ブダペストに続いて、2019年2戦目のXトライアルは、スペインはカタロニア州の州都、バルセロナ。バルセロナは、ほとんどすべてのライダー、すべてのチームにとって、特別な戦いだ。バルセロナ出身のライダー、バルセロナ(とそのごく近所)に拠点を持つチームはたいへんに多い。そして世界で最もトライアル熱が高いのも、バルセロナだ。そしてそのバルセロナで、ワイルドカードととしてスタジアム側の推薦枠で出場の機会を与えられたのが藤波。藤波はこれでバルセロナ大会18回目の出場となる。もちろん、どのライダーよりも多い。トライアルのメッカたるバルセロナで愛されていることが、藤波とトライアルの強い絆を物語っている。
さて、今回も9名の参加者のうち、5名がノミネートライダー。とはいえ、ケガのため前回は欠場していたミケル・ジェラベルトが復活してきて、5名のノミネートライダーは今回が(今年)初めてとなる。スタート順はランキング順だから、今回初出場となるジェラベルトが真っ先にスタートするかと思いきや、ノミネートライダーはノミネート枠でスタートする。今回真っ先のスタートはルカ・ペトレーラ。続いてホルヘ・カサレス、そして藤波がスタートとなる。その次が前回3位表彰台のジェロニ・ファハルド、ジェラベルトと続く。
ラウンド1と呼ばれるいわゆる予選は、5セクションを5分以内に一気に走る。1セクション1分と考えれば時間的余裕を感じるかもしれないが、1セクションを走り終わって休む間なく次のセクションにトライしなければいけない。体力的に要求されるものは、そうとうに大きい。さらに、時間がないという精神的プレッシャーが、ライディングに迷いを生じさせたり、緊張からフィジカルを追いつめたりする。Xトライアルの最初の試練だ。
ブダペストに向けて、インドアのあまり得意でない藤波は、努めてインドアセクションの練習に精を出していたが、それでもブダペストではフィジカルの対応不足を感じさせられていた。それでバルセロナに向けては、充分心拍数をあげた状態で、5分間続けてインドアセクションを走る練習を繰り返すなどして、Xトライアル対策をしてのスタジアム入りとなった。
先行するペトレーラ、カサレスのトライは、ほとんど見られなかった。からだをあたためるためもあって、ウォーミングアップをがっつりやろうと決めていたので、トライを見るよりそちらに時間を使うことにした。とはいえ、競技の進行はライダーのトライによって異なる。5分以上費やせばその時点でタイムオーバーとなり、残ったセクションは全部5点となるのだが、5セクションすべてをセクション入口で5点になった場合は、2分もかからずにゴールしてしまうかもしれない。だからウォーミングアップをしながらも、ときどきスタジアムの様子をうかがい、その際に前を走る二人のライダーのトライをちょっと観察するという感じで、3人目、藤波のトライ順がやってきた。トレーニングもした。調子もよい。藤波としても、期待がもてるバルセロナ大会だった。
ブダペストでは現地の事情があって白いコンクリートブロックによるセクションばかりだったが、今回はバルセロナ現地で調達された部材によるセクションを加えて、バリエーションが増えている。藤波はまず、第1セクションをしっかり走ろうと考えた。ブダペストでは第1セクションで5点となってつまずく結果となってしまった。今回は第1で多少時間をかけても、ここをしっかり走りきろうと思ったのだ。
第1は、インが1メートル70ほどのステアがあった。Xトライアルではアンダーガードが接地すると1点をとられるから、それを避けるには、いわゆるフロントを吊ったライディングをしなければいけない。しかしフロントが吊れるライダーが、それで失敗してしまうライダーもいる。5点になったカサレスは、まさにそうだった。藤波は、当初から吊っていかずに、アンダーガードをかけてここを抜けようと考えていた。それで1点。そして真ん中あたりにある三角ポイントで1点をついて、第1での減点は2点となった。
藤波は今回の5セクションを、うんとうまくいって8点と踏んでいた。第2セクションはクリーンの予定だった。調子は悪くない。練習も積んだ。さらにセッティングも、よりインドアよりに仕立てていた。サスペンションも、いつもよりかたい感じにセットされている。
第2セクション。むずかしい石を越え、クリーンで抜けられる公算が高まった。しかしその先で、藤波は岩の左側に落ちてしまった。バランスを崩してしまったように見えたが、そうではなかった。大岩を越えるところは、インドア用にセットしたサスペンションがうまく機能した。ところがそこから岩に向かって飛び降りたとき、サスの動き方がいつもとはちがい、それで感覚が微妙にちがってしまったようだ。
この5点は大きなミスとなった。希望は断たれたわけではないが、目標8点だったところが、第2セクションで7点を失ったのだから、大苦戦はまちがいない。しかもここはクリーンをする予定だったから、厳しい。
第3は、二段のステップがあったが、ここはインドアに合わせたサスペンションのおかげもあって、気持ちよくアンダーガードをかけずにあがることができた。ここは、その手前でついた1点のみ。これで、藤波の減点は8点となった。
第4は、一気に上がるか、刻んで上がるか、悩むところとなった。一気に上がればクリーンもできるかもしれないが、一気に5点となるリスクもある。刻めば確実に走破できるだろう。しかしXトライアルでは、4回目の足つきで5点となる。アウトドアのように、足をつきながらマシンを進める走り方はできない。
藤波は、確実な成績をねらって刻んであがることにしたのだが、その手前、スムーズに抜ける予定のところでアンダーガードをかけ、さらに足をついてしまった。確実に上がるため、その先で2点つくのは必至だったから、となると、それだけでもう5点になってしまう。そんな計算をするうち、藤波とスタジアムの床に落ちた。これで13点。
最終の第5セクション。残り時間は1分ほどしかなかった。赤い鉄板のセクション。最初のステアはアンダーガードかけずにいくつもりが、残念、アンダーガードがかかってしまった。その先、一気に難所を狙うか、右から曲がりこんでいくか、ラインはふたつあった。ここもまた、5点のリスクと細かい減点を失うのとの悩みだ。その時点で、すでにカサレスは走り終わっていて、減点で勝っているのがわかっていた。それで安全策をとって回り込むラインを選んだ。結果、3点となってしまった。合計は16点。3人走った中ではトップだが、このあと、強豪が6人控えている。
