2017年 世界選手権第6戦イギリス

2017年7月9日/トング(イギリス)

終盤の追い上げで2位を獲得、ランキングも3位に

photo優勝したこともあれば、大クラッシュをしてリタイヤしたこともあるイギリス大会。今年はどんなイギリス大会になるのか。会場は、ここ数年定番となっているトング、ロンドンの北方、イングランド島のほぼ中心に位置する。

予選は9位だった。開幕戦での大失敗、予選14位に次ぐ失敗になる。練習走行でちょっと納得いかないところがあったのだが、その後の下見ができないシステムで、ままよとラインを変えてインをしたら、それが思ったのとはちがって戸惑ったり、GPクラスの途中で計測のセンサーが壊れてしまい(ゴールのセンサーに飛び込んできたライダーがいたのだ)、以後の計測がストップウォッチによるアナログになってしまうという、たいへんに納得いかないハプニングもあったのだが、多くのライダーが上位に固まったので、藤波の前にはトップライダーは誰もいないということになった。

走りの見本を見せてくれるライダーがいないのも厳しいところだが、泥の斜面にラインがまったくついていないというのもつらい。藤波の前には6人ほどのライダーが走っているはずだが、誰も抜けていないのか、あるいはせっかくつきかけたラインをあとから失敗したライダーが滑り落ちて壊しているのか。ともかくも、ラインがない。

こうなったら自分のペースで淡々と行くしかない。第1セクション、第2セクションは人工的に岩を配置したもので、一瞬で5点になる。第1と第2は隣り合わせだったので、第2の下見をしながら第1を見ていると、最後のライダーがトライする頃には、藤波が走ったのとは、まったく状況がちがうセクションになっていた。ラインはついているし、しかももっと走破しやすいラインができているし、難所の岩は落ちてしまって存在しない。スタート順がちがうと、まったく別のトライアルになってしまっている。

毎度懸案になっている試合の持ち時間が絶対的に足りない件は、ホルヘ・カサレスが金曜日の下見中にセクション内に入って20点のペナルティをもらうなどの事件があったが、その後FIMと藤波を始めとする選手側で協議が行われ、金曜日の下見ではセクションに入れることになった。満足な競技時間が与えられはしなかったが、セクション内に入って下見をしておけば、競技時間が残り少なくなったときに、新たな下見なしでセクションに飛び込むこともできる。完全に解決したとはいえないが、持ち時間問題はだいぶ進展したとはいえる。

それでも今回は第1セクションから難度の高い設定だったから、藤波が到着したときにはすでに渋滞が起こっていて、スムーズにラップを回るのは、依然として重要な難題となっているのはまちがいない。競技の持ち時間とセクション数などを計算すると、1セクションあたりに使える時間は7分ちょっとになる。けっこうぎりぎりの時間設定だ。

第1セクションは1点だった。石がなくなり、新たなラインができたあとのほうのライダーはクリーンも多く出ているが、藤波の前ではクリーンは出ておらず、5点ばかりだった。だから安全マージンをとって1点で抜けられたのは、早いスタートからのトライとしては悪くない結果だった。

その後、前半はいい感じだった。調子は悪くない。自分の走りができていた。しかし、第6セクションで1点をとったあと、第7セクションで木に激突してクラッシュした。これが初めての5点、さらに第10セクションでまた失敗して5点となった。

第7は最後の最後までクリーンしていた。ちょっと滑りながらラインがずれて、しかし修正ができずにそのまま登って木に激突したのだ。第10では、これも最後までスムーズに走っていながら、最後の岩でつるっと滑って5点となった。この二つのセクションはクリーン、少なくとも1点ほどでは抜けられるものだった。こんなところでなにをやってるんだと、この日も雲行きがちょっと怪しくなってきた。

1ラップ目、最終第15セクションはインに3段がたちはだかっていた。持ち時間が残り少なく、下見もしないで飛び込んだ。ここはラインが右と左とあった。金曜日の下見の際には下から全部まとめて飛ぶつもりだったのだが、到着してみると誰もそんな行き方はしていないし、いざセクションに到着してみると、その行き方には少なからずリスクもあった。

