2006年 インドア世界選手権第9戦ポルトガル、リスボンGP
2006年2月25日/Pavilhao Atlantico /観客数:5000人
表彰台返り咲き。課題は次へ
悪い流れ に自ら決着をつけるべく、藤波はポルトガルへ飛んだ。ポルトガルはスペインの隣の国だが、首都リスボンは、ポルトガルの西の果。バルセロナはスペインのほぼ東端だから、イベリア半島を横断する移動になる。リスボンのインドアはここ数年恒例となっているカードだ。
インドア参戦と並行して、この時期藤波は2006年アウトドアシリーズ用の開発テストに忙しい。インドア大会には、2005年のシーズンに使ったマシンで参戦しているが、リスボンには、テストに携わっているHRCの開発陣の面々や三谷知明氏らが同行。にぎやかなインドア参戦となった。
リスボンのセクションは、構成要素ものものはスペインで使われているものだが、複雑な組み合わせがされていて、高い段差もあれど、よりテクニカルな“合わせ物”セクションが多く用意されていた。高いところを登るか落ちるかという単純なものではなく、うまく走ればクリーンも出るが、減点するリスクも高いものだった。もちろん5点の危険もある。
今回のワイルドカードはシャウン・モリスとトニー・ボウ。モリスが一番スタートで、次がボウ、ファハルド、カベスタニー、ラガ、そして藤波というトライ順だ。最終スタートがランプキン。スタート順は持ち回りなので、いい時も悪い時もあるが、今回はモンテッサチームにはよいスタート順が回ってきているといえる。
モリスはともかく、次を走ったボウもファハルドも、そんなに仕上がりのいい走りではない。ファハルドにはマシントラブルの不運もあったが、ミスが目立っていた。
今回、第3セクションと第7セクションは参加全員が5点となった。それ以外の5セクションが、勝負の行方を握ることになる。最初にして、最大の勝負の鍵となったのは、第2セクションだった。ここには、高さもそれなりだが、形も複雑で、しかも助走をとるために少し斜めに入っていくという難所があって、ファハルドはクリーンしたものの、ボウもランプキンも5点、ラガとカベスタニーもあがったところでバランスを崩しかけて1点減点を余儀なくされている。
藤波も、この第2セクションは1点を覚悟してのぞんだ。クリーンを目指して粘って5点になるよりも、計画を立てて減点していったほうが、結果はよい。ところが走ってみれば、予想外に気持ちよくすぱんと登ってしまって見事なクリーンが出た。藤波は、早々にファイナル進出の鍵のひとつを握ったことになる。
藤波が走るまでには、ランプキン以外の全員が走っているから、不可能とわかっている第3などは入り口ですぐ5点となる作戦をとる。インドアのクォリファイラップでは8セクションを10分で走ることとなっているから(時間とセクションの数は大会によって異なる設定がされている)セクションを全部走らなければ、その分時間に余裕ができるということだ。
ライバル の点数をみれば、第2セクションをクリーンした時点で、その先で大きな失敗をしなければ、ファイナル進出はほぼ確定的だ。ただし大きな失敗をさそうセクションばかりでもあるから、油断はできない。
ただし藤波にとっては、この時点で悪いイメージが払拭されたのは明らかで、まずこの点がこの日の大きな収穫だ。前回までの結果を反省し問題点を洗い出し、克服すべきところは克服し、改善すべきところは改善した。加えて今回は、HRCのスタッフが同行していたから、現場でもインジェクションのマッピング変更などの対応ができた。セクションに合わせてのマッピング変更など、スタッフがそろっていれば、できることもちがってくる。それが、ライダーのコンディションをよりよいものにしてくれる。
後半、1点を3つとったが、しかしカベスタニーと同点。カベスタニーよりもセクション走破時間が早かったから(カベスタニーは10分に間に合わず、タイムオーバーの1点を追加している)この時点では藤波は2位ということになる。
ダブルレーンはトップのラガと藤波、カベスタニーとボウの組み合わせで争われる。ラガが12点、カベスタニーと藤波が13点、ボウが17点。先行してカベスタニーvsボウが戦って、カベスタニーが勝った。ボウは18点。ボウと藤波らの点差は5点だから、ダブルレーンで負けたとしても、転倒などしなければファイナル進出は確実となった。藤波とラガのダブルレーンは、勝ちを狙いはしたが無理もせずラガの勝利。藤波はこれで1点を加算して3番手でファイナルに進出した。
今シーズン2度目のファイナルラップ。序盤の2セクションは3人ともクリーンした。第3では藤波が5点となったが、カベスタニーも5点、ラガはクリーンをしたがタイムオーバーをとって1点。ダブルレーンで藤波が1勝1敗したあと、ちょっとしたハプニングが起こった。
藤波のリヤタイヤのビードが落ちてしまったのだ。このセクションでは、とにかくビードが落ちないように願いながら、2回の足つきとタイムオーバーで走りきった。ここはカベスタニーが1点、ラガが5点。カベスタニーはダブルれーんで2敗したから、この時点ではラガが6点、カベスタニー8点、藤波9点と、まだ勝負の行方はわからない。