トップスコアはボウの3点。2番手がラガで、藤波の目標としていた8点だった。3位にビンカスが14点で入ったが、3位ビンカス、4位ファハルド、5位ジェラベルト、6位ブストまで、みんな14点。この差は、5分制限のセクションを誰が一番速く走ったかで決まる。ビンカスが4分54秒5、ブストは最終セクションのトライ中に5分を超過してしまい、タイムは5分、第5セクションは5点となっている。
藤波のタイムは4分57秒4。あと2点少なければ、ブストより上位でラウンド2進出を果たせたという結果論だが、あと2点稼ぐためにより時間を使うわけにもいかず、結果論としてもなかなかむずかしいところ。第2セクションをクリーンでいけば点数的にはオンの字だが、時間的にどうなっただろうか。あるいは第3、第4を確実に行かず、一気にクリーンを狙う作戦もあったかもしれないが、あの時点では減点がかさんでいて、これ以上減点を積み重ねてカサレスよりも順位を落とす結末を見るのも避けたかった。すべては結果論だが、調子は悪くなかっただけに、今回の結果は残念だった。そして、なさけない。難所は越えて、それでなおかつの5点。可能性があっただけに、くやしいところだ。かくして、藤波のバルセロナ大会は5点で終了してしまった。
この大会、ボウがラウンド2での飛び移りで、背中から落ちるクラッシュ劇を演じてしまった。後輪がすっぽ抜けて、いきなり腰から落ちるクラッシュだった。このところ肋骨の故障が多いボウのこと、見ていた藤波らはまたかとおおいに心配することになったが、痛みはあるものの、今回は肋骨には影響がなかったようだ。インドアではよくあるアクシデントなのだが、ひやっとした一瞬だった。今年から、ライダーには安全のためのガードの着用が義務づけられているが、とはいえケガを完全に予防できるガードはライダーの運動性を損なってしまうし、むずかしいところではある。
さて、藤波の次のXトライアル出場は未定。あと1戦くらい出場することがあるかもしれないし、次の世界選手権はアウトドアの開幕戦かもしれない。日々の藤波は、サスペンションのもセッティングもアウトドア向けに戻して、トレーニングもアウトドア一本を視野に入れておこなっている。
「開幕戦のブダペストは練習の成果もなく、歯が立たない、負けを認めざるをえない感じだったのですが、今回はインドアのための練習も充実していたし、手応えがありました。結果にも期待していたのてすが、それだけに今回の結果は残念。ちょっとへこんだというか、くやしいことになりました。Xトライアルは全戦の出場はしないので、ランキングも期待はできない状況でしたが、バルセロナではもうちょっといいところを見せたかった。それでもバルセロナのお客さんには熱い声援を送ってもらいました」
Final(決勝) | |||
---|---|---|---|
1位 | アダム・ラガ | TRRS | 13 |
2位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 14 |
RUNNERS-UP FINAL(3位決定戦) | |||
3位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 8 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 9 |
Round2(セミ・ファイナル) | |||
2-1位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 6 |
1-1位 | アダム・ラガ | TRRS | 11 |
1-2位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 15 |
2-2位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 19 |
1-3位 | ブノア・ビンカス | ベータ | 16 |
2-3位 | ミケル・ジェラベルト | シェルコ | 23 |
Round1(クォリファイ) | |||
1位 | トニー・ボウ | モンテッサ | 3 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 8 |
3位 | ブノア・ビンカス | ベータ | 12 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 14 |
5位 | ミケル・ジェラベルト | シェルコ | 14 |
6位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 14 |
7位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 16 |
8位 | ホルヘ・カサレス | ヴェルティゴ | 17 |
9位 | ルカ・ペトレーラ | ベ ータ | 23 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | アダム・ラガ | TRRS | 35 |
2位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 35 |
3位 | ハイメ・ブスト | ガスガス | 21 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ガスガス | 21 |
5位 | ブノア・ビンカス | ベータ | 12 |
6位 | ホルヘ・カサレス | ヴェルティゴ | 6 |
7位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 5 |
8位 | ミケル・ジェラベルト | シェルコ | 4 |
9位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 3 |
10位 | ルカ・ペトレーラ | TRRS | 1 |