2014年 FIM 世界選手第12戦・第13戦スペインGP

2014年9月6・7日/アルネド(スペイン)

両日5位でランキングも5位に

photo 2014年の最後の戦いの日がやってきた。優勝から始まった、膝の負傷と闘った苦しいシーズンも、これで最後だ。

目標とするのは世界ランキング3位だったが、アルベルト・カベスタニーとのポイント差は、フランス大会終了時点で10点まで広がっていた。残り2戦で10点といえば、藤波が優勝し、カベスタニーが3位となれば逆転する計算になる。今シーズン、優勝を果たしたのはトニー・ボウとアダム・ラガ、そして藤波の3人だけ。もし優勝と2位を逃し、藤波が3位表彰台を獲得するとなると、カベスタニーには両日ともに7位以下に落ちてもらわないといけないという厳しい戦いだ。しかしランキング4位のジェロニ・ファハルドには3点差に踏みとどまっている。ランキング4位は可能性があった。

しかし藤波本人にすれば、そんな計算はともかく、とにかく上位に入ることだけが求められていた。今シーズンは開幕戦で優勝して幸先がよかったものの、日本GPで3位表彰台にのって以来、表彰台からは遠ざかっている。まずは表彰台獲得を目指さなければならない。

しかし最終戦は、藤波の望んでいるような結末とはならなかった。今シーズンを象徴するような2日間と藤波自身も落胆するが、シーズン後半はまさにこのようなパターンが続いていた。それは最後まで変わらなかった。

土曜日には、1ラップ目が散々だった。セクションを攻略できず、2ラップ目でペースを戻すも、3ラップ目でまただめになった。個々のセクションにしても、1ラップ目2ラップ目は悪くなく抜けられているのに、3ラップ目でだめになったりと、さまざまなパターンで、うまくいかない。長いことトライアルをやっていれば、失敗のパターンもいくつかに定まってくるが、失敗のパターンがひとつの試合ですべて出てしまうような、そんな今シーズンだった。それがまた、見事に最終戦で再現されてしまった。

photo特に惜しかったのは土曜日だった。優勝のボウはひとり離れてしまっていたが、2位から5位までは僅差だった。藤波があと5点減らせられれば、藤波の結果は2位だった。最終セクションが5点だったから、そういう点では、最後の最後に2位をとり逃していたことになる。

ところが藤波には、2位をとり逃したという実感はあまりない。この日の戦いは、持ち時間が少ないうえに女子世界選手権も開催されていて、セクションによっては同じところが使われていた。渋滞がしないわけがない。それで藤波はみんなより、さらに早回りを心がけた。その結果、藤波がゴールをしたときには、ライバルたちはまだ誰もゴールをしていない。いつも試合展開は知らぬままに試合を進める藤波だが、すでにゴールしてしまっているのだから、いつにもまして試合展開は見えないままだ。あと5点、最終セクションがクリーンだったら、というたらればは、藤波に遅れてみんながゴールして、さらに結果が出て初めてわかったことだった。

最終セクションは、体育館の中のインドアセクションで、藤波にすれば苦手なパターン。マシンぎりぎりくらいのところから上に飛び上がるポイントがかなりむずかしかった。しかし1ラップ目にここをクリーンできて、2ラップ目には自信もできた。そこへきての3ラップ目立った。リヤタイヤが、5cmほどずれて発進してしまった結果、思ったところに登れず、失敗した。ほんの少しの失敗だった。

最後の最後の5点だから敗因はここにありという印象だが、しかしもし5点を減らそうと思えば、1ラップ目にはそこここにそんなチャンスがあったものだった。どこでもかしこでも、というほどではないにしろ、2ラップ目3ラップ目にクリーンできているところはひとつふたつではないので、いくらでもチャンスはあったわけだ。

photoしかも今回、藤波は作戦もあたっていた。トップライダーには、みんな10点前後のタイムペナルティがあった。トップライダーは3ラップ目の第6セクションあたりで、すでに持ち時間を使い切っていたという。そこから残り6セクションを、10分そこらで帰ってきたということになるわけだから、なんとも忙しい終盤戦だった。

藤波は、それより10分ほど先行して走っていた。時間に余裕があったわけではなく、大忙しは変わらない。だからライバルより10分先行して、ペナルティが10点少ないという結果だ。これは作戦勝ちだった。それでも上位に届かなかったのが、今日の藤波だった。

1日目の持ち時間については、へたをするとコルシカ大会の再来になりそうな気配もあった。しかしみんながひとかたまりになって走っていたコルシカとちがって、今回は藤波が先行していたから、物騒な話は持ち上がらずになんとかみんなゴールを目指したというわけだ。

3ラップ目の第3セクションにかかった頃、2ラップ目の12セクションに向かうトップライダーの姿を確認した藤波は、もしかするとトップライダーが全員失格になるのではないかと考えてもみたが、さすがにそれはなかった。しかしそれは充分に現実味のある話でもあったのだ。

翌日、11セクションから12セクションまでの移動に与えられている時間が10分加えられ、ひとつだけ遠くに設営されていた第5セクションがキャンセルされるなど、いくつかの対策が講じられた。なので持ち時間については、1日目よりはいくらか楽になっていた。セクションも大きな変更はないから、2日目となって行き方も習得できている。

しかしこの日も藤波は藤波らしいライディングができなかった。1ラップ目もホルヘ・カサレスと同点の5位だったが、2ラップ目3ラップ目と減点を増やし、4位のカベスタニーに3点差で5位となった。ランキング3位争いのライバル、ファハルドはこのレースで3位に入って、最終的に藤波とのポイント差は9点まで広がった。

photo最終戦は、土曜日も5位、日曜日も5位、そしてランキングも5位という結果。ランキングは昨年と同じ、という結末になった。シーズン途中には痛めた膝をさらに痛めて苦しい戦いとなったこともあったが、しかし最後は、この膝をかかえながらの戦いもなんとか取り組み方が板についてきた。靭帯がない膝は、ときに関節に無理をかけ、骨を削ったりしてしまうこともあるのだが、どうやらそれは最小限ですんでいそうだ。

7日に試合を終えた藤波は、すぐに自宅に戻り、シーズン中から予定していた通り、9日に手術を受けた。靭帯を移植してくる手術で、膝関節などの損傷が少なければ半年くらいで戦列に復帰できるのではないかという予定だ。入院生活はせずに、手術の処置が終わったら、すぐに退院して2015年の戦いに向けての準備を始める予定である。

○藤波貴久のコメント

「あらゆる失敗のパターンが出てしまって、これが今年の敗因だったのだなぁと思います。そしてそんな失敗がいっぱいあるので、最終戦が終わり、シーズンが終了したのに、やったぞという実感かないというのが今の正直な気持ちです。今年は優勝こそできましたが、今回やってしまった失敗の数々が、今年の命取りになっていますね。これからすぐ手術をして、骨に損傷があればそれをなおすので1ヶ月は固定されてしまうのですが、骨に異常がなければ動かすことはすぐに動かせるようです。逆に本来膝の靭帯でないものを移植してきたので、早く膝の靭帯としてなじんでもらうために、動かさないといけません。でも力を入れるリハビリやトレーニングができるのは、1ヶ月後ということです。サッカーの例では選手としての復帰に6ヶ月かかるということですが、オートバイに乗れるようになるのに何ヶ月かかるか、まずそのへんがシーズンオフの勝負です。苦しい戦いでしたが、2014年、応援ありがとうございました。来年は、今年以上にがんばります」

World Championship 2014
土曜日
1位 トニー・ボウ スペイン・Montesa   37
2位 アルベルト・カベスタニー スペイン・シェルコ   65
3位 アダム・ラガ スペイン・ガスガス   66
4位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ベータ 67
5位 藤波貴久  日本・Montesa 69
6位 アレキサンドレ・フェレール シェルコ   81
7位 ホルヘ・カサレス スペイン・ガスガス   90
8位 ポル・タレス スペイン・シェルコ   90
9位 マテオ・グラタローラ イタリア・ガスガス   94
10位 ジェイムス・ダビル イギリス・ベータ 126
日曜日
1位 トニー・ボウ スペイン・Montesa 19
2位 アダム・ラガ スペイン・ガスガス 33
3位 ジェロニ・ファハルド スペイン・ベータ 44
4位 アルベルト・カベスタニー スペイン・シェルコ 58
5位 藤波貴久 日本・Montesa 61
6位 ジェイムス・ダビル イギリス・ベータ 65
7位 ホルヘ・カサレス スペイン・ガスガス 68
8位 ポル・タレス スペイン・シェルコ 72
9位 マテオ・グラタローラ イタリア・ガスガス 72
10位 アレキサンドレ・フェレール シェルコ   76
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・Honda 225
2位 アダム・ラガ ガスガス 210
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 163
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 154
5位 藤波貴久 レプソル・Honda 145
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 113
7位 ホルヘ・カサレス ガスガス 107
8位 アレッシャンドレ・フェレール シェルコ 92