2005年 インドア世界選手権第第12戦(最終戦)
スペイン・イビサ大会
2005年3月27日/Stadium: SA BLANCA DONA/観客数:2000人
くやしいインドアシーズン終幕
インドアシリーズ最終戦は、日程が二転三転して、3月27日日曜日にバルセロナの沖、地中海に浮かぶイビサ島で開催されることになった。
最終戦にあたって、モンテッサのライダーは、それぞれ出場マシンを選べることになった。アウトドアにむけてテストが進んでいるワークスマシン(藤波はこれを“自分の本来のマシン”と呼ぶ)と、第1戦から暫定的に登場しているスタンダードベースのマシン、どちらで出るかは、ライダーここの選択に任された。ファハルドと同点で、ランキング3位争いがかかっているランプキンは、ワークスマシンを選択した。ランプキンは、前回イギリス大会もワークスマシンに乗ったが、乗り慣れたもの、より自分のライディングにあったマシンに乗りたいのは当然のことだ。
一方藤波は、スタンダードベースのマシンを選択した。もちろんインドアでの戦いに限ってみれば、ワークスマシンで出場したい。しかし地中海洋上にマシンを運ぶには、往復で1週間近く、マシンを手放さなければいけなくなる。この時間が、藤波には惜しかった。来週になれば、スペアも含めていよいよアウトドア本番仕様のマシンが到着する予定だが、現在“自分のマシン”は1台しかない。焦点をインドアに向けるか、来るべきアウトドアシーズンへのよりよいスタートを狙うか、藤波は後者を選択したのだ。
ほぼ満足のいく状態に仕上がっているワークスマシンでじっくり乗り込んだ藤波は、インドア大会でスタンダードベースマシンと再会し、大会に臨むことになる。今シーズン、何度も経験したマシンの乗り換えだ。当初は戸惑いもあり、いまでもできれば避けたいことだが、何度も経験して、だいぶ乗り換えのノウハウも身についている。
ターゲットをアウトドアシーズンに向けたといっても、ライダー心理として、やはり出場する大会でよい成績をおさめるのは重要なことだ。出るからには、悪くても表彰台くらいを獲得したいと、藤波は考えている。そういう上を目指す気持ちがなければ、大会に出ても、得るものがない。しかも今回は、藤波のスタンダードベースのマシンに対して、ランプキンがワークスマシンで出場している。ここでランプキンに負けるのはしかたがないと考えるのはふつうの人で、世界チャンピオンは考える。「ワークスに乗るランプキンには負けたくない」と。
クォリファイのトライはワイルドカードのブラズシアクから始まった。藤波は、最後から二番目のスタート順で、今シーズンを締めくくることになった。7つのセクションを終えて、ブラズシアクが32点、フレイシャが23点、カベスタニーが16点、ラガが10点。今回のファイナル進出のボーダーラインは、10点代後半というところが、先行して走った4人のリザルトから予想できる。
セクションを下見した藤波の見立ても、10点の減点はいたしかたなし、だった。無理っぽいセクションはふたつあった。これがいければ幸いだが、順当にここで5点になったとして、残るセクションをきちんと走ることが、ファイナル進出の条件となる。藤波に先がけて走ったランプキンが23点と、ミスの多い走りを披露した。ファハルドとのランキング争いの手前、なんとしてもファハルドより上位に入らなければいけないというプレッシャーが、ランプキンには見てとれた。しかもライバルは、ランプキンのあとからスタートするのだから、手の内を見られている。ランプキンには分が悪い最終戦のランキング争いとなった。
そして藤波。ランプキンが5点となった第2セクションは1点で通過する。まずまず。次の第3セクションは、結局全員が5点となったもので、藤波も5点。これはこれだ。次の第4セクションが、ちょっとまずかった。このセクション、ランプキンとフレイシャは、セクション最後の飛びつきからのオーバーハングで、アンダーガードを引っかけて登りきれずに5点となっていた。藤波の見立てでは、そんなにむずかしいセクションではなかったので、彼らのこのパフォーマンスはちょっと不思議。しかし藤波は、そのポイントまでたどり着けずに5点となってしまった。セクションインしていきなり、鉄板にアンダーガードを乗っけていこうとしたところが、おそらくは鉄板に対して完全にまっすぐには乗っていなかったのではないかと藤波は分析するが、アンダーガードが滑ってしまった。これでフロントタイヤが落ちてしまって、万事休す。予定外の5点で、状況は苦しくなった。さらにカベスタニーもいけなかった第5で5点となって、3つの5点をかかえてしまって、ファイナル進出はむずかしい状況
となってきた。
