2004年6月5〜6日
世界選手権第4戦 アメリカ(Duluth)

 世界選手権第3戦、日本大会に続いては、やはりヨーロッパを離れてのアメリカ大会。会場となったダルースは、アメリカ合衆国の北のはずれ、カナダの国境に近いミネソタ州、スペリオル湖のほとりの町。2年前にも、この同じ場所が世界選手権の会場となったことがある。日本大会を終えた藤波は、一度スペインに戻り、アメリカへやってきた。マシンは日本大会を走ったものとは別に、すでにアメリカに送っておいたもの。スケジュールがきついので、2台のマシンを交互に使うことになったのだが、微妙な感触が重要なトライアルのこと、すべてを藤波の好みに合わせてあるが、アメリカに送ったマシンが、いつものメインマシンとは少し感覚がちがうのは否めない。

【土曜日】

 日本大会で自身はじめてのパーフェクト優勝を果たしての勢いが本物かどうか、それを実証して見せる舞台がこのアメリカ大会だった。

 マシンは、今シーズンのインドアシリーズで使っていたもの。インドアとアウトドアでは、エンジンの性格など、微妙にセッティングがちがう。もちろん各部仕様はアウトドアの仕様にしてあるし、藤波の好みに合わせてある。それでも、微妙な乗り味のちがいはある。それに、インドアシリーズが終了してから、このマシンで大会に出場するのは久々だ。加えて標高が考えていたより高くなかったこともあって、マシンの準備段階では、少しばたばたすることになった。

 しかし今回の藤波は、藤波自身についてはすこぶる調子がいい。鎌田トレーナーも、前回日本大会に続いて会場に同行し、フィジカル面の管理は完璧。アメリカについた頃から少し風邪ぎみなところが気になってはいたが、それも結果的には、まったく問題ではなかった。

 金曜日に下見をした時点では、セクションはとても簡単で、これではとても勝負がつかないと、ライダーから主催者に嘆願書を提出した。これでセクション設定も少し難しめに修正されることになった。

 今回のスタート順は最後から2番目。今回はAクラスライダー(今シーズンポイントを獲得しているライダー)が14人、スタート順は6人ずつ行うことになっているので、ふたり余る。それで藤波は、ランプキンとふたりで、最終スタートかそのひとつ前のスタートかを争うことになったのだが、この2分差は、事実上ほとんど無視していいものだった。

 明けて土曜日は、朝からかなりの雨降り。それもじゃんじゃん降りだ。設定が難しめになったのも合わせて、セクションはかなり強烈なものになった。雨は降り続き、泥の部分はどうしようもなく滑りまくり、3点で抜ける以外にはなかったが、しかし雨が降り続いたおかげで、泥が洗い流されてグリップがよくなっていた場所もあった。

 藤波の1ラップ目は、たくさんの失敗があった。増水で誰も走れなかった第9セクションをのぞいても、第5から12セクションまでクリーンがない。この日の勝利など、とても望むべくもない状況で、トライを続けていた藤波だった。はっきりいって、乗れているとはいえない。

 ところが1ラップ目を終えてほかのライダーの点数を見ると、藤波の減点は思ったほど悪くなかった。というより、ほかのライダーの減点もかなり多い。トップはランプキンの24点で、2位がジャービス26点。藤波はこのふたりに次ぐ、27点だった。

 ここで藤波は気持ちをリセットするべく努め、以後、周囲の減点は気にせず、自分のベストを尽くすことに専念した。

 実はライバル、ランプキンは、2ラップ目の第3セクションで、マシンをこわす大クラッシュをした。ここは4mはあろうかというステアに飛びつくもので、ランプキンはここでフロントから激突して、フロントフォークをマウントするブラケットが割れるなどのたいへんな事態になっていた。ほとんど同じペースで試合を回っている藤波も、ランプキンのこのクラッシュは目撃していた。しかしだからといって、ランプキンが脱落するとは限らない。逆に、こういった逆境から、がしがしと上昇してくるのがチャンピオンの底力だから、あなどれない。なんだかんだといっても、藤波が警戒する相手は、ランプキン。しかし今日は、ランプキンのクラッシュをただ目撃しただけで、これで自分が有利になったなどとは考えなかった。ひたすら自分の走りに専念をした。

 結果、2ラップ目にトップスコアをマークしたのはラガだった。しかし藤波はラガにわずか1点差。トータルでは、4点差でこの日の勝利を獲得した。しかし会心の勝利とはいえない。終わってみれば、ランプキンが大クラッシュをし、その後もいつものランプキンらしからぬ、乱れた走りを続けていたし、乗れていない実感がある中でつかんだ勝利は、藤波にすればかなりラッキーな勝利だった。こういう勝利は、これまでの藤波の経験の中でも、ほとんど初めてのことだった。
 
