2019年 世界選手権第4戦オランダ

2019年6月23日/ゼルヘム(オランダ)

インドア風セクションで4位獲得

photo日本GPで両日3位に入ったあと、ヨーロッパへ帰って最初の戦いはオランダだった。

オランダは、この40年世界選手権を開催していないということで、参戦23年になる藤波もオランダで世界選手権を戦うのはこれが初めてだ。山のない真っ平らな土地というのはわかっていたが、大会が近づくにつれ、平地に人工的に岩を置いただけの、限りなくインドア設定に近い大会だということがわかってきた。その岩も、どうも自国のものではなく、よその国から運んできたもののようだ。いつもなら、予選や第1セクション、最終セクションなど、お客さんの見やすいような一部のみがこういう設定で観客受けするエリアに設定されているが、今回のオランダに限っては、すべてのセクションがこんなふうだった。

ご存知の通り、藤波はインドアトライアルが好きではない。好き嫌いというより、結果を見て一目瞭然、得意でない。試合のチャンスも多くないし、専用の練習も、スペイン勢と比べると圧倒的に少ない。インドアの大会に招かれたりすれば、いい走りを見せたい、いい結果を出したいと思うものの、現状では自分のトライアルの比重を、これ以上インドアに傾けようとは思っていなかった。それがこの設定だから、正直、気持ちは明るくない。まして、アウトドア世界選手権はノーストップだ。インドアシーズンにおこなうインドア練習は、当然ストップルールでやっている。ノーストップのインドアなんて、まったく経験がない。

photo事前に、人工的セクションばっかりだよ、と聞いてはいた藤波だが、現地へ到着してびっくりした。ここまで完全に人工ばっかりとは思わなかった。想像を絶する人工だ。これは最悪だな、と藤波は思った。試合前、こんな設定での戦いだから、インドアの得意なライダーが(それは主にスペイン人であるはずだ)調子がよかったら、6位とか7位とか、あっという間に9位くらいになってもぜんぜんおかしくないね、なんて話をしていた。もちろん後ろ向きな悪い冗談だけど、がんばって優勝するとか表彰台を狙うというのは、あんまり現実味がないのは確かだった。

ともあれ、レースウィークの週末が始まって、予選1回目は3位だった。特にタイムを狙ったわけではなく、淡々と走っての記録だった。このまま、みんながタイムをあげられなかったらこんな順位で明日は走れるかなと多少希望を持ったものだったが、ところがQ2が始まるや、みんながんがんタイムをあげてきた。これでは、ふつうに走ったのではおもしろくない。よりよいタイムを狙ってアタックするしかない。

いい調子で走り、最後のポイント。二段ステアを上がり、右に折り返して着地すればほぼゴール。ところが二段を登って折り返す際に、フロントタイヤが上がりすぎてしまった。そのまま下ったのでフロントフォークが全屈していて、ショックを吸収してくれる状態ではなかった。もうちょっとゆっくり走れば無事だったのだろうが、それではタイムアタックにならない。足を出してバランス修正する手もあるが、1点を失ったら5点になるのもいっしょだ。足は出さず、そのままゴールへ向かった藤波だったが、岩の周囲に敷き詰められた細かい砂にフロントをとられて万事休す、5点となった。トップタイムはトニーの38秒台。転んだときの藤波が38秒台だったから、間一髪無事に走りきっていれば、予選2位か3位にはなれただろう。これで、藤波の記録はQ1の結果が生きることになったのだが、予選は10番手となった。残念。

photoただし翌日になり、試合が進んでみると、トップグループは試合自今のコントロールに苦労していた。トニーが言うには、どんなに急いでも持ち時間に余裕ができず、タイムオーバーをしてしまった、ということだ。藤波も、持ち時間はぎりぎりだったが、タイムオーバーの心配はなかった。結果を見ても、トップ5でタイムオーバー減点がないのは藤波だけだ。予選の失敗は、結果オーライだったかもしれない。

持ち時間以外にも、今回の会場特有の事情もあった。人工セクションだから、地形が極端に変わることはない。もちろん、岩の手前の砂地にわだちがついて、ちょっとしたジャンプ台のようなものができる、という変化はあったけれど、それをさしひいても、時間に多少でも余裕があるほうがメリットが大きかったと藤波は考える。もちろんこれは、試合が終わってからそう思った、ということだ。

セクションは、どこでも5点になれるが、どこも攻略不可能ではなかった。インドアセクションの常で、ひとつポイントを抜けられればあとは簡単、という設定が多い。そこがいけなければ5点になるが、走る前から不可能がわかっていたり、3点で抜けられればラッキーだな、というセクションはひとつもない。

