チェコで少し残念な結果を残してしまった藤波。しかし膝の状態を考えると、これでも悪くない結果という見方もできる。今の藤波は、試合以外では極力膝を温存して、マシンには乗らず、自転車やジムで体調を整えている。自転車も、ときにあんまり状態が悪い時には休むこともある。トレーニングができないのは不安の素となるも、それ以上に膝を痛めてしまってはどうしようもない。
月曜日にチェコから帰ってきて、月火水と膝を休めて、木曜日にはスウェーデンに向けてのフライトとなる。忙しい。
金曜日のウォーミングアップも、今年の藤波は極力乗らない。最低限のセッティングを確認したら、それでマシンからは降りる。乗る時には痛み止めを飲んでいるが、状況は少しずつよくなっていると感じている。少なくとも悪くはなっていないと思う。
ライディングにも、気を使っている。右足には極力負担をかけたくない。ここぞというところでは力まなければいけないので、それ以外では少しでも休ませたい。長い登りなどでは膝を前に出さずに、横に出している。今の藤波の膝は、前方向に折りたたむのがむずかしい状況だ。
右足がそんなだから、乗っているのはほとんど左足で、ということになる。極端を言えば、左足一本でライディングしているような感じだ。
会場は、これまでに世界選手権で来たことがないところ。雨がちょろちょろと降ったり止んだりで、地面はすごく濡れている。濡れているというよりふかふかで、泥沼の上に土が乗っているような状態だ。
当初、セクションを見た時にはこれは簡単だね、ということになった。ところが練習で走ってみると、けっこうむずかしいということになった。とにかく滑って、たいへんなトライアルになりそうだ。
藤波の作戦は、大きな失敗を減らして、5点を減らしていこう、マシンを前に出して進めようというものだ。スウェーデンのセクションは、強いていえばもてぎの登り斜面のような感じで、泥々で滑りやすくて、マシンが暴れても開けていかなければいけない、というシチュエーションだ。そしてこんなコンディションを、藤波はきらいではない。
第2セクションは、陰につるつるの根っこからステップを上がる設定。アダム・ラガが5点になるなど、それなりの波乱セクションだった。ここを藤波は、トニー・ボウとともにただ二人だけクリーンした。続く第3セクションでもラガは5点となったが、藤波は1点。まだまだ試合は始まったばかりだが、これは藤波の貯金になった。この日は、この第2、第3セクションがこの日の勝負どころになると思われた。
いつもの通り、藤波は自分のスコアや順位を確認していない。結果を見ると、1ラップ目の藤波はジェロニ・ファハルド、ボウに次いで3番手。2ラップ目も、ボウには10点ほどの点差を開けられたものの、3番手をキープした。2位のファハルドにも5点ほどの差で、3ラップ目が楽しみだ。
しかし2ラップ目、藤波はアクシデントに遭遇する。第9セクションで岩に足をはさんでしまって、小指を強打してしまった。その第9セクションは、痛みに耐えきれず、5点となっている。折れているかもしれない。ドクターにも相談した。しかし藤波の性格を知っているドクターは「折れててもあなたは走るでしょ?」「とりあえず、我慢するしか処置はない」とアドバイスをくれた。アイシングをほどこし、小指と中指をまとめてテーピングして3ラップ目に臨んだ。
しかし逆に、この痛みが藤波の集中力を支えてくれたのかもしれない。3ラップ目、藤波のベストスコアが出た。12点。ボウが13点、ファハルドが15点だから、3ラップ目に限っては、これがベストスコアだった。
結果、ファハルドに2点差の3位。惜しいところだったが、表彰台獲得。日本GPの日曜日以来の表彰台となった。
表彰台獲得は朗報だったが、小指は痛い。膝の痛みを忘れるくらい、小指が痛い。夜寝ていても、シーツがあたって痛みを感じて起きてしまったりした。しかも傷めたのは左足。右足は膝の問題をかかえていて、いまや左足一本でトライアルをしているに等しいというのに、その左足が痛みを訴えている。それでも、バイクに乗っている時にはそれほどの痛みではないのだが、下見で歩いている時にはひどい痛みに見舞われる。
セクションは何ヶ所かが手直しを受けていて、全体に簡単になっているということだったのだが、そうとばかりもいえないようだった。特に第7セクションは、明らかにむずかしくなっていた。
1ラップ目、走ってみると、むずかしくなった第7セクション以外では5点を取らずに1ラップ目を終えることができた。終わって結果を確認すると、藤波の1ラップ目の減点は12点で、これは2位に相当する。ただし藤波はライバルのスコアを確認していない。自分が12点なら、みんな10点くらいで回っているのではないかと考えていた。実際には、10点で回ったのはボウだけだった。
2ラップ目、狙っていこうと思ったのが裏目に出た。得意パターンだった第3、第4、第5と連続5点になってしまった。1ラップ目が12点だというのに、この3セクションだけで15点を献上してしまった。しかも、再び悲劇が襲った。第9セクションで、前の日とまったく同じ状況で左足小指を岩にヒットさせてしまったのだ。痛みは土曜日よりもひどいくらいだった。はたして、こんな痛みと戦いながら集中してトライアルができるのか。不安いっぱいで残る3ラップ目を走ることになる。
やはりというか、第3セクション、第5セクションと5点になった。ここは勝負どころと目していたところだったから、これは痛かった。そしてこれが敗因となって、表彰台を逃したばかりでなく、5位に終わることになった。4位のファハルドとはわずか1点差だから、くやしい5位にもなった。
1点差だが、クリーン数にも差があるから、あと2点減点を減らせれば4位だったのだが、それは結果だ。きちんと4位争いができるというのは今の藤波の喜びであり、収穫でもある。
「膝の状態の影響や足の指の負傷などはありますが、今年はマシンとの一体感が復活していて、乗っていて楽しい感覚がよみがえっています。去年はそういう実感がついに得られないままシーズンを消化してしまい、1年中、原因がわからないままに乗れてない感じが続いていました。失敗は失敗として、去年は失敗の理由がわからないままで終わっていました。今年はどうして失敗したのか、わかっています。内容的には充実感があるので、ぜひ結果につなげていきたいと思います」
土曜日 | ||||
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1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 42 | 20 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 51 | 21 |
3位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 53 | 15 |
4位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 59 | 17 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 64 | 17 |
6位 | エディ・カールソン | スウェーデン・モンテッサ | 84 | 13 |
日曜日 | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 25 | 23 |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 28 | 23 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 45 | 20 |
4位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 62 | 19 |
5位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 63 | 17 |
6位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベルティゴ | 65 | 14 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 120 | |
2位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 92 | |
3位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 86 | |
4位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 79 | |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 73 | |
6位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 60 |