ご報告

2015/3/25

5ヶ月間のオートバイ断ちの末に

photoいつもの年なら、この時期にXトライアルの結果をお届けして、その結果の一喜一憂におつきあいしてもらっているのだが、今年はわけあって、お届けする情報がない。Xトライアルに出場していないからだ。

2014年アウトドア世界選手権最終戦が終わった直後、藤波は手術をした。1年前に負った前十時靭帯断裂を治療するためだった。

手術をせずに筋力アップで靭帯の代わりとすることを決めた2013年の負傷直後は、手術をしない選択をしてすぐにトレーニングを再開した。しかし今回は、膝にメスを入れたから、しばらくの療養は避けられない。オートバイはもちろん、自転車に乗ってのトレーニングも、ジムでのウェイトトレーニングも、しばらくはなし。体を動かすことがなにより好き、というより生まれてこの方、それが習慣となって強いる藤波にとっては、なんとも苦しい時間の始まりとなった。

1年前の負傷の直後は、患部の腫れがひくまでは安静にしていたが、腫れがひいたらすぐにトレーニングにとりかかった。むしろ積極的に筋力トレーニングをして、切れた靭帯の代わりを、筋肉にやってもらわなければいけなかったからだ。なのでオートバイでのトレーニングを再開する頃には、今までのフジガスにはない筋肉モリモリになっていたし、それがある種のライディングには効果を結んでいたりもした。1月から始まったXトライアルにも、スケジュール通り参戦できた。

photo今年は9月に手術をして、2ヶ月半は自転車にも乗らず安静で過ごした。筋肉が運動を忘れないように刺激を与える処方は続けてきたが、積極的なトレーニングはやらないまま、膝の安静は続いた。ノミネートされていたXトライアルには、結局ぎりぎりになって不参加を表明することになった。

9月に手術をして1月のXトライアルに参加というのは、常識的に考えてまったく無理な相談なのだが、藤波本人はXトライアルでの復帰をあきらめてもいなかった。だから不参加表明がぎりぎりになったのだ。

しかし現実には、藤波は12月にもう一度手術をしている。これは靭帯の手術ではなく、これまでの酷使で痛んだ軟骨など状態を改善するためのものだった。右膝だけでなく、左膝も酷使は変わらないが、やはり靭帯が切れていた1年間にがんばった分、右足の方が痛みを感じるようになっていたのだ。

photoこれがもう12月の末のことだった。Xトライアルの不参加を届けたのとほぼ同時期だ。この手術をしないで痛みがひいているようだったら、藤波は今シーズンのXトライアルにも参戦しようとしていたかもしれない。もちろん周囲に猛反対をされたのはまちがいないし、実際に参戦につながることはなかったろうが、藤波貴久というライダーはそういう男だ。

ちなみに藤波の膝を診てくれるドクター陣は何人かいらっしゃる。執刀してくれたお医者さん、モンテッサのスポーツドクター、日常的に藤波のフィジカルを見守ってくれるトレーナー的存在のドクター。みんな、力強く藤波を支えてくれた。モンテッサのスポーツドクターのキムさん(ヨアキム・テリカブラス先生)は、毎年開催されているモンテッサのファン感謝祭、モンテッサ祭を主催するトライアル愛好者でもある。藤波の膝は、医療の力だけでなく、トライアル仲間にも支えられて回復に勢いをつけた。

photoそして5ヶ月が経ち、待望のライディング復帰の日がやってきた。お医者さんの太鼓判をもらったわけではなくて、しぶしぶの了承だったが、OKはOKだ。5ヶ月もオートバイに乗らないなんて、初めてオートバイに乗ってから今まで、まったくなかったことだ。この日の藤波は、初めてオートバイに乗った3歳の時と同じように、喜びいっぱいだった。

3歳の藤波とこの日の藤波がちがったのは、乗りはじめた瞬間から、世界トップクラスのテクニックを持っていたということだ。フィジカルなトレーニングは休んでいたが、これまで30年以上にわたって培った体感的なテクニックは、ちょっと休んだからといって、藤波を見捨てはしなかった。

いま藤波は、5ヶ月間を早回しで取り戻したいかのように、日々ライディングのトレーニングに余念がない。
藤波にとって、乗るなといわれるのがもっとも大きな不幸だ。ケガを癒えなくても、痛みと戦いながら乗っていれば、それで幸せだった。藤波貴久は、そんな男なのだ。

photo正直なところ、藤波の膝はまだ完璧ではない。痛みはまだ残っているし、一度靭帯が切れてしまえば、膝の性能が100%戻ることはありえない。それでも、藤波は2015年のシーズンを楽しみにしている。靭帯はつながっている、軟骨の痛みはがまんすればいい。ふつうならありえない結論かもしれないが、藤波はずっとそれで戦ってきた。

2015年シーズンインまで、あと1ヶ月。1ヶ月前にライディングの再出発をした藤波は、トップレベルのライディングに自分を合わせるべく、汗を流している。日本の、世界のファンは、間もなくフジガスパワーの復活を目の当たりにすることになるだろう。