なんとも不本意なシーズン終盤戦となった最終戦から1週間、トライアル・デ・ナシオン(TDN)はスペインの西海岸、バイヨーナでの開催となった。日本チームのメンバーは、昨年と同じ、藤波貴久、黒山健一、小川友幸の3名。日本のベストメンバーであると同時に、藤波にすれば小さい頃から一緒にトライアルの切磋琢磨をした仲間。厳しい戦いとなるのは覚悟だったが、そんな中でも楽しい時間をすごせそうだ。
小川は、藤波のセカンドバイクを使っての参戦となる。藤波の1号機と2号機ではセッティングの他若干仕様がちがうので、ふたりがまったく同じマシンに乗るということではないが、フジガスのトレードマークのついたマシンであることには変わりない。スペインチームはトニー・ボウとハイメ・ブストを代表選手に選んだ。世界ランキング1位と3位だから当然だが、レプソルHondaチームはスペインと日本、合わせて4台のマシンとライダーを擁すことになった。
ライバルと目されるのは、去年と同じく、イギリスになるだろう。ランキングの上位3人をそろえたスペインは、日本のみならず、どこの国の敵でもない。イタリアやフランスもあなどれないが、ライダーのポテンシャルから予測すれば、やはり強敵はイギリスということになる。イギリス代表は、こちらも去年と同じく、ジェイムス・ダビル、ジャック・プライス、イワン・ロバーツの3名だ。イギリスは2年連続でTR2クラスのチャンピオンを代表メンバーとしてそろえている。セクションは、後半の海外沿いがむずかしめだった。さらに、日曜日は午後から雨が降るという天気予報だ。厳しい戦いになりそうだ。
予選は、今年からのシステムを踏襲して、タイム競争によって順番を決める。予選を走るのは、各チームが決めた代表選手。全員が走るわけではない。日本チームは、作戦会議の末、というか、ノーストップルールとこの予選システムを走り慣れているということで、ほとんど異論なく藤波が予選ライダーとなった。いつものとおり、午前中に練習一回、午後に本番というしスケジュールだ。セクションは本番の最終セクション。もちろん設定は変えてあって、最終セクションの予習とはならない。
練習では、藤波は速かった。この1年、藤波は予選システムで好成績をあげたことがない。よいタイムをだそうとがんばると、足をついて一気に順位を落とすリスクも大きい。主催側もまさにこんなどんでん返しを期待してのシステムだ。シーズンの開幕戦で足をついてしまって早いスタートとなってしまった。以降、とにかくまず足をつかずに予選を走りきることを念頭に置いていたが、それゆえ、タイムもあんまりぱっとしないで終わっている。最後くらいは一発いいタイムを狙ってやろうという野心がなくもない。
しかし予選、すぐ脇にの観客席には、開会セレモニーを終えたばかりのライダーがずらりと並んで観戦している。小川も黒山も、もちろんこの中にいる。いつもの予選もライダーがずらりと観戦しているが、彼らはライダーとして走りを観察している。今回の彼らは、チーム員ではあるが予選ではライダーではない。そんなシチュエーションで予選を走るのはこれが初めてだから、どこか緊張もあったのかもしれない。
練習では36秒台だった藤波のタイムは、39秒台だった。それでも、ノルウェーは足を出していたし、イギリスのダビルはなんとターンで前輪を滑らせて転んでしまっている。トニー・ボウは36秒台でいつものようなスピードを発揮したが、藤波の出した日本のタイムは2位を守っていた。
イタリアのマテオ・グラタローラが岩に上った際につま先でマシンを押し出し2点をとられた。これで日本の2位は確定したと思われたが、その後その2点はクリーンに訂正された。マシンを押し出したが、つま先がその作業をしたわけではないという判断だ。グラタローラのタイムは38秒で、藤波より2秒弱速かった。日本は予選3位ということになった。フランス、イギリスのあとのトライで、日本の次にはイタリア、そしてスペインという順番になる。日本のスタートは9時53分、5点になったイギリスは9時41分で20分弱の差がある。スペインのスタートは9時59分。3人1チームで3分ごとのスタートということになる。
