いつにもまして短いシーズン。5戦めにして、インドアトライアル世界選手権は最終戦を迎えることになった。最終戦は、例年通り、スペインの首都マドリッドだ。同じスペインだが、藤波を始め多くのトライアルライダーが活動の中心とするバルセロナとは距離もあって、ちょっと雰囲気もちがう。
すでに今年のチャンピオンはトニー・ボウで決定している。ランキング2位以下はまだ決定はしていないが、1位と2位のポイント差は2点だが、それ以降は順位ごとに1点差しかつかない。最終戦でランキング順を入れ替えるのは、なかなか至難だ。藤波の場合、最終戦を前にしたランキングは4位。なんとかトップ3に入りたいところではあるが、テキはカベスタニーでその得点差は2点。藤波が優勝するか、カベスタニーより上位につけて、さらに間にひとり誰かに入ってもらわなければいけない。なかなかむずかしいシチュエーションなのだ。
逆に、ランキング5位のファハルドとは6点の点差があるから、ファハルドにランキングをひっくり返される心配はまずない。もちろん藤波自身がそんな心配をしているわけもなく、といってランキングをあげることも特に考えず、目標としているのはいつものとおり、最低でも表彰台に上がって、さらにひとつでも上位のポジションを得るというものだった。
クォリファイは、悪くないペースでトライが進められた。トップはトニー・ボウの3点で、藤波はそれに続く15点で2位でファイナル進出だ。ただし、クォリファイでいいポジションを得るのが、必ずしもいい結果を生むとは限らない。今回はまさにそれが実証される結果となってしまうのだが、藤波自身、それをある程度予期していて、クォリファイでは3位か4位になりたいと考えていた。しかしそれがかなわず、2位になってしまったのだった。
なぜ、2位を獲得したのではなく2位になってしまったのかといえば、1位と2位はファイナルの最初のメニューであるダブルレーンでの対戦相手となるからだ。クォリファイを1位で通過するのは、まずまちがいなくトニー・ボウである。そしてトニー・ボウは、ダブルレーンを走らせると、ありえないくらいに速い。ダブルレーンの速さは、藤波もけっして自信がないわけではない。しかしその藤波が、ありえないくらいに速いとシャッポを脱ぐのがトニー・ボウのスピードである。つまり2位になってしまった時点で、ダブルレーンでの2点減点は覚悟しなければ行けない。
しかし、ダブルレーンで2点を失うからといって、藤波が勝負をあきらめたわけではない。オブザベーションセクションをきちんとまとめていけば、2点のビハインドはどこかで取り返せるはずだ。そして実際に、この日の藤波はいい勝負ができていた。第2セクション、第3セクションと藤波はクリーンを叩いた。ラガは第2セクションで2点をとって、ダブルレーンでカベスタニーに勝ったアドバンテージを速くも帳消しにしている。
4セクションにして、藤波は減点1、タイムオーバー1点で2点。ダブルレーンとあわせて、ここまでの小計4点となった。藤波としては、ファイナルでの優勝争いは6点くらいになるはずだったのだが、この日のトップ5は、みな調子がよかった。ノミネートライダーのうち、ブラウンはクォリファイで敗退していて、かわってダニエル・オリベラスがファイナルに参加していたのだが、さすがにオリベラスは別格の減点を重ねている。
5セクション以降、いつものとおりスターティングオーダーを変えてトライ。この時点で5位の藤波は、オリベラスに次ぐ2番手トライとなる。第5セクションは、オリベラス以外はみなクリーン。第6で、ラガが1点を減点した。これで藤波とラガが4点で同点となった。その他のライダーはクリーン合戦を続けていて、ダブルレーンでラガに負けたカベスタニーが減点3、ファハルドはタイムオーバーの1点が2回のみで減点2と、今回は5点以下の攻防となった。一見、難度が低いように思えるが、一発で5点となるような設定ではないものの、ミスは確実に減点を誘い、しかもタイムオーバーのリスクはそこここにあった。まったく減点のないボウはともかく、足つき減点のないファハルドがタイムオーバーを2回喫していることでもわかる。
迎えた最終セクション。今年のルールでは、同点の場合は最終セクションでのタイム競走になる。オリベラスは、1分9秒かかって3点で通過した。制限時間は1分なので、3点+タイムオーバーの1点が加算された。次が藤波の番だ。藤波は最初から突っ走る気でいる。そして見事クリーンしながら、そのタイムは33秒だった。
3番手を走ったのがカベスタニー。ラガとランキング2位争いをしているカベスタニーだが、ラガより上位に入るだけでは目的は達せられない。そのためには、カベスタニーはせめて2位に入って、しかもラガが4位以下に落ちてほしいという、ありえないシナリオを完成させなければいけなかった。カベスタニーもまた、最終セクションはクリーンした。タイムは41秒だった。
