2016年 世界選手権第2戦・第3戦ストライダー日本GP

2016年4月23-24日/ツインリンクもてぎ(日本)

世界選手権300戦の日本大会は、両日3位表彰台!

photo■土曜日

1年ぶりの日本のトライアル。去年の世界選手権日本大会で、藤波は日曜日に2位表彰台に上がっている。しかしその代償は小さくなかった。病み上がりの膝を酷使し、その後のシーズンも苦しい戦いを強いられる序章になってしまっている。

あれから1年。今、藤波の膝は1年前がうそのように回復している。靭帯断裂という負傷は、完璧な回復は望めない負傷だが、それでも手術をしてから1年半。状況は劇的に好転している。

用意されていたセクションは、ちょっとむずかしめだった。トップライダーにとっては望むところの設定だが、チームとしては、トニー・ボウが肩の靭帯を痛めていて本調子ではないから、難セクションは必ずしもよい結果につながるとは限らない。しかし難セクションはボウよりも藤波の方に、より冷酷だった。

photo第1セクションは入口の切り立った岩が難関だった。後半は足の出やすいストップをとられやすい岩場。しかし藤波は入口で5点となった。このセクションはむずかしいから、まずこういうこともある。

気を取り直して第2セクション。しかしこれも難セクションだった。結局ボウが1点、ジェロニ・ファハルドが3点で抜け出た以外は全員5点。しかし問題は、次の第3セクションだった。

いつもの岩盤。そそり立つ絶壁は見ごたえのある人気セクションだが、藤波にとってはここはあまり相性がいいとは言えない場所でもある。それが影響したかどうなのか、最初の丸太をクリアして二段目の絶壁を登るところで失敗。マシンが真上に飛び上がってしまって、マインダーのカルロスにもつかめない。なんと無防備にそのまま地面までたたき落ちてしまった。

photoクラッシュの原因は、正確にはよくわからない。しかし状況からして、無意識にギヤを変えてしまったのではないかと、藤波は考える。ひとつめの丸太を3速でクリアした後、タイヤを乾かすために、舗装路面の上でタイヤを空転させる。そのまま3速で岩盤にチャレンジするのが予定のトライだったのだが、タイヤを空転させるときに、あるいは2速に入れてしまったのかもしれない。そのあたりの記憶がない、というのがこのセクションでの藤波の敗因だった。岩盤は最後がオーバーハングのようにそそり立っているから、そこでもうひと開けが必要になる。そのまま進んでいくと真上に飛んでしまって、クラッシュコースだ。もちろん藤波は最後のひと開けをしたのだが、エンジンがついてこなかった。おそらく2速に入っていて、ふけきっていたのではないかと、藤波は思うのだった。

途中、何回かマシンともつれ、藤波自身も肩を打ったりしていたが、これは過去の大けがを考えればそれほど影響のあるものではない。もちろん痛いのだが、藤波の場合、痛いだけで影響がないケガと、痛くて影響のあるケガがある。今回はライディングに影響のないケガだった。

しかしマシンの方には影響のあるダメージが残った。フロントまわりが全滅だった。ハンドルが曲がっただけならあっという間に交換が可能だが、今回のダメージはフロントフォーク、フォークブラケットと、フロントの主要部品のすべてに及んでいた。これはトライアルの続行が可能かどうかというレベルだ。フロントタイヤをまっすぐに向けると、ハンドルは横を向いてしまう。

パドックまで戻っての修復は可能だ。しかしここまで難セクションが続いていたから、下見にもそこそこ時間がかかっている。パドックは直線距離ならすぐそこだが、競技の決まりで、コースを離脱することはできないから、全コースを走ってパドックへ戻り、またコースを走って第4セクションに向かわなければいけない。はたしてその時間があるのか、仮に時間があっても、パドックへ戻っている間に、ライバルたちははるかに先攻してしまうだろう。まだ走ったことのない1ラップ目に、ライバルの走りをまったく見ないでトライを続けていくこともまた、リスクがあった。

photo藤波陣営は、苦慮した結果、ダメージを負ったフロントまわりとともに、1ラップ目を戦うことにした。当然、フロントフォークの動きは悪く、スムーズに動かないばかりか、途中で止まるような動きをする。特に下り坂ではコントロールに苦労した。フォークが動かないのも困りものだが、動くには動くから、伸びたところや縮んだところ、いろんなところで止まることがある。それによってマシンの挙動はうんとちがってくるから、ライディングの苦労は想像にかたくない。それでなくても難セクションなのだ。

