2戦連続で4位と表彰台を逃した藤波貴久は、今年まだ一度も手にしていない優勝のポジションを得るために、イギリスはホークストンパークへやってきた。ホークストンパークはモトクロスなどをメインとするオフロード競技場で、ここ数年、トライアル世界選手権の定番となっている。
イギリスは雨が多い。世界選手権の週末に向けても、雨はずっと降り続いていた。藤波ら、世界選手権の選手面々が会場入りをした金曜日も、雨は降ったりやんだり。土曜日には晴れたものの、夜にはやっぱり雨。セクションは、おのずと雨対策をほどこしたものとなった。
ところが日曜日、試合当日は朝から晴れ。濡れた大地はどんどん乾いていって、簡単なセクション設定になることは容易に想像できた。オールクリーンも不可能ではない(しかし現実には、それはたいへんにむずかしい)セクション設定は、このところの世界選手権では、これも定番となっている。
ホークストンパークのセクションは、モトクロス場だけに土がメインだ。土の中に、いくらかの石や岩が顔を出している。この地形も、世界選手権に参戦し続けたライダーにとっては、すっかりおなじみのものだ。
今回藤波は、自分のペースを守って試合を運ぶことにした。セクションに入り、ラインが見えたら、他のライダーの動向は気にせずにトライ。それで、序盤の3セクションをクリーンしたし、ペースは悪くなかった。この3セクション、リザルトをみればラガとカベスタニーが1点、ランプキンは5点をとっているのだ。結果、藤波のペースは早まわりとなって、ボウやラガの姿は見えなくなった。彼らは、おそらくいつものとおり、お互いに牽制しながら試合を進めているのだろう。かろうじて、チームメイトのランプキンが、藤波とペースを合わせていた。早まわりをしている藤波のところには、他の選手の動向は伝わってこない。しかし、走っている本人はそれほど悪い感触はなかった。だから自分のペースを守って、藤波はセクションをこなしていった。
そして10セクションにやってきた。ここは、まっすぐ登るラインの他に、左から逃げて確実に登りきるラインが見えた。それで藤波は、左から逃げるラインを整備し、ラインが固まったところでトライした。
ところが、ここでみんなに先駆けて早くトライしたデメリットが出た。藤波が作ったラインは、藤波ひとりを通過させるのにも力不足で、藤波のトライ中に崩れ落ちてしまった。走っている藤波を巻き添えにして!
ミス。そしてそのミスが5点につながってしまう。この数戦、藤波にはこのパターンが多い。今回もまた、この失敗が出てしまった。
1ラップ目を終えて、監督には「もうちょっとゆっくり走ってもいいんじゃないか?」とアドバイスを受けた。もうちょっとゆっくり走るのが、ふつうのペースでもある。ライバルの動向もわかる。しかし藤波は、2ラップめも自分のペースを守って走ることにした。自分のペースを作ること、自分が調子よく走れることは、なかなか得難いことだからだ。
2ラップめの第1セクション。ここはたいへんに簡単なセクションだった。おおざっぱにいえば、斜面をななめに横切る設定。ところがこの斜面で、後輪が滑ってしまった。その修正をするのに、斜面の壁にハンドルがあたった。
「あー、1点をとってしまったか」
藤波は多少がっかりしながらセクションをアウトしたのだが、なんとオブザーバーは5点だという。二人いたオブザーバーのうち、ひとりは1点を示していた。しかしメインのオブザーバーが“ハンドルが接地した”という解釈で5点としていたのだった。
ハンドルが接地すれば5点という解釈は、平地では転倒を定義したものだが、斜面ではとても難解になる。どこからどこまでが地面で、どこからが壁なのか。地面がゴロゴロの岩だったらどうなるのか。
藤波にすれば、なかなか納得しにくい判定ではあったが、オブザーバーのひとりは1点を示していたこともあり、抗議をして話が通れば採点が覆る可能性は大きいと、藤波は次のセクションに向かった。
この第1以外は、2ラップめの藤波は悪くなかった。1ラップめに失敗した10セクションも(みなと同じように)クリーンした。2ラップめのトータル減点は8点。第1が1点だったら、このラップは4点で、またも2ラップめのベストとなっているところだった。
2ラップめの14セクション、もう試合を終えようというときになって、藤波ははじめて点数を聞いた。ボウとは10点以上の差をつけられている。ラガとは5〜6点、さらに、4位のカベスタニーには7点ほどの差をつけていた。つまり、すでにほとんど試合が動くことがない状況になっていた。逆転のチャンスもまずないし、逆転されることもないだろう。それで、そのあとの2セクションを淡々とこなして、3位を得た。
今回は、ふたつの5点があった。どちらかひとつがなくなったとしても、藤波の順位は変わらない。しかし、こういったミスを出していることが、勝てない理由のひとつになっているのは明らかだ。簡単とはいえ、世界選手権のセクションは甘くないから、失敗しても脱出できるところはそんなに多くない。予定通りにふつうに走れば足つき減点、ものすごくうまく走ればクリーン、そして失敗したら5点というのが、今の世界選手権のパターンとなっている。
残り2戦、チームメイトのランプキンは100勝記念まであとひとつと迫ったところで足踏みをしているが、藤波もまた、この未勝利続きをなんとか脱出したいものだ。
「失敗イコール5点のくせをなおしていかないといけないですね。もっともっと慎重にいかないと。それにしても、このところ、オブザーバーの採点などでアンラッキーなことが多い。こういう不運は、もちろん不運なんですが、自分がまぎらわしい走りをしているということでもありますから、対策するところはあると思います。今回は表彰台に帰ってきましたから、それはよかったのだけど、それで喜んではいられませんね」
日曜日/Sunday | |||||
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1位 | トニー・ボウ | レプソル・モンテッサ・HRC | 5+6+0 | 11 | 25 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 6+11+0 | 17 | 21 |
3位 | 藤波貴久 | レプソル・モンテッサ・HRC | 15+8+0 | 23 | 20 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 13+17+0 | 30 | 18 |
5位 | ドギー・ランプキン | レプソル・モンテッサ・HRC | 19+11+0 | 30 | 18 |
6位 | マルク・フレイシャ | スコルパ | 16+15+0 | 31 | 15 |
7位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 25+11+3 | 39 | 17 |
8位 | グラハム・ジャービス | シェルコ | 21+19+0 | 40 | 12 |
世界選手権ランキング | |||||
1位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 194 | ||
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 174 | ||
3位 | 藤波 貴久 | モンテッサ | 144 | ||
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 122 | ||
5位 | ドギー・ランプキン | モンテッサ | 119 | ||
6位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 94 |