ファハルドは、藤波が1点で通過した第2で5点となった。第3では仲よく5点したあと、第4をクリーン、さらに第5セクションで2点。ここはラガとファハルドだけが走破したセクションだった。結局、7つのセクションを終えたところで、藤波は19点、ファハルドは17点。ファイナル進出の最後の席は、この二人が争うことになった。藤波に4点のアドバンテージを持つファハルドは、この大会に出場さえすれば最下位でも2点を追加できるから、ランキング3位を維持するには、藤波は2位以上になる必要があった。かろうじて残っている可能性は、ファハルドが4位以上の場合に、藤波が優勝することで、ランキング3位が手に入る。
ハイジャンプで、ランプキンはさらに減点を増やして、ランキング3位はここで夢と消えた。ファハルドが藤浪に負けてクォリファイ敗退をしても、万一ダブルレーンで転倒して5点を追加しても、ファハルドがランプキンに負けることはなくなったからだ。ファハルドはハイジャンプも無難にこなして、ダブルレーンはファイナル進出をかけて藤波と対戦した。といっても、点差は2点あるから、藤波にしてみたら勝つのは当然で、ファハルドにはもう1点、どこかで足をついてもらわないといけない。ファハルドは、レースに負けても足さえつかなければ、ファイナル進出は確実だ。ファハルドはダブルレーンをゆっくり確実に走った。藤波は、1点差で最終戦のファイナル進出を逃してしまった。
この段階で、ランキング争いはすべて決着した。ファハルドは初めてのインドアシーズンをランキング3位で終え、元世界チャンピオンランプキンがそれに続き、さらに世界チャンピオン藤波がこれに続くという結果だ。
このインドアシーズンは、藤波のみならず、モンテッサの3人には戦いのモチベーションが保ちにくいシーズンだった。いうまでもなく、インドアシーズンを戦いながら、来るべきアウトドアシーズンに向けて、マシン開発に全力を傾けなければいけなかったからだ。
当初、モンテッサのチーム内では、インドアには参加をせずに、ワークスマシンの開発に専念するかという話もあったという。もちろん、現役世界チャンピオンと7回の世界チャンピオンをかかえるチームである。モンテッサが出場しないインドアなんて、楽しみにまっている人たちを考えると、ありえない。スポンサーに対しても申し訳ない。しかしチームの事情としては、インドアへの参加よりも開発をという選択肢も、おおいに考えられたことだったのだろう。
こんな事情だから、この結果もしかたがない、と片づけられるかもしれない。事実、チームの中では、インドアの成績が悪くても、苦しい大会をよくがんばったとねぎらいのことばをかけられた。しかしライダーはそれではおさまらない。理屈ではインドアでの勝利よりも開発が優先とわかっていても、他人が表彰台の真ん中で笑っているのを見るのは、なによりつらい。
今となっては、しかしインドアシーズンを戦ったのは、テストや練習では得られないデータが得られたという点で、おおいに意義があったといえる。やはり試合は、出ないよりも出たほうがいい。
さて、次の週は、スペイン選手権で、いよいよニューマシンがアウトドアを走る。インドアで苦しんだ成果を、アウトドアの結果に期待しよう。
○藤波貴久のコメント
Indoor Trial World Championship 2005
Round 12 |
Final Lap(決勝) |
1位 |
アダム・ラガ |
ガスガス |
8 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
シェルコ |
12 |
3位 |
ジェロニ・ファハルド |
ガスガス |
27 |
Qualificarion Lap(予選) |
1位 |
アダム・ラガ |
ガスガス |
11 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
シェルコ |
16 |
3位 |
ジェロニ・ファハルド |
ガスガス |
18 |
4位 |
藤波貴久 |
レプソル・モンテッサ・HRC |
19 |
5位 |
ドギー・ランプキン |
レプソル・モンテッサ・HRC |
24 |
6位 |
マルク・フレイシャ |
レプソル・モンテッサ・HRC |
24 |
7位 |
タデウス・ブラズシアク |
ガスガス |
32 |
PointStandings(ランキング) |
1位 |
アダム・ラガ |
116 |
2位 |
アルベルト・カベスタニー |
88 |
3位 |
ジェロニ・ファハルド |
61 |
4位 |
ドギー・ランプキン |
59 |
5位 |
藤波貴久 |
56 |
6位 |
マルク・フレイシャ |
43 |
7位 |
トニー・ボウ |
14 |
8位 |
タデウス・ブラズシアク |
10 |
9位 |
ジェローム・ベチューン |
5 |
10位 |
スティーブ・コリー |
2 |
11位 |
シャウン・モリス |
1 |
12位 |
ミケーレ・オリツィオ |
1 |
13位 |
野崎史高 |
1 |
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