第5セクションまでは、おおむね各チームはオールクリーンだ。ここまでに減点をしているようでは、勝負の権利はない。減点してしまったのはドイツとノルウェー。イタリアとフランスを含め、5チームがオールクリーンしている。
そしてもくろみ通り、第6セクションから難関が始まった。ここへ来ると、ドイツ、ノルウェーに加えて、フランス、イタリアも3人が5点。日本も、黒山が2点で抜けたが、藤波と小川は5点となった。5点と5点と2点、いいほうの二人の成績を集計するから、日本の減点は7点となる。イギリスはダビルがクリーン、プライスが3点で8点。スペインは減点なしだった。苦しい2位争いという事前の予想は、ほぼその通りになった。
ところが次の第7セクション、日本はここでも苦戦する。ここは藤波だけが3点で、日本のチーム減点は8点となった。ここまでの小計は15点。スペインは減点なし、イギリスはここを7点で抜けていて、小計10点。第8セクションは、イタリアが1点、フランスが5点で抜けている。第8セクションまでの順位は、1位スペイン、2位イギリス(10点)、3位イタリア(11点)、4位がフランスと日本(15点)。まだまだ先は長いが、ちょっと幸先が悪い感じになってきた。
その後、後半セクションに向けて日本はちょっと調子を上げることができたが、イギリスとの点差はなかなか縮まらず。イタリアとフランスの4位争いからは脱することができたが、実力からすればこれは当然の結果。ただ、グラタローラもフランスのアレックス・フェレールもよいライダーだから、油断ができる相手ではない。第8セクションでフランスに並ばれてしまったのは、そのいい証拠だ。
1ラップ目。スペインは第12セクションで5点となっていて、これで5点。イギリスは15点。最大限点は第7セクションの7点だった。日本はこれに5点差で20点。最大限点は第7セクションでの8点だった。イタリアは37点、フランスは36点で、やはり上位3チームは日本を含むスペインとイギリスに絞られてきた。
藤波は、高いポイントで登れない失敗が見受けられる。藤波はTDN用には、アメリカまでの藤波仕様に少しだけ近い仕様を持ち込んできた。イタリアでの失敗を踏まえて、乗り慣れた仕様で日本代表の責務を乗り切ろうとしたのだ。その結果、高いポイントは苦手となった。これは覚悟の仕様だったのだが、それがそのまま結果になっている。
2ラップ目。恐れていた雨が降ってきた。海岸沿いのセクションはもともと海水に洗われているから、雨が降ろうとコンディションに大差はないが、陸側のいくつかは雨の影響を受けそうだ。
第5セクションまでをクリーンして、日本の鬼門の第6セクション。今回は1ラップ目より1点だけ減点を減らして6点となった。しかしイギリスは3点で、これでイギリスとの点差は8点に広がってしまった。続く第7は1ラップ目同様に8点。しかしここではイギリスが3人とも失敗して10点。点差は6点差となった。イギリスも、日本との厳しい戦いを意識しているにちがいない。
さらに1ラップ目は1点で抜けた第8でも二人が5点となって8点となってしまった。幸い、イギリスもここは8点で点差は変わらずだったが、追い上げ、逆転はむずかしいのではないかという空気がチームに流れ始めている。第9では、イギリスの1点に対して3点。点差は再び8点差に広がった。
チームの中では、黒山健一は調子がよさそうだ。去年も今年も日本から自分のマシンを運んできての参戦だが、去年はFiエンジンのデビューが決まっている中で、それまで乗っていたキャブレターマシンを持ち込んだ。世間にはわからないが、黒山としては古いマシンでの参戦だった。今年はばりばりの現行モデルだから、気分は上々だ。しかも日本で走っているときより、なぜか調子がいいようだという。