あとからリザルトを数えてみると、このときの藤波はなんと15位相当に位置していた。スタートから3連続5点だから、上位に14人いるということで、要するに最下位ということだ。もちろん藤波はそんな順位を知る由もなく、じゃじゃ馬になってしまったマシンと悪戦苦闘していた。

それでも第4セクションで、渾身のクリーン。ここでは高いステアがあって、そこを上がれないだろうと半ばあきらめていたのだが、やってみたら上がれてしまった。それでこの結果となった。泥沼の第5セクションではまた5点だったが、ここはアダム・ラガとジェイムス・ダビルが3点で抜けた以外はみな5点の難セクションだから、結果にはあまり影響がない。ただ挽回ができなかっただけだ。ここも、フロントを振ってマシンを回していくときに、大いなる違和感があった。

第6を2点で抜けた後、新しいセクションの第7でまた5点。ここも難セクションだったが、ここは何人かが抜けているから、順位を上げたい藤波にはちょっと手痛い5点となった。

photoそして問題の第8セクションだ。ここは大きな岩もなく、そういう意味では走破は容易なセクションだった。反面、ガラガラと動く石ばかりで、進路が定まらない。その罠にはまってしまうと足が出るし、するすると抜けられればクリーン。そんなセクションだった。ところが藤波には、動きがおかしいフロントまわりと格闘するという、別の仕事があった。

突然の石の挙動に合わせて、フロントをぽんぽんとはずませていく。しかし藤波のフロントは大きく曲がっているから、フロントが地面を離れると、ハンドルを見ているだけではフロントタイヤの進路を確認できない。フロントタイヤの着地地点が平らなら、その瞬間に調整をして対処することもできるのだろうが、石は小さいながらも連続している。必死で対応する藤波だったが、少しずつ誤差が大きくなっていき、ついに5点となってしまった。

一時は7位あたりまで浮上していた藤波だったが、これでまた脱落。なんと再び15位まで落ちてしまった。厳しい日本GPである。しかしその後は健闘した。第9、第10、第11と連続クリーン。超難関の最終12セクションは5点だったが、1ラップを終えて、藤波の順位は6位まで回復した。トップはラガで18点。肩の痛い(これは影響のある痛さだった)ボウが30点、開幕戦に続いて今日も調子がいいハイメ・ブストが31点で3位。4位に34点で小川友幸が入っている。5位が35点でファハルド、藤波は37点だ。もてぎでは、携帯端末で途中結果が見られるようになっているが、藤波は途中の結果を知らないまま競技を進める。もちろん1ラップを終えてパドックに帰ってきたときには、フロントまわりの大修理をしなければいけなかったから、のんびり順位を確認しているヒマなどない。

photoあとから振り返って思うに、ライバルがそんなに調子がよくなかったのが幸いした。藤波は動かないフロントフォークと格闘しながら37点。手負いながらボウが30点だから、藤波との点差は7点しかない。もっと致命的な点差がつけられていてもおかしくなかったのだが、そこが藤波のラッキーといえばラッキーなところだった。

2ラップ目。第2こそ3点だったが、1ラップ目に手痛い失点をした第1、第3はクリーン。もちろん1ラップ目は悪夢だった第8もクリーンして、第9までは5点がひとつもなく順調にトライを続けていた。チームからは、上位と大きな差はない、と伝えられていた。

10セクション。これをクリーンすれば、2ラップ目の走りはまずまずと自己評価することもできたのだろうが、しかしここは5点。藤波にすればどうということもない土の二段で前進を止めてしまった。最終12セクションは5点となって、これで2ラップ目のスコアは17点。第10をクリーンして12点なら、結果的にラガの2ラップ目と同じベストスコアになっていたところだった。しかしそれでも藤波は、第10をクリーンしたとして、走りとしてはまぁまぁといったところ、と自分の走りを分析する。藤波本人はそうは言わないが、膝が劇的に回復して、自身の目線が去年までよりレベルアップしているのではないだろうか。

