2004年9月26日
2004トライアル・デ・ナシオン(コルドバ・スペイン)

 藤波貴久世界チャンピオン獲得でわいたスイス大会から2週間を置いて、スペインの古都コルドバでトライアル・デ・ナシオンが開催された。

 トライアル・デ・ナシオンは、各ライダーが国ごとにチームを組み、対抗する戦い。国籍が同じといっても、いつもはライバルである選手と同じチームとなり、一方、いつものチームメイトがライバルとなる。藤波にとっては、いつものチームメイトであるイギリスのランプキンやスペインのフレイシャがライバルとなり、黒山健一が仲間となる。

 今回の日本チームは、藤波に加え、黒山健一、田中太一、小川友幸の4人。4人とも、藤波にとっては古くからの仲間であり、今ではそれぞれちがうチームで活動をしているとはいえ、気心の知れた友人である。この1年、日本の試合を走ることがなくなった藤波にとっては、彼らといっしょに大会を走ることは、それ自体がなによりの楽しみでもある。

 会場は、コルドバの町の中心地からたったの15分ほどのところにある。トライアル大会の開催地は山奥というのがヨーロッパでも一般的だが、今回はちがう。町を歩けば観光バスに乗った日本人客が列をなしている、そのすぐ郊外でこんな大会が開催されているところに、ヨーロッパとトライアルの関係が現れている。

 金曜日にレディース・ワールド・カップ、土曜日にレディー・デ・ナシオンが開催されて、いよいよ日曜日にデ・ナシオン本番。日本チームは常に表彰台の一角を占める、世界トライアルの重鎮的存在となっている。今回もライバルは、イギリス(昨年・一昨年の優勝チーム。ランプキン、ジャービス、コリー、コナー)、スペイン(2000・2001年の優勝チーム。ラガ、カベスタニー、フレイシャ、ファハルド)の2チームに限られている。

 藤波は、スイス大会のあと、チャンピオン獲得の報告や取材などがあって、充分なトレーニングができているとはいいがたい状態での試合入りだったが、例年デ・ナシオンは、世界選手権とちがって、下位チーム(藤波らと同じセクションを、スェーデンやドイツの選手も走る)のライダーの安全も考えなければいけないので、セクションはやさしめの傾向となる。極限の走りより、よりコンセントレーションの集中が要求されるタイプの設営だ。

 デ・ナシオンでは、独特のスコア計算がされる。ひとつのセクションを4人の代表選手が走り、それぞれのセクションで上位3名の減点を成績とする。ひとつのセクションで4人全員がクリーンなら、そのチームにはクリーンというスコアがつく。3人が3点なら、クリーンがひとつと3点がふたつ、6点がチームのスコアだ。

 誰かがミスをしても、他の3人が完璧に走ればミスは帳消しとなり、細かいミスでもメンバーが同時におかしてしまえばあとあとまで響く減点となる。デ・ナシオンの勝負は、いつもの世界選手権とは別のむずかしさがある。

 チームのスタッフは、いつもと同様。藤波にはジョセップ、アレックス、サンティ。モンテッサチームの3人がつく。ただしいつもは藤波のためだけに働く3人だが、今日は日本チームの一員。黒山にも田中にも小川にも、そのサポートは献身的におこなわれる。デ・ナシオンならではの光景だ。

 デ・ナシオンでは、上記のように、スコアの計算が特殊であるためと、個人戦ではないという名目のため、個人の成績は発表されない。そのため、この日、誰が最もよいスコアで回ったのかは、公式には発表されない。藤波の成績は、1ラップめが5点、2ラップめが9点、あわせて14点。18セクション2ラップで、クリーン29だった(公式発表はないので、本人の記憶による)。第8セクションで、2ラップともに1点をついたのは痛恨の減点となったが、それ以外はいつもの調子をほぼ維持した結果だった。本人の感触としては、これが世界選手権だったら、優勝していたかどうかは疑問だが、表彰台には乗れたのではないかというできあがりだった。

 しかし今回は、スペインがとても調子がよかった。個人で戦っている上では、ラガもカベスタニーもフレイシャも、もちろん若いファハルドも、まだまだミスが多いライダーだし、ひとつのミスで崩れていくパターンも多い。しかしデ・ナシオンでは、ミスを他のメンバーが帳消しにしてくれることで、いつもなら崩れていくパターンが、絶好調を維持する結果となった。

 対して日本は、気温ほとんど40度というスペインの暑さに、ヨーロッパ慣れをしていない日本からのふたりが徐々に調子を崩し、1ラップめに安定的な点差をつけていたイギリスにも逆転を許し、またしても3位という結果に終わってしまった。

 ヨーロッパに戦いの基地を持っている藤波と黒山はともかく、4人のうちふたりが日本からのスポット参加であるところから、2位以上を狙うのはかなりむずかしいとはいえ、今回はスペインはともかく、イギリスに勝つチャンスはあった。しかも2ラップめに調子を落としての3位だから、日本チームとしてはくやしい限りだ。

 さて、これで2004年シーズンの残るスケジュールは、インドア・デ・ナシオンだけとなった。これが終わると、藤波は長く苦楽をともにしたRTL250Rに別れを告げ、新しい4ストロークマシンRTL250Fによる、新たな挑戦を始めることになる。

○藤波貴久のコメント
セクションは、世界選手権に比べると簡単でしたが、去年おととしよりはむずかしかったと思います。特に10セクションは、ぼくも1ラップめに3点、2ラップめはいけると思ったんですが、ポイントの手前で5点になってしまった。このセクションは、むずかしかったひとつです。暑さもかなりのものでしたが、今年世界選手権を戦ってきたぼくや黒山選手にとっては、ふつうでした。こういう環境ばかりでしたから。今回のスペインとは、正直なところ実力差もあったと思いますが、環境のちがいをどう克服するかも、今後の日本チームの課題だと思います。応援してくれたみなさんには残念な結果でしたが、みなさんの暖かいご支援に支えられて、よいチームで戦うことができました。ありがとうございました。

Trial des Nations 2004
1位 スペイン 33(17…12) 106
2位 イギリス 83(43…37) 73
3位 日本 93(34…59) 73
4位 フランス 264(107…141) 37
5位 イタリア 324(166…158) 16
6位 チェコ 355(182…173) 11

Pix:Hiroshi Nishimaki 公式リザルト(PDF)はこちら
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