フジガスが帰ってきた。年に一度の日本大会に、半年に及ぶ手術療養生活からトライアルの現場に、そして表彰台に!
世界選手権参戦20周年を迎えるシーズンの開幕に、このような結果が残せたのは、やはり日本のファンのみなさんに背中を押してもらえた結果にちがいない。
スペインから日本に帰ってきて、久しぶりの日本は忙しい。今回も日本GP直前にホンダ本社で公開記者会見が催され、トニー・ボウ、ハイメ・ブスト、そして小川友幸、柴田暁とともに出席、藤波は、主役の一人として会見に臨む一方、ボウやブストに対してはホスト役をやったり通訳をやったり。藤波はユーモアあふれるコメントで、場を盛り上げたのだった。
シーズン開幕戦の日本大会は、一昨年以来のこと。地元日本でシーズンの開幕を迎えられるのは藤波にとってはなによりうれしい展開だ。日本のファンももちろんだが、藤波自身が開幕戦での自分の活躍を楽しみにしている。その一方で、期待が大きい分、プレッシャーも大きい。まして今回は、膝の手術からの復帰戦だ。藤波自身、どこまで走れるのか、不安が大きかった。そんな中での2015年開幕戦日本GPだった。藤波は、HRCが用意した2015年モデルのモンテッサコタ4RTに乗る。ボウは、旧型に乗る。新型ができたばかりで、充分な乗り込みができていなったという理由もあった。藤波の場合、膝の手術から復帰にあたっては、最初からこの2015年モデルに乗った。日本GPで、2015年モデルに乗ったのは藤波と、テストを務める小川友幸のふたりだけ、ということになる。
負傷で苦戦した去年の日本GPとは裏腹、今回のボウは絶好調。順調にクリーンを重ねていく。藤波はといえば、難関第3セクション、第4セクションで5点と、出だしは悪い。そのまま1ラップ目は減点を重ねて、1ラップ目の小計が24点。ボウの1ラップ目が7点、2位のジェロニ・ファハルドが9点だから、上位争いに食い込むのはむずかしいスコアとなってしまった。12セクションのうち、クリーンが4つ、5点が3つ、3点がふたつ。やはり半年もの間実戦から離れていたブランクは大きかったのか。しかしそれでも、藤波の24点を上回っていたのはボウとファハルドとアダム・ラガ。3人のライバルだけだった。アルベルト・カベスタニーは25点。僅差だが、1ラップ目の藤波は4位につけた。
2ラップ目も、藤波のライディングはかんばしいとはいえない。第3、第4で5点は1ラップ目と同様、さらに第2で1点を失っている。それでも第7セクション以降は10セクションまで4連続クリーン。スコアは1ラップ目より7点減らして17点となった。このラップも、5位以降は1ラップ目より減点を減らせていなかったから、藤波は4位を確実にしつつあった。
第3セクションは結局3ラップとも5点だった。藤波の調子は上向かない。ようやく3ラップ目にして、毎度の難セクションである第4セクションを3点で抜けたが、ここはボウは3度クリーン、5位のカベスタニーも2度クリーンしている。藤波だけが、なかなか攻略できない。その後も、泥々の登りを攻略していく第5で3点、第6で5点。3ラップ目。2ラップ目より3点多い20点で競技を終了した。結果は、後続の上位陣が帰ってくるまでわからないが、上位3人には大差をつけられていて、表彰台はない。
勝負の鍵は、4位争いのライバルのカベスタニーだった。カベスタニーは、2ラップ目終了時点で藤波に9点差をつけられていた。3ラップ目の追い上げ次第では逆転される可能性もあった。カベスタニーは、10セクションまで藤波と同点。クリーン数はカベスタニーが勝っていたから、この時点では藤波は5位。ところが残るふたつのセクションでドラマが起こった。カベスタニーは11セクションでまず5点、さらに最終セクションでも1点。藤波とカベスタニーの勝負は、この2セクションでの6点が、そのまま二人の点差となった。
カムバック緒戦は4位。5位や6位を続けた昨年の戦いに比べると、悪くない順位ではあった。その一方、昨年の開幕戦では優勝もしているし、なにより上位3人との点差が大きすぎる。はたしてもう一度トップ争いができるようになるのか、この走りではそれはむずかしい相談になる。
