開幕戦から第2戦までは1ヶ月、そして第2戦から2週間後、Xトライアル第3戦は舞台をフランスの港町、マルセイユに移して開催された。
今シーズンは全4戦と短期決戦のXトライアル。開幕も2月と遅めで、たった2ヶ月のシーズンとなる。藤波貴久は、もともとインドアは得意ではない。チャンピオンになった2004年こそランキング2位となったが、インドア出場のチャンスも多くない藤波のこと、若いスペイン人ライダーの成長についていくのはむずかしい。
しかも今年、藤波はインドアの練習をいっさいやっていない。インドアもアウトドアも同じトライアルではあるが、カタチの決まった高い障害を越えていく設定が多く、アンダーガードをつくと減点、足つき5回で5点、その代わりバックもOKと、アウトドアとは異なるルールも多い。そしてまた、スペインのライダーは、みんなでそろってダニエルの演習ばかりしている。最近ではダニエルが必要なセクションも登場するようになったが、それでももう少しオールマイティな練習をしたほうがよかろうと思うのが藤波の本音で、くわえて藤波の目標がアウトドアでの好成績であることもあって、インドアシーズンであっても、練習はアウトドア一本に絞っているのだった。
だからといって、インドアでの好成績をあきらめているわけではない。現実問題、スペインのトップ4の壁を崩すのはきわめて困難だし、ジェイムス・ダビルもインドアはうまい。今回のようにワイルドカードでハイメ・ブストの出場もあって、悪いほうに考えれば、7位になってもおかしくない。しかしシーズンに1度は、上位4位にだけ許される、ファイナル進出を果たしたいという希望が、藤波にはある。
今回は全部で5セクション。クォリファイとファイナルは、同じセクションを、ファイナルでは逆走する。藤波のもくろみでは、第1、第2と第4、第5は順調に抜けて、第4は無理という感じだった。第3はダニエルを駆使して抜ける石のセクションで、いけるかもしれないが、ちょっと厳しい。
最初にトライしたのは、ドイツの若いフランツ・カドレックとブストだった。第1はカドレックが2点とタイムオーバー1点で抜けるも、ブストは5点。ところがブストは、難関と思われた第3をひょいひょいと1点で抜けてしまった。
これはちょっとむずかしいことになったぞと藤波は思った。去年はXトライアルに参戦しても緊張で実力を発揮できずにいたブストだが、今年はしっかり走れているようだ。先輩としてはようやくここまできたか、という思いもあるが、ライバルとしては喜んでばかりもいられない。
ブストは第4を5点、第5をクリーンして、トータルで12点。カドレックは21点だった。次に走るのが、ダビルと藤波。スタート順を決めるスピードレースではダビルに勝って、ダビルが先行してトライすることになった。
第1、ダビルはカドレック同様に足つき2点とタイムオーバー1点で抜けた。ところが藤波は5点になってしまった。カドレック、ダビルがタイムオーバーをとっているように、タイム的にも厳しいセクションだった。ここで藤波は、序盤の飛び降りで1点をついてしまった。この先、アンダーガードを設置させれば確実に上がれるポイントがあって、ここで1点を失って、タイムオーバーがあるとすると、それだけでもう3点だ。トライ中にそんな計算をしてしまった藤波は、次のステップをアンダーガードをかけずに越えてやることにした。これが裏目だった。アンダーガードをかければ1点はとられるものの、リスクはない。藤波は最初に足をついてしまった故に、望まずしてリスクをおかすことになってしまった。
第2では、ダビルが5点となり、藤波はクリーンながらタイムオーバー1点。ここまではブストと同じスコアだ。そして第3。とんとんとダニエルで岩飛びをしていかないと、タイム的にも厳しい。ここは岩から岩へ飛んでいきなさいという設定で、地面に落ちたら5点というお約束。スペイン勢に対してダニエルが得意ではない藤波も、やはりダニエルで岩飛びに挑戦することにした。しかしやはり途中で落ちて5点。ここは藤波の後に走ったジェロニ・ファハルドも5点になった。結果的に、今回ファイナルに進出したのは、この第3セクションを走破できた4人ということになったが、この時点ではまだ藤波はあきらめていない。
とはいえ、第1と第3で5点となって、すると残りは第4と第5。第4はまず不可能と思っていてその通り5点、第5は予定通りクリーンだったが、総減点は16点。ブストに4点負けていて、このあとスペイン勢が4人出てくるから、ファイナルの4枠に残るのは非常に厳しくなった。
スペインのトップ4は、まず第1をクリーンか1点で抜けてきた。ファハルドが第2で5点はちょっとびっくり、ファハルドは第3でも5点で、今回は配色が濃厚となってきたが、その他の3人は第3をそろってクリーンして、貫録を見せつけたのだった。
トップはアダム・ラガで2点、2位はアルベルト・カベスタニーで4点、トニー・ボウは第4でアンダーガードをかけていくのをきらい、クリーンを狙って5点になってしまって、クォリファイは3位ということになった。クォリファイ通過の最後の1席を得たのは12点のブスト。藤波はファハルドと同点の16点でファイナル進出を逃しての5位争いということになった。
同点の場合はダブルレーンで決着をつける。今回のダブルレーンはちょっとテクニカルだったが、これに藤波は自信があった。だからファハルドと順位を決することになって、5位はもらえたか、という読みはあった。
そのとおり、藤波は快調にファハルドを離していく。それほどぶっちぎりというわけではなかったので、ファハルドは途中の岩を斜めに抜けて藤波を抜き去る策に出て、そしてこれに失敗。岩に跳ね返され、藤波に決定的な差をつけられて5位決定戦は藤波の勝利となった。
開幕戦で、ファハルドは3位表彰台に上がっている。そんなライダーが、ちょっとした失敗で6位に落ちるのが、インドアのおもしろさというかむずかしいところ。セクション数が少ないからこんな結果になるのだが、藤波は5位となってマルセイユ大会を終えることになった。
ちなみに、クォリファイ3位だったボウは、ファイナルのスタート順を決めるダブルレーンを3回走って3回勝利し、見事一番最後のトライ順を手に入れた。クォリファイでの失敗も、ボウにはちっとも応えないようだ。
「第2のタイムオーバーは、あと1秒くらいだったので惜しかったですが、今回はハイメが第3を1点を抜けたところでやばいな、とは思いました。第3で5になった時点で、今回も終わっちゃったなぁ、でもダビルには勝ったかなと思っていましたが、ファハルドが3連続5点で同点に並んだのは意外でした。ファハルドに勝って5位を得られたのはよかったですが、5位は目標としている順位でもないので、やはりファイナルを走ってシーズンを終わりたいものです」
Final(2ラップ目) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 8 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 9 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 17 |
4位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 21 |
Qualification(1ラップ目) | |||
1位 | アダム・ラガ | TRRS | 2 |
2位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 4 |
3位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 5 |
4位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 12 |
5位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 16 |
6位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 16 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 18 |
8位 | フランツ・カドレック | ガスガス | 21 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 60 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 45 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 33 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 25 |
5位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 15 |
6位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 14 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 10 |
8位 | フランツ・カドレック | ガスガス | 4 |