バルセロナのインドアトライアルは、インドア世界選手権の中でも伝統の一戦。スタジアムはほかの大会と比べても並外れて大きいし、ましてバルセロナはトライアルの整地ともいえる特別な場所。ここでの1戦は、誰にとっても特別だが、特にバルセロナに拠点を持つモンテッサチームにとっては、さらに地元での大会ということもあり、いっそう特別な大会となる。
今回、出場ライダーはノミネートされた6名のみ。ゲストライダーはいない。だからファイナル進出の6名を選ぶクォリファイラップは、今回はなかった。いきなりダブルレーンでファイナルトライアルが始まった。クォリファイがない一方で、セクション数はいつもより多く、そういった意味でも特別の一戦だ。
ダブルレーンでは、藤波は今年はじめて、勝利をつかんだ。勝負の相手はラガだった。今回のダブルレーンは、なかなか難度が高いもので、いつもよりリスクが高い設定だった。いつもはいかにスムーズに早い走破するかがスピードレースでの課題だが、今回はへたをすると5点になってしまうおそれもある。負ければ2点減点となって、出ばなをくじかれることになるが、5点になってしまったらそちらのほうがダメージが大きい。鬼門は、ヒューム管の連続。ひとつずつ越えていけばクリーンはできるが、もちろんスピードは遅い。後輪だけ、ダニエルで飛んでいけば速いが、リスクも高い。
スピードレースの序盤、ラガに遅れをとった藤波は、ヒューム管をひとつずつ越えていくらがを尻目に、ダニエル連発で一気にラガを抜き去った。藤波がリスク覚悟で追い上げてくるのを知ったラガは、途中から戦法を変えて藤波を追ったが、藤波の逃げ切り成功。しかし藤波は、リスクの高い走法を披露する間に、1点の足つき減点を喫してしまった。なので第1セクションたるダブルレーンは、ラガ2点、藤波1点の減点となった。
続く第2セクションは、入り口から険しかった。1メートル65センチ、高さだけなら、ほかにもいくらでもある高さだが、ここは路面が滑った。いつもインドア大会では床に板が敷き詰められていて、スタジアムの床を直接走ることがないように設定されているのだが、バルセロナは全部にコンパネを敷き詰めるなんて無理なほどに会場が広い。それで、コンパネはセクションの下の部分にのみ敷かれている。ところが入り口がいきなり真直角だと、真直角に向かう加速部分はセクションの外側になり、板のないところから加速することになる。そしてこの板のない部分が、とてつもなく滑るわけなのだった。
今回はクォリファイラップがなかったから、スタート順は第2戦までのランキング順となっていた。最初にブラウン、ファハルド、ラガと来て、藤波が最後から3番め。この第2セクションでは、ブラウンが落ち、ファハルドがクリーン。ラガ、藤波と落ちて、カベスタニーがクリーン、最後にボウが5点と、意外な伏兵2名がクリーンを勝ちとった。
藤波は、路面が滑ることで苦戦するのを予想して、コンパネの上でタイヤを空転させて、タイヤの温度を暖めてからトライする作戦に出た。ところがこれが裏目。今度はグリップがよくなりすぎて、マシンが思ったよりも立ちすぎてしまった。これで登れずの5点となってしまった。しかしここは、ボウもラガも5点だから、まだ挽回のチャンスはあった。
第3セクションは、今度はボウが上がった。そしてボウ以外は、みんな叩き落ちてしまった。ここで藤波は、ライバルの動きがかたいことに気がついた。モンテッサ、そしてボウにとってバルセロナは地元。ほかのライダーにとっても、バルセロナは縁が多い土地柄。どことなく緊張して、体がかたくなっている。対して藤波は、そんなに体がかたい感じもなく、その点でうまくアドバンテージをとれれば、おもしろい戦いができると考えていた。しかし2、3と連続の5点だ。
第4セクションでは、カベスタニーが5点となった。藤波は、ファハルドと同じくタイムオーバーの1点。4セクションを終えたところで、トップはボウとファハルドの6点。3位にラガとカベスタニー、そして藤波が12点で一線に並んだ。ここで、走行順の組み替えがあった。4セクションを終えたところでの順位にそってということで、藤波のスタート順は、ここで後ろから3番めだったものが、5番めと早くなった。
5セクションから7セクションは、みんながお揃いのような減点をとった。ブラウンだけが5セクションで5点となりボウだけがクリーしたが、あとは似たような減点でこの3セクションを走り抜けた。
藤波には、くやしい5点があった。第6セクション。ここは、結果的には上位3名だけがクリーンをしたセクションとなったが、5点になるポイントは通過して、追撃のチャンスをとらえた矢先、その先の別の小さなポイントでアンダーガードを斜めに引っ掛けてしまい、そのまま落ちてしまって5点。なる予定ではなかった5点、なりたくもなかった5点となった。
今回、優勝したボウはラガ以下を圧倒しているが、ラガと藤波は10点差、3位カベスタニーと藤波は6点差だから、5点ひとつが順位に大きな影響を与えてることがわかる。藤波は2007年のこのバルセロナ大会で2位となったことがあるが、あのときは「いくか、落ちるか」のポイントのいくつかを登りきることができた。その成否が成績に多大な影響を及ぼすのが、スペインのインドアトライアル、そしてバルセロナ大会だ。
イギリスのシェフィールドでおった負傷の影響はすでになし。調子は悪くない。しかし結果は結果である。インドア世界選手権は残り2戦。こちらで調子を上げる一方、来るアウトドアシーズンに向けても、そろそろ準備期間の仕上げに入ってきている2月の藤波貴久である。
「スペインのインドアは、いくか落ちるかですから、おととしのようにいければ2位という結果がついてくるし、落ちれば今日みたいな結果になるということですね。ジェロニが調子がよかったのが意外でしたけど、今日は完敗です。内容的には、ボウにはともかく、少なくともカベスタニーとは勝負ができていたと思うのですが、なさけないところですね。バルセロナでの負けは、気持ちの痛手も大きいです」
Final Lap(決勝のみ) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 12 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 21 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 25 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 26 |
5位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 31 |
6位 | マイケル・ブラウン | シェルコ | 44 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | 22 | |
2位 | アルベルト・カベスタニー | 16 | |
3位 | アダム・ラガ | 16 | |
4位 | 藤波貴久 | 13 | |
5位 | ジェロニ・ファハルド | 9 | |
6位 | マイケル・ブラウン | 5 | |
7位 | ドギー・ランプキン | 4 | |
8位 | ロリス・グビアン | 1 |