次がラガの番だった。ここをクリーンすると、藤波とラガは同点となる。となると、最終セクションでのタイムが勝負だ。藤波の33秒を破るタイムをマークしなければ行けない。ラガにプレッシャーがかかった。と、このプレッシャーが、ラガに動揺を誘った。ラガはセクションアウトすらできずに5点となった。これでラガと藤波の勝負は、藤波のものになった。カベスタニー、ファハルド、ボウ(は別格だが)の3人が最終セクションをきれいにクリーンした今、藤波の4位が決まって、ラガは5位となった。ちなみにファハルドは59秒、ボウは53秒と、誰も藤波の38秒には遠く及ばなかった。4位は、藤波のスピードが勝ち取ったものだった。
4位は、けっして満足ができるものではない。しかし今回、2009年のアウトドアシーズン用のマシンで参加ができた藤波とボウは、新しいマシンの戦力が充分に仕上がっていることも確認できた。成績的にはいまひとつだったが、走りの内容的には悪いものではなかった。もし、最初のダブルレーンで藤波が勝利していたら、藤波の減点は2点で、ファハルドと同点、最終セクションでのタイム競争で藤波が勝って、2位を得ていたかもしれないのだ。こんなたとえ話は藤波の好むところではないが、それくらいには藤波の走りは充実していたということだ。インドアでは、その走りを成績に結びつけられるだけのアドバンテージを、藤波はいまだに持てていないということだ。
さて、あと半月後に迫ったアウトドアの世界選手権。すべて全力疾走でぶつかる藤波の真剣勝負の舞台のスタートは、もう間もなくだ。
「4位というのは、ぜんぜんうれしい結果ではなかったのですが、終わったら、カベスタニーにありがとうありがとうと言われてちょっ戸惑いました。ぼくはカベスタニーをランキング2位にするために走っていたんじゃないし、そういうつもりじゃなかったんですが、こういうのは狙っても狙えるものじゃない。カベスタニーも、宝くじにあたったようなもんだって言ってましたね。4位は残念ですか、調子はいいんです。09モデルのフィーリングもとてもいいですし。ひじの具合もよくなっています。開幕戦のアイルランドは、楽しみです」
Final Lap(決勝) | |||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 0 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 2 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 3 |
4位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 4 |
5位 | アダム・ラガ | ガスガス | 9 |
6位 | ダニエル・オリベラス | ガスガス | 25 |
Qualificarion Lap(予選) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 3 |
2位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 15 |
3位 | アダム・ラガ | ガスガス | 16 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 17 |
5位 | ダニエル・オリベラス | ガスガス | 20 |
6位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 20 |
7位 | アルフレッド・ゴメス | モンテッサ | 22 |
8位 | マイケル・ブラウン | シェルコ | 22 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 38 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 25 | |
3位 | アダム・ラガ | 25 | |
4位 | 藤波貴久 | 22 | |
5位 | ジェロニ・ファハルド | 18 | |
6位 | マイケル・ブラウン | 8 | |
7位 | ドギー・ランプキン | 4 | |
8位 | ダニエル・オリベラス | 2 | |
9位 | アルフレッド・ゴメス | 1 | |
マテオ・グラタローラ | 1 | ||
ロリス・グビアン | 1 |