2013年 FIM 世界選手権第10戦・第11戦イギリス

2013年7月27日〜28日/カーライル(CARLISLE・イギリス)

2位4位、まずまずか、イギリス大会

photo去年に続いて、同じカーライルの会場で開催されたイギリス大会。セクションは、去年とほぼ変わらなかった。そのほとんどが人工的な設定で、土の斜面に岩を置いたりするなど、いってみればもてぎと同じような手法でセクションが作られている。

簡単といえば簡単。しかし5点になるのも簡単、というセクション群だった。だからすべてがうまくいけばオールクリーンはできるし、しかしぽんぽんと5点を取ってしまうリスクもあった。精神的には、たいへんくたびれるコンディションとなっていた。

土曜日

この週末は雨が降るという予報のために、セクション設定がいくぶん簡単だったというのも、この傾向に拍車がかかっていた。木曜日、金曜日と雨が降った。しかし土曜日は、予報に反して雨は降らなかった。

前回、チェコでの藤波は6位だった。今年のスタート順は、ランキングとは関係なく、前回の成績(の逆)順でスタートする。だから藤波の前にはボウもラガはもちろん、カベスタニーもファハルドも、ダビルもいない。藤波は、グラタローラやグビアンなどの中堅ライダーといっしょに走ることになった。

藤波としては、ダビルの走りを見ながらセクションにトライしたいところだった。というのも、ダビルはイギリス人だし、去年のイギリスGPでのダビルもいい走りをしていたし、おそらく現地での練習もしていただろう。だからダビルが先に走っていてくれればうんと心強いところだったのだが、チェコでの結果がそれを許さなかった。しかたない。

無い物ねだりをしてもしかたがないので、藤波は気持ちを切り替えて、自分のラインを見つけて淡々とトライを続けた。失敗もあったが、どんな失敗なのか、その理由がわかっての失敗だったから、落ち込むこともなく、次のトライに向けて走り方を組み立てられる、そんな気持ちでトライができていた。悪くない。

photoチェコ大会のあと、藤波のマシンはいくつかの仕様変更を受けた。藤波のフィーリングにあうように、チームが一生懸命セットアップしてくれた成果だ。それが今回、藤波を気持ちよく走らせる大きな要因でもあった。

ただ第3セクションでの5点はは、ちょっと納得しかねるものだった。最後に3段の難所のあるセクションだったが、この入口で、藤波はみんなとちがうラインを通った。そこでちょんちょんとホッピングをしたのだが、どうもここで5点を取られたらしい。藤波本人はクリーンでセクションアウトをしたと思っていたのだが、採点は5点だった。これには藤波もなんで?とオブザーバーに質問をしたりしたのだが、結果は変わらない。そんなことはあったのだが、特にそれで気持ちが乱れるということもなく、藤波のトライは淡々と進んだ。

なんせ、藤波と順位を争うべきライダーは、みんな藤波の後ろにいる。一緒に走っていても、走りを見られるだけでライバルから得るものはなにもない。なので藤波の周囲には誰もいない。藤波は途中経過を知ろうとしないし、知ろうとしても情報は藤波の周辺にはなかった。点数を知る必要はないし、今日はとことん、点数を知らないままで走ってやろう、と藤波は考えた。

2ラップ目は、1ラップ目に5点となった第3セクションでまた5点となった。今度は、入口のラインをみんなと同じくした。そこはきっちりクリーンできたのだが、今度は最後の3段で失敗した。しかし2ラップ目の5点は、これだけになった。1ラップ目はふたつの5点とふたつの1点があった。2ラップ目は5点がひとつ、3点が三つ。

藤波はまったく知らなかったが、1ラップ目はボウが3点でトップ、ダビルが10点で2位につけ、カベスタニーが11点で3位、藤波が12点で4位につけていた。2ラップ目、調子を上げた藤波は、2位に浮上していた。

この頃、ちょっと雲行きが怪しくなってきた。藤波が3ラップ目の第1セクションに着いた頃には、ぱらぱらと雨が降ってきた。イギリスでは、シャワーと称しているやつだ。ライダーはみな、先を急ぎトライを始めたが、しかし雨はいつの間にか止んで、先を急いでいた藤波は第4セクションで雨が降っていないのを確認していた。

photo3ラップ目。藤波はいよいよ快調だった。第2セクションでちょんと1回足をついたが、それ以降はクリーンクリーンの連発だった。自分のレースができている、楽しい気分で走ることができた。