小川はいつものとおりのしっかりとした走りっぷりを見せている。しかしやはり借り物マシンでの参戦だ。ちょっとしたところでマシンの扱いにミスが出る。それは折りこみ済みでの戦いだ。しかし日本にとって鬼門の一つとなった第6セクションで、小川は見事なクリーンライディングを見せたものの、どこの瞬間だかわからない停止5点を取られてしまった。これには、トライ待ちをしていた藤波もびっくり。あわててもう一度下見に出てきたくらいだった。
藤波はといえば、必ずしも好調とは言いがたい。アメリカ以降のどうにも波に乗れない不調は、TDNでもまだ続いてしまったという感じだ。それでも日本は、第9セクションで3点となった以降は、減点なく最終セクションまで走りきってゴールを果たした。2ラップ目のスコアは1ラップ目より5点多い25点。全力を果たしたが、減点を減らすことはできずの成績だった。
ゴールして、あらためて速報リザルトを見てみると、やはり日本は3位に甘んじていた。しかし2位イギリスとの点差は意外に小さく、わずか3点差だった。負けは負けだが、3点差は、たとえば小川の停止の判定がもう少しふつうだったら、充分にひっくり返っていたものだった。もちろんそれ以外にも、数点の減点を減らせたポイントはいくらでもあった。10点差ほどのギャップならあきらめもつくが、3点差はくやしかった。
去年、イギリスを破って2位となったときには、その差はわずか1点差だった。おそらく去年のイギリスも、こういうくやしさを味わったにちがいない。勝負には勝ちもあれば負けもある。重要なのは、日本チームが全力を出しきって戦った、ということだ。
「だめでした。最初に減点した第6は健ちゃんはいけたけど、ぼくは2ラップとも行けませんでした。その後も、調子を回復してきたところで5点を取ったりして、波にも乗れずになりました。みんなが失敗するようなポイントをいければ結果もちがってきたのだと思いますが、そんなところでは日本のみんなも失敗してしまった。ノーストップの世界に慣れていない日本の二人を引っ張ってチームをまとめていくのがぼくの仕事だったのに、それができませんでした。今回のマシンは元の自分の好みの仕様に近いものでしたが、とことんステアが上がれませんでした。そういう結果になるのはわかっていたけど、ここまで上がれないとは思わなかった。この仕様で戦うのはないなと、あらためて方向性を確認する再確認にはなりました。応援していただいた日本の皆さんには感謝と、おわびをしたいと思います。ありがとうございました。出直して、またがんばります」
Pos. | Nat. | Total | CL |
---|---|---|---|
1位 | スペイン | 6 | 78 |
トニー・ボウ(モンテッサ) アダム・ラガ(TRRS) ハイメ・ブスト(モンテッサ) |
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2位 | イギリス | 42 | 57 |
ジェイムス・ダビル(ガスガス) ジャック・プライス(ガスガス) イワン・ロバーツ(ベータ) |
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3位 | 日本 | 45 | 53 |
藤波貴久(モンテッサ) 黒山健一(ヤマハ) 小川友幸(モンテッサ) |
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4位 | イタリア | 84 | 45 |
マテオ・グラタローラ(ガスガス) ジャンルカ・トルノール(ガスガス) ダニエレ・マウリノ(スコルパ) |
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5位 | フランス | 86 | 45 |
ブノア・ビンカス(スコルパ) アレックス・フェレール(シェルコ) テオ・コライロ(ベータ) |
|||
6位 | ノルウェー | 116 | 33 |
ハカン・ペダーソン(ガスガス) ハガ・ジリー(TRRS) イブ・アンダーセン(ガスガス) |
|||
7位 | ドイツ | 150 | 25 |
フランツ・カドレック(ガスガス) マックス・ファウデ(ベータ) ヤルモ・ロブラン(ガスガス) |