【日曜日】

 競技時間いっぱい降り続いた雨は、競技が終わる頃になって止んできて、表彰式の頃には晴れるまでにもなった。翌日曜日はいい天気だった。セクションはいくつかは少し簡単になり、いくつかは少し難しく設定されなおされた。トータルでは、難しくなったのか簡単になったのか、簡単には判断が下せない。藤波の見立てによると、特に1ラップ目は、前日よりも滑る印象があったという。

 この日は、出だしが悪かった。第2セクションで5点となったときには、これはちょっとやばいのではないかという思いもなきにしもあらず。今シーズンの藤波は、ここでしっかり気持ちを切り替えるメンタルコントロールを身につけた。しかしそれでも、藤波は自分のペースに乗りきれずに、1ラップ目を消化することになる。結果的に、1ラップ目はラガに2点差のトップだったが、絶好調というわけではなかったのだ。藤波が5点になった直後の第3セクションでは、今度はランプキンが5点になっている。藤波、ランプキン、ラガ。3人の争いは、一進一退という感じで、し烈だった。

 ややリードをとっていたのはランプキンだったが、この日もランプキンにアンラッキーな事件がふりかかった。1ラップ目13セクション。ランプキンは、変更になったゲートマーカーを見落として、クリーンセクションで5点を加えてしまったのだ。

 しかしこれで、藤波のリードが安泰というわけではない。相手は7回の世界チャンピオン、ランプキンだし、過去2回のインドアチャンピオン、ラガだ。接戦になるにちがいないという読みから、藤波は彼らをマークして2ラップ目を戦うことに決めた。スタート順は一番最後だから、ライバルの走りをじっくり観察しながら走っても、タイム的には間に合うわけだ。

 藤波の思惑がややちがったのは、こういった神経戦になって、なおライバルたちが一歩も崩れず、クリーンの山を築いていったことだ。第2セクションでは藤波、第3セクションではランプキンとラガが、第5では3人が3人とも1点ずつ減点を献上し、さらに第7では藤波とラガが1点ずつ……。精神的に弱みを見せたものが、今日の勝負は負け組になる。藤波は、耐えに耐えた。そして減点は、この3点のみ。2ラップの成績では、ランプキンが2点でトップ、藤波とラガが3点で同点。この次に並ぶのはボウの15点だから、いかに3人がレベルの高い戦いをしていたのかがわかる。

 神経戦を制したのは、藤波だった。ランプキンとラガに2点差。彼らは同点だったが、クリーン数でランプキンが2位となった。

 日本大会に続いて、2日連続の優勝。しかし藤波には、まだまだ大きな目標がある。優勝があたりまえのことになり、今パーフェクト優勝もふつうのこととなった。藤波が大喜びをするのは、今日ではない。

○藤波貴久のコメント
今回は、ぼくが2日間優勝できたのとならんで、ランプキンが土曜日に4位になったのがなによりラッキーでした。土曜日は、あれ? 勝っちゃった、というような勝ち方で、あんまり勝利の実感がありませんでした。日曜日は、自分から勝ちにいって、1ラップ目にリードをして、そのリードを守っての勝利ですから、うれしかった。でも、みんなから「4連勝!」と言われても、あんまり大喜びする気にはなりません。そういえば4連勝なんだなぁと思う程度です。まだまだ試合はいっぱいあります。今回はぼくにとっていい大会でしたけど、やっぱり最後に笑いたいですから。

World Championship 2004
土曜日/Saturday
1位 藤波貴久 45(27+18) 11
2位 グラハム・ジャービス 49(26+23) 8
3位 アダム・ラガ 52(31+17+4) 12
4位 ドギー・ランプキン 53(24+29) 13
5位 アルベルト・カベスタニー 69(39+30) 6
6位 マルク・フレイシャ 77(45+32) 8
日曜日/Sunday
1位 藤波貴久 15(12+3) 21
2位 ドギー・ランプキン 17(15+2) 23
3位 アダム・ラガ 17(14+3) 21
4位 アルベルト・カベスタニー 33(16+17) 18
5位 アントニオ・ボウ 35(20+15) 14
6位 グラハム・ジャービス 44(27+17) 16
Ranking
1位 藤波貴久 141
2位 ドギー・ランプキン 131
3位 アダム・ラガ 124
4位 アルベルト・カベスタニー 100
5位 マルク・フレイシャ 94
6位 ジェロニ・ファハルド 79

Pix:Mario Canderone 公式リザルト(土曜日)(PDF)はこちら
公式リザルト(日曜日)(PDF)はこちら
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