今回のフランス大会は、標高が1600m〜1700mの、かなりの高地での開催となる。高地は空気が薄く、パワーもでない。その影響の出具合によって、結果にも大きな影響が出てくる。
ポルトガル大会のあと、チームはアンドラにテストに出かけた。新しいパーツが届いていて、それをテストしつつ、標高の高い会場での対策を探ろうということだ。新しいパーツは、ポルトガル大会の前に届いていたが、それを実戦で使うにはあまりにも時間がない。今回も、トニーはこの新パーツを使わず、従来仕様でフランス大会に臨むことになっていた。
しかし藤波は、この新しい仕様にかけてみることにした。テストをしていても、いいこともあり、やはりネガティブ要素もあった。けれどテストはテスト。最終的には実戦に使ってみないと、本当の善し悪しはわからない。新しい仕様はパワー的には安心感があったので、高地での大会に向けて、この仕様を選んだのだ。エンジンを載せ変えての仕様変更だから、一か八かの選択となるのは承知済みだった。テストをしたといっても、パーツの交換をしたりしているから、実質的に乗ったのは1時間か2時間か、圧倒的に乗り込みが足りないし、データがない中での選択だった。
さて予選。Q1は、悪くはなかった。5位。藤波は、予選は5番手くらいがいいなと考えていた。だから5番手というQ1の結果は、悪くない。
ところがQ2が始まるや、Q1で5点となっていたファハルドが、Q2は確実に走るのかと思いきや、真っ先に走って好タイムをマークした。藤波は5番手がいいといいつつ、ファハルドの後ろでトライをしたいという思いもあった。しかも、ファハルド以外のみんなも、意外に速い。これは、ちょっと攻めて走るしかないということになった。5番手を狙ってタイムを調整するのはむずかしい。もし結果2番、3番になってしまったら、それはそれでしかたがない。そんな覚悟で藤波はQ2に臨んだ。
そして藤波のQ2。けっこういいタイムで走れていた。おそらく2番手か3番手のタイムで走れていたのではないだろうか。ところが最後のポイントで、前転してしまった。それで予選は8位、ということになった。
前転したラインは、Q1とは異なり、よりタイムが稼げるものだったが、それゆえのリスクもあった。トニーの走り方を見ると、最後のポイントを抜ける前に、岩の上に前後輪を乗せて一瞬安定をとってから抜けているのだが、藤波は後輪を着地させると一気に次のポイントに向かって走り抜けようとした。それが前転につながった。
ところが、この順位では、前を走るライダーがちょっと心もとなかった。先頭を走るよりは断然いいが、セクションの最後まで走ってくれなければセクション全体の参考にはならない。結局、自分の走りをするしかなくなった。
藤波は、しかし序盤は好調だった。第7セクションまでを全部クリーン。藤波は、第7までは全部クリーンしなければ勝負にならないと考えていた。セクションがぐんとむずかしくなるのは第9から。そこまではオールクリーンをしてふつう、というわけだ。
第8は、最後の最後で1点をついてしまった。しかし第9は、誰も抜けていなかったところを、初めてクリーンした。悪くない。
ちょっと失敗だった、と藤波が思うのは、第14だ。藤波がここを走る時、前には誰もいなかった。というのは、藤波が第9にいる時、第10でジャック・プライスが大クラッシュをして、肩がはずれたとかで流れが止まっていた。藤波が第9を終えて第10に移動する頃、事態はようやく収束し、プライスは起き上がって先へ進んでいたのだが、そこで待たされていたライダーからは持ち時間についての不満が出る。それで待たされたライダーには、10分のタイムが与えられることになった。ところが、そのときにちょうどそのセクションにやってきた藤波には、その10分は与えられないという。「えーっ」となったが、いたしかたない。ということは、そこにいたライダーと比べると、藤波だけ10分持ち時間が少なくなる。それで急いで先へ進んだので、それ以降のセクションでは、先行したプライスについでの2番手ということになってしまったのだ。その時点で、1ラップの残り時間は15分くらいしかなかった。
それで第14はラインが見えず、藤波一人だけちがうラインを走って5点となった。これは失敗だった。
それでも1ラップ目の減点は13点。トップはボウの7点(+タイムオーバー1点)、2番手がブストで12点(+タイムオーバー1点)。藤波は3番手だった。しかしこの頃、別の問題が発生していた。新しい仕様のエンジンの調子が、少しずつ変化してきた。長い時間を走った実績がないから、こういうことはあり得るのだが、これは困った。
1ラップ目と2ラップ目のインターバルの20分で、パーツを交換することはできる。しかしなんせ実績のないパーツだ。従来型ではこの20分で交換すべきパーツが洗い出されていたが、この新仕様ではそのデータがない。交換したほうがいいのか、もしかすると交換するともっと状況が悪くなるかもしれない。結果、2ラップ目も1ラップ目と同じく、そのまま走ることになった。
しかし、変調は進んでしまった。第2セクションくらいから、おそろしくコントロールがむずかしいエンジンになってしまった。もうしかたがないから、そのまま走るしかないのだが、第3で3点となってしまうし、1ラップ目に抜けられた第9や第12も5点になってしまった。1ラップ目を13点で抑えたのに、2ラップ目はあっという間に20点以上の失点をとってしまった。第9以降はマシンが完調でもいけるかどうかが微妙なセクションばかりだから、調子が崩れてしまうと、厳しい。しかしそれも、藤波自身の選択だった。
2ラップ目、藤波より上位のライダーは、みな減点が一桁だった。ファハルドの1ラップ目は藤波より10点も減点が多かったが、2ラップ目に追い上げてきて、結局6点差で4位を奪われてしまった。
終わってみれば、今までの仕様で走ればよかったのか、という思いもあり、とても悔しい大会となった。終わってから、トニーの従来型と藤波の新型と、お互いに乗り比べて確認作業をしたりもした。試合結果は悔しいが、テストはテスト、実戦は実戦。今回実戦を走ったことは、大きな実績となったし、今後のための大きな前進となっている。勝負をしにいって負けたのだからしかたがない。それでも、悔しい。
これで世界選手権も残り1戦となった。もてぎの日本大会のあと、5週間に4大会があって、忙しかった。次は9月まで、世界選手権は長い夏休みとなる。しっかりリフレッシュをして、最後の戦いに臨むつもりだ。
「一か八かにかけて、こういう結果になりました。1ラップ目の結果など、助けられた部分もあったと思います。パワーもでているし、今回は標高が高いところの会場だったので、使う決断をしたのですが、安定性の実績はなかったし、今までの仕様と圧倒的なアドバンテージがあったかというと微妙で、判断がよかったのかどうなのかはむずかしいです。1ラップ目はファハルドの上にいたのに、追い上げられてしまって、残念な結果となりました。でもこれが勝負です。残り1戦、しっかり戦います」
日曜日 | ||||
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1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 9 | 26 |
2位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ヴェルティゴ | 23 | 24 |
3位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 25 | 20 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 30 | 21 |
5位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 36 | 21 |
6位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 42 | 17 |
7位 | ミケル・ジェラベルト | スペイン・シェルコ | 45 | 18 |
8位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 54 | 14 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 140 | |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 113 | |
3位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 95 | |
4位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 88 | |
5位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ヴェルティゴ | 77 | |
6位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 68 | |
7位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 65 | |
8位 | フランツ・カドレック | ドイツ・TRRS | 53 |