2006年 世界選手権トライアル・デ・ナシオン
2006年10月01日/Breal S/Monfort
日本チーム、辛くも3位表彰台を獲得
4人のライダーが走り、セクションごとに上位3人の成績を集計して競われるトライアル・デ・ナシオン。世界トライアルシーズンの最後を飾る一大イベントだ。
藤波ら、レプソル・モンテッサ・HRCチームの面々にとっては、世界選手権の延長として恒例の行事。藤波はもちろん日本チーム、ドギー・ランプキンはイギリスチームのメンバーとして、そしてライア・サンツは女性世界選手権最終戦を戦い、女性デ・ナシオンをスペインチームの一員として戦う。
今年、日本チームは人選の段階からつまずきを見せた。黒山健一が肩の故障で、小川友幸や田中太一はマシンの手配がうまくいかずに参戦体制が作れなかった。日本のために集まってこれたのは、藤波以下、イタリアのチームから世界選手権にも参戦している小川毅士(モンテッサ)、去年まで世界を走っていた野崎史高(ヤマハ)の3人だけだった。
上位3人の成績を集計するのがルールだから、3人いれば試合にはなる。ただし、たいへんな不利は否めない。たとえばひとつのセクションで、1番手のライダーが5点になったとする。それでも2番手から4番手、3人が揃ってクリーンすれば、そのセクションのナショナル・スコアは0点となる。4人いれば、誰かのミスを、他の3人が補い合って、チーム成績を高めていくことができる。3人だと、ミスはそのままスコアに反映される。
優勝候補で、実際にぶっちぎりで優勝したのはスペインだった。彼らは1ラップ目に4点というスコアをマークした。2点が2回だけ。しかし実際には、ライダー個々はもっとあちこちで足をつき、あるいは5点となっている。リザルトをチェックすると、1点が18個、2点が1個、5点が5個、クリーンが120個となっている。ほとんどのセクションで、彼らはお互いのミスをカバーしてしまっている。
初めてのデ・ナシオン参加で緊張の小川毅士が、序盤のセクションでちょん足を繰り返してしまった。試合の流れとしてはよくあることだが、3人体制ではこれが大きな結果となって返ってきた。スペイン、イギリスはもちろん、イタリアやフランス、チェコなども、4人がミスをカバーしあって試合を進めているからだ。
藤波は当初、自分の仕事は後輩たちに自分のトライアルをしっかり見せることだと考えていた。ラインの選び方、マシンの運び方、タイヤ一本分の位置の選び方など、世界のトップを戦うシビアなトライアルを直接見てもらうことで、彼らの成長に藻なり、また日本チームの好成績にもつながると思ったのだ。いつもなら、ミスを救うためになにがなんでもクリーンしなければいけない一番最後に、もっとも心臓の強いライダーを置くオーダーをとるが、今回は全員のスコアがそのまま成績だから、特に順番もないだろうという作戦だった。
ところが、小川の緊張が解けない。ミスが出て日本のスコアに響くことで、それがまた緊張を誘うようだった。
藤波が、ここでこれまでやったこともないトライアルをはじめた。セクション内に立ち、ラインの指示をし、檄を送り、ライダーを盛りたてる。二人のトライを見送ったあと、自分のトライをする。セクションを走り回ったのちのトライだから、疲労度は大きい。イギリスには、マーチン・ランプキンという偉大なマインダーがいる。マーチンが4人のライダーの指示を送ることで、イギリスのライダーは個人戦以上の成績を発揮するが、そういった戦力は、日本チームには圧倒的に不足している。
セクションは、進むにつれて難度を増してきた。簡単なセクションで下位チームにリードを奪われていた日本も、セクション難度が上がってくるに従って、順位を盛り返してきた。いつものトライアルなら最大減点は5点だが、デ・ナシオンでは4人が(日本チームは3人が)5点になれば、チームの成績は15点になる。
日本が3人体制との情報に、色めき立ったチームが2チームあった。イタリアとフランスだ。いつもなら、彼らは日本にはとうてい勝ち目はないのだが、今回はチャンスがある。それにフランスは、地元開催という欲目もある。事実1ラップ中盤、フランスはイタリアと日本をリードして、3位の位置につけるという活躍を見せた。
