2017年の世界選手権シリーズが始まった。開幕戦は、今年はバルセロナ大会となった。バルセロナといえば、インドアのシリーズの中でも最大規模の会場を誇り、スペインのトライアル界のほぼ誰にとっても地元中の地元大会になる。
例年は、バルセロナ大会の日程になるまでには数戦が組まれているものだったが、今年はこれが緒戦。1月にはシリーズがないという例年からすると異例の2017年となった。
出場を許されたライダーは8名。2017年チャンピオンのトニー・ボウ、ランキング2位のアダム・ラガ、そしてランキング3位の藤波。ランキング4位アルベルト・カベスタニー、ランキング5位ジェロニ・ファハルド。イギリス人のジェイムス・ダビルにドイツ人のフランツ・カドレックで7人。これにバルセロナの今回はチームが地元のレプソルHondaチームからハイメ・ブストが加わって8名だ。スペイン勢が8名中5名を占めるということで、ブストは今回だけのゲスト参加となる。
セクションはクォリファイが5セクション。ファイナルが8セクションとなっていた。第1と最終はどちらも共通。クォリファイの第2から第4はセクションそのものは共通だが、ファイナルでは逆走となって難易度が高められる設定だった。
クォリファイセクションのトライは、二人ずつ。8人には昨年ランキングに基づいて序列がある(ブストはワイルドカードだから8番目)。二人ずつ4組がスピードレースで勝敗を決し、負けたほうが先にトライする。
藤波はカベスタニーとの勝負に勝って、カベスタニーの後からトライすることになった。カベスタニーと藤波は最終組のボウとラガに先駆けて走る。最初に走るのはブストとカドレックの二人、次にダビルとファハルドの二人となる。
ブストは5セクションのうち3セクションをクリーン、2セクションで5点で10点。昨年のブストは本領を発揮できずの感があったが、今年は調子を上げてきそうだ。対するカドレックは20点。
ダビルとファハルドは、ファハルドが好調。ファハルドは第1で1点、第4で5点となった他の3セクションをクリーンして、減点は6。一方ダビルは、第1をクリーンしたものの(ただしセクションでのタイムオーバーが1点あった)3セクションで5点、1点一つで17点。このスコアでは、ファイナル進出はむずかしい。
藤波は、クォリファイ通過のボーダーラインを5点から10点と考えていた。第4セクションは高いステップがあって、これを上がるのはかなり厳しい。対して他のセクションは走破が可能だ。残りの4つをクリーンか、悪くても1点、プラスタイムオーバー1点の2点くらいで切り抜ければ、ファイナル進出の可能性は広がるともくろんでいた。
カベスタニーと藤波のトライとなった。先に走ったカベスタニーが、まず第1で5点になった。藤波はおやっと思ったが、ダビルはクリーンしているし、ファハルドも1点で抜けている。それに下見の時間は終わっていて、今からはセクションをもう見ることはできない。
そしてトライをした藤波は、カベスタニーと同じように5点になった。横たわった円柱に飛び移る際に、フロントタイヤを滑らせたのだ。カベスタニーも、まったく同じ状況で5点になった。
最初にトライをしたブストとカドレックは、円柱ポイントに到着する以前に5点になっていた。最初に円柱を走ったダビルがクリーン、次に走ったファハルドが1点、3番目のカベスタニーが5点、4番目の藤波が5点というわけだ。
ちなみにこのセクションは、藤波たちの後に走ったラガとボウも5点になっている。それも藤波らとまったく同じ失敗をしての5点だった。あるいはこのポイントは、クリーンは限定1名、3人目からは滑りまくるような設定だったのかもしれない。あるいはもう一度下見をしなおせば、前輪を滑らせない走り方が見いだせたのかもしれないが、すでにトライは終わってしまった。
ファハルドが1点で抜けている第1セクションを5点になったことで、ちょっといやな感じになってきた藤波。第4を抜けられれば股展開はちがってくるが、さて、どうだろう。
第2はカベスタニーとともにクリーン。第3。下りながらマシンを立ててフロントを斜面に置きに行くという設定があった。ここで藤波はほんの少しバランスを崩した状態で降りてしまった。からだを前に移動した状態で前輪が強く着地する。そこに、大きな衝撃があった。
実は藤波は、去年のシーズンオフに、肩を負傷している。1年前のシーズンオフに、ボウが負傷したのとほとんど同じ負傷だ。12月、ホンダ・サンクスデイのために来日した藤波は、この負傷の直後だった。負傷直後で、マシンには原則として乗らないと決めてやってきたツインリンクもてぎだったが、ほんの何回かマシンに乗って、しかも華麗な技を披露して、集まったファンの度肝を抜いたものだった。
あれから2ヶ月、状況はよくなっているが、ボウがシーズン全般に渡って苦しんでいたことを思うと、まだまだ藤波も油断はできない。その肩を、このセクションでまた傷めてしまった。正しく着地をすれば問題なかったろうと思われるが、わずかにバランスを崩して着地してしまったことが痛かった。
