2004年3月13日
インドア世界選手権第9戦 スペインGP(Granada)

 ロシア大会が中止となって、全11戦となった2004年のインドア世界選手権。スペインのグラナダを舞台とした第9戦は、まず1分間の黙祷から始まった。直前に起こった、マドリッドでの列車爆破テロに対してのものだった。

 その静寂ののち、イベントが始まるや、会場全体にはラガがチャンピオンを獲得するかどうかという期待がこもっていた。インドアトライアルでは、1位には10点、2位に8点、3位6点、以下5、4、3点と与えられる。6人の固定メンバーによる選手権だから、出場さえすれば、最下位でも3点は獲得できる。ラガのリードは、2戦を残したグラナダを前にして20点。ラガがタイトルを獲得するのは、すでに既成事実に近いものだった。

 藤波貴久にとっては、ラガのチャンピオン決定を祝おうとする会場の雰囲気は、完全に逆風。ラガがひとつセクションをクリーンすれば、チャンピオンが近づいたと大騒ぎし、ライバル(ドギー・ランプキンと、藤波貴久だ)は“ラガのチャンピオンをじゃまする抵抗勢力”として観客席の前に姿を現すことになる。

 今回はカベスタニーが第1スタート。ジャービス、フレイシャと続き、藤波はラガの前、5番手スタートとなった。

 カベスタニー、ジャービスのトライを見ると、ほとんど失敗がない。8つの採点セクション(持ち時間は10分)のうち、ふたつだけ不可能に近い(チャンピオンプラグがスポンサーとなったひとつは、まったく不可能だった)セクションがあったが、その他はかなりのクリーンセクションだった。ということは、クリーンセクションでほんの少しのミスをすれば、決勝に進むのさえもむずかしくなるということだ。藤波は、気持ちを引き締めてクォリファイラップに挑むことになった。

 しかし藤波の直前にトライしたランプキンは、なんとほかの誰もがクリーンした第2、第3で5点となった。第2セクションは、誰でも誰でも行けるだろうという2段の段差の2個目の段につきささるという失敗。さらに第3セクションではアンダーガードをひっかけた際にエンストするという失敗をおかしてしまった。これを見て、藤波が少しだけ気を楽にトライには入れたのも事実だった(ちなみに不調のランプキンは、しかしみんながクリーンできなかった『タイムフォース』がスポンサーとなった第6をクリーンしている)。

 クリーンすべきところはしっかりクリーンし、藤波の採点セクションの成績は10点。この後、ハイジャンプとふたつのダブルレーンが残っているが、これは藤波の得意パターン。ランプキンの予選落ちと、藤波のファイナル進出はこの時点で濃厚になってきていた。藤波は、いい調子でクォリファイを走り抜くことができたのだった。

 ダブルレーンを、藤波はラガと戦った。今回は珍しく、ふたつのダブルレーンのうちひとつで、藤波がラガに負けた。ラガがそれなりに速かったのと、藤波が折り返しのターンで行きすぎて、素早いターンの体勢には炒るのが送れたのが敗因だった。ダブルレーンが得意な藤波とはいえ、ミスを犯せばすんなりとは勝たせてもらえないのが、このレベルの戦いだ。

 ファイナルラップでは、第2セクションで明暗がわかれ始めた。フレイシャが1点ついたポイントは、斜めから左に飛び移るというもの。フロントをあげるのが、かなり困難な設定だった。だからフレイシャは足をついて、フロントを置くべきところまで運んでここを走破していた。しかし藤波は、足をついて走破するという意識がまったくなかった。クリーンができると信じてトライに入った藤波は、そのとおり、斜めのポイントから見事にフロントを浮かせることに成功した。しかし次の瞬間、リヤが滑り落ちて、そのまま転落してしまった。藤波のこの失敗を確認したラガは、フレイシャと同じく、足をついてマシンを進める手段をとった。

 ここで一気に4点差をつけられた藤波。藤波が失敗して、ラガのチャンピオン獲得劇が近づいたと大喜びする観客と、それをあおるアナウンサー。日本人は、藤波ひとりだ。この5点で、精神的に多少動揺したという面もあった。逆風の中、藤波のモチュベーションは、知らず知らずのうちに低下していたのかもしれなかった。

 その後は、徐々に点差が開いていくライバルを追い詰めあぐね、いつもの藤波らしくない弱気のトライを続けてしまった結果が、今回の3位というリザルトの背景だ。

 今回、ランプキンが最下位の6位となったことにより、ランキングでは藤波が始めて単独のランキング2位に躍り出た。その点数差、3点。ランキング2位を守るためには、今回は少なくとも2位に入って、ランプキンとの点数差を5点に広げておきたかったということだが、残り2戦は、ほぼ振り出しに戻ってランキング2位争いが始まることになる。

 シーズン序盤では、ファイナルに安定して進出できていることが大きな収穫だった藤波だが、ここへきて、すでに藤波はそんな自分の心境をすっかり忘れてしまっている。まして、ファイナルに進出できないで低迷を続けていた去年のインドアシーズンのことなど、まったく思考の外だという。

 今は、ドイツ大会に続く、2勝目が切にほしい藤波である。残るインドアシリーズ大会は、3月19日にフランス、その翌日に再びドイツ。そしてそのドイツ大会が、今年のシリーズの最終戦となる。

○藤波貴久のコメント
ここまで来ると、ラガのチャンピオンはしかたないとは思いつつ、自分以外の誰かがチャンピオンになるというのは気持ちよくないです。スペインで、ラガの応援がすさまじい中で、ラガのチャンピオンが決まるというのはなおさら気持ちよくないですから、今回はなんとかラガのタイトル獲得を阻みたかったんですが……。ドギーとのランキング争いは結果としてついてくるものとして、とにかくラガに勝ちたい。残り2戦は、ランキング2位を守るより、ラガを破って勝利するために、戦います。

FIM Trial World Championship 2004
Granada's Palacio de Deportes
Final Lap(決勝)
1位 アダム・ラガ 17
2位 マルク・フレイシャ 21
3位 藤波貴久 27
Qualificarion Lap(予選)
1位 アダム・ラガ 9
2位 藤波貴久 11
3位 マルク・フレイシャ 13
4位 グラハム・ジャービス 16
5位 アルベルト・カベスタニー 17
6位 ドギー・ランプキン 21
Ranking
1位 アダム・ラガ 84
2位 藤波貴久 60
3位 ドギー・ランプキン 57
4位 マルク・フレイシャ 44
5位 アルベルト・カベスタニー 43
6位 グラハム・ジャービス 36

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