トップ争いに食い込みたい。2日目、日曜日のスタートは、土曜日の順位である後ろから5番目。1分半前にカベスタニーがスタートしているが、土曜日同様、藤波は特にカベスタニーの後ろにつくことなく、自分のペースでトライを続けていった。
しかし調子はよくない。第3セクションは土曜日の時点でもむずかしかったのに、日曜日にはさらにラインが限定されてむずかしくなっていた。1ラップ目はボウだけがクリーンして盛り上がったらしいが、結局第3セクションを抜け出たのはこのときのボウだけ。他は全員が玉砕した。このセクションは、ノーストップルールで挑む限り、まず可能性がない難易度だったと藤波は考えている。
しかし問題は、その前後の第2、第4で5点となってしまっていることだ。試合が始まっていきなり、15点を失った。これでは土曜日の戦い方と同じになってしまう。その後、泥沼の第5,泥の登りの第6と減点を重ねて、1ラップ目の減点は24点。それでもこれを上回るスコアをマークしたのはボウとラガのふたりだけだったから、1ラップ目の時点で藤波は3位ということになった。
2ラップ目、第2と第4は1点とクリーンで抜けたものの(第3はほぼ予定通り5点だった)ヒルクライムセクションでは3点、5点、3点と失点し、このラップもいい走りとはいえない。それでも後半はクリーンを続けることができたので、ラップ合計では1ラップ目を7点減らせて17点。2ラップ目17点は、ボウと同じスコアだったが、ファハルドとラガが13点でまとめてきて、藤波は4位に後退することになった。2位がファハルドで藤波とは7点差、3位ラガは藤波と1点差。5位カベスタニーは藤波に6点差をつけられている。
3ラップ目。このラップになって、初めて藤波は本来の集中力を取り戻してきた。第3セクションの5点はしかたないとして、第4で1点、第5で3点、第9で1点、全部で10点はまずまずのスコアをマークすることができた。この日のベストラップは、第3をクリーンしたボウの1ラップ目で7点。第3で5点となったボウの3ラップ目は藤波と同じ10点だった。
結果、2ラップ目3ラップ目とボウと同じスコアをマークした藤波は、優勝争いの感触をしっかり取り戻してゴールした。しかしその時点では、ファハルドとラガがまだゴールしていない。彼らが調子を維持してゴールすれば藤波は4位。彼らがどこかで失敗をしてくれば、藤波の上位入賞のチャンスはあった。
ゴールを目前とした11セクションで、ラガとファハルドが相次いで5点になったという情報が入った。ラガは最後の最後で表彰台をとり逃し、藤波が3位表彰台を確保した。気持ちが乱れたラガは最終セクションでも5点となってかろうじて4位を確保した結末となった。トライアルは、最後の最後までなにがあるかわからない。
一方ファハルドは、11セクションを5点になったものの、12セクションはクリーンしてゴールした。ツインリンクもてぎでは、競技の結果を逐一配信している。それを確認すると、ファハルドと藤波のスコアには2点差ほどがあって、2位はファハルド、3位が藤波という最終結果となっていた。
しかしそこに、シレラ監督が帰ってきた。監督は藤波が2位だ、おめでとう、と喜んでいる。続いてボウも2位おめでとうと藤波に駆け寄ってきた。いやいや、3位だからと藤波が説明する。どうやら、配信された結果と、監督の手元の集計とで、何点かちがう数字が出ていたらしい。
藤波とすれば、3位表彰台はいい結果だった。しかもこの日は、トップ争いをして勝ち得た表彰台だった。土曜日の4位から、一つポジションを上げたという結果ではない。もちろん2位になれば大喜びだが、2位だ2位だと大喜びしてやっぱり3位でしたとがっかりするより、3位だと思っていたほうが精神的にうれしい。
しかし監督はあきらめない。配信された速報結果はツインリンクが配信しているもので、信頼性は高いが非公式のものだ。公式の結果は公式リザルトに限る。監督は公式リザルトの掲示板を確認しに出かけていった。藤波がまだまだ痛む膝のケアなどをしていると、そこにまずやってきたのが、ファハルドだった。「おめでとう。おまえが2位だ」。
みんなしてかついでいるのかとも勘ぐったが、そんな感じではなさそうだ。そうしたら監督が公式情報とともに帰ってきた。やっぱり2位だぞ。ファハルドとは、2点差だ!