それで、藤波は1点を失った。さらに肩の痛みで、次の登りでも足が出た。予定外の、2点減点となった。これで藤波の減点は7点となった。残り全部をクリーンしても、ファハルドには勝てない。
第4セクションは、カベスタニーが3点で抜けた。藤波は、万全の体勢だったとしても行けるかどうかは微妙だった。しかもすぐ前のセクションで肩を痛めつけている。やはり藤波は5点になってしまった。ここまで、トータル12点。ブストの10点に後れを取ってしまった。ボウとラガがこれから走る段階で4位だから、藤波のファイナル進出は、事実上、ここで断たれた。
最終第5セクションは水の流れている岩飛びセクションで、ボウは前輪をつかず、すべてダニエルで走破して大喝采を受けた。そんなセクションだから、前輪を使えばクリーンは楽勝だ。藤波のクォリファイは、結局12点で終了した。
最後のラガとボウは、意外にも二人とも第1で5点となったが、残りはすべてクリーン。同点のため、タイブレイクのスピードレースをやってボウが勝利、ボウがクォリファイトップということになった。
8セクションで争われたファイナルはボウがぶっちぎり、ラガとファハルド、カベスタニーの3人は僅差だったが、ラガが2位、ファハルドが3位、カベスタニーが4位ということになった。
藤波はファイナルを走った4人とブストに続いて6位。第1セクションでの5点がとにかく誤算だったXトライアル開幕戦ということになった。
ただ、藤波のメインターゲットはあくまでもアウトドアだ。インドアは成績がいいに越したことはないが、アウトドアの準備の時間を削ってめざす目標ではないと、今の藤波は考えている。
Xトライアルに出場しながら、オファーがあればタイトルのかからないインドア大会に参加し、ふだんのトレーニングはアウトドアに指標を合わせる。22年目を迎える藤波の参戦スタイルは、確固たるものになっている。
「ブスト負けて、今回は6位という結果です。結果は残念ですが、インドアではこんなものかという開き直りもあります。目指すはインドアで好成績を残すことではないので。ただそうは言っても、結果が悪いとへこむので、今は極力結果に対してへこまないよう、意識して気持ちを盛り立てて長いシーズンに向けての準備にかかっています。今回はブストがぼくの上位につけました。去年、オタオタしながら走っていたのに比べると、今年はそれなりに実力を発揮しているように思えます。負けてしまいましたが、もう勝ってもらわないと、という思いもあります。チームメイトのライダーとしては、もちろん負けてなるかという気持ちですけども」
Final(2ラップ目) | |||
---|---|---|---|
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 10 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 14 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 19 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 27 |
Qualification(1ラップ目) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 5 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 5 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 6 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 8 |
5位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 10 |
6位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 12 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 17 |
8位 | フランツ・カドレック | ガスガス | 20 |
PointStandings(ランキング) | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソルHondaチーム | 20 |
2位 | アダム・ラガ | TRRS | 15 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | ヴェルティゴ | 12 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 9 |
5位 | ハイメ・ブスト | レプソルHondaチーム | 6 |
6位 | 藤波貴久 | レプソルHondaチーム | 4 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ガスガス | 2 |
8位 | フランツ・カドレック | ガスガス | 1 |