前回フランス大会でなんとか表彰台争いをしながら5位となった藤波貴久。ベルギー大会は土の斜面などがあり、コースもきらいではない。いいところへいくかな、という期待を、本人も持っていた。
力はあいかわらず入らず、右は左の半分くらいのパワーしかないのだが、それもちょっとずつよくなってきているし、肩の痛みはもうない。そしてなにより、マシンとの一体感を取り戻すことができているのが、明るい材料だ。
まず予選。練習では1点をついた。今回の予選は、最近の傾向とはちょっとちがってテクニカルで、速く走るにはリスクが高かった。
予選1回目、予選セクション中盤にあるオーバーハングのステアケースで、リヤが滑ってしまい、やっぱり1点ついてしまった。それでペースを上げたところ、出口付近のテープを切ってしまって5点になった。
予選2回目。予選1回目で5点だから、出走順はごく早い。周囲の状況はまったくわからないから、とにかく確実にクリーンして、あとはまわりの失敗を待つしかないということになった。1回目に失敗したステアは、時間を節約するために2速のまま走った。でも2回目は、3速にシフトアップして登り、その後また2速に戻す。終わってみてタイムをみると、47秒後半。トップとは10秒弱遅い。もう少し速く走れたかもしれないが、藤波のひとつ上位のポジションのビンカスまでも5秒強離れている。今回はこれより6秒以上速く走るにはリスクが大きすぎたので、この順位が妥当なところかもしれなかった。それでも、同じくクリーンをしたノグエラより2秒弱速く、減点したライダーが5人いたので、順位的にはちょうど真ん中くらいの8位になった。
この予選前、ウォーミングアップを走っているときに、トニーが足を負傷した。予選はなんとか1点で走りきって、その夜がたいへんだった。血がたまって、腫れていて膝が曲がらない。トニーはこういうことになるのは初めてのようで、膝の故障の先輩としては、いろいろと世話を焼くことになったベルギー大会前夜になった。腫れかたやその他の症状からして、痛みや違和感はあるけど靱帯が切れているような感じじゃない。大丈夫だから、明日はがんばれと、檄を飛ばす先輩だった。
さて、そんな忙しい夜が明けてベルギー大会当日。膝に違和感のあるトニーは2点、1点、1点、1点と、クリーンのない出だしとなった。藤波は序盤3連続クリーン。3連続クリーンは藤波とカサレスの二人だけということで、この時点では同列トップだった。もっともまだセクション3つの序盤も序盤、藤波が好調というより、他が悪いという印象の方が強い。藤波自身、そんなに乗れている感じでもなかった。
今回は、ペースが遅かった。開催クラスが3クラスのみで、参加者はそんなに多くなかった。なのに、今回の第1走者のミケル・ジェラベルトが、なかなかトライしようとしない。ジェラベルトはもしかすると、第1走者となるのが初めてで、それで走り方の要領がつかめないのかもしれない。かといって、スタートの遅い後続が抜いていく義理もないので、ずるずると時間がすぎていく。第2、第3は地面ががさがさで、これまたラインができるまで走りたくない。時間がすぎていく。これは、時間がなくなりそうだ。
第4を3点で抜けたが、ここをブストがクリーンし、ラガが1点で抜け、トップ争いは混戦となってきた。トニーもここを1点で抜けて、一気に藤波に2点差まで迫ってきた。第4以降、第6からは難セクションが続く。下見の時点で、勝負どころはこのあたりだと覚悟があったのだが、やはりその通りだった。第6はいけていたのに、停止をとられるのを恐れるあまり、ちょっとふられたのを修正できず、そのまま登っていってクラッシュしてしまった。そのあたりから、持ち時間も不足してきた。第8を1点で抜けられたのはよかったが、第9はぜんぜん上がらず。第10、第11はこれは無理だと一目瞭然だったので(それでもトニーは第10を3点で抜けている)エスケープすることにした。第14、第15は人工セクションで抜けられる設定だったから、ここをしっかり走るためにも、時間を節約したかったのだ。
それでぎりぎりに間に合って、第14はクリーン、第15を2点で抜けて、1ラップ目は4位で折り返すことができた。減点は38点。トニーは20点でトップだ。途中、第4あたりで下見中、クラッシュしてまた痛めるのがこわいからエスケープしようかな、などと弱気なことをいっているトニーに「なにを言ってるんだ、おまえはチャンピオンだぞ、今できることを考えろ、傷めるかどうかはやってみなければわからない。仮に傷めたら、そのときに考えればいい」と叱咤激励し、その結果として、トニーは調子をつかんできて1ラップ目をトップで帰ってきたということになった。
20分間の間に、マシンをしっかりと整備した。気になるパーツは交換した。フランス大会では、新品パーツを組んだのであたりがつくまでちょっと苦労があったので、今回はウォーミングアップであらかじめあたりをつけておいた。したくもだいぶ万全になってきている。
しかし2ラップ目序盤の第4セクション、大クラッシュをしてしまった。岩からそのままマシンもろとも落ちてくるクラッシュで、見るからに危なかったし、右肩を打って、まずいかなという気もしたのだが、結果、少々痛みはあったものの、ライディングにはまったく影響がなかった。おそらく、新たなダメージも受けていない。不幸中の幸い。ただ、1ラップ目に抜けていたところで5点になったのは痛かった。
その後、第6、第7は1ラップ目の連続5点から、クリーンと1点。第4の5点を少し取り返すことになった。結果的には、このスコアが大きかったことになる。
第10は、1ラップ目のトニー、2ラップ目にはダビルが抜けているが、他はみなそろって5点ばかりだ。藤波はエスケープすることにした。2ラップ目も時間も少なくなってきたから、オンタイムでゴールするほうを優先させることにした。第11セクションは、1ラップ目に誰も抜けられるものがいなかったから、2ラップ目にはきっかけ石が置かれていた。それで2ラップ目のトニーはクリーンをした。藤波は2点でここを抜けた。