そんな中、結果的には第12セクションだけは、2ラップとも5点になっている。二段になっているところを、藤波はひとつずつ、ちょっとためを作ってから走破しようと思ったが、ぎりぎりのところでいけなかった。

photo2ラップ目、途中、トニーといっしょに下見をするチャンスができたので、ここの行き方を聞いてみると、流れる感じでポンポンといったほうがいいよ、ということだった。それで2ラップ目は、トニーのアドバイス通りに言ってみようと考えたのだが、まったく惜しいこともなくいけなかった。

トニーにはトニー独特の行き方がある。それをまねしてうまくいくものではない。トニーの感覚を自分の感覚に当てはめるのは無理があると、重々承知のはずだったのだが、あらためてそれを思い知らされた。もし1ラップ目と同じ行き方でトライしていれば、1ラップ目がぎりぎりだったから、うまく走破できていた可能性は充分にあると、藤波は思っている。

1ラップ目の第9は、結果キャンセルになった。藤波はここをクリーンしている。ハイメ・ブストやジェロニ・ファハルドは5点になっていた。なにが起こったかというと、大きな岩が動いてしまったのだ。あぶないぞ、岩が動いているぞ、という話は出ていたのだが、なんとなくそのまま競技が続き、しかし最後にトライしたトニーのときに、がさがさっと崩れてしまった。これで協議となり、第9セクションはキャンセル、ということになったのだった。このセクション、トニーは5点になっているが、そのスコアが生きていたら、あるいはトニーの勝利はなかったかもしれない。そんな意味を持っていたのだが、藤波としてはクリーンをひとつ損したことになった。

photoスタート順が早いので、点数を単純比較することはできない。終わってみて、さらにみんながゴールをして、初めて順位が確定する。同じペースで走っているライバルがほとんどいないから、しかたがないことだ。1ラップ目は6位だったから、5位くらいになれればいいかなと思っていると、後続がちょんちょんと減点したり5点になったりして、4位まで浮上した。今回はホルヘ・カサレスが調子がよかったが、カサレスは14、15で連続5点をとっているから、それが藤波の4位につながった。

とはいえ、藤波にももしああだったら、というのはいっぱいある。2ラップ目の第7セクション、テープに触ったら、テープが杭にきちんと巻かれていなくて、ひらひらと飛んでいってしまった。これはセクション側の管理不行き届きだ。オブザーバーもそれは認めていて、テープが飛んでったから5点にしておくけど、終わってから話し合いをしましょう、ということになった。

ただ、終わってみて3位との減点差を見ると9点もあるから、これがひっくり返っても4位は変わらない。なので話し合いはしないでおいた。それ以外にも、キャンセルになった1ラップ目の第9とか、トニーの行き方で失敗した第12とか、もしかしたら結果がちがったのではないかということはいつくかあった。

photoけれど、それがトライアルだ。ライバルにも、もちろんそんなことがあるだろう。むしろこの日の藤波は、3位になれたのに4位に甘んじた、というより、この状況、このコース設定で4位になれたのだから、いい結果だったと心底思っている。

逆境の中でも、順位をできる限り落とすことなく守っていくのは、選手権を戦う上で、なによりも重要なことだ。

○藤波貴久のコメント

「セクションを見たときには、ほんとにぎょとする感じでした。予選も悪かったし、いい状況とは言い難い戦いでしたが、4位になれたのは、本当によかったと思います。予選10番手から、そして苦手なインドア設定でのこの結果ですから、優勝したのと同じ、とは言わないですが、それに近い満足感は持っています。来週はベルギー。今度はナチュラルな設定なので、オランダとちがって、希望を持ってがんばりたいと思います」

World Championship 2019
日曜日
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 6  28 
2位 アダム・ラガ スペイン・TRRS 14   22
3位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ガスガス 19   25
4位 藤波貴久 日本・モンテッサ 27   22
5位 ハイメ・ブスト スペイン・ヴェルティゴ 28  22
6位 ホルヘ・カサレス スペイン・ヴェルティゴ 32   21
7位 ジェイムス・ダビル イギリス・ベータ 50   16
8位 フランツ・カドレック ドイツ・TRRS 52   15
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 80
2位 アダム・ラガ スペイン・TRRS 64
3位 藤波貴久 日本・モンテッサ 53
4位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ガスガス 52
5位 ジェイムス・ダビル イギリス・ベータ 41
6位 ハイメ・ブスト スペイン・ヴェルティゴ 40
7位 フランツ・カドレック ドイツ・TRRS 35
8位 ブノア・ビンカス フランス・ベータ  32