2020年 世界選手権第1戦〜第2戦フランス

2020年9月5〜6日/イゾラ2000(フランス)

異常事態の開幕戦。両日6位は異常か正常か

photo9月になって、ようやく世界選手権が開幕できることになった。当初発表されていたスケジュールは全部白紙となり、20年連続開催だった日本GPがスケジュールからはずれ、ヨーロッパ中央部(という言い方があるのかどうかはわからないが)での4戦のみ、その4戦がすべて土曜日日曜日の2日制となる発表があったのは6月だった。

藤波の住むジローナ地方でもロックダウンと称される時期があって、練習はおろか、家族揃って犬の散歩にも出られない、買い物も犬の散歩も一家に一人だけに限るという厳しい時期があった。チームの基地であるモンテッサのワークショップにも行けない、という状況だ。

その一方、まとまった休息と静養ができる、希有な時間を持つチャンスにもなる。この時間をどう活用しどう過ごすか、2020年は、いつものシーズンとは異なった取り組みが必要になった。藤波は、まずは体調をしっかり整え、その上でトレーニングを開始した。去年こそ復調があったものの、ここ数年、開幕時にはなにかしらの体調不良をかかえていた藤波。しかし今年は、身体的不調はほとんどない。過去に痛めた膝や肩など、完全に元通りになっていないところはあるにせよ、それを自分の身体的仕様としての今がある。現在進行形のフィジカルトラブルは、今はない。

遠方に出かけての練習ができていない、スタッフみんなが揃ってのテストが不足しているなどの不安要素はあれど、それはどのライダーとて同じこと。スペインのロックダウンは厳しかったから、抜け駆けで練習に出かけたりすると罰金を科せられるなどのリスクもあったし、練習中にケガでもしようものなら、どんな結末になるかわからない。どのライダーも、最低限の約束であるステイホームを護っていたはずだ。

photoそして9月。今年の世界選手権は、始まるといきなり忙しい。毎週のように3連戦、そして2週間を置いて最終戦。その4戦で2020年が完了する。ただし今年は、久しぶりに全大会が土曜日・日曜日の2日間制。最近は、日本やアメリカなど、ヨーロッパから遠い大会だけが2日制となっていたが、このご時世で、こうやって数を稼がなければ世界選手権としての舞台が整わないということだろう。

フランスのイゾラ2000はイタリアとの国境に近いスキーリゾート。標高も高いのだが、今年の藤波のマシンは、標高が高くてもそのまま走れる仕様になっている。シーズンオフからこの仕様になっていて、ステイホームの間にじっくり乗り込んでいた。

今回のトライアルは10セクション3ラップ。世界選手権は15セクション2ラップがスタンダードだと思われているが、実は総セクション数をある程度一定にした上で、2ラップ制でも3ラップ制でもよいことになっている。3ラップ制の方が、密にならずのコロナ対策には有効かと思われるが、15セクションを作って運営する人手が足りないらしい。これも、このご時世の結果だ。

密にならない対策として、細かいタイムコントロールが定められていた。1ラップの半分の第5セクションでタイムコントロール、1ラップ目にタイムコントロールと、いつもより細かいチェックが予定されていた。これについて、藤波ら選手側は、どう考えても間に合わない時間設定とシステムなので、FIMに何度も変更をお願いしていたが、そのまま開幕戦となっていた。

これまで、大会前日のビッグイベントでもあった予選は、今年はなしになっている。今年から廃止、ということではなく、あれはすべてのライダーや関係者がひとつのセクションに集結するものだから、感染防止対策という意味で、今年はやらない、ということらしい。来年以降はどうなるのかは、今の時点ではわからない。

photoそしてスタート。案の定、1ラップ目から時間が足りない。第3で5点となってしまい、時間がないので第4をエスケープして5点をもらい、しかし第5も5点になってしまい、さらにタイムオーバー1点の減点となった。3連続5点減点は残念だが、時間設定もあるから、この結果もいたしかたなしと思われたものの、ところが第6について下見をしていても、あとから来るはずのボウとラガが、いつまでもやってこない。彼らはしばらくしてからゆっくりやってきて、事情を聞くと、持ち時間が15分延長になったという。なんだそれは?
今まで持ち時間を守ろうと急いでいたのはなんだったんだ。

これは不公平きわまりないとなって、ボウとラガを含む、GPクラス全員がその場でストップして、協議を始めることになった。さすがにこの期に及んでは、FIMもルール的にもおかしな運営だった、問題だったと認めることになって、一度パドックに戻って仕切り直しをするということで、すでにゴールしていた他のカテゴリーを含めて、1ラップ目はキャンセルということになった。

第6セクションから先、パドックへ戻るにあたっては、セクションはトライしてもいいし、まっすぐパドックに帰ってもいいということになっていたので、ほとんどのライダーは練習かたがた残るセクションを走っていたようだが、第9、第10あたりになると、走ってはならぬということになっていた。リザルトの速報では、1ラップ目がキャンセルとなるまでは走ったセクションの結果が発信されていたから、速報を見ていた人たちには混乱が生じたことだろう。事実は、こういうことだった。