3ラップ目の第5セクションで、ちょっとハプニングがあった。大きな岩が落ちてきて、セクションをふさいでしまったのだ。この岩をどけるかどうかで、主催者が競技を中断して協議を始めてしまった。協議がストップしたのは藤波が来るほんの少し前のことで、ここですべてのライダーが再び終結することになってしまった。

結局岩はどけずに試合が続くことになった。藤波はライバルたちに追いつかれることになり、30分の空白が流れたが、それは試合の流れを大きく変わるものではなかった。藤波は大岩が崩れてきた第5セクションをクリーンしたが、ラガ、ファハルド、カベスタニーらは軒並み5点となっている。ボウと藤波にはさらにマージンが増える結果になった。

最終セクションを前にして、藤波はいまだに成績を知らない。ここで初めて、シレラ監督が歩み寄ってきて、藤波に聞く。「成績、知りたい?」

そこで初めて知ったのは、この最終セクションを5点になっても2位にはなれる、というものだった。すでにこの時点で、3位には5点以上点差をつけてしまっていた。3ラップ目の1点は、威力絶大だった。

5点になってもいいと言われるも、そこはしっかりクリーンをして、藤波の試合は終わった。すでに2位は決まっているから、もしなにかがあるとしたら、ボウが失敗をして藤波に優勝が転がり込んでくるという事態だ。そういえば、追いつかれた第5セクション以降、ボウのマインダーのディダックがちょっとあわてて藤波のところに戦況を聞きにいていたのは、ボウが3ラップ目にいくつかミスをして、もしかするとトップ独走が危なくなってくるという心配があったからかもしれなかった。

結局、もしかすると優勝が転がり込んでくるという予測は甘かった。ボウは藤波に7点差で勝利していた。あとふたつボウが5点を取っていれば逆転も可能だったのだが、さすがにそんなことはなかった。

ボウの勝利、藤波が2位で、ラガが3位となった。藤波はこの2位でカベスタニーとのランキング争いで再び優位に立つことができたし、ボウはラガとの一進一退のタイトル争いに藤波の加勢を得て、5点差をつけることができた。

チェコでの6位のあと、イギリスは、藤波にとって、ボウにとって、チームにとって、とてもいい日になった。

日曜日

photo土曜日の夕方から、雨が降り始めた。そしてその晩は、一晩中降り続いていたようだ。藤波も、ライダーみんなも、日曜日のレースは雨のレースだと思っている。

主催者はセクションを変更するというが、ライダーからは特に大きな変更はしないでいいという意向を伝えていた。土曜日のセクションがそんなにむずかしいとは思えなかったし、雨が降ってちょうどよくなるのではないかと考えられたからだ。主催者もこの意向をくんだようで、セクションのほとんどは難易度が変わらないか、かえってラインの抜け道などがふさがれてむずかしくなっているくらいだった。

ただし雨が降っても、岩は意外と滑らない、グリップがいいというのが、ウォーミングアップを走っての藤波の感想だった。その結果、雨の降らなかった土曜日に対しても、それほどセッティング変更をしないで試合に臨むことになった。

土曜日もそうだったが、藤波の序盤はいい調子とはいえなかった。第2セクションで5点。これはタイヤを滑らせたのかもしれなかった。前日に行けていたところが、今日はいけなくなった。そして第3でも5点。幸先がいいとは言えない。しかし藤波は、そんなにくさることなく、試合を進めることができていた。昨日同様に、失敗はあっても、その失敗がどんな失敗なのか、自分でしっかり把握することができていたからだ。

きのうとちがうのは、この日はスタートが(最後から)2番目だったから、見る気がなくても、見たくもないのに周囲の状況を見てしまう、見せられてしまうことだった。ボウ以外のすべてのライダーは、藤波の前を走っている。みんなの走りと、みんなの好不調を確認してから、藤波がトライする。

失敗が続いたのは、10セクションからだった。10セクションで5点になると、11、12と最後の3セクションを連続5点となった。そして2ラップ目に入って、第1で5点第2で5点と、5セクションを連続して5点になってしまった。

