を戦ってきて、29歳にもなって、いったいなにをやっているのだろう」

アイルランドでは試合後に涙が止まらなかった藤波だが、この日はもう涙も出なかった。とにかく、ふっきらないといけないことだけは確かだ。

ほんとうは、こういった内実は伏せたまま、結果ですべてを証明したいところだが、アイルランドとポルトガルでは、誰が見ても「なんで?」と思われるような5点がそこここで頻発する。そんなに高くない岩に登れなかったり、前輪がまったく上がらずということもある。難セクションばかりならそれでも挽回のチャンスもあるものだが、今回のようにトップがオールクリーンもしそうな勢いでは、こんな失敗は決定的となる。

今回の試合を5点でまとめてくるのはむずかしいことだが、それにしても42点もの減点をとってしまうのもありえないと藤波は考える。本来あるべき位置に自分を戻すべく、しかし次戦のイギリス大会が目前に迫っている。時間が解決するであろうこととはいえ、その時間を待っている余裕もない。まずは、マシンを自分のものとすべく、エンジン特性はもとより、ブレーキやクラッチなど、ひとつひとつチェックして、ゼロからマシン作りをやりなおしながら、マシンとの対話を原点に返ってやりなおそうと考えている。

○藤波貴久のコメント

「だめですね。アイルランドから、状況は好転していません。14年間世界選手権を戦ってきて、ここまでひどい状況は初めてです。自分では感じていないつもりですが、どこかにプレッシャーが襲いかかっているのかもしれないけれど、そんなことは言っていられない状況です。次こそは、本能で乗りたい。本能で乗って、いい成績をおみやげにもてぎに帰りたい。がんばります」

2009 SPEA FIM Trial WorldChampionship
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 5
2位 アダム・ラガ ガスガス 13
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 11
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 29
5位 マルク・フレイシャ ガスガス 38
6位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 42
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 44
8位 ドギー・ランプキン ベータ 48
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・HRC 57
2位 アダム・ラガ ガスガス 54
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 43
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 37
5位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・HRC 36
6位 ドギー・ランプキン ベータ 28
7位 ジェイムス・ダビル ガスガス 27
8位 マルク・フレイシャ ガスガス 27