それで右から登っていったのだが、時間にあせっていたこともあって、スピードをつけすぎてつんのめって5点となってしまった。明らかに自分の失敗だった。これは失敗として、納得できるものだったが、第7と第10の失敗は、もうちょっと落ち着いて走っていればなんとかなったはずのものだったから、悔やまれるものだった。

ところが1ラップ目終わって、周囲の減点を確認すると、意外にみんな減点が多い。あれ?
みんなけっこう悪いな。みんなも失敗してるなと、逆にびっくりした。藤波の減点が22点。トップのボウは8点と好調だが、2位につけているのはジェイムス・ダビルで16点、3位が18点のジェロニ・ファハルド、アダム・ラガが25点だから、藤波の1ラップ目は4位ということになる。

2ラップ目はラインもできているし、1ラップ目より簡単になっているはずだから、2ラップ目こそはへんな失敗をせず、気合いを入れていこうと誓って再びセクションに立ち向かっていった藤波だった。

2ラップ目。絶対に5点は取らない。その覚悟と1ラップ目の反省とがあって、第7ではしっかり足をついて、セクションを抜け出た。ここでの減点は2点。第10でも、自分から足をついて1点で抜け出た。

第12セクションは、1ラップ目2点のところを、2ラップ目は1点で抜けた。これは納得の結果だった。このセクション、何人かはクリーンを出しているが、それはなかなか奇跡的なライディングの結果だったから、1点2点で抜けられたのはまずまず上出来といっていい。特に2ラップ目の1点は、よく1点で抜けられたなというのが自己評価ではあった。

次なる第13セクションは、走るほど沼になってわだちが深くなっていった。1ラップ目は最後でバタバタの3点だったが、ラップ目に藤波の黙然でマテオ・グラタローラがクリーンで抜けていった。この日のグラタローラは好調で、2ラップ目終盤、藤波はグラタローラの直後を走った。これも、藤波の2ラップ目の幸運の一つだった。グラタローラのあと、藤波は第13を1点で抜けた。あとからここへ来たトップグループは、泥沼がさらに深みを増して、3点や5点が続出した。今回はスタート順ゆえにで損をすることも多かったが、この第13セクションに関しては、スタートが早かったことが幸運となった。

グラタローラ、藤波の順でトライが続き、藤波の後にはエディ・カールソンが走っていた。カールソンはモンテッサに乗る、いわば藤波にとっては仲間的存在だか、ライディングは独特のものがあって、あまり参考にならない。だから藤波は、カールソンには自分の前を走ってほしくなかった。それを知ってか知らずか、カールソンは藤波を追い抜こうとはしない。カールソンの後ろにはアルベルト・カベスタニーがいるのだが、カベスタニーはカールソンの超個性的なライディングを見てからトライすることになり、ずいぶんとペースを乱される結果となったということだ。トライアルは、トライ順が少しちがうだけで、ずいぶんと世界が変わってくる。

1ラップ目に5点となった最終セクション。今度はラインを右から左に変えてトライした。ここは絶対にクリーンしなければならない。1ラップ目は、前に誰もいなくて、アイデアもなく、考えているひまもなくトライして5点になった。2ラップ目は、グラタローラの走りを見て、自信を持って左からトライした。クリーンだ。

このところ、いくつものセクションを申告5点で抜けながら、それでも数分のタイムオーバーを余儀なくされていたのだが、今回は1分か1分半時間を余らせてゴールすることができた。もちろん途中で時間に追われて走ることもあり、余裕があったとは言いがたいが、久しぶりにタイムオーバーのないゴールだ。

2ラップ目、藤波の減点は6点。このラップは上出来だった。よくがまんができた。しかしミスを抑えて走ることができれば、これくらいの減点で回れるはずだというのは確信があったし、今回はそれができた、ということだ。他のライダーがこの減点で回ってこれなかったのは、ライバルはライバルで、それぞれにミスをして苦しんだ結果、ということだろう。フランスでも、2ラップ目は今回のように悪くなかった。そういう点でも、調子は上向いている。

スタート順が早いから、藤波がゴールした時点ではライバルはまだ誰も帰ってきていない。スタート順が5番手くらいまでなら、ライバルの戦況は目で見える範囲である程度つかめるのだが、今回ほどにスタートのタイミングがちがってしまうと、ライバルの動向はスマートフォンやタブレットを使ってライブリザルトをチェックするしかない。ライブリザルトは、走ったところまでの減点がそのまま反映されているから、先に走った藤波はあとを走るライバルより見かけの減点も多くなる。それを計算しながら、後続がトライしていくのを見守ることになる。

