2014年 FIM 世界選手権第5戦・第6戦ヨーロッパGP

2014年5月24-25日/イル・ルース(フランス・コルシカ島)

波乱の末の不幸中の6位

photo オーストラリア、日本と、ヨーロッパのライガーからすると遠征となる2銭が終わって、世界選手権はヨーロッパ戦線が始まった。その緒戦はヨーロッパ大会と銘打たれ、フランス料のコルシカ島で開催された。

コルシカ島は、イタリア半島の沖、地中海に浮かぶリゾート・アイランドだ。かつての世界選手権ラリーのツールド・コルスの開催地でもありモータースポーツとの馴染みも深い。ちなみにコルスはフランス語の読みだそうだ。

さてヨーロッパ開幕戦の土曜日、ちょっとした事件が起こった。ワールドカップと125はそれなりの結果となったが、藤波らのワールドプロクラスはリザルトが出ない。なんと、参加者全員がタイムオーバーで失格という異常事態になった。

今回のセクション、とにかく長い。強烈にむずかしいとか高いということもないのだが、とにかく長い。これでは渋滞は必至た。3ラップあると、先にスタートした125やワールドカップのライダーの2ラップ目3ラップ目が、ワールドプロの時間帯とも重なって、いよいよ渋滞がひどいことになりそうだ。

「もうちょっと時間を延ばしてくれませんか。1時間、いや30分でもいいから」

ライダーは申し出をして、下見の金曜日を終え、土曜日のスタートを待った。ところが土曜日、タイムスケジュールには変更がない。ライダーの申し出は、きれいに無視された。

しかたがない。持ち時間が少なくて厳しい戦いになるのを覚悟でスタートする。持ち時間が5時間。1ラップ目2時間半。さらにもうひとつ、今回のセクションは、パドックから少し離れたところにあって、11セクションからパドック近くにある12セクションへは少々距離があった。そこでいつものとおり、タイムチェックは11セクションをアウトしたところで行い、そこからゴールまでは20分以内に走りなさいといういつものシステムだ。

photoタイムコントロールは最終ゴールと1ラップ目とでおこなう。つまり5時間といっても、実は5時間20分で走ればよいということになるのだが、1ラップ目も同様に2時間50分まではオンタイムということになる。そうなるとしかし、2ラップ目3ラップ目にしわ寄せが来る。

藤波は1ラップ目を5分ほどのタイムオーバーで走り終えた。それも、後半のセクションはまったく下見をせずに走って、それでこのタイミングだ。藤波の5分はまだ早い方で、ボウが7分、ファハルドにいたってはこの時点で10分ちょっとのタイムオーバーとなっていた。

12セクションを終えたところで、ほぼ3時間が経過している。これから2時間で2ラップ目の11セクションまでの23セクションを走らなければいけない。そのうち15分は、11セクションから12セクションまでの移動できえてしまう。

そしてそのまま、20分の猶予タイムを食いつぶして、全員が失格になった。公式なニュースが伝えているのはここまで。ストライキとかボイコットと書いたところもあるが、ライダーは時間がない中でゴールを目指したけれど、かなわなかったということだ。

実は2ラップ目、ワールドプロのライダーは、ほぼ全員が第1セクションとすぐ隣の第2セクションにいて、みんながことばをかわせるタイミングがあった。オンタイムでゴールするのはたいへんにむずかしいのは、もうみんなが認識している。

これまで、ライダーはFIMの決定に、いつも従ってきた。賛成ばかりではない。大反対もある。それでもライダーに積極的な権限はないから、FIMがそうと決めれば従うしかない。インドアでの度重なるルール変更も、スタート順の変更も、下見を禁止にしたり時間を短くしたり、あるいはノーストップルールの導入も、いつもライダーの頭越しに話が決まっていった。

やってられないから、ボイコットとしちゃおうぜ、のような話が出たのは確かだった。しかし現実的には、事を荒だてるだけで、あとからペナルティをもらうようにことをするわけにはいかない。海岸線には、彼らが走るのを待っているお客さんもいる。

それでライダーは、いつものペースで、2ラップ目を走ることにした。セクションで待つお客さんを前に申告5点をもらうこともなく、全セクションをきちんと走ったところ、3ラップ目に入る以前に、持ち時間をすべて使い果たしてしまったというわけだ。

photo翌日、持ち時間は20分ほど延長になって、今度は無事に大会は終わりまで開催となった。土曜日はそんなわけで、結果表は出ていないのだが、2ラップを走ったところでボウがが5点か7点、藤波は28点ほど減点していた。順位をつければ、4位か5位あたりだったのではないかと思われる。

調子はよくなかった。それはやはり、日本とGPで痛めた膝の影響もある。膝は、スペインに帰ってから仔細にチェックをしたところ、骨にヒビが入っていた。どれほどの激痛だったか、そしてそのあとの戦いがどれほど絶望的なものだったか、わかってもらえるだろうか。

しかしこれは、手術をしないで今シーズンを乗りきると決断した時点で,ほぼ覚悟していたことだった。日本からスペインに帰って、オートバイにはほとんど乗っていない。日本からコンテナが帰ってくるのに時間がかかったのもあるが、藤波の膝はオートバイでのトレーニングは許してもらえず、最初に負傷した当初のように、ひたすらジムで筋力トレーニングをおこなっていた。

オートバイに乗っていないことに加えて、今回のセクションが抜群にグリップがよくて、膝への負担が大きそうだということも、藤波の気持ちを沈ませていた。ギザギザでタイヤがガッチリ噛み込んで、ハンドルを切るのもひと苦労という岩。そこで登ったり飛び降りたりするのは、いかにも膝が悲鳴をあげそうだ。しかも若いカサレスも調子をあげてきている。やばいな、とう思いは、土曜日の時点てもすでにあった。ボイコットとかストライキとか、そういう動きは藤波の歓迎するところではないが、3ラップするところを2ラップで終わりにできたのは、藤波にとっては不幸中の幸いでもあったのだ。

土曜日は、翌日の試合に向けて、主催者側との話し合いもあったが、チームはチームで、藤波が少しでも快適に走れるように、エンジンのマッピングやサスのセッティングを変更する作業を、夜遅くまで続けていた。

膝の方は、短期間で改善する策はない。冷やしたり、ジムででトレーニングをして筋肉をつけるしかない。当日は痛み止めを服用しながらのトライになる。こういった諸々も、去年の秋に覚悟を決めたときからわかっていたことだ。どちらにしても、今日の藤波に優勝のチャンスがないのはほぼ明らかだった。

1ラップ目はよくなかった。2ラップ目に少し挽回ができた。このペースで3ラップ目を走れば、悪いなりにも納得はできる戦いができるかもしれなかった。しかしそうはいかなかった。3ラップ目は、ことごとくステアが登れなかった。1、2、3と3ラップ目に入って続けて5点になったのも厳しかったが、その5点がことごとくステアの登りそこないだ。

自覚症状はなかったが、もしかすると膝に力が入っていなかった結果なのかもしれない。とにかく、すべてがまったうまくいなかった。

「今日は、8位くらいになってしまうかもしれない」

photo競技中の藤波は考えていた。カサレスは前日から調子かよかったから、カサレスにはまちがいなく負けてしまっていそうだ。しかしグラタローラにも負けているということで、これはもしかしたら8位ではなく、10位くらいになってしまっているかもしれない。

だから、終わってみれば6位という結果は、予想以上の好結果だった。ファハルドが、ウォーミングアップ中に手を痛めたとかで元気がなかったり、ダビルも不調だったりしたことが藤波にはラッキーになった。

しかし結果表を見ると、4位まであともうちょっとだった。6位は上出来の結果でもあったが、もうちょっと減点を減らせれば4位だったと思うと悔しさも募る。

藤波も、そしてチームメイトのチャンピオン、ボウも、今日は完敗だった。藤波の減点とは比べるべくもないが、優勝したラガの、2ラップ目と3ラップ目にの減点2点は、まったく脱帽ものに素晴らしかった。この日のようにグリップがよすぎる路面では、逆にリカバリーがむずかしい。ラガは正確なトライを2ラップに渡って続けたわけで、これにはみな脱帽するしかなかった。

藤波は、それでもランキングは3位を守った。きょうは、それだけが大きな収穫だった。

○藤波貴久のコメント

「今日はいいところがなにもありませんでした。強いていえば、3ラップ目の第8セクションがクリーンできたことくらいでしょうか。イタリア大会までは1週間なので、膝の水を抜いてもらうくらいでなにもできませんが、イタリア大会が終われば1ケ月間が空くので、そこでしっかり調整します。今年はこんな戦いになるのはおりこみずみなので、がまんのしどころだと思ってます。」

World Championship 2014
土曜日
1位 結果無し
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
日曜日
1位 アダム・ラガ ガスガス 14
2位 トニー・ボウ レプソル・Honda 27
3位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 39
4位 ホルヘ・カサレス ガスガス 65
5位 マテオ・グラタローラ ガスガス 67
6位 藤波貴久 レプソル・Honda 70
7位 ジェイムス・ダビル ベータ 71
8位 アレクサンドレ・フェレール シェルコ 77
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・Honda 90
2位 アダム・ラガ ガスガス 88
3位 藤波貴久 レプソル・Honda 68
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 66
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 59
6位 ホルヘ・カサレス ガスガス 47
7位 ジェイムス・ダビル ベータ 47
8位 アレクサンドレ・フェレール シェルコ 38