2016年 トライアル・デ・ナシオン

2016年9月11日/イゾラ2000(フランス)

ぎりぎりでイギリスを下し2位を獲得

photoトライアル・デ・ナシオン(以下TDN)は、2016年から試合のシステムが若干変わった。これまで男子の戦いは4人1組で各セクション上位3人の減点を集計して勝敗を争うシステムだった。それが2017年からは、人数が4人から3人となり、集計するのは3人のうち上位2人ということになった。マインダーも各チーム2名と、シェイプアップが強いられている。

去年2015年、藤波、小川友幸、小川毅士、柴田暁の4名で戦った日本チームは、2016年に黒山健一が出場することになった。

TDN代表選手は、少しでも上位を狙える選手をそろえるのが原則だ。しかしTDNの開催日は世界選手権の日程終了後ではあるが、全日本選手権はシーズン中で、遠征が可能な選手と不可能な選手がいる。小川も黒山も、1台しかない本番車で全日本を戦っていて、TDNに出場するならそれとは別のマシンを現地で用意するか、あるいは日本で用意して空輸するかしかない。

TDNに出場する時、小川は藤波のスペアマシンを使用してきた。小川と藤波のマシンは同じレプソル・ホンダ・チームのモンテッサCOTA
4RTだが、マシンのセッティングはエンジンもサスも大きくちがう。戦う環境もちがうため、単純にセッティングの数値を日本仕様に合わせただけでは納得いく仕様にはならない。そこで小川は、好みのちがいをライディングでカバーすることにして、藤波仕様のままTDNを戦っている。

今回黒山は、日本からいつも乗っているヤマハのファクトリー仕様を空輸してきた。実は黒山は、この時期フューエルインジェクションの新しいエンジンをテストしていて、従来型のテスト車には時間の自由があった。これはTDN当時はまだ機密事項で誰も知らないことだったが、次の全日本で明らかになったことだった。

小川も黒山も、全日本で走るそのままの条件ではなかったかもしれないが、世界ランキング3位の藤波と、全日本ランキング1位と2位、日本のトップで形成される日本チームは、この何年も実現していない。その点で、2016年は記録に残すべき年となった。

藤波の手首の負傷は、まだまだ完治はしていない。苦しみながらランキング3位を獲得したのは、まだほんの1週間前のことだ。症状は日々よくなっているとは言え、あの痛みと戦った1週間後に、まったく痛みなく戦えるなどということもあり得ない。

しかし今回は、小学生の頃からいっしょにトライアルを切磋琢磨した3人の仲間とのチーム戦だ。背水の陣で臨んだ世界選手権最終戦とは、戦いの背景が少しちがう。

photo木曜日、金曜日、土曜日と、藤波ら日本チームは会場でのセッティングに精を出した。会場のISOLA2000は標高が高く、いつも通りのパワー感を出すのには一工夫も一工夫も必要になる。それでも藤波の場合、ここは何回も走ったことがあるし、高地のセッティングもずいぶんデータが集まってきている。今の藤波に必要なのは、日曜日に手首がきちんと機能するように、練習やセッティングに気をつかうことだった。

TDNでは、上位二人の好成績を集計して勝敗を決めるから、3人のうち二人がクリーンをしてしまえば、3人目がクリーンでも5点でも国としての減点数は変わらない。手首が痛いから、二人にクリーンしてもらったら申告5点をもらって先へ行く、などと宣言していた藤波だった。負傷の程度を知っているチームの面々は、そうであってもしかたがないと思う一方、付き合いの長い小川や黒山は、そういうことを言う藤波が、いざ試合になればまったく別の面を見せることになるのも、よく知っているのだった。

セクションは、藤波にはそんなにむずかしいものとは思えなかったのだが、小川や黒山は厳しいという。久しぶりのヨーロッパ、ノンストップルールなど、日本を戦いの舞台とする二人には、二人なりの判断基準があったのだろう。

セクションをどこまで攻略できるかも問題だったが、3人にとって大きくのしかかっていたのが、日本のみなさんの期待だった。TDNでは、日本チームは過去2位に入ったことが何度かある。今回、日本のベスト3が集まったことで、期待は当然のように「2位以上」になった。

可能性はあると思った。しかしまず2位以上の、以上の期待は限りなく不可能に近い。2016年は、藤波が踏ん張ってランキング3位を獲得したが、それでもスペインチームは世界ランキングの1位、2位、4位を代表選手にした。ランキング3位を筆頭とする日本、ランキング7位を筆頭とするイギリスがこれと互角の戦いをするというのは、まったくないとはいわないものの、かなり無理がある。

では2位狙いなら楽勝かといえば、確かに、日本の期待はそんな感じだった。しかし日本の3人は誰もそうは考えていなかった。イギリスはダビルの他、若いトライアル2のチャンピオン級をそろえてきているから、まったく油断ができない存在だ。日本で応援していると、トライアル2の選手の実力を間近で見ることはほとんどないから、このあたりの判断がくいちがうことがある。

2015年、2位に入ったのはフランスだった。今回は、そのフランスが開催国になる。イギリスばかりではなく、フランスも日本の上位進出を阻む強敵だ。イタリアも、世界選手権の常連ライダーが多く、地の利もあってあなどれない。

2015年、1年お休みして参加した日本チームは、スタート順で不利だった。その点、2015年に3位となった実績があるから、今年はイギリスに次ぎ、フランスとスペインだけを従えてのスタートとなった。スタート順だけは、どんなに優秀な選手をそろえても、その前年の結果次第だから、出場しつづける以外によいスタート順を得る方法はない。