ゴールした藤波の減点は28点。ボウは20点未満だから、これは別格。ファハルド、ブスト、カベスタニーは30点を超えていて、藤波の敵ではなくなっていた。藤波のライバルはラガとダビルで、二人は26点とか27点で、数セクションを残していた。

photo試合が進むに連れて、藤波の4位はほぼ確実になった。表彰台の可能性も大いにあった。うまくすれば、2位に入れるかもしれない。しかし4位で終わる可能性もあった。ただ、第13セクションはむずかしかったから、ライバルもここで1点はとるのではないか、とすると表彰台の可能性はある。同点で試合を終える可能性もあるから、その場合はクリーン数がどんなふうになるのか、先にゴールした藤波は、スマートフォンを見ながらいろいろと計算をして、試合が終わるのを待っていた。

しかしまさか、第13で後続が3点や5点になるとは思っていなかった。まずラガが3点になった。この時点で、藤波の表彰台が確実になった。続いて、ダビルが5点になった。これで藤波は2位に浮上した。

ボウも、第13で5点になった。藤波とは7点差。このあと、残る第14、第15で連続5点になれば藤波が逆転勝利となるが、さすがにボウがそんな失敗をするわけもない。ただ、試合後に話をすると、ボウも最後の2セクションのトライは、ずいぶんと緊張したということだった。

2ラップ目、一桁減点で回ったのは藤波だけで、6点は2ラップを通じてのベストスコアだった。

今シーズン2回目の表彰台、そして2位。今回の2位で、ランキングも3位に浮上して、しかもランキング4位のブストに7点差をつくることができた。しかしまだまだ安心できない。藤波が1戦でランキング3位争いをリードしたように、一戦で戦況ががらりと変わる可能性はある。

まずは2戦あるアメリカ大会を、きっちり走ることが重要になる。

チームで表彰台独占。
1ラップ目の第6までモンテッサが1、2、3。
途中でシレラが、ここでなにかあってレース中断してくれないかな。
トニー、ハイメ、藤波。
このまま終わってほしい。

ハイメ、3位になれる可能性があった。
シレラは残念がっていた。
表彰台独占、決められそうな雰囲気は出てきた。

ぼくが落ちていくほうだから、待っていられないよと、ハイメに言ってある。

ファハルドは表彰台がない。
それでもランキング4位なのだから、安定して戦っている。
カベスタニーは表彰台に上がっているが、今回のように8位とかだと10点以上離されてしまう。

8位。
マテオが調子がよかったから、なっちゃう。なっちゃうと落ち込む順位。

photoコース次第。コースが今回のように6点で回れるようなものだと、挽回ができないので、失敗するとたいへん。

来週末は、去年手首を折ったやつ。アメリカの1週間前だから、セーブする。

○藤波貴久のコメント

「2位表彰台、よい戦いができました。序盤、1ラップ目の何セクションだった窯では、ボウがトップ、ブストが2位で、ぼくが3位。モンテッサが1、2、3でした。シレラ監督がなにか事件があって、ここで試合が終わってくれないかなと言ってましたけど、今回はブストが途中から崩れてしまって表彰台独占はなりませんでした。でもそれも実現可能な目標として見えてきています。そしてランキング3位獲得に向けて、7点リードはあってないようなものだと思っていますが、それでもないよりはあったほうがいい。まず、アメリカ大会をがんばりたいと思います」

World Championship 2017
日曜日
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 21 21
2位 藤波貴久 日本・モンテッサ 28 18
3位 アダム・ラガ スペイン・TRRS 30 20
4位 ジェイムス・ダビル イギリス・ガスガス 32 19
5位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ヴェルティゴ 32 16
6位 ハイメ・ブスト スペイン・モンテッサ 40 15
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 115
2位 アダム・ラガ スペイン・TRRS 97
3位 藤波貴久 日本・モンテッサ 78
4位 ハイメ・ブスト スペイン・モンテッサ 71
5位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ヴェルティゴ 71
6位 アルベルト・カベスタニー スペイン・シェルコ 65