さすがに監督が藤波にアドバイス。ちょっと休むなりして、切り替えたほうがよくはないか?という助言だった。確かに5つ連続で5点となってしまっては、そういう方法もある。しかし藤波は、ひとつひとつは確かに失敗だったが、失敗の連鎖に陥っているという気にはなっていなかった。むしろ、自分のライディングハできていたし、きのうのように自分のライディングに集中する、淡々としたペースを取り戻したかった。

photoそれで藤波は、2セクションが終わったところで、先を急ぐことにした。監督のアドバイスとは反対の行動になったわけだが、これが結局は自分を取り戻すことになった。

その後も、ミスは皆無ではなかったが、みんながそれぞれに失敗をしている中、大きなものはなかった。ライディングの調子も戻ってきていた。土曜日のように、淡々としたライディング感覚が返ってきた。

そのまま3ラップ目の最終セクションまでやってきて、そこまできて、監督に「どう?」と聞くと、2位争いだという。ラガと同点、ファハルドには1点負けていて、彼らに勝てば2位となるという戦況だった。「必ずここを抜け出なさい」。これが監督の指示だった。

この最終セクションは、1点以上で抜けるのは不可能だった。ホイールベースいっぱいの岩の上に乗った後、さらにもうひとつ上の岩に上る。止まっていければ簡単なのだが、止まれないから、足をついてマシンを送り出すことになる。1ラップ目は、少しタメを作ってここを抜けた。するとオブザーバーの判定は1点ではなく5点だった。止まったということだ。今回のオブザーバーは全体的にはきびしめだったが、特にこの最終セクションのオブザーバーは厳しかった。2ラップ目は、気をつけてためたつもりだが、やはり5点と判定された。

最後の3ラップ目。5点にならないように、ためをつくらないことにした。ところが今度は、フロントが上がりきらなかった。残念。5点だ。結局ここを抜けたのは、ボウとラガ、そしてダビルの3人だけだった。もしも藤波が1点でここを抜けていれば、ラガとは同点ながら、クリーン数では藤波が勝っていて、2位獲得のはずだった。ファハルド、藤波、ラガの2位争いは、ラガが最終セクションを抜けたことで順位を入れ替え、ラガ、ファハルド、藤波の順となった。残念ながら、藤波の4位が決まった。

photoしかし序盤から2ラップ目に入るまでの感じでは、今日はなかなか苦戦しそうな感じだったから、それを考えると、最終的に4位につけたのは悪くない結果だったとも言える。

今回藤波は両日ともカベスタニーよりも上位につけたので、カベスタニーには7点のポイントリードをとることになった。しかし一方、ファハルドがカベスタニーに1点差まで追い上げてきているから、最終戦に向けて、藤波のランキング3位争いは、カベスタニーのみならず、ファハルドをも相手にしたものになるはずだ。

○藤波貴久のコメント

「日曜日の4位はくやしいですけれど、序盤がよくなかったし、よくこの順位に入れたと思えば、2日間ともまずまずの結果だったということになると思います。特に土曜日の2位は、ぼくにとってもいい結果だったし、トニーは大喜びでした。残りは2戦。カベスタニーだけでなくファハルドも相手にしないといけない展開になってきましたが、主導権はぼくにあると思いますから、きっちりと戦って、ランキング3位を勝ち取りたいと思います。この2日間は、気持ちよく走れたし、いいトライアルができたと思います」

World Championship 2013
土曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 14
2位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 21
3位 アダム・ラガ ガスガス 45
4位 ジェロニ・ファハルド ベータ 46
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 49
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 55
7位 アレキサンドレ・フェレール シェルコ 66
8位 ロリス・グビアン ガスガス 80
日曜日
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 39
2位 アダム・ラガ ガスガス 65
3位 ジェロニ・ファハルド ベータ 68
4位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 69
5位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 79
6位 ロリス・グビアン ガスガス 96
7位 ジェイムス・ダビル ベータ 99
8位 ジャック・チャロナー ベータ 108
世界選手権ランキング
1位 トニー・ボウ レプソル・モンテッサ・Honda 203
2位 アダム・ラガ ガスガス 193
3位 藤波貴久 レプソル・モンテッサ・Honda 149
4位 アルベルト・カベスタニー シェルコ 142
5位 ジェロニ・ファハルド ベータ 141
6位 ジェイムス・ダビル ベータ 111
7位 マテオ・グラタローラ ガスガス 75
8位 ロリス・グビアン ガスガス 69