ファイナルでは、セクショントライはひとつのセクションごとに順番でトライする。クォリファイの順番どおり、藤波が先陣を切ってトライする。藤波はビードが落ちたタイヤを、ホイールごと新品に交換する。ところが新品タイヤは、これはこれで万全ではない。タイヤがなじんでいなくて、堅さが出てしまうのだ。
タイヤを暖めたりして急きょタイヤをなじませようと腐心したが、やはり充分ではない。次の第7セクションはカベスタニーも5点になっているなど、けっしてやさしくはないのだが、藤波の場合は、タイヤの感触になんとも違和感があって、あっさりと入り口で5点になってしまった。ここはラガも減点2点、タイムオーバー2点の計4点をとっていたから、藤波の5点は惜しいところだった。
第8セクションでは、今度はラガが5点となった。カベスタニーはクリーンだ。藤波陣営は、こうやってライバルがセクショントライをしている間に、落ちたビードを修復し、再度当初から使っていたタイヤを装着しなおした。1セクションあたりの持ち時間は1分だから、2分間でホイール交換をし、藤波がトライしている1分間にメカニックがビード落ちを修復し、次の2分で再度ホイール交換をした。インドアトライアルもまた、メカニック・マインダーとライダーのチームプレーなのだ。なじみのついたタイヤで走った藤波は、ここを1点で走りきる。カベスタニーは後半で調子を上げ13点、ラガは5点となったことで15点。藤波は1点アドバンテージの14点。藤波には、2位表彰台の可能性が出てきた。カベスタニーのミスを待てば、優勝も夢ではない。
そして最終セクション。 ここは水の流れる滝セクションだった。ここで藤波は、インでミスをする。足先でもたれかかるような状態になってしまい、もしかしたら減点なしだが、1点をとられてもしかたがないなぁという状況。クリーンかな、1点かなとうかがいながらその先を走ると、登って降りるところで場内のアナウンスがポルトガル語で藤波の1点をつげているのが聞こえてしまった。ポルトガル語とスペイン語は共通点も多いから、藤波には放送が理解できてしまうの出る。あぁ、これで1点とられたか、ラガと同点になってしまったなぁと、トライ中の藤波に気持ちの揺れが発生した。
「負けちゃったかー」という動揺は、さらに時間の切迫をも生んだ。方向転換に手間取り、セクションの残り時間が15秒。マインダーの告げる残り時間を受けて、藤波はやや体制が整っていないまま、最後の登りに向かうことになった。
ここでばたばたと3回の足つきがあり、タイムオーバーもあって、結局このセクションでの藤波の減点は5点となってしまった。カベスタニーは終盤戦にきちんとコンセントレーションができていて、今回は逃げ切り。藤波は、ラガに5点差で今シーズン2度目の3位表彰台を獲得するにとどまった。
3戦連続6位 のあとの3位表彰台だから、この結果はたいへんに喜ばしいものだった。しかし最後の最後で、気持ちの弱いところが出た。まだまだ訓練が足りない。インドアの訓練を積むには、まず試合数を稼ぐしかない。そのためには、ファイナルに進出し続けることだ。
久々の表彰台も、藤波は喜びよりも、次の戦いに向けて、課題の洗い出しに忙しい。
2006年モデルの開発テストに精を出したあと、次の大会はブラジルのサンパウロ、そしてアルゼンチンのブエノス・アイレスと南米シリーズが続いていく。
○藤波貴久のコメント

Indoor Trial WorldChampionship 2006
Lisboa |
Final Lap(決勝) |
1位 |
アルベルト・カベスタニー |
シェルコ |
13 |
2位 |
アダム・ラガ |
ガスガス |
15 |
3位 |
藤波貴久 |
レプソル・モンテッサ・HRC |
20 |
Qualificarion Lap(予選) |
1位 |
アダム・ラガ |
ガスガス |
12 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
シェルコ |
13 |
3位 |
藤波貴久 |
レプソル・モンテッサ・HRC |
14 |
4位 |
トニー・ボウ |
ベータ |
18 |
5位 |
ドギー・ランプキン |
レプソル・モンテッサ・HRC |
21 |
6位 |
ジェロニ・ファハルド |
ガスガス |
27 |
7位 |
シャウン・モリス |
ガスガス |
38 |
PointStandings(ランキング) |
1位 |
アダム・ラガ |
80 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
65 |
3位 |
トニー・ボウ |
55 |
4位 |
ジェロニ・ファハルド |
47 |
5位 |
ドギー・ランプキン |
39 |
6位 |
藤波貴久 |
38 |
7位 |
シャウン・モリス |
6 |
8位 |
ジェームス・ダビル |
5 |
9位 |
ダニエル・マウリノ |
4 |
10位 |
タデウス・ブラズシアク |
3 |
11位 |
ジェローム・ベシュン |
2 |
|