2014年 世界選手権Xトライアル第1戦シェフィールド(イギリス)

2014年1月4日/Sheffield United Kingdom

4位! あと一歩で表彰台……

photoシーズン最初のインドアトライアル世界選手権、Xトライアル。開幕戦は、昨年同様、イギリスのシェフィールドだ。藤波貴久にとって、この1戦はいつもの年明け最初の1戦という以上に、大きな意味があった。それはもちろん、昨年9月に負った、前十字靭帯断裂の負傷の影響だ。

前十字靭帯損傷の負傷にあたっては、藤波には大きく二つの選択肢があった。手術をするのか、しないのか。手術をすれば治癒の確実性は増す。しかし治療時間は長くなる。手術をしなければ、腫れがひいたところでトレーニングにかかることもできる。4ヶ月後に迫ったXトライアルの開幕に間に合おうと思えば、こちらでなければ間に合わなかった。スポーツドクターやトレーナーとよく相談した結果、藤波は、手術はしない決断を下した。

足の筋肉が落ちないための治療を続けながら、全身の筋力トレーニングをはじめ、2014年の戦いに向けて、今までとはまったくちがう、藤波貴久の挑戦が始まった。

そして3ヶ月を経過した2013年12月、ついに藤波はオートバイに乗ってのトレーニングを再開。3ヶ月間、体力トレーニングに専念をしたことで、藤波のからだはこれまでとはまったく異なる、強靭なものに作り替えられていた。筋力が増大したことで、これまでとは別のライディングができるようにもなった。あきめらない藤波の、新しい出発だった。

マシンに乗っての、アウトドア・トレーニングは比較的順調だった。これなら完全復活も、と考えながらインドアに近いトレーニングを開始、ある日、ほぼ1日中を休憩なしに練習をしたところ、患部が大きく腫れて、治癒の進捗は逆戻りすることになってしまった。

再び乗り始めたのはクリスマスの直前、乗り続けるとどうなるかという実証はとれたので、それ以後は1時間半ほど乗ったところで休みをとりながらのスケジュールをとることになった。

そして1月4日、藤波はイギリスにいた。Xトライアルの参加選手は、事前に決められている。負傷した藤波にはFIM側から慎重な出場打診がされていたが、最終締め切りの11月には、藤波は出場のゴーサインを出していた。不安は多々あれど、藤波の2014年の幕が開けた。

一方Xトライアルは、2014年からルールの変更を受けることになっていた。採点を含めて、今までとは多岐に渡って変更を受けている。そのひとつが、アンダーガードの接地が1点減点となった採点方法だ。これまでも、フランスなどのローカルな大会ではこのルールが適用されていたが、世界選手権で採用されるのはこれが初めてだった。FIMはどうやら、アンダーガードをこすりつけてマシンの位置を修正するテクニックを封印したいようで、ライダー側からの疑問をおしきっての採用となった。

そしてXトライアルの試合運営もがらりと変わっていた。クォリファイではトップ5人の常連ライダーと、ゲスト参加の5名が互いに対となって勝敗を競い、その勝者5名と、敗者5名のうちのもっとも減点数の少ないライダー6名がセミファイナルに進出する。

さらにセミファイナルでも、6名のライダーがふたりずつ3組が対戦となり、同様に3名と、敗者3名のうちのベストスコア1名の4名が決勝に進む。そして決勝では、これまで同様に4名が最後の勝負に挑むことになる。

これまで、時には勝負を決する重要な要素ともなっていたダブルレーンのスピード競走は、今年からセミファイナルとファイナルの出走順を決める手段となり、直接成績に影響する勝負ではなくなった。もちろん、出走順がセクショントライに大きな影響を与えるのはまちがいないので、ダブルレーンが勝負に無関係、というわけではない。

photoそれにしても、初めてということもあって、今回はライダーもルールをしっかり把握できず。集まったイギリスのお客さんも首をかしげながらの観戦となった。

さてクォリファイ。今回の藤波は、クォリファイで勝ち残り、まずトップ6に残ることが命題となった。最終的な勝負がどうこうというよりも、クォリファイを通過することが最初にして、大きな課題だ。クォリファイで走るセクションは7つ。昨年のXトライアルランキング5位の藤波は、今回初めてXトライアルに出場するホルヘ・カサレスと対戦する。5組の対戦の中では最初の出走だ。最初にカサレス、次に藤波。これまでのXトライアルとはちがい、7つのセクションを一気に走るのではなく、ひとつずつ交代交代で走破していく。カサレスは2013年のジュニア世界チャンピオンだが、スペインの選手らしく、インドアは得意。まだまだ膝に不安が残る藤波には、カサレスはなかなかの強敵だった。

