スウェーデンで表彰台に上った藤波だったが、1週間後にはイギリスで苦渋を味わうことになった。ひざはまだ完璧にはほど遠いし、スウェーデンでは左足指を痛めてしまった。しかしそれが不調の理由ではない。苦境にあっても、常に前向きに走り続ける藤波の戦いは続いている。
痛めた小指は、爪がはがれた痛々しい状態。切れたところが少々化膿しているので、抗生物質で対処している状態だ。去年以来、右ひざをいたわって力を入れるアクションはほとんど左足が担当してきた。ところが今度はその左足が痛い。トライアルライダーとしては絶望的な状況になってしまった。
小指の痛みも痛烈だが、それ以上につらかったのが、金曜日からおなかが痛くなってしまったことだった。食べすぎや悪いものを食べたというより、ストレスや薬の副作用のおそれがあった。足に力を入れられないし、腹に力を入れられない、これでは、気持ちがのりようがない。
そんな苦境の中で始まった土曜日のトライアル。するといきなり、第1セクションでエンジンが止まってしまった。ここは比較的簡単なセクションだっただけに、試合運びの上でもこの5点はいたい。しかしそれ以上に、気分が落ち込む。おなかはあいかわらず痛い。出足で調子を崩されたうえに、インジェクション交換などをしたために、試合のペースが乱れたことがなによりも痛かった。
悪い予感のまま、なんと第3セクションまで、連続3セクションで5点となってしまった。序盤で15点の失点は手痛すぎるが、しかし藤波はあきらめなかった。ようやく第4セクションでクリーンが出て、第5セクションで1点。調子が盛り上がってきた。しかしそんな矢先の第6セクションでまたも5点となった。ここもむずかしいポイントの手前の、なんでもないところでの5点とあって、藤波自身、なにをしてんねん、と自責する失敗となった。
その後も調子は上向かない。11セクションでもインしてすぐのちょろちょろとしてポイントで5点、12セクションでは、えいやと岩へ飛び移ったら、その手前でテープを切っていたという踏んだり蹴ったりで、スコアも成績も気持ちも闘志もぐちゃぐちゃの1ラップ目だった。
2ラップ目、状況は少しよくなったものの、根本的には変わらない。それに加え、気まぐれなオブザーバーにも苦しめられてしまった。今回のオブザーバー、老人会かというくらいに高齢の方が多く、採点もたいがい甘い。5秒くらい止まっていてもいっこうに5点にならなかったりもして、それならそれで楽になるかというと、今度はオブザーバーの採点の傾向を見抜くのに気持ちを持っていかれてしまって、やっぱりペースを崩される。
パンチを担当するのは子どもだったりもして、そんなこんなでパンチミスもいくつかあった。藤波自身、いくつかの減点がなくなっていて、クリーンとマークされていたりもしていたが、こんなことがすべてのライダーに起きるものだから、むずかしいトライアルがさらにややこしいことになってしまう。
結局土曜日は、最後まで調子を上げることができないまま、試合が終わってしまった。マインだーのカルロスによると、ひざの影響なのか小指の痛みの影響なのか、充分に踏み込めていないことで、飛びつきなどで失敗することがあるのではないかということだが、真相はわからない。藤波には、気持ちが勝って、思い切っていこうとするとついアクセルを開けてしまう傾向があるのだが、それが悪いほうに出たのがこの日の結果だった。去年は、こういうケースばかりが続いていたものだ。
雨は日曜日には止んだ。まだまだ滑るにはちがいないが、とりあえず雨は降っていない。試合の後半には、滑りもなくなるかもしれない。
小指の爪のはがれは、対策を施した。おなかの痛みは止まった。ためしにというか、たぶんちがいないとあたりはついていたのだが、痛み止めを飲むのをやめたのだ。それでおなかが痛いのはなおったものの、痛み止めを飲んでいないのだから、後半に痛みを感じる。
それでも、土曜日より悪くないことはないという思いが、藤波をプレッシャーから解き放っていた。セクションはいくつかが変更になっていて、むずかしそうになっていたり簡単そうになっていたり、それはいろいろだった。
土曜日に悩まされたオブザーバーは、さすがに誰からもブーイングだったようだ。ライダーだけでなく、主催者からもお客さんからもクレームが相次ぎ、日曜日は正しく採点をすることにしたとの情報が流れた。正しく採点をするのは当然のことなのだが、とはいえ、ダイヤルをひねるように採点の基準を変えるのはむずかしい。少しはましになってはいたものの、お世辞にも優秀とはいえないオブザーバーに見守られながらのトライアルとなった。
1ラップ目、藤波の不調はしかしこの日も変わらない。なんと12セクションのうち、5点が8個もある。しかもクリーンはたったの二つ。こんなに5点を取ってしまっていいのかと自分で悩んでしまうほどに5点の連発となった。調子はよくはないものの、それにしても1ラップ目45点はあり得ない。どんなに悪くても30点では回ってこれたのではないかと、あとになって考える藤波だった。
2ラップ目、路面が乾いてきて、コンディションは少しよくなった。事実、クリーンが3つ出たし、ラップ小計で20点近くも減点を減らすことができた。しかしこの頃から、クラッチにトラブルが出始めた。不良箇所が明らかになれば交換は簡単だが、どこがおかしいのかが特定できない。セッティングを変更して対処するが、これがまた裏目に出て、第4セクションや第7セクションで5点となっている。
トラブルの影響を緩和するために行ったセッティング変更は、どうやら完全に裏目。元に戻して、不調は不調として戦い続けることになった。
3ラップ目、第4セクションを初めてクリーンした。このペースなら悪くはない。ただし10セクションでやっぱり5点を取ってしまっていたりして、まだまだ改善の余地はあった。それでも3ラップ目は12点、1ラップ目の45点と比べると、少しは本来の姿に戻れたといえる。しかし試合の流れを変えるには、それは遅すぎた。
土曜日より一つポジションを上げて、6位。5位のブストとは3点差。僅差で負けてしまっていることも情けないし、後輩の、まだまだ粗削りのブストに負けていることも情けない。それ以上に、6位や7位を争っていることが情けない。
それでも、ひざの具合は悪くはなっていないし、ひざをいたわるために、まったく練習をしていないにもかかわらずこの成績で走っていられるというのは、藤波本人も驚きだし、悪くない材料となっている。
「さんざんな週末になりました。一から十まで、全部が全部ダメなわけではなかったですが、それでも1ラップの中のどこかで失敗が出る。それも去年のような、まったくコントロールができていない失敗です。ひざが回復途中だったりけがをしたりと、いい材料には恵まれていませんが、それでもこの内容のトライアルをしていてはいけません。連戦の中で、調子を取り戻していきたいと思います」
土曜日 | ||||
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1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 41 | 24 |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 50 | 13 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 88 | 12 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 78 | 12 |
5位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 109 | 9 |
6位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベルティゴ | 103 | 7 |
7位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 104 | 9 |
日曜日 | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 10 | 30 |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 40 | 22 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 63 | 19 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 71 | 16 |
5位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 81 | 12 |
6位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 84 | 12 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 160 | |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 126 | |
3位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 114 | |
4位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 101 | |
5位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 98 | |
6位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 82 |