2004年7月3〜4日
世界選手権第7戦 イタリア(アプリカ)

 アンドラ大会から1週間後、世界選手権はふたたびアルプスの麓に移動した。今度は北イタリア。イタリアでは、スポーツリゾートで有名なところだ。町の標高は1200メートル。セクションは、ここから山の上の標高2100メートルまでに点在している。マシンのセッティングとともに、酸素の薄い開催地で、ライダーのコンディションを維持するのも大きな課題だ。

【土曜日】

 勝てた試合を失った。試合が終わって、藤波の失望は大きかった。

 しかし冷静に考えてみれば、そんなに悪い結末ではない。アンドラ大会までのポイントテーブルでは、2位に14点差をつけていた。それが、この日の試合で16点差に開いている。2位という結果は、そんなに悪いものではない。しかし今の藤波には、勝てる試合を失って2位になるのは、どうしようもなくくやしいものだ。チャンピオンシップのリーダーとしての、あるべき姿なのだろう。

 戦況は、悪くなかった。この日の藤波は1点の減点が多かった。安全にマシンを運んでいくための選択でもあったわけだが、対してライバルのランプキンやラガは、5点がそこそこあった。

 こうして、試合は藤波リードで展開していたのだが、2ラップめの11セクションで、藤波が痛恨の3点をとってしまう。これが、この日初めてのクリーンと1点以外のスコアだった。

 今回のランプキンは、起死回生に必死だった。前回の7位の悪夢を払拭するには、ここで勝利する以外にない。勝ちパターンの藤波にランプキンが食い下がって、結果、わずか1ポイント差で勝利を奪っていった。

 一方、藤波のチャンピオンシップの直接のライバルになったラガは、藤波とランプキンの戦いにはついていけずの3位。トップグループはこの3人に固定化された印象もあるが、これでランキングではランプキンとラガが2位で並んだかっこうだ。

 勝てた試合を失った藤波。今年は、こういったシチュエーションで敗北したことは一度もない。去年までの戦い方を、ちょっと思い出させるような試合展開でもあったのだ。しかし藤波は、翌日に向けて、この日の戦いを冷静に検証した。そして、日曜日は勝てると確証したのだった。

【日曜日】

 トップが1ラップを一桁で回ってきた結果を踏まえて、いくつかのセクションがむずかしめに変更された。しかしそれ以外にも、条件が変化して、全体に難度は増していたといえる。

 この日の藤波は、前日と一転、5点が多い試合運びをした。まず、第4で5点。岩にのぼり損ねるという、藤波にいわせると情けない失敗だ。「やばいなぁ」と思った。しかしその後、藤波がクリーンを重ねていると、ライバルが失敗を重ね、いつのまにか追い付いているという試合運び。この日の藤波はライディングとしては乗れていたという。しかし、失敗が多かった。

 第10、第11と、続けて5点をとったのも、こういう類いの失敗だ。それでも、3個の5点以外のセクションを1点に押さえることによって、1ラップめの藤波は、最後にはトップに立っていた。

 実は、13セクションまで、トップを守ったのは黒山健一だった。黒山がトップにいるのは情報として知ってはいたが、黒山は藤波の当面のライバルではない。このまま黒山が勝利まで突っ走るなら、それはそれでもいいと考え、試合を進めた。5点は多かったが、ナーバスにならずに試合をすすめられたのが、この日の勝因といえる。

 しかし、2ラップめに入っての第1セクション。ここは、トップライダーにとってはクリーンセクションである。ここで藤波はなんと5点を取ってしまった。マインダーのジョセップが、呆然としている。そのジョセップに向かって、藤波の方から笑いかけてしまったという転倒のてん末だった。確かに、第1セクションでの失敗は、藤波にすれば笑ってしまうしかないものだったのだ。

 この5点が状況を厳しくしていったのには変わりない。しかし、この失敗が、藤波の気持ちをさらに引き締めたという効果もあった。一時、ランプキンに逆転されるものの、中盤から後半にかけて確実な走りを守ることで、1ラップめ同様、藤波は勝利に突っ走った。終わってみれば、2ラップめの5点は第1セクションひとつだけだった。

 実はこの日、7月4日は、ともにチャンピオン獲得を誓った故加藤大治郎の誕生日だった。ちょうど表彰式の頃、モトGPでは玉田誠が勝利したというニュースも入ってきた。天国の大ちゃんに、いいプレゼントとなった勝利だった。

○藤波貴久のコメント
土曜日は、とてもくやしい2位でした。アンドラの、とても勝てないという状況での2位獲得と違い、勝てる試合で負けたのがくやしい。日曜日に勝って、2日間を見れば、ランキング2位との差をはなしているのですから、いい結果だったといえるのですが。日曜日は、大ちゃんのお誕生日だったんですけど、ぼくがプレゼントを送るというより、なんだかずいぶん大ちゃんに助けられたという感じです。チャンピオンシップは、残り2大会3戦ですから、少し考えないこともないという段階に来ましたが、タイトルへの計算をするより、ぼくが勝ちさえすばあーもうーもなく決まるのだから、その勢いでいきたいと思います。

World Championship 2004
土曜日/Saturday
1位 ドギー・ランプキン 11(8+3) 23
2位 藤波貴久 12(7+5) 20
3位 アダム・ラガ 25(17+8) 21
4位 マルク・フレイシャ 25(18+7) 20
5位 アルベルト・カベスタニー 36(21+15) 14
6位 黒山健一 37(24+13) 15
日曜日/Sunday
1位 藤波貴久 28(16+12) 20
2位 ドギー・ランプキン 35(18+17) 17
3位 黒山健一 35(19+16) 14
4位 マルク・フレイシャ 38(21+17) 13
5位 アダム・ラガ 48(22+26) 13
6位 アルベルト・カベスタニー 51(31+20) 13
Ranking(残り3戦)
1位 藤波貴久 230
2位 ドギー・ランプキン 211
3位 アダム・ラガ 205
4位 アルベルト・カベスタニー 162
5位 マルク・フレイシャ 149
6位 ジェロニ・ファハルド 128

Pix:Hiroshi Nishimaki 公式リザルト(土曜日)(PDF)はこちら
公式リザルト(日曜日)(PDF)はこちら
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