スペインとイギリスを追いかけてきたこれまでの戦い方が、一変した。もともと情報収集能力のない日本チーム、ライバルがイタリアとフランスでは、いよいよ情報が入らない。1ラップが終わったところで、日本は3位につけたが、イタリアが5点差で4位、フランスが日本と13点差の5位につけた。イギリスには倍近い差をつけられたから、勝負はいかに3位を守りきるかというところにかかってくる。
1ラップ目、藤波の個人成績は1点減点を4つ。デ・ナシオンでは個人成績はいっさい発表されない。かつては個人の成績をそのまま足していたが、今ではセクションごとにチームの減点を算出している。あくまでも、闘いはチームでおこなっている。自身で走りながら、チームメイトのマインダーを務める藤波の仕事ぶりは、2ラップ目も続いた。
ところが、プレイングマネージャーは、疲労もさることながら、メンタル面でも藤波をおとしいれた。気持ちが日本チームに同化しすぎて、チームメイトが5点になると、それが自分でとった5点のように思えてしまう。それが最悪のかたちとなったのが、2ラップ目の後半、15セクションだった。1ラップ目は、小川が3点、野崎と藤波はクリーンした。ところが2ラップ目は、小川の5点に続いて、野崎も5点になった。それを見た藤波は、なんと岩から岩に飛び出した途端にセクションを飛び出し、岩にも飛びつけずに5点となった。イタリアと数点差で小競り合いを続けていた日本は、このセクションだけで、イタリアに一気に12点も点差を縮められ、そして逆転を許してしまった。しかし戦況は、戦いを進めるチームの面々には、もちろん届けられていない。
残り3セクション(デ・ナシオンは18セクション2ラップで行われる)、藤波ははじめて自分のトライに集中した。まず自分自身がちゃんと走れないことには、チームの成績もないからだ。
ゴールすると、先にゴールしたイタリアが、3位を確信して喜びの最中だった。日本の3人は、それぞれのスコアを報告しあいながら、チームの成績を予想する。3人とも、1ラップ目の減点を上回っているという。それだけでは結果はわからないが、いい材料ではない。
電光掲示板に、結果が出た。イタリアに、8点差の勝利だった。
○藤波貴久のコメント
「しんどい闘いでした。戦況的にも厳しかったし、セクションで走り回ったので、それもしんどかった。ぎりぎりの表彰台でしたけど、3人のこの体制で、小川毅士という新しいメンバーを迎えて3位となれたのは、新しいステップになるかなと思います。最初は、ふたりにトライアルを教えてあげようという予定でしたけど、今日の野崎くんはほんとうによく走っていて、教えるなんておこがましい。世界選手権一桁の走りができていたと思います。毅士くんは、世界選手権14位という成績はこういう試合からくる結果なんだなという感想。練習ではうまくて期待していたんですけど、もったいない。しかしいずれにしても、3位は楽勝だと思ってましたけど、そうでもなかった。やっぱりベストメンバーで戦わなければ、優勝や2位はおろか、表彰台も逃げていく可能性があるのだと、それが今回の一番の教訓です」
Trial des Nations 2006 |
1位 |
スペイン(ラガ・ボウ・カベスタニー・ファハルド) |
4+14+0 18 120 |
2位 |
イギリス(ダビル・ジャービス・ランプキン・モリス) |
20+42+0 62 102 |
3位 |
日本(藤波貴久・野崎史高・小川毅士) |
64+57+0 121 63 |
4位 |
イタリア(ボシス・レンツィ・マウリノ・オリッツィオ) |
69+60+0 129 67 |
5位 |
フランス(ベシュン・ブルオン・カモッジ・カモッジ) |
78+59+0 137 68 |
6位 |
スウェーデン(ヨハンソン・ニルソン・リーデル・タイガー) |
137+120+0 257 34 |
7位 |
チェコ(バラス・クロウステック・マセック・スボボダ) |
125+140+0 265 30 |
8位 |
ドイツ(クレゲロ・オスター・ストランコファ・シェファ) |
145+128+0 273 26 |
9位 |
アメリカ(アーロン・フローリン・ウェブ・ワインランド) |
145+135+0 280 23 |
Pix:Hiroshi Nishimaki |
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