第13は勝負どころだと思っていた。ここをきっちり走るために、第10をエスケープしたと言ってもいい。残り10分。藤波はこのセクションを攻めた。そして1点。この1点が、結果的には表彰台を引き寄せたといってもいい。
ぎりぎりオンタイムで走ってゴール。トニーはすでにゴールしていて、ファハルドもゴールしている。トニーは藤波より15点ほどスコアがよく、ファハルドは20点弱悪い。その他、ラガ、カベスタニー、ブスト、ダビルらは藤波よりスタートが遅いので、まだ順位は確定しない。藤波はブストとダビルとの表彰台争いだったが、ダビルはともかく、まだゴールしていないブストには10点弱離されていたから、4位になればいいところかなと考えていた。
順位争いの行方より、藤波には自分の判定で一つ気になるところがあった。1ラップ目の第12セクション、スコアでは2点になっているが、ほんとはクリーンだった。タブレット端末のオペレーターとクリーンを確認して入力してもらったのを確認していたつもりなのだが、結果は2点になっている。オブザーバーはタブレットでの入力と同時に、手元の紙にも念のために点数を書き留めているから、まずそれを確認してもらおうと、本部に出向いたのだった。もちろん、1ラップ目のゴールでもその申し出はしているのだが、そのときは責任者がいないということでゴール後に、ということになっていた。
責任者を見つけて、かくかくしかじか、バックアップを調べてくれないかという申し出をしたところ、チームの写真を撮っているペップがやってきて、3位になったぞ、という。あらためて結果を見ると、4位とは4点差で、2位とは8点差。2点がクリーンに訂正されても、順位は変わりないということになって、もうしではもういいやということで、チーム・パドックに帰ってきた。チームは1位と3位、ダブル表彰台獲得で、盛り上がっていた。
3位はブストがキープしていたのだが、第12セクションでパンクをしたらしい。第13セクションまでの移動は、ビードがはずれた状態で走ってきて、そこでマインダーとホイール交換。もともとペースが遅かったことに加えて、そんなことをしているうちに4分のタイムオーバー。そして第12セクション以降の4セクションで8点を失ったことで、表彰台争いは一気に藤波のものになっていったということだった。
今回の3位で、藤波のランキングはまた一つ上がって6位となった。
試合後のパドックでは、ちょっとした儀式もあった。シーズン当初から、カメラマンのペップは二人が表彰台に乗ったらもみ上げをそってやるぞと言っていた。藤波の表彰台はこれで今シーズン2回目。前回の表彰台は日本だったが、そのときはトニーが4位で表彰台に乗っていない。今回が、晴れて二人そろっての表彰台だった。ペップのもみ上げは、トニーと藤波に、片方ずつ剃られることになった。
「今回は、トニーのケガもあってたいへんでしたが、チームとしていい戦いができたと思います。ぼく自身としては、表彰台争いができる戦いができる感覚が戻ってきたのがなによりうれしいし、そして表彰台に乗れたのがとてもうれしいです。ランキングは、6位に上がったのがよくないということはないですけど、もう今年のランキングがよくないのはどうしようもないですし、ランキング5位にはなりたいですけど、ランキング5位が目的だったわけでもありません。残り3戦、しっかり走って、表彰台に乗っていきたいです。今年はずいぶん悩みましたが、もう大丈夫だ、という気がしています。がんばります」
日曜日 | ||||
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1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 43 | 16 |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 47 | 13 |
3位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 59 | 13 |
4位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ガスガス | 63 | 14 |
5位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 70 | 11 |
6位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 76 | 12 |
7位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・ベータ | 77 | 7 |
8位 | フランツ・カドレック | ドイツ・ガスガス | 87 | 9 |
9位 | ジャック・プライス | イギリス・ガスガス | 88 | 8 |
10位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 89 | 8 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 130 | |
2位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ガスガス | 107 | |
3位 | ハイメ・ブスト | スペイン・ガスガス | 106 | |
4位 | アダム・ラガ | スペイン・TRRS | 95 | |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・ベータ | 78 | |
6位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 68 | |
7位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベータ | 61 | |
8位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ヴェルティゴ | 60 |