さて3ラップ目。この頃、2位のボウとは7点差のままで、藤波にとって気にするべきはブストとの3位争いだった。チームとすれば、2位から4位までが同じチームで、残念ながら1位にはやや離され、5位とも少し差があったから、2位から4位までを獲得するという結末はおおむね見え始めていた。問題は誰がどのポジションを得るか、だ。

チームに言われていたのは、4位のハイメには5点から10点リードがあるのではないか、ということだった。しかし終盤になって、腕がつってしまった。1ラップ目に挙動のおかしいマシンと6位となるフジガスライディングを発揮したからだろうか、第1、第5、第7と5点が続いた。しかしそれ以上に手痛かったのは、終盤の第9セクション以降。3点、2点、3点、5点(最終12セクションは誰もいけずだったから、これはノーカウントとしても)終盤にバタバタの減点が続いてしまった。

photo終わってみれば、チームメイトの後輩、ハイメとは1点差で3位表彰台獲得。序盤の大クラッシュ、中盤の追い上げ、終盤の減点と、浮き沈みの激しかった1日だったが、表彰台獲得は去年のフランスGP以来。この走りっぷりでよくこの成績が出たな、というのが本人の感想だが、ひとまず安堵とともに祝杯という決着となった。

九州の大地震もあって、シャンパンファイトはやらないことになっていて、表彰台で受け取ったシャンパンはライダーが独り占めすることになった。

■日曜日

photo去年なら、1日を終えた夜は膝のケアでてんてこ舞いだったのだが、今年はそんなことはない。晴れ晴れと2日目のスタートを迎えることができた。

土曜日の夜、もてぎ地方は雨に見舞われて、セクションコーディネーターはセクションに手直しをした。雨の降ったもてぎはずるずるに滑る、とんでもないコンディションになる。ボウなどは、セクションはこのままでOK。難攻不落だった最終12セクションもこのままで可能性はあると言っていたが、主催者としては参加者全員と、見る者の満足とを考えて、セクションはやさしめに設定変更されることになった。

しかしお天気は、スタート前までにはすっかり回復して、結果論としては降雨の影響はほとんどなかったといっていい。2日目でライダーがセクションに慣れていることをかんがみれば、やさしすぎる設定となってしまった。こうなると、足をつくことができない、数少ない難所で失敗すると取り返しがつかないなど、ライダーには苦しい戦いとなる。

ちなみに優勝したボウは5点が一つ。2位となったラガは3つ、藤波には5つの5点があり、4位のブストには4つだった。さらに5位のジェイムス・ダビルは10個の5点がありながら、トータル減点は53点でしかない。5点以外は1点が3つ、それですべてだった。

一番の難セクションは、土曜日に難攻不落だった最終12セクション。次が、藤波もラガも1回ずつ5点になっている第2セクション、次が第7セクションあたりとなる。

photo世界選手権を全戦回っているコーディネーターのジョルディ・パスケットによると、日本のオブザーバーは正確で厳格なので、流れを重視した採点をしてもらうようにお願いしているとのことだった。そうはいっても、その判断はオブザーバー個々によって変わってくるわけなので、最終的にはそのセクションでオブザーバーの癖を見て、さらには最後の最後はオブザーバーの感覚と自分の感覚をどこまで合わせられるかが勝負となる。

問題となるのは、もちろん停止5点の判定だ。止まらなければ5点にはなりようがないのだが、ちょっとでも止まればバランスを修正できるとなれば、ほんの一瞬でも止まりたい。その一瞬をどう判断されるかが、大きな問題となる。一瞬がほんとうに一瞬ならとてもむずかしいし、ひと呼吸置ければいくらか可能性が出てくる。さらにもう一回ラインを修正してひと呼吸おければ、可能性はうんと高まる。これはもう、オブザーバーの採点の見切りにかかってくる。とはいえ、停止5点を取られないようにノーストップで走り抜こうとして上れずに5点となるなら、結果は同じだ。それなら停止5点を取られるかもしれない走り方でクリーンをすれば、採点はクリーンとなるかもしれない。ノーストップルールでは、こういう作戦も必要に!
なってくる。