あらためて、レプソル・ホンダ・チームに歓喜の瞬間が訪れた。ワンツーフィニッシュ。しかもルーキーのブストも、両日ともに6位に入った。様々な意味で、この開幕戦、チームとしてはこれ以上の結果はない。
膝の調子はまだまだ本調子ではない。手術した靭帯より、長年酷使したそれ以外の部分の疲労が大きいようだ。しかし世界選手権20年目のシーズンに挑む藤波は、まだまだトップ争いに向けて挑み続けていく。
「2位。そしてトニーとのワンツー。素晴らしい結果を残すことができました。今までもそうでしたが、日本では、日本のファンの皆さんに背後から押し上げられるような実感がとても強くあります。今回もまた、そんな戦いになりました。土曜日の4位は、順そのものについては、自分としてはけっして悪いものではなかったですが、トップ3との点差の隔たりが大きくて、課題が大きいと感じました。日曜日も、出だしは同様で、つらい戦いになりそうでした。でも2ラップ目に少しよくなって、3ラップ目に、ようやくトップ争いの集中の走りができるようになりました。これがずっと続けられれば、今シーズンも活躍ができるのではないかと思います。今回は、手術後の長い療養からの復帰戦で、ほんとうに走れるのか、正直不安が!
いっぱいでしたが、日本で、日本の皆さんといっしょに、まだまだやれるという喜びをつかむことができました。ありがとうございました。ヨーロッパに帰ってシーズン本番。がんばります」
土曜日 | ||||
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1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 17 | 28 |
2位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 26 | 24 |
3位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 30 | 24 |
4位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 61 | 16 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 67 | 21 |
6位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 92 | 14 |
7位 | ホルヘ・カサレス | スペイン・ベータ | 95 | 13 |
8位 | 黒山健一 | 日本・ヤマハ | 96 | 9 |
9位 | 小川友幸 | 日本・ホンダ | 97 | 12 |
10位 | アレッシャンドレ・フェレール | フランス・シェルコ | 98 | 12 |
日曜日 | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 34 | 24 |
2位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 51 | 20 |
3位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 53 | 20 |
4位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 59 | 18 |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 61 | 17 |
6位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 83 | 15 |
7位 | 小川友幸 | 日本・ホンダ | 86 | 13 |
8位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベルティゴ | 87 | 15 |
9位 | アレッシャンドレ・フェレール | フランス・シェルコ | 89 | 15 |
10位 | 黒山健一 | 日本・ヤマハ | 97 | 11 |
世界選手権ランキング | ||||
1位 | トニー・ボウ | スペイン・モンテッサ | 40 | |
2位 | ジェロニ・ファハルド | スペイン・ベータ | 32 | |
3位 | 藤波貴久 | 日本・モンテッサ | 30 | |
4位 | アダム・ラガ | スペイン・ガスガス | 28 | |
5位 | アルベルト・カベスタニー | スペイン・シェルコ | 22 | |
6位 | ハイメ・ブスト | スペイン・モンテッサ | 20 | |
7位 | 小川友幸 | 日本・ホンダ | 16 | |
8位 | 黒山健一 | 日本・ヤマハ | 14 | |
9位 | アレッシャンドレ・フェレール | フランス・シェルコ | 13 | |
10位 | ジェイムス・ダビル | イギリス・ベルティゴ | 11 |