走ってみると、小川と黒山の予測とはちがって、日本チームにとってセクションは充分に走れるレベルだった。とはいえ、高い障害も多いので、5点になるのは簡単。そしてちょいちょいと足をついてしまうポイントはそこここにある。

photo日本チームの出だしは、必ずしも絶好調ではなかったが、なんとか3人のうち二人がクリーンを出していて、0点のスコアが並んだ。3セクションまでオールクリーンを続けたのはスペインに日本だけ。イギリスがとイタリアが2点、フランスが3点、ノルウェーは15点。

第4セクションで、日本は二人が1点。初めて減点を記録した。しかし全体に、ノルウェー以外の5チームにとっては全セクションがクリーン目標で、そのとおりにすべてをクリーンしているのがスペイン(18セクション2ラップを3人が走って、減点したのはわずか6セクションだけだった)。他はどこまでクリーンをし続けられるかというがまん大会のような様相となった。出られるかどうかという事前の予想はどこへいったか、試合は1点を争う厳しいものとなった。

1ラップ目。日本は好スコアをマークした。オールクリーンのトップ、スペインにもわずか2点差。しかし結果は衝撃的だった。イギリスが日本とわずか1点差、3点で1ラップをまとめてきた。さらにフランスが6点、イタリアが8点。仮に3人が3人とも5点となったらチームのスコアは10点となるから、トップ5チームにはどのチームにも勝利の可能性がある。

2ラップ目、慣れないノンストップルールで、日本勢には疲れも見えてきた。しかしどちらかというと1ラップ目に調子が上がらなかった小川に対し黒山がこの穴埋めをし、2ラップ目には小川が調子を上げて黒山のミスを帳消しにした。それでもスコアは、全体的に1ラップ目より増していった。スペインのみが、オールクリーンを続ける。

試合前には、二人にまかせて申告5点をもらって走ると言っていた藤波だが、始まってみればすべてのセクションをトライし、きっちりスコアを記録しつづけている。こんなところで手を抜ける藤波ではない。

2ラップ目後半、日本はイギリスチームに抜かれることになった。小川と黒山がトライするとき、藤波はセクションにいて指示や声援を送っていた。後半、黒山に不調が発生して少しペースが遅れたので、藤波はこれを待った。そんなこんなで、最終セクションでは藤波がトライしようとした前に、イギリス勢がずらりと並んでしまっていた。もし、両者が同点同クリーン数、1点から5点まですべて同数だった場合は、タイム差でイギリスに負けてしまうかもしれないというシチュエーションになった。

日本がゴールした時、すでにイギリスはゴールしている。しかしTDNのスコアは集計が複雑だから、チームの面々も自らのスコアを性格には把握していない。大会本部が、正式にスコアを発表するまで、待つしかない。

まずはゴールして、握手をかわした日本チームの3人だったが、そこにはまだ一抹の不安があった。途中には、イギリスと同点か、1点くらい負けているのではないかという情報もあった。イタリア、フランスのスコアは発表され、日本がこの2カ国よりは上位につけることははっきりした。表彰台の獲得は決定だ。

残るは、1位か2位か3位か。スペインが帰ってきて、2ラップ目もオールクリーンであることが発表された。これではどうしようもない。残った二つの表彰台。イギリスと日本は、どちらに立つことになるのか。

photoじらされるように、なかなか発表されないスコアボード。表彰台下にかじりついているのにしびれを切らす頃、ようやくイギリスと日本のボードが届いた。1ラップ目の日本とイギリスは、2点と3点。そして2ラップ目。両者はそろって5点だった。なんと1ラップ目同様、日本はわずか1点差で、イギリスから2位の座を奪っていたのだった。

○藤波貴久のコメント

「気心の知れた3人で久しぶりに走れて、楽しいデ・ナシオンになりました。ただ2位となるのは、楽な戦いではありませんでした。まして、応援してくれるみんなが、このメンバーで行けば2位になるのは当然だと思っているのが伝わってきて、それは大きなプレッシャーでした。途中、イギリスとは大接戦だというのは聞いていましたから、結果は最後までわからなかった。ノーストップに慣れてない二人でしたから、途中は二人を盛り立てるようにして、ふたりが足をついてしまったら、その穴を埋めるべくきっちりクリーンしてと、やれることはすべてやったと思っています。1点差で2位になれて、ほっとしたというのが正直なところです」

Trial Des Nations World Championship 2015
Pos. Nat. Total CL
1位 スペイン 0 102
トニー・ボウ(モンテッサ)
アダム・ラガ(TRS)
アルベルト・カベスタニー(シェルコ)
2位 日本  7  83
藤波貴久(モンテッサ)
小川友幸(モンテッサ)
黒山健一(ヤマハ)
3位 イギリス  8  74
ジェイムス・ダビル(ヴェルティゴ)
ジャック・プライス(ガスガス)
イワン・ロバーツ(ベータ)
4位 フランス  14  70
ベノア・ビンカス(スコルパ)
アレックス・フェレール(シェルコ)
ロリス・グビアン(ベータ)
5位 イタリア  21  61
マテオ・グラタローラ(ガスガス)
ルカ・ペトレーラ(TRS)
ジャンルカ・トルノール(ガスガス)
6位 ノルウェー  121  23
IB・アンデルセン(ベータ)
ハカン・ペダーセン(ガスガス)
クリスチャン・ソレンセン(シェルコ)