かと思うと、アンダーカードが引っかかって一瞬カメになっただけで5点の笛を吹かれるセクションもあって、今のトライアルはオブザーバーの顔色をうかがうようなシーンが多いし、情報収集がより重要になってくる。

photo最終12セクションは、3回のうち、走破できたのは1回にとどまった。クリーンは1回だけで、残念な結果だったが、しかし藤波には自信があった。1ラップ目は助走で滑ってしまった。2ラップ目はすべてがうまくいった。3ラップ目、どうやらラインがわずかに左にずれてしまったようだった。下から加速していくと、岸壁の直前の地面が見えないから、それで目測を誤ったのかもしれない。9割は成功するはずだった最後の見せ場だったのだが、岩の直前で振られてしまって失敗した。

2日目の藤波は、ラガとの2位争いを展開した。最終セクションで藤波がクリーンして、ラガが3点なら藤波の勝ちだった計算になる。最終セクションのラガは1点で抜けているから、藤波がクリーンをしても追いつけなかったことになるが、もしも藤波がラガの目前でクリーンをしていれば、ラガにもプレッシャーがかかったはずだから、結果は変わっていた可能性はある。最後はちょっと残念な幕引きとなった。

photoしかしこれで2日間表彰台。藤波の2日間表彰台は、2011年以来のことになる。そしてその表彰台が、藤波の世界選手権300戦目の記念大会となった。表彰式のあと、チームのみんなが壇上に上がって、300戦目の偉業を祝い、2日間の日本GPは幕を下ろした。3位ではあったが、昨年2度しか表彰台に上がれなかった藤波のこと、今回の2度の表彰台は、苦しかった2年間を一気に取り戻すかのような快挙となった。

大会終了後、コレクションホールでおこなわれたトークショーで藤波は、今回の世界GPをこう振り返った。

「どこで迎えるかもわからないはずの世界GP300戦を、地元の日本で迎えられて、しかもそれが表彰台。ぼくは、やっぱり持ってますねー」

それは笑いをとる藤波特有のリップサービスだったのだが、やはり藤波貴久は、持っている。

 

○藤波貴久のコメント

「もてぎのセクションは、どこででも失敗できる、気が抜けないものでした。ぴたりと合わせる必要のあるところが多くて、得意かどうかといわれると、好きじゃない設定なんですが、今回は2日間ともに3位となれて、いい日本大会になりました。ランキングもひとつあがりましたけど、でもまだまだ勝負はこれから。ランキングのこともなにも考えていないです。去年までは毎戦のように膝の修理加療をしていたものですが、今年はそんなこともないし、モチベーションは高いです。今は、1戦1戦を確実に走って、毎戦できっちり3位までに入りたいです。そうすれば、結果は必ずついてくると思います。日本では、本当に皆さんの応援に勇気をもらいました。皆さんの応援で、表彰台に押し上げてもらうことができました。この勇気!
をヨーロッパに持ってかえって、がんばります」

World Championship 2015
土曜日
1位 アダム・ラガ スペイン・TRS 52 24
2位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 68 16
3位 藤波貴久 日本・モンテッサ 85 15
4位 ハイメ・ブスト スペイン・モンテッサ 86 15
5位 アルベルト・カベスタニー スペイン・シェルコ 94 8
6位 マテオ・グラタローラ イタリア・ガスガス 95 11
7位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ヴェルティゴ 98 11
8位 ジェイムス・ダビル イギリス・ヴェルティゴ 98 8
9位 小川友幸 日本・ホンダ 105 11
日曜日
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 14 27
2位 アダム・ラガ スペイン・ガスガス 26 26
3位 藤波貴久 日本・モンテッサ 33 25
4位 アルベルト・カベスタニー スペイン・シェルコ 39 21
5位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ヴェルティゴ 53 23
6位 ハイメ・ブスト スペイン・モンテッサ 57 22
7位 マテオ・グラタローラ イタリア・ガスガス 58 21
8位 ジェイムス・ダビル イギリス・ヴェルティゴ 60 20
9位 小川友幸 日本・ホンダ 61 21
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ スペイン・モンテッサ 74
2位 アダム・ラガ スペイン・TRS 69
3位 アルベルト・カベスタニー スペイン・シェルコ 53
4位 藤波貴久 日本・モンテッサ 50
5位 ハイメ・ブスト スペイン・モンテッサ 49
6位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ヴェルティゴ 41