ライダーの中には、1ラップ目に絶不調だったライダーもいれば、絶好調だったライダーもいただろうから、一律に1ラップ目キャンセルとなったら、それも不公平ではないかという気がしないでもないが、このへんは他のクラスにどんな説明があったのか、藤波は知らない。

全ライダーが一度パドックに戻って、今日の結果、2ラップ目2時間、3ラップ目2時間ということで競技は再開されることになった。これなら持ち時間的にもなんとかなりそうだ。今シーズンのこの後の試合は、ラップと中のタイムチェックは行なわない、という決定もここで発表された。最初からそうておけばよかったわけだ。とはいえ、再スタートしての2ラップ目にタイムオーバーを喫したライダーは多い。藤波もタイムオーバー覚悟だったが、結果にはタイムオーバーはついてないから、ぎりぎりセーフだったようだ。

photo2ラップ目は、最終第10セクションで、藤波の前にホルヘ・カサレスがいた。カサレスのリザルトを見ると、カサレスは2ラップ目にタイムオーバーを3点もらっている。藤波がカサレスの後にトライするとなると、少なくとも3分あるいはもっとタイムオーバーする可能性がある。がんばってクリーンをしても3分以上のオーバーになるなら、トライせずにゴールしても同じだと、申告5点とした。

各ラップの間には、休憩時間が設けられていた。これはここ数年、世界選手権では通常運転となっているが、1日目にはそれが30分だった。30分のインターバルがあると、なかなか他のクラスと出会うことがなく、渋滞も最小限に抑えられていた。ただし休憩だけで30分、1ラップ目だけでも、途中で協議して、パドックへ帰ってきてまた協議してと、全体に長い長い1日になった。最近の世界選手権は、試合時間を短くする努力が続けられているが、今回はそれが裏目に出て、藤波らはスタートしてから6時間以上も競技を続けることになった。終わったのは、夕方5時半か、あるいは6時にもなっていた。

この日の調子は、すごく悪い、というほどではなかった。減点をとるかどうかは、上がるか上がれないかというケースが多く、上がればクリーン、上がれなければ5点になる。その差が出てしまって、上位進出が阻まれたのだと、藤波は考えている。

この日の敗因は、第5セクションと第9セクションだった。藤波の総減点が29点で、この2セクションだけで20点減点を献上している。それ以外は、まずうまくまとめられていたのではないかと思う。

第5セクションは、上がれるか上がれないかで5点となったわけではなかった。ターンをしながら土に隠れた岩をぽんぽんと越えていくパターンで、うまくタイミングが合えば簡単に上がると思われる。実際、1ラップ目、藤波はこのポイントをするんと抜けている。ところがその先、誰もが抜けているなんでもない、フロントを上げるポイントでフロントタイヤが滑って手が外れて5点になってしまった。

第9セクションは、右から攻略するラインが気になっていたのだが、みんなは左から攻略していた。ウーポンにした状態から登って登ってクリアするラインだ。ウーポンにするので、これはもはやノーストップライディングとは言えないのだが、それでよしとなることも、だめとなることもある。藤波とすれば、そういう問題ではなく、その地形、そのやり方が好きじゃない。藤波自身の、明らかなテクニックの引き出し不足と認める。藤波はこれで、翌日はラインを変えてトライすることを決断している。

結果はカサレスに4点差の6位。20点も棒に振っての4点差だから、5位はなんとかなったかな、という結果だが、藤波的には、4位にはいけたかなと考えている。4位までは9点差。もちろん、あそこがこうだったらここがこうだったら、という話ではあるが、4位の可能性はあった1戦だった。

●2日目・日曜日

photo2日目、1日目とはタイムスケジュールが変更されて、トライアル2とGPクラスのスタートインターバルが5分しか設けられていなかった。最低でも10分はインターバルをあけてほしいとお願いしていたのだが、受け入れてもらえずのスタートになった。ただし2日目なので、みんなセクションはわかっている。流れがそれなりに早かったので、それほどの渋滞にはならなかったのは幸いだった。

日曜日は、土曜日よりも難易度を高めるということだった。トップグループは減点を抑えていて、ちょっとしたミスで試合がひっくり返りかねない。ボウらがこういう設定をきらうというのもあって、一応難度は高くなったものの、第5セクションは1日目とまったく同じだった。いけるかいけないか。そこを藤波は、2ラップ目に1回クリーンできただけで、1ラップ目と3ラップ目は5点になっている。そういうセクションなのだが、その10点が、この日の藤波を決定づけたといっていい。

第5の他、第2セクションでも5点がある。これには、ちょっと言い訳もある。藤波の前をブノア・ビンカスが走っていた。ビンカスはきちんと止まって体勢を整えてからスタートしていた。その直後、同じように走った藤波はストップをとられてあっという間に5点になった。藤波のあと、カサレスが走ったのだが、カサレスもすぐ5点になった。そういう話を聞いていたボウは、ストップをとられるのを警戒して走りに焦りが出て、藤波と同じく2ラップ目に5点になってしまった。未確認情報では、フランスのオブザーバーが1ラップ目に2位のビンカスの肩を持って、ライバルに厳しくあたられたという説もあるのだが、真相は闇だ。フランスでは、よくこういう話になる。

ただしこれが結果に響いたかといえば、5点になって走り続けたその先のポイントで藤波は失敗している。藤波に関しては、採点の疑惑が真実だったとしても、結果は変わらなかったということだ。

この第2と第5が、この日の大きな減点となった。土曜日に鬼門だった第9は、この日はラインを変えて、3ラップとも1点で抜けている。ここでは5点を取っているライダーも少なくないから、この点はうまくいったと思っている。

他、第3セクションはすごくむずかしくなっていた。ここが5点5点3点なのは、いたしかたなし、という感触だった。しかし第4セクションで1ラップ目と3ラップ目に5点になったのは、これはいただけなかった。第4で5点を取っているライダーも少なくないのだが、5点を2回、というライダーは少ない。こういうミスが重なると、10点、20点と減点がすぐに増えてしまうから、悩ましい。

photoそんな中、3ラップ目に問題が発生した。藤波とボウが、時を同じく腕をつり始めてしまったのだ。たまたまそうなったのだろうが、強いて共通点をあげてみると、二人とも肩の腱を切っているので、それが影響しているのかもしれない。2日間続けての大会で体力的にも厳しいし、標高も高い。ラガも途中で痛み止めを飲んでいるのが知られているし、問題は、それぞれみんながかかえているものなのかもしれない。

なんとか走りきって、結果は前日と同じく6位。前日と同じく5位はカサレスで、その差は5点だった。4位まで7点、3位となったボウまでは12点差。なかなかの接戦といっていい。

トップの二人はちょっと抜きんでているようにも思えるか、それでも今回のように、ちょっと調子を崩せばその気に乗じて上位を目指す連中がごろごろいる。そういうのが、7〜8人にはなるのではないか。

2020年大接戦、そんな感触の、開幕戦フランス大会だった。

今年はすごく接戦ですね。ハイメは安定してますね。カサレスはいままでよりだんぜんうまくなってると感じるけど、まぁまぁあんなもん。すごく混戦です。7人・8人くらいはかなり接戦なんじゃないかな?

今回トニーが調子が悪かったのもあるけど、そうなると圧倒的に強いトニーじゃなくなると、チャンスだと気合いが入ってくるんで。そうなるとトニーにもプレッシャーかかるし。

○藤波貴久のコメント

「調子は悪くないと思います。でも、ちょっとミスがあって、両日ともに6位という結果でした。ただ上とも下とも僅差で、すぐ順位がひっくり返りそうです。今年はハイメがちょっと安定してきているようだけど、全体には、今までと大きなちがいはないような気がします。とにかく混戦の中、着実に上位に入れるようにしていかなければいけません。来週、表彰台を目指してがんばります」

World Championship 2020
土曜日
1位 トニー・ボウ (スペイン・モンテッサ) 6   16
2位 ハイメ・ブスト (スペイン・ヴェルティゴ) 11   16
3位 ジェロニ・ファハルド (スペイン・シェルコ) 14   13
4位 アダム・ラガ (スペイン・TRRS) 20   15
5位 ホルヘ・カサレス (スペイン・ガスガス)  25  11
6位 藤波貴久 (日本・モンテッサ)  29  11
7位 ブノア・ビンカス (フランス・ベータ)  33  14
8位 ミケル・ジェラベルト (スペイン・ガスガス)  34  12
日曜日
1位 アダム・ラガ (スペイン・TRRS) 33   19
2位 ハイメ・ブスト (スペイン・ヴェルティゴ) 40   17
3位 トニー・ボウ (スペイン・モンテッサ) 41   19
4位 ジェロニ・ファハルド (スペイン・シェルコ) 46   14
5位 ホルヘ・カサレス (スペイン・ガスガス) 48   12
6位 藤波貴久 (日本・モンテッサ) 53   13
7位 ミケル・ジェラベルト (スペイン・ガスガス) 55   12
8位 ブノア・ビンカス (フランス・ベータ) 59   12
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ (スペイン・モンテッサ)  35
2位 ハイメ・ブスト (スペイン・ヴェルティゴ)  34
3位 アダム・ラガ (スペイン・TRRS)  33
4位 ジェロニ・ファハルド (スペイン・シェルコ)  28
5位 ホルヘ・カサレス (スペイン・ヴェルティゴ)  22
6位 藤波貴久 (日本・モンテッサ)  20
7位 ブノア・ビンカス (フランス・ベータ)  17
8位 ミケル・ジェラベルト (スペイン・ガスガス)  17