ここで藤波は減点15点をマーク。カサレスは22点。この時点で、藤波のセミファイナル通過は決定した。次の対戦では、ジェイムス・ダビル12点に対し、ジェロニ・ファハルドが7点。ここではファハルドがセミファイナル進出を決めた。ダビルは藤波より好スコアをマークしたが、ルール上、藤波のセミファイナル進出は決まっていて、ダビルはすべての対戦が終わったあと、もっとも好スコアをマークした敗者ということで、セミファイナル通過を果たしたのだった。

セミファイナルでは、1位と6位、2位と5位、3位と4位が対戦する。1位でクォリファイを通過したライダーは、もっとも下位の相手と対戦するので有利に立ち、下位の選手ほど不利になるという組み合わせだ。藤波のスコアは15点で、クォリファイではもっとも多くの減点をとっていた。セミファイナルでは、ダビルがいわば敗者復活を果たしてはいたが、ダビルの減点12点に対し、アルベルト・カベスタニー14点で藤波15点。この減点順で、ダビルが4位、カベスタニーが5位、そして藤波は6位となった。つまり藤波のセミファイナルの対戦相手は、トニー・ボウということになった。

セミファイナルの最初の対戦はダブルレーン。藤波とボウの対戦は、3組あるセミファイナル対戦の最後だが、その中でもどちらのライダーが先に走るかが、ダブルレーンの勝敗によるものとなる。ここで藤波はボウに勝ち、セミファイナルを走る最後のライダーとなったのだった。一番最初に走ったのは4位通過のダビルで、スコアは6点。以降、ファハルド、カベスタニー、ラガ、藤波は仲よく第2セクションで5点となり減点5。ボウはここもクリーンしてオールクリーンだ。ファイナル進出の4位争いを含め、2位から5位までが5点で同点ということになった。

この場合、セミファイナルに用意された4つのセクションのうち、最後のセクションでの走破タイムで決着をつけるのが、示された新ルールだ。藤波は最後のトライなので、ライバルの走破タイムは手の内にあった。この点、今回の藤波には運があった。ファハルド、カベスターには52秒と53秒で、ラガは56秒。この結果で、カベスタニーはラガを下してファイナルに進出だ。6点減点のダビルのセミファイナル敗退は決まっている。5点減点の4人の中で敗退が決まるのは1名。つまり藤波は、もっともタイムの遅いラガよりも遅くなければ、ファイナル進出が決まることになる。藤波のタイムは49秒。セミファイナル2位を狙って、藤波の見事な逆転ファイナル進出となった。

クォリファイで使われた7つのセクションのうち、4つのセクションを逆走で走るファイナル。今度も、出走順はダブルレーンで決められる。最初にセミファイナル3位と4位の二人が対決。これはカベスタニーが勝利。敗退したファハルドは最初に走ることが決定。勝者のカベスタニーは、2位の藤波と対戦だ。この戦いで藤波は敗れた。なので藤波は、ファハルドに次ぐ2番手の出走順となった。勝ち進むカベスタニーは最後のボウと戦って敗退。もしもカベスタニーが勝利すれば、カベスタニーは4人のうち、一番最後に走る権利を得るはずだった(藤波も、カベスタニーとボウに勝利すれば、一番最後を走る権利を得る)。

ここでは、ボウとカベスタニーがやや好調で、藤波とファハルドが接戦という展開を見せた。第2セクションで、藤波とファハルドが5点となったのが、その流れを作った。さらに第3セクション、藤波1点に対してファハルドが5点。これで藤波の3位獲得が、見えてきた。

photoしかし最後の第4セクション、ここには二つのビッグステップがあり、一つ目の方が高かった。藤波はこの一つ目が鬼門で、最後の二段は比較的容易と考えていた。なので一つ目を通過したとき、3位はもらったと内心思ったのも事実だった。ところが二つめ。思ったよりも高かったのと、登ったあとにすぐ降りなければいけないということ、加えてアンダーガードで止まることができない(ひきずりながらも動いている場合は、1点とならない模様)など、いくつか他に気になることがあり、登ることに専念できていなかったのかもしれない。もちろんこれは、終わったあとのたられば、後の祭り。これで藤波は開幕戦で表彰台を逃し、4位で戦いを終えることになった。

しかしあの悪夢の負傷から4ヶ月弱、藤波自身、これは望外の結果だった。これまでとはちがう、まったく未知の戦いで残した4位のポジション。組み合わせ順や試合展開など、今回の藤波は多少運に恵まれていたことはあったが、それでもまだまだ膝には痛みもある。鍛えた筋肉のおかげで少しでも膝を曲げた状態なら失った靭帯を筋肉がカバーもしてくれるのだが、足をピンと伸ばした状態ではそれもならず、膝を痛めるのを避けてマシンを放り投げたりもしたものだった。クォリファイの最終セクションとファイナルの第2セクションでは、これでみずから飛び降りて5点をもらっている。まだまだ全力投球とは言いがたい状況だ。

今後、これがどこまで本来の調子になるのか、いまだ未知数。インドアをひと試合終えたいまは、膝はまたいくらか腫れを伴ってきていて、まだまだ長時間のライディングには無理がある現状だ。これで症状が悪化すれば、今からでも手術という選択もなくはない。一方で「手術もせずにパーフェクトに戻るなど、そんなに甘いものではない」というドクターの意見は当初からあり、となると今のこの現状は、想定する範囲の最高の結果、だったのかもしれない。

ともあれ、藤波貴久の2014年がスタートした。今シーズン起こることは、世界選手権生活19年目の藤波にしても初めて直面することばかりとなるはず。不安と、そしてやはり期待と。目が離せない藤波シーズンが、始まっている。

○藤波貴久のコメント

「ここまでいけるとは、正直思っていませんでした。ステアにぶつかるときにも痛いし、バランスをとるときにも痛い、びくびくしながら走っている自分がありました。それでも、乗れない間に筋力トレーニングに集中できたというのは、大きな収穫でした。これまで、ここまで集中して筋力トレーニングをしたことはありませんでしたから、筋力トレーニングをすることで、ダニエルでもウーポンでも、これまで以上に高いところまで上がれるようになったというのは自分でも驚きの結果です。まだまだ元通りにはほど遠いのですが、今シーズンは新たな挑戦にぶつかっていくしかありません」

X-TRIAL 2014
Sheffield
Final(決勝)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・ホンダ 3
2位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 5
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 12
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・ホンダ 14
Semi Final(セミファイナル)
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・ホンダ 0
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・ホンダ 5
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 5
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 5
5位 アダム・ラガ ガスガス 5
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 6
Qualificarion Lap(予選)
トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・ホンダ 0
× ロリス・グビアン オッサ 21
アダム・ラガ ガスガス 4
× マイケル・ブラウン ガスガス 27
アルベルト・カベスタニー シェルコ 14
× ジャック・チャロナー オッサ R
ジェロニ・ファハルド ベータ 7
ジェイムス・ダビル ベータ 12
藤波貴久 レプソル・モンテッサ・ホンダ 15
× ホルヘ・カサレス ガスガス 22
PointStandings(ランキング)
1位 トニー・ボウ 20
2位 アルベルト・カベスタニー 15
3位 ジェロニ・ファハルド 12
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ 9
5位 アダム・ラガ 6
6位 ジェイムス・ダビル 5
7位 ロリス・グビアン 4
8位 ホルヘ・カサレス 3
9位 マイケル・ブラウン 2
10位 ジャック・チャロナー 1