2006年 インドア世界選手権第5戦スペイン・バルセロナGP
2006年2月5日/Palau Sant Jordi /観客数:8000人
表彰台まであと一歩。高熱をおして――
初の 表彰台獲得を実現して、モンテッサにとって地元大会のバルセロナ。ここでさらに上昇気流に乗りたいところだが、しかし結果は4位。それでも、チームと藤波にとっては、今回の4位はたくさんの収穫のあったリザルトだった。
前戦イタリア大会が終わって翌日、藤波は風邪をひいた。イタリアの空気が合わなかったのか、この風邪がなかなかたちが悪い。月曜日から水曜日までひたすら寝込んで、体調回復に努めた藤波は、木曜日にようやく調子を取りもどし、ここで一回練習をしている。ところがこれがよくなかった。金曜日には風邪がぶり返して、さらに強力になって返ってきた。金曜日に医者に行き、ふつうの治療では間に合わないと悟った藤波は、土曜日に知り合いのお医者さんに頼み、ちょっときつめの座薬でスペシャルチューニングを受け、そして日曜日が試合となった。この1週間、マシンには1日しか乗っていない。
バルセロナのインドアは、伝統的にまっすぐなものばかりだ。今回も、すべてのセクションがまっすぐ設営されていて、登ったり降りたり、そしてその登ったり降りたりが、とんでもなく高い。
1年前、 ニューマシンの4ストロークの熟成に期待を注いでいたモンテッサチームは、地元バルセロナで苦汁を飲むことになった。ライバルが軽々と登っていくのを横目に、モンテッサの3人は次から次へと落ちてしまった。バルセロナのインドアは、モンテッサにとって鬼門だった。それから1年、マシンはどんどんセッティングが煮詰められてよい状態になっていたが、基本性能は1年前のバルセロナ大会の元とはそんなに変わりない。1年前に歯が立たなかった原因が4ストロークにあるのだとしたら、今回も苦戦は免れない。セクションを見た限り、藤波が楽天的にはなれなかったのは風邪のせいばかりではない。
ワイルドカードはボウとシャウン・モリスの二人。今回、真っ先にトライしたのはトニー・ボウだった。ボウは、高々とそびえる難関を、次々にクリアしていく。7セクションを終えて、5点、3点、2点がひとつずつ、計10点。ボウのこのスコアは、全体的にもすごくよいのではないかと、藤波は考えた。今回藤波は最終スタート。全員の走りをじっくり観察し、作戦を立てる時間がある。
そしてランプキンがトライ。ところが、ランプキンの調子がすこぶる悪い。7セクションのうち、クリーンと1点がひとつずつで、あとの5つは5点。それも、ほとんどインしてすぐ、ビッグステップを登れずに落ちている。標準的なワイルドカードライダーであるモリスとも5点差でしかない。
これは、藤波にとっては困った材料だった。バルセロナは、モンテッサにとって鬼門だ。そしてランプキンは、その鬼門にことごとくはまっている。1年間の経験は、バルセロナには通用しなかったか。これは、今年もきつい戦いになりそうだと、藤波は半ば覚悟を決めている。
ランプキンの あと走ったカベスタニーやラガは、藤波が素晴らしい走りだと思ったボウの減点を上回り、たった4点と6点で7セクションを終えてきた。これには藤波も、素直にすごいなと感心してしまっている。
さぁいよいよふじなみのトライ順だ。通常、スタート順が一番最後の時には、それまでに走ったライダーの走りをじっくり観察したうえで、5点になってもしょうがないセクションとじっくり攻めてクリーンをとるセクションを見定め、5点予定のセクションは早めに5点となって持ち時間を有効に使うという作戦をとっている。今回も、藤波はこの作戦でいこうと考えていた。しかし、藤波の指標となるべきランプキンに5点が多く、ちょっと参考にならない。一方ラガやカベスタニーの走りを見ると、オールクリーンしてしまう勢いだ。これは配分などしている状態ではなく、すべてのセクションを全力で走りきるしかないということになった。トライ直前の、作戦変更だ。
第1セクション。ランプキンは入り口で5点となったが、ここを藤波はまずクリーンした。ここで藤波は、去年とはちがう感触を実感した。去年は、第1セクションで大クラッシュして、早々とフロントフォークを曲げているのだ。今回はクラッシュもなく、減点もない。まったく別次元だ。
第2も問題なくクリーン。第3では、ファハルドとボウも落ちているが、ここも藤波はクリーンした。ここはかなり高いものだったから、これを登れたのは大きな収穫だった。第4セクションは、トップの3人しか登れなかった。藤波も5点だ。しかし第5では、カベスタニーが落ちたところを藤波はクリア。ここもクリーンで抜けている。
その後、第6で5点となり第7で2点。7セクションを走り終えて藤波の減点は12点。タイムは8分40秒。この時点で藤波は4位。3位のボウは10点だから、ふたつあるダブルレーンで2点差を逆転すれば、藤波のファイナル進出が実現する。ダブルレーンで勝利すれば、敗者に1点減点がつく。ふたつのダブルレーンで藤波が2勝すれば、その時点で同点だ。ボウのセクション走破タイムは9分1秒。同点なら、藤波が上位につける。このダブルレーンは、藤波にとってもボウにとっても、ファイナル進出をかけて負けられない戦いとなった。
足をついてはいけない (転倒や足つきがあると、勝敗以外にその分の減点が加算される)、負けてもいけない。ふたりは追いつめられた状態でスタートした。先行したのはボウ。藤波はほんの少し出遅れてしまった。しかし藤波のダブルレーンでの速さは一級品だ。ぐんぐん追いつめる。ここで勝利しなければ、ファイナル進出はないのだ。
今回のダブルレーンは、ダブルレーンにしては難度の高いものだった。しかし足つきを恐れて慎重になることなく、藤波は攻めの姿勢でダブルレーンを走った。しかしそれが結果的にあだとなって、藤波は失敗。後ろにずり落ちそうになるマシンを足をついて引っぱり上げ(インドアではバックは減点の対象にならない)なんとか5点にはならずにゴールしたが、その間にボウは先にゴール。足をついた時点で、この日のボウとの対決には終止符が打たれていたのだ。
ふたつめのダブルレーンは、だから消化試合になってしまった。藤波に5点差をつけたから、ボウは転びさえしなければ、ファイナル進出は約束される。事実、ボウは慎重にダブルレーンを走りきって、ファイナルへの出走権利を獲得した。
いつもは、ファイナルに進出できなくても、試合を最後まで見守る藤波だが、バルセロナは家も近いし、今回は体調もよくない。ファイナルを途中まで観戦したところで、藤波は会場をあとにした。ダブルレーンで雌雄を決した相手、そしてかわいい弟のようなボウに「がんばれよ」と声をかけて帰路についた藤波が、ボウの勝利を知ったのは、ぐっすり眠ってようやく風邪から開放された、月曜日の朝のことだった。
○藤波貴久のコメント

Indoor Trial WorldChampionship 2006
Barcelona |
Final Lap(決勝) |
1位 |
トニー・ボウ |
ベータ |
9 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
シェルコ |
23 |
3位 |
アダム・ラガ |
ガスガス |
25 |
Qualificarion Lap(予選) |
1位 |
アダム・ラガ |
ガスガス |
6 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
シェルコ |
6 |
3位 |
トニー・ボウ |
ベータ |
11 |
4位 |
藤波貴久 |
レプソル・モンテッサ・HRC |
15 |
5位 |
ジェロニ・ファハルド |
ガスガス |
20 |
6位 |
ドギー・ランプキン |
レプソル・モンテッサ・HRC |
26 |
7位 |
シャウン・モリス |
ガスガス |
31 |
PointStandings(ランキング) |
1位 |
アダム・ラガ |
42 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
37 |
3位 |
トニー・ボウ |
35 |
4位 |
ジェロニ・ファハルド |
26 |
5位 |
藤波貴久 |
23 |
6位 |
ドギー・ランプキン |
17 |
7位 |
ダニエル・マウリノ |
4 |
8位 |
シャウン・モリス |
3 |
9位 |
ジェームス・ダビル |
3 |
10位 |
ジェローム・ベシュン |
2 |
11位 |
タデウス・ブラズシアク |
1 |
pix: Pep Segales (Solo Moto) |
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