オーストラリア、日本と、ヨーロッパのライガーからすると遠征となる2銭が終わって、世界選手権はヨーロッパ戦線が始まった。その緒戦はヨーロッパ大会と銘打たれ、フランス料のコルシカ島で開催された。
コルシカ島は、イタリア半島の沖、地中海に浮かぶリゾート・アイランドだ。かつての世界選手権ラリーのツールド・コルスの開催地でもありモータースポーツとの馴染みも深い。ちなみにコルスはフランス語の読みだそうだ。
さてヨーロッパ開幕戦の土曜日、ちょっとした事件が起こった。ワールドカップと125はそれなりの結果となったが、藤波らのワールドプロクラスはリザルトが出ない。なんと、参加者全員がタイムオーバーで失格という異常事態になった。
今回のセクション、とにかく長い。強烈にむずかしいとか高いということもないのだが、とにかく長い。これでは渋滞は必至た。3ラップあると、先にスタートした125やワールドカップのライダーの2ラップ目3ラップ目が、ワールドプロの時間帯とも重なって、いよいよ渋滞がひどいことになりそうだ。
「もうちょっと時間を延ばしてくれませんか。1時間、いや30分でもいいから」
ライダーは申し出をして、下見の金曜日を終え、土曜日のスタートを待った。ところが土曜日、タイムスケジュールには変更がない。ライダーの申し出は、きれいに無視された。
しかたがない。持ち時間が少なくて厳しい戦いになるのを覚悟でスタートする。持ち時間が5時間。1ラップ目2時間半。さらにもうひとつ、今回のセクションは、パドックから少し離れたところにあって、11セクションからパドック近くにある12セクションへは少々距離があった。そこでいつものとおり、タイムチェックは11セクションをアウトしたところで行い、そこからゴールまでは20分以内に走りなさいといういつものシステムだ。
タイムコントロールは最終ゴールと1ラップ目とでおこなう。つまり5時間といっても、実は5時間20分で走ればよいということになるのだが、1ラップ目も同様に2時間50分まではオンタイムということになる。そうなるとしかし、2ラップ目3ラップ目にしわ寄せが来る。
藤波は1ラップ目を5分ほどのタイムオーバーで走り終えた。それも、後半のセクションはまったく下見をせずに走って、それでこのタイミングだ。藤波の5分はまだ早い方で、ボウが7分、ファハルドにいたってはこの時点で10分ちょっとのタイムオーバーとなっていた。
12セクションを終えたところで、ほぼ3時間が経過している。これから2時間で2ラップ目の11セクションまでの23セクションを走らなければいけない。そのうち15分は、11セクションから12セクションまでの移動できえてしまう。
そしてそのまま、20分の猶予タイムを食いつぶして、全員が失格になった。公式なニュースが伝えているのはここまで。ストライキとかボイコットと書いたところもあるが、ライダーは時間がない中でゴールを目指したけれど、かなわなかったということだ。
実は2ラップ目、ワールドプロのライダーは、ほぼ全員が第1セクションとすぐ隣の第2セクションにいて、みんながことばをかわせるタイミングがあった。オンタイムでゴールするのはたいへんにむずかしいのは、もうみんなが認識している。
これまで、ライダーはFIMの決定に、いつも従ってきた。賛成ばかりではない。大反対もある。それでもライダーに積極的な権限はないから、FIMがそうと決めれば従うしかない。インドアでの度重なるルール変更も、スタート順の変更も、下見を禁止にしたり時間を短くしたり、あるいはノーストップルールの導入も、いつもライダーの頭越しに話が決まっていった。
やってられないから、ボイコットとしちゃおうぜ、のような話が出たのは確かだった。しかし現実的には、事を荒だてるだけで、あとからペナルティをもらうようにことをするわけにはいかない。海岸線には、彼らが走るのを待っているお客さんもいる。
それでライダーは、いつものペースで、2ラップ目を走ることにした。セクションで待つお客さんを前に申告5点をもらうこともなく、全セクションをきちんと走ったところ、3ラップ目に入る以前に、持ち時間をすべて使い果たしてしまったというわけだ。
翌日、持ち時間は20分ほど延長になって、今度は無事に大会は終わりまで開催となった。土曜日はそんなわけで、結果表は出ていないのだが、2ラップを走ったところでボウがが5点か7点、藤波は28点ほど減点していた。順位をつければ、4位か5位あたりだったのではないかと思われる。
調子はよくなかった。それはやはり、日本とGPで痛めた膝の影響もある。膝は、スペインに帰ってから仔細にチェックをしたところ、骨にヒビが入っていた。どれほどの激痛だったか、そしてそのあとの戦いがどれほど絶望的なものだったか、わかってもらえるだろうか。
しかしこれは、手術をしないで今シーズンを乗りきると決断した時点で,ほぼ覚悟していたことだった。日本からスペインに帰って、オートバイにはほとんど乗っていない。日本からコンテナが帰ってくるのに時間がかかったのもあるが、藤波の膝はオートバイでのトレーニングは許してもらえず、最初に負傷した当初のように、ひたすらジムで筋力トレーニングをおこなっていた。
オートバイに乗っていないことに加えて、今回のセクションが抜群にグリップがよくて、膝への負担が大きそうだということも、藤波の気持ちを沈ませていた。ギザギザでタイヤがガッチリ噛み込んで、ハンドルを切るのもひと苦労という岩。そこで登ったり飛び降りたりするのは、いかにも膝が悲鳴をあげそうだ。しかも若いカサレスも調子をあげてきている。やばいな、とう思いは、土曜日の時点てもすでにあった。ボイコットとかストライキとか、そういう動きは藤波の歓迎するところではないが、3ラップするところを2ラップで終わりにできたのは、藤波にとっては不幸中の幸いでもあったのだ。
土曜日は、翌日の試合に向けて、主催者側との話し合いもあったが、チームはチームで、藤波が少しでも快適に走れるように、エンジンのマッピングやサスのセッティングを変更する作業を、夜遅くまで続けていた。
膝の方は、短期間で改善する策はない。冷やしたり、ジムででトレーニングをして筋肉をつけるしかない。当日は痛み止めを服用しながらのトライになる。こういった諸々も、去年の秋に覚悟を決めたときからわかっていたことだ。どちらにしても、今日の藤波に優勝のチャンスがないのはほぼ明らかだった。
1ラップ目はよくなかった。2ラップ目に少し挽回ができた。このペースで3ラップ目を走れば、悪いなりにも納得はできる戦いができるかもしれなかった。しかしそうはいかなかった。3ラップ目は、ことごとくステアが登れなかった。1、2、3と3ラップ目に入って続けて5点になったのも厳しかったが、その5点がことごとくステアの登りそこないだ。
自覚症状はなかったが、もしかすると膝に力が入っていなかった結果なのかもしれない。とにかく、すべてがまったうまくいなかった。
「今日は、8位くらいになってしまうかもしれない」
競技中の藤波は考えていた。カサレスは前日から調子かよかったから、カサレスにはまちがいなく負けてしまっていそうだ。しかしグラタローラにも負けているということで、これはもしかしたら8位ではなく、10位くらいになってしまっているかもしれない。
だから、終わってみれば6位という結果は、予想以上の好結果だった。ファハルドが、ウォーミングアップ中に手を痛めたとかで元気がなかったり、ダビルも不調だったりしたことが藤波にはラッキーになった。
しかし結果表を見ると、4位まであともうちょっとだった。6位は上出来の結果でもあったが、もうちょっと減点を減らせれば4位だったと思うと悔しさも募る。
藤波も、そしてチームメイトのチャンピオン、ボウも、今日は完敗だった。藤波の減点とは比べるべくもないが、優勝したラガの、2ラップ目と3ラップ目にの減点2点は、まったく脱帽ものに素晴らしかった。この日のようにグリップがよすぎる路面では、逆にリカバリーがむずかしい。ラガは正確なトライを2ラップに渡って続けたわけで、これにはみな脱帽するしかなかった。
藤波は、それでもランキングは3位を守った。きょうは、それだけが大きな収穫だった。
「今日はいいところがなにもありませんでした。強いていえば、3ラップ目の第8セクションがクリーンできたことくらいでしょうか。イタリア大会までは1週間なので、膝の水を抜いてもらうくらいでなにもできませんが、イタリア大会が終われば1ケ月間が空くので、そこでしっかり調整します。今年はこんな戦いになるのはおりこみずみなので、がまんのしどころだと思ってます。」
土曜日 | |||
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1位 | 結果無し | ||
2位 | |||
3位 | |||
4位 | |||
5位 | |||
6位 | |||
7位 | |||
8位 | |||
日曜日 | |||
1位 | アダム・ラガ | ガスガス | 14 |
2位 | トニー・ボウ | レプソル・Honda | 27 |
3位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 39 |
4位 | ホルヘ・カサレス | ガスガス | 65 |
5位 | マテオ・グラタローラ | ガスガス | 67 |
6位 | 藤波貴久 | レプソル・Honda | 70 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 71 |
8位 | アレクサンドレ・フェレール | シェルコ | 77 |
世界選手権ランキング | |||
1位 | トニー・ボウ | レプソル・Honda | 90 |
2位 | アダム・ラガ | ガスガス | 88 |
3位 | 藤波貴久 | レプソル・Honda | 68 |
4位 | アルベルト・カベスタニー | シェルコ | 66 |
5位 | ジェロニ・ファハルド | ベータ | 59 |
6位 | ホルヘ・カサレス | ガスガス | 47 |
7位 | ジェイムス・ダビル | ベータ | 47 |
8位 | アレクサンドレ・